MISSION IMPOSSIBLE(file.555 女神の箒)

 

 今日も貴鬼は12宮の玄関口である白羊宮の階段を掃除していた。貴鬼は、これも教皇になるための修行の一環として、毎日丹念に掃除をしている。

 そんなチリひとつ落ちていない白羊宮の入り口に一人の男が現れた。貴鬼が、その男が聖闘士ではないことを素早く察知できたのは、日々の修行の現われか、それともその男の人相故か・・・・。

 冥界の三巨頭の一人、ラダマンティスはついにその姿を聖域に現したのだった。

 貴鬼は、その姿を見るや否やテレポートでラダマンティスの前へと移動した。

「おい、お前!何者だ!!」

 貴鬼は竹箒を右手に構えラダマンティスの前に立ちはだかった。

「(なんだ、この小さいのは?)」

 ラダマンティスは突然自分の前に現れた貴鬼を無視し、階段上ろうとした。

「そこのお前!オイラを無視するな!」

 貴鬼は再びラダマンティスの前にテレポートし、ラダマンティスの鼻先に竹箒を突き付けた。

「なんだガキ。俺様の邪魔をするな!」

「お前こそなんだ!お前のようなのは聖域では見たことないぞ!!」

「ふふっ、俺様か?俺様はな、冥界の三巨頭の一人、ラダマンティス様だ!」

 ラダマンティスは腰に手をあて、踏ん反りかえり貴鬼を見下ろした。

「ふん!ラダマンティスなんて聞いたことも無いぞ!!」

 貴鬼も負けじと、竹箒の柄の先端を大地に叩きつけ踏ん反り返る。

「俺様はお前なんかと遊んでいる暇はない。そこをどけ、チビ!」

「黙れ、かもめ眉毛!お前みたいな訳の分からない奴に、ここを通らせるもんか!!出て行け!!」

 貴鬼はそう言うと、力を込めてラダマンティスを竹箒で殴った。

「こら、チビ。止めろ!!」

「オイラはチビじゃないやい、このかもめ眉毛!とっとと出て行け!!」

 ラダマンティスは立て続けに竹箒で叩かれた。さすがのラダマンティスも子供が相手では、大人気がなさすぎて反撃できなかった。

「待て、ちょっと待て小僧!お前、何を勘違いしている?俺様は、今日は敵としてここに来たのではない。」

「お前みたいな人相の悪い奴が、他に何をしに来たっていうんだ!」

 貴鬼は、竹箒を構えたままラダマンティスを睨み付ける。

「ふぅ。いいか、小僧。よく聞け!俺様はジェミニのカノンに会いに来たのだ。分かったか、小僧?」

「嘘をつくな!!オイラはカノンの親友だぞ。オイラ、カノンからお前の名前なんか聞いたことないぞ!!」

「なに?カノンから俺様の名前を聞いたことないだと!?」

 ラダマンティスは貴鬼の言葉にショックを受け、固まった。

「はっは〜ん。オイラ、お前が何しに来たか分かったぞ!!」

「はっ?」

「お前、ムウ様にイタズラしにきたんだな。お前の顔を見れば分かる!」

「はぁ?ムウなど知らん!!俺様はカノンに会いに来た、それだけだ!!どけ小僧!」

「黙れ、かもめ眉毛。ムウさまには指一本、髪の毛一本触れさせないぞ!」」

「だから、そのムウってのは何なんだ!」

「お前なんかには騙されないぞ!ムウさまはオイラのだ!!」

「だぁーかぁーらぁー。」

「くらえぇーーーー。」

 貴鬼が持つ竹箒の一撃が容赦なくラダマンティスを襲った。
 竹箒で数回殴られたラダマンティスの頬に鮮血がほとばしる。

「っつう・・・・・。小僧、よくもやってくれたな!」

「なんだ、かもめ眉毛。お前、子供相手に本気になるのか!?オイラ、お前なんてちっとも恐くないぞ。
なんてったて、オイラにはこのアテナの箒があるんだ。お前になんて負けないぞ!!ムウさまの貞操はオイラが守る!!」

 貴鬼は再び竹箒を持ち、身構えた。貴鬼は、万が一自分になにかあっても、このアテナの竹箒が守ってくれると信じていた。
その竹箒の柄には、こう書かれていた。

『庭G地区 N.O.9』

城戸邸の庭で使用されている箒である。貴鬼は城戸邸で遊んでいるときに、沙織から直々にこの箒を貰いうけたのだった。

「ふっ、笑止!たった箒一本で、この俺様と闘おうというのか、点眉小僧!」

「黙れ!!とっとと消えないと、ケツの穴に箒つっこんで奥歯ガタガタ言わしてやるぞ!!」

「・・・・・。小僧、お前そんな言葉どこで・・・・・。」

「うるさい!カノンに教えてもらったなんて、お前に言う必要なんかないやい!くらえぇ〜〜!」

 貴鬼は再び竹箒を握り締め、ラダマンティスを襲った。しかし、貴鬼が繰り出した竹箒は虚しく空を切り、貴鬼はヨロけた。
 その瞬間に、貴鬼の背中にラダマンティスの一撃が入った。

「ぐぁっ・・・・・!」

 その場に倒れこんだ貴鬼の背中を、ラダマンティスの蹴りが容赦なく襲う。
 貴鬼はラダマンティスの足の下で、その大きな瞳にうっすらと涙を溜めてジタバタとあがいていていた。

「くそぉ、放せ。放せ!!ムウさまはオイラが守るんだぁ!!お前なんか、お前なんか、このアテナの箒で・・・・・。」

「黙れ、小僧。お遊びはもうお終いだ!!その口、二度ときけないようにしてやる!」

 ラダマンティスは更に貴鬼の腹や顔、頭を幾度も蹴り上げた。そうする内に、貴鬼の抵抗は弱さを増し、その身体は次第に動く無くなっていった。ついに貴鬼の動きが止まると、ラダマンティスは貴鬼の胸ぐらを掴み、己の前へと高々と持ち上げた。それでも貴鬼の手にはアテナの竹箒が握られていた。

「ふっ、落ちたか、小僧!何がアテナの箒だ!そんな箒一本でこのラダマンティス様が倒せると思ったか?俺様とカノンの恋路を邪魔をするから、こういう目にあうのだ・・・・・・・・・ぐっ・・・・・馬鹿な・・・・・・・小僧お前・・・・・・。」

 ラダマンティスは己の身体に駆け抜ける激痛に顔を歪めた。
 ラダマンティスの手から開放された貴鬼は、クルリと宙を一回転し地面に着地した。

「へんっ!お前の攻撃なんてムウさまの修行にくらべたら、屁でもないぜ!!」

「うっ・・・・・・くっそぉ・・・・・このガキィ・・・・・。」

 ラダマンティスは股間を押さえながら、前かがみに倒れこんだ。
 貴鬼はラダマンティスの攻撃で気を失ったと見せかけて、持っていた竹箒を下から上へと力いっぱいラダマンティスの股間めがけて振り上げたのだった。

「ふんっ!お前、たったそれだけで倒れるなんて、股間の修行がたりないぞ!弱い奴だなぁ!」

「く・・・・このガキィィィィィィ。このラダマンティス様を侮辱して、ただで済むと思うなよぉ!!」

 ラダマンティスは疼く股間を押さえながら立ちあがり、小宇宙を高めた。

 


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