Kanon's Birthday!

 

5月30日。

サガは部屋に何者かの気配を感じて目を覚ました。そして、驚いてギョッとなった。目の前に馬鹿面・・・アイオロスの顔があったからだ。

アイオロス「誕生日おめでとう、サガ。」

サガ「・・・・・・お前、人の部屋で何をしている?それより、いつからそこにいた?」

アイオロス「え?んーーーーーー、1時間くらい前かな・・・。気持ち良さそうに寝ていたから、つい起こしそびれて。」

サガ「まったく何を考えているんだ。一体、今、何時だと思っている?」

アイオロス「朝の6時だ。誰よりも一番最初におめでとうが言いたくてな。」

サガ「・・・・・。アイオロス、それは昨晩の深夜12時にしてくれただろう?もう忘れたか?」

アイオロス「まぁ、そうなんだが・・・。これは、寝起き朝一の一番最初のおめでとうだ。」

サガ「・・・・そうか。」

サガは礼を述べようとして眉を潜める。アイオロスが目を閉じ唇を突き出してきたからだ。

アイオロス「サガァァァ。お誕生日のキス♪」

サガ「それも昨晩しただろう、やめないか!お前は何を考えているんだっ!」

アイオロス「じゃぁ、誕生日エッチしようぅ、サガァァ。」

サガ「またそれか・・・。気持ちだけ受け取っておく。」

アイオロス「そ、そんなぁぁ、サガァァ。エッチは昨晩してないぞぉぉぉ。」

サガ「隣の部屋ではカノンが寝ているんだ、いい加減にしろ!」

アイオロス「どこに行くんだ、サッガァァァ!!」

サガ「風呂だ、風呂!!」

アイオロス「じゃ、誕生日風呂だ。一緒に入ろう。」

サガ「いつも風呂は一人で入らせてくれと言っているだろう。」

アイオロス「そんなァ、前はいつも一緒に入ったのに・・・、冷たいなぁ・・・・。駄目?」

サガ「駄目。」

短い返事を残してサガは風呂に消えていった。

いつも通り2時間して風呂から出てくると、アイオロスが大人しくダイニングで待っていた。テーブルには朝食が既に用意されている。朝食とは思えぬその量と豪華さに、サガは眉間にしわを寄せた。

サガ「アイオロス。これはどうしたんだ?」

アイオロス「どうしたって?今日はお前の誕生日だろ。だから、ムウに作ってもらったんだ。」

サガ「しかし、この量は朝から食べる量ではなかろう。」

アイオロス「しかし、今日はカノンの誕生日パーティをやるんだろう?だったら、せめて朝だけでもお前の誕生日を祝わせてくれよ。」

サガ「しかし・・・・・。」

アイオロス「なんだ、食べられないのか?また夢見が悪かったとか?」

サガ「そうではないが、この量は・・・・。」

アイオロス「仕方ない奴だなぁぁぁぁ、はい、あーーーーん♪」

貴鬼「おじさーーーーーん♪」

アイオロスがサガの口に食べ物を運ぼうとすると、貴鬼が部屋に入ってくる。

サガ「アイオロス、やめないか!!」

アイオロス「うおっ!」

とっさにサガはアイオロスからフォークを奪い取り、弾みでアイオロスが椅子から転げ落ちた。

貴鬼「おじさん、誕生日おめでとう。」

サガ「ありがとう、貴鬼。」

アイオロス「貴鬼。まだ時間が早いぞ。」

貴鬼「おじさん、ちゃんと朝ご飯食べた??」

サガ「いや、気持ちは嬉しいのだが、朝からこんなには食べられん・・・。」

貴鬼「でも、朝ちゃんと食べないとキツイよ?」

アイオロス「そうだぞ、サガぁぁ。聖闘士は体力が基本だからな。」

貴鬼「勉強も必要だよ。」

サガ「そうだな。貴鬼の言う通りだ。勉強も大事だぞ、アイオロス。」

貴鬼「あのさぁ、もう、準備できたんだけど、どうする?朝ご飯はちゃんと食べたほうがいいと思うけど・・・・。」

サガ「心配しなくて大丈夫だ、朝はコーヒーと野菜だけでも平気だ。残りは夜か、明日に頂くよ。」

サガはサラダとパンを食べると、残りにサランラップをかけて冷蔵庫に閉まった。

貴鬼「オジさん。オイラ、カノンを起こして準備させてから行くから、先にいっててよ。」

サガ「わかった。頼んだぞ、貴鬼。」

アイオロスはサガを連れて双児宮を出ると、パーティ会場へと連れて行く。
その場所に、サガは露骨に眉を潜めた。

サガ「こんな所で誕生日パーティをやるのか?」

アイオロス「そうだぞ。野外パーティだ!」

サガ「この場所は・・・・・・・、カノンが望んだのか?」

アイオロス「そうみたいだ。デスマスクがそう言っていたが・・・・。」

サガ「そうか・・・・。」

サガの姿を発見したカミュが、準備の手を止め駆け寄った。

カミュ「あっ、サガ!誕生日おめでとうございます。」

サガ「ありがとう、カミュ。」

カミュ「ところで、本当にいいんですか?」

サガ「何がだ?」

カミュ「いえ。今日はカノンの誕生日ですが、貴方の誕生日でもあるのに、カノンの誕生日だけやるというのは・・・・。」

サガ「いいんだ。私は小さい頃に聖域で、皆に祝って貰ったことがあるから、かまわん。しかし、カノンはこうやって大勢に祝って貰ったことがないのだ。いつも私と二人だけだったからな・・・・。酷いときは、たった一人の時もあったし・・・。」

カミュ「しかし、せめて何かプレゼントでも・・・・。」

サガ「気にしないでくれ。こうやって皆が私の我侭を聞いてくれたのが、私にとっては何よりの誕生日プレゼントだ。」

アイオロス「だったら、二人一緒にやればいいじゃないか。」

サガ「二人一緒では意味がないであろう。」

アイオロスとカミュはお互いに目を合わせ、やれやれといった風に肩をすくめた。
生き返っても、ジブンンおことより他人のことを気にかけ、優先するのは昔からまったく変わっていない。だからストレスがやまりやすいなど、本人は気が付いていなかった。

テーブルの前まで来ると、サガはその豪勢さに改めて感歎の息を吐いた。

Happy Birthday KANON

と、書かれた巨大な真四角のケーキ、魚料理、肉料理、菓子、酒、カニ料理が所狭しと並べられ、中央には巨大な薔薇が飾られている。

サガ「凄いな・・・・。」

ムウ「ええ。ちょっとした事情で、カノンの誕生日には巨大なケーキとピーマンの入っていない料理という約束をしたものですから。」

サガ「しかし、いくらなんでも、朝っぱらからパーティというはどうかと・・・。」

ムウ「これもカノンが望んだことなんですよ。」

サガ「カノンが?」

デスマスク「おうよ。カノンに誕生日パーティどうしたい?って聞いたらよ、ここで朝からパーティしたいって。あいつも変ってるよな。」

サガ「そうなのか・・・・。あいつの考えていることは未だによく分からん・・・。」

ムウ「まったく、こんなに朝早くからとは思いもしませんでした。昨日は仕込みが大変だったのですよ。」

サガ「すまんな、ムウ。私の我侭に付き合わせてしまって。」

ムウ「いえ、構いません。私の誕生日の時は、大量にお菓子を頂きましたからね。」

サガ「で、カノンへのプレゼントは何になったのだ?」

ムウ「ええ、それも準備ばっちりです。あとはラッピングするだけですから。」

デスマスク「アルデバラン!!シャカ!!シュラ!!」

デスマスクが叫ぶように言うと、シュラとシャカがアイオロスの脇にスッと立ち、その両腕を取り押さえた。アルデバランは後ろに立つとアイオロスを羽交い絞めにする。

サガ「???。」

アイオロス「うおっ、何をする。」

ムウ「サガ。カノンの誕生日プレゼントはこれです。」

スカした笑顔を浮かべたムウの手には真っ赤なリボンが握られていた。

サガ「どういうことだ?」

ムウ「こういうことですよ。」

ムウは、真っ赤なリボンをサガの首に巻きつけ、喉仏の辺りでキレイに蝶々結びをした。

サガ「・・・・・・・・・・・。カノンが、私を欲しいと?」

デスマスク「おうよ。欲しいもの聞いたら、即答だったぜ。」

サガ「そうか・・・・。」

アイオロス「待てぇぇぇぇ。サガは駄目だ、サガは!!!」

カミュ「ちょ、ちょっと待って、ムウ。」

アフロディーテ「ちょっとぉぉ、こんなの聞いてないわよぉ。」

取り押さえられたアイオロスが叫ぶと、その後をカミュとアフロディーテが追う。

デスマスク「仕方ねぇーだろう。カノンが欲しいってーんだからよ。これもサガが、カノンの誕生日をやってくれ!って言うからいけないんだぜ。自業自得だ、自業自得!!」

アイオロス「サガァァァァァ!!逃げろ、サガァァァァ!!!」

シュラ「暴れないでください、アイオロス。サガが望んだ事です、仕方ないんですよ。」

ムウ「今更逃げようなど考えないでくださいね。もうそろそろ貴鬼がカノンを連れてきます。」

サガ「・・・・・、そのような往生際の悪いことなどせん。」

ムウ「ふっ、さすがサガですね。」

ムウが鼻で笑うと、貴鬼がカノンを連れて現われた。
ニコニコ顔のカノンは明らかにご機嫌だった。

大王席にカノンを座が座ると、お約束どおり十二宮順に席についた。
カノンは首にリボンを巻いて、青い顔を俯かせて座っているサガを見るとニヤリと笑った。そして、奥で尚も取り押さえられ身動きがとれないアイオロスを一瞥する。

デスマスク「さてと、面子が揃ったところで、カノンの誕生日パーティとするかっ!!」

カノン、誕生日おめでとう!!!

デスマスクの合図で、シャンパンの入った杯を高々とあげ、カノンの誕生日パーティは始まった。

カノンは杯を一気にあけると、サガに視線を移しソワソワとしだした。今すぐに誕生日プレゼントが欲しくてたまらないのだ。

ミロ「宴会部長。はやくカノンに誕生日プレゼントをやれよ♪」

ミロの言葉にサガはビクリと肩を震わせた。

デスマスク「おう、そうだったな。おい、愚弟!!」

カノン「おうっ♪はやくプレゼントくれっ♪」

デスマスクは、サガを無理矢理立たせ、カノンの前に連れて行く。
真っ青な顔のサガは、心ここにあらずという状態で、デスマスクの成すがままだった。

デスマスク「お前のお望みどおり、誕生日プレゼントはサガだ。ありがたく受け取れ!!」

カノン「ふっふっふっ。ありがとうよっ!!」

カノンはサガを抱き締めると、震える耳元でクスクスと笑いながら囁いた。
普段ならば、「ありがとうが言えるようになったのだな。」などと言うサガであるが、サガはどこか遠くでカノンの言葉を聞いているようで、まったく反応しなかった。

カノン「兄さん、嬉しいよ。最高の誕生日だ!!」

サガ「・・・・・。」

カノン「さぁっ、兄さん。行こうか?」

手を引かれ、条件反射で体が強張る。

サガ「・・・・・どどどどどどど、どこに行くつもりだ!?」

カノン「いい所だよ、兄さん。俺が天国に連れて行ってやるよ♪」

サガは目を瞬かせ、誰が見ても明らかに動揺丸出しだった。

アイオロス「ごらぁぁぁ、愚弟。サガに何をするつもりだぁぁぁぁ!!」

カノン「うるせーぞ、鶏。兄貴は俺のものだ。たった今、プレゼントされたばかりだ!!」

アイオロスは束縛された身で、叫ぶが、もちろん無駄な抵抗だった。

シュラ「ヒュゥ〜〜〜♪頑張れよっ、カノン!!」

ミロ「ごゆっくりなぁ〜〜〜♪」

外野からの野次に片手を挙げて答えると、カノンはサガの手を引っ張った。
サガは嫌々ながら手を引っ張られるしかなかった。
事の種をまいたのは自分だからだ。

もちろんカノンの後を全員がついていく。

 

ガチャーーーーーーーーーン♪

そして、1分も経たずに到着した場所に、サガは愕然とり、鉄格子の締まる音に、ハッと我に返った時には、時既に遅し。

サガは波に晒され、鉄格子を握り締めたまま、外にいるカノンに叫んだ。

サガ「な、何をするのだ、カノンッ!!!。」

カノン「どうよ!?天国だろう、兄さん。女神に頼んで1日借りたんだ。」

サガ「な、なんだと?」

カノン「まっ、1日で出られるといいけどな。わっーーーーーーはっはっはっはっ!!」

サガ「ば、馬鹿な!」

カノン「おう、俺に悪でも囁いてみるか!?どうよ?それじゃ、元気でなっ!!」

サガ「だせーーーーーーーーーーーー!だしてくれぇーーーーーーーーーー!!」

サガが閉じ込められたのは、言わずと知れたスニオン岬の岩牢であった。

 

数週間前、デスマスクから自分の誕生日に、望むままのパーティとプレゼントをするという話を聞いたカノンは、速攻で返事をしたのだった。

・スニオン岬で野外パーティ
・時間は朝から
・プレゼントは兄貴(サガ)

奇妙なことを言うもんだと、デスマスクは首を傾げながらも、情報が漏れる恐れのある者(アイオロス、カミュ、アフロディーテ)を抜かした仲間に、それを伝えたのだった。

しかし、まさかサガをスニオン岬の岩牢に閉じ込めるとは、全員が思いも寄らなかったことである。いや、貴鬼だけはそのことを知っていた。カノンにこの計画を打ち明けられ、沙織に岩牢レンタルを頼んだのは彼である。

カノンは岩牢前で馬鹿笑いをすると、唖然と立ち尽くす黄金聖闘士を横切り、そそくさと岬の先端へと向かった。

カノンの謎な行動に皆、興味津々で、岩牢前で「サガ、サガ!」と泣き叫ぶアイオロスを放置し、カノンの後をついていく。

カノン「ここへ来て、わが身を纏え!!シードラゴンの鱗衣よ!」

カノンは岬の先端に立つと、右手を高々とあげて叫ぶ。
双児宮の方角から放たれた青い光がカノンを包みこむと、黄金聖闘士は歓声をあげた。

そして、シードラゴンの鱗衣を纏い、すっかり海将軍の格好になったカノンは、目を閉じると静かに小宇宙を燃やし始める。

デスマスク「すげぇ、愚弟が小宇宙を燃やしてるぞ。」

ミロ「あんなカノン始めてみた。」

サガ「だせーーーーーー、だしてくれぇーーーーーーーーっ!!カノーーーーーーーーーーーーーン!!」

カノンはサガの叫び声を聞きながら唇を吊り上げ、更に小宇宙を燃やした。

カノン「海よっ!!」

海将軍のマンとがはためき、エーゲ海の表面が波たったのは気のせいだろうか。

カノン「北大西洋の海将軍シードラゴンが命ず!!今すぐ荒れ狂う波で、この地中海を、このスニオン岬を覆い尽くせ!!!!」

その光景にシャカは目を見開き、シュラは目を粒にさせ、他は目が点になった。

カノンの発した言葉を合図に、ゴゴゴゴッという爆音とともに海面が波立つと、嵐でもないのに大波が現われたからだ。超強力高波は容赦なくスニオン岬を襲い、先端に立つカノンにも襲いかかった。
もちろん、カノンの呼んだ超強力高波は、その後ろで立ち尽くす黄金聖闘士達にも襲い掛かった。
ムウ、アルデバラン、貴鬼は折角の料理が波に飲まれるのを防ぐ為、岬の奥へとテーブルを移動する。

サガ「うおぉぉぉぉぉーーーーーーーー、なんだこの波はぁぁぁぁっっっ!!!」

ザッパーーーーンと波を被ったカノンは、水滴で鱗衣を輝かせ、サガの絶叫を危機ながら高らかに馬鹿笑いをした。

カノン「うわーーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっ!!!」

馬鹿笑いをしながら、唖然としている黄金聖闘士達を嬉しそうに横切り、いそいそと再び岩牢前に移動する。
すでに岩牢前は、高波に襲われ危険地帯と化している。しかし、海の男カノンは波に構わず岩牢前の岩場に移動した。そこには、波を被りながらサガを心配するアイオロスもいる。

サガ「カ、カノン!!お前、何を着ているんだ!?うおっ、波が!!」

カノン「どうよ?そこの居心地は?」

サガ「出せー--ーーーーーーーっ、うおぉぉぉぉぉぉぉ、波がぁぁぁっぁぁぁ!!ごほっ、げほっ・・・。」

カノン「なっさけねぇ姿だな。」

アイオロス「ごらぁぁぁ、愚弟。てめぇサガをここから出しやがれ。」

サガ「カノン!今すぐここから出せ!!」

カノン「ふふ〜〜ん♪俺にそれが出来ないことは、兄貴が一番良く知っているだろう。この岩牢は神の力じゃないと、無理なんだぜ♪所詮、兄貴も神のような男なだけで、神じゃないからな♪」

アイオロス「サガァァァァ、可哀想に・・・・。」

カノン「そんなに可哀想だと思うなら、助けにいってやれよ。ほらよっ。」

アイオロス「うおぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

カノンはそういうと、アイオロスの背中にしこたま蹴りを入れた。と同時に、アイオロスは高波に飲み込まれ、海の藻屑と消えていった。

サガ「ア、アイオロスーーーーーーーーーーッ!!!いい加減にしないか、カノン!!お前、私を本気で怒らせる気か!?」

カノン「おうおう、なんとでも言ってくれ。そこに居る限り、アナザー・ディメンションも、ギャラクシアン・エクスプロージョンも役にたたねぇからな♪」

サガ「くっ・・・・・・・・・。」

カノン「今日は最高の誕生日だぜ。兄貴が考えてくれたんだってな?本当に感謝するぜ、に・い・さ・ん♪」

サガ「待て、カノン。私をここから出していけ。」

カノン「それは無理!!さてと、ムウの作った料理と蟹を食べにいくかな。」

サガ「だせーーーーーーーーーーーっ、だしてくれーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

サガの叫びは荒れ狂う波にかき消された。


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