忘年会(その1)

 

神話の時代を今も生きる聖域にも年の瀬が押し迫り、神官や雑兵たちが忙しなく新年の準備に取り掛かっていた。黄金聖闘士や、白銀聖闘士の中にはすでに故郷に帰る準備を始めているものもいた。

黄金聖闘士たちがばらばらになるまえに、シオンはこの一年を労おうと忘年会を開くことにした。もちろん、ムウとの淫行しか頭にないシオンに、こんなことを吹き込んだのは童虎である。

教皇の間の大広間に隣接されている大食堂に、黄金聖闘士と一人の海闘士がそれぞれ席に着くと、女官達が杯にワインを注ぎ、料理が次々と運ばれてきた。

童虎「ふむ。皆、杯は行き渡ったな。では、おぬしらの一年、いや今までの労を労ってシオンから一言あるそうじゃ。」

シオン「は?そのようなものはない!、童虎。」

お誕生日席に座ったシオンが憮然とした表情で、一番近くに座った童虎をにらみつけると、童虎の平手がシオンの頭部を直撃した。

童虎「ばか者!おぬしは、仮にも教皇であろう。こういう宴席で、お前が挨拶をせぬでどうするのじゃ。」

シオン「何も叩くことはなかろう、この猿!なぜに余が、こやつら相手に労を労ってやらねばならんのじゃ。だいたい労ってもらわねばならんのは、余のほうじゃ。せっかく生き返ったと思うたら、また教皇職じゃぞ。ムウとジャミールで250年弱の余生をしっぽり過ごそうと思うとったのに。
じゃからのう、皆のもの!この余を労うのじゃ!」

誕生日席から立ち上がり、杯をあげてふんぞり返るシオンを一同は呆然と見ながらも、おずおずとお疲れ様でございましたと杯を持ち上げた。
そのシオンに、すかさず童虎の鉄拳が入る。

童虎「ばか者!!お前が労われてどうするのじゃ。ろくに仕事もせんで、こやつらに迷惑ばかりかけおってからに!!」

そうだ、そうだと誰もが心の中で頷いた。

童虎「お前はもうよい。黙っておとなしく座っておれ。」

シオン「だから最初から・・・・ぶつぶつ。」

童虎「さて、仕切りなおしじゃ。まぁ、ここまでくるのにいろいろとあったが、ようやく黄金聖闘士と女神が地上にそろい、平和も訪れた。聖域や世界の復興にはお前達の只ならぬ力添えに、皆が感謝しておる。シオンとて、こんな悪態をついてはおるが、内心では喜び感謝しておるのじゃ。」

シオン「してはおらん!」

童虎「うるさい、黙れ!新たな生を与えられ、こうしていられるのも皆の活躍があるからこそじゃ。慌しい1年ではあったが、今こうしていられるのもお前達のおかげじゃ。今宵は、無礼講じゃ。遠慮なく飲み食いするがよい。カンパイ!」

童虎の乾杯の音頭とともに、ようやく忘年会が始まった。

 

普段の処女宮の宴席とはレベルも雰囲気も違うが、シオンの相手は童虎がしているので、皆は心行くまで料理、酒、会話を楽しんだ。
忘年会も最高潮に盛り上がったときだった、童虎が再び席を立ちパンパンと手を叩く。

童虎「おぬしらも、大分いい感じに酒が回ってきたようじゃな。そろそろ皆に芸を披露してもらおうかのぅ。」

シオン「ほう、それは良い考えじゃな、童虎や!」

童虎「で、あろう。こやつらが、どんな芸をするか楽しみじゃのぅ、シオン。」

皆は童虎の言葉に耳を疑った。今回の忘年会で芸を披露するなど誰もきいてなかったからだ。

アイオロス「きょ、教皇?あの、私たち、芸をするなど一言も聞いてはいませんが。」

童虎「あたりまえじゃ。誰にも言ってはおらん。」

シオン「こういうのはのぅ、行きああリばったりでやるのが面白いのじゃ。準備をしていた余興などなんの面白みもない。」

サガ「し、しかし・・・・・。」

童虎「別に無理せずともよい。やりたくない者は他の者の芸を楽しめばよいのじゃ。」

シオン「そうじゃのぅ。余と童虎を一番楽しませたものには、何か賞品をやろう。そのほうが、皆、はりきるであろう。」

童虎「おお、シオンよ。たまにはよいことを言うのぅ。優勝者には、なにか豪華な賞品というのもいいのぅ。よしっ、決まりじゃ。優勝賞品をかけて、おぬしら芸をしろ!」

シオンと童虎がケラケラと笑うと、シュラが挙手をして発言権を求めた。

シオン「なんじゃ、山羊よ。」

シュラ「その賞品というのは、どのようなものなのでしょうか?」

シオン「そうじゃのぅ・・・・・。まぁ、それなりのものじゃ。余はこういうことに関しては、出し惜しみはせぬ。何かお前らが喜ぶようなものを考えてやるから、がんばるのじゃぞ。」

シュラ「ということは、宝石とか美術品という可能性も?」

シオン「無きにしも非ずじゃのぅ。」

シオンの言葉に一部の者は目を輝かせた。

童虎「さて、誰が先陣を切ってやるのじゃ?」

童虎が満足そうに頷くと、またまたシュラが挙手をして発言権を求めた。

シュラ「はいっ。もう一つ、質問があります。これは、一人ではなく、ペアでやってもよろしいのでしょうか?」

童虎「かまわぬぞ。」

シュラ「それから、もう一つ。打ち合わせのために、しばらく時間を頂きたいんですが。」

童虎「ほう、シュラ。やる気満々じゃのぅ。」

シュラ「それはもう。」

童虎「よいよい。好きなだけ時間をやる。」

シュラ「ありがとうございますっ!!」

シュラはお辞儀をすると立ち上がり、アルデバランが座っていた席へと足早に向かった。

シュラ「おい、アルデバラン。俺とペアを組め!」

アルデバラン「は?わ、わたしがですか?」

シュラ「そうともよ。俺達の素晴らしい息のあった芸を教皇にお見せするんだ。」

アルデバラン「し、しかしですね。」

シュラ「ああん?お前、年上のこの俺に逆らうのか?」

アルデバラン「いえ、そういうわけでは・・・・。」

シュラ「よし、なら俺についてこい。どうせお前はやることないんだろう。」

アルデバラン「は、はぁ・・・・。でも、何をやるんですか?」

シュラ「あれだ、あれ。」

アルデバラン「ああ。あれですか・・・。」

シュラ「ということで、教皇。俺達ちょっと準備に取り掛かりますんで、すこし席をはずします!」

シオン「よかろう。」

シュラとアルデバランは一礼すると、そそくさと大食堂を出て行った。

しばらくしてシュラは戻ってくると、全員から見える位置に椅子を一つ置き、腰をかけた。そして手に持ったギターを構えると、アルデバランがそれにあわせるように入ってきた。その姿に皆が飲んでいた酒を噴出する。
アルデバランは裾に黒いフリルのついた真っ赤なワンピースを着、口に真っ赤なバラを咥えているのだ。
そして、アルデバランはワンピースのすそを持ち上げ、鍛え上げられた足をむき出しガツガツと地をけると同時に、手に持った小さな小さなカスタネットを鳴らすと、シュラのギターに合わせてフラメンコを踊り始めた。
ひとしきりガツガツと靴を鳴らし、地を轟かせて踊り終わると、それに続いて、白い開襟シャツから素敵な胸毛を覗かせたシュラが、アルデバランのフラメンコの相方として加わったのだった。

シュラ「いかがでしたでしょうか?、俺達のフラメンコ。」

シュラは汗でぺったりと肌に張り付いた白いシャツから裸体を透けさせ、アルデバランはドレスの胸元から胸毛を覗かせながら、シオンと童虎に聞いた。
シオンは露骨に嫌な顔し、そむけるが、童虎はカッカッカッと笑った。

童虎「なかなか楽しかったぞ。お前達、これは練習しておったのか?」

シュラ「はい、それはもう。いつか、何かの時に皆を楽しませようと思いまして。」

童虎「ふむ、あっぱれじゃ。のう、シオンよ。」

シオン「牛!その気色の悪い姿で余の傍によるでない。はやく、でていけ!」

アルデバラン「そ、そんなに気持ち悪いですか?」

童虎「気持ち悪いのが、またよいのじゃ。のう、シュラよ。」

シュラ「さすが、老師!よく分かってらっしゃる。」

童虎「これこそ芸じゃのぅ。はははははっ。」

シオン「くだらぬ!!他にもっと余を楽しませるものはないのか?」

シオンが怒鳴ると、カミュとアフロディーテが挙手した。

アフロディーテ「はい、教皇!私とカミュで是非やらせてください。」

シオン「ほう、よいぞ!!」

アフロディーテとカミュは一礼すると大食堂から出て行った。


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