白羊家の食卓14(どっちの派閥ショー)

 

久しぶりにシベリアから帰ってきたカミュは、タイミングよく天蠍宮から顔を出したミロにすかした笑みを浮かべた。気配を感じたミロがわざわざ出迎えに来たのかと思ったのである。

「あっ、カミュ。お帰り〜」

「ただいま、ミロ」

再会のハグを交わしながらカミュはミロの尻をいやらしく撫でる。

しかし、ミロはその手をパシッと払いのけ、身体を自ら離した。

「あっ、ごめん。今は無理」

「ん?」

「これからムウん所行くんだ」

「白羊宮にか!?」

「うん。今日のおやつがプリンなんだッ! 羊特性プリンパフェなんだぜ、プ・リ・ン・パ・フェッ。だからエッチは夜なっ!」

自分との時間よりもプリンを取られたことにカミュは軽くショックを覚えた。

「しかし、久しぶりなんだから、こちらを優先しても……」

「やだよ。今日のプリンは俺のリクエストなんだから。ムウが今日はプリン作ってくれるって、約束してくれたんだぜ。友達との約束守らなくちゃな! それに帰ってくるなら帰ってくるって前もって言ってくれよ、俺にだって都合あるんだから!」

「すまん……、あっ! それでは、私もたまには白羊宮にお邪魔して――」

「だめ! カミュが来たら俺の取り分減るじゃん! でなくてもカノンとアイオロスと貴鬼とムウとアルデバランがバカ食いするんだからさ! プリンパフェ食べたいなら、今度カミュの分も頼んでおくから、今日は我慢してくれ!」

即行で拒否されカミュはまたしてもショックを受け、スキップで階段を下りていくミロの後ろ姿を呆然と見送った。

 

 

ミロの心の天秤が自分よりもプリンに傾いたことにカミュが凹んでいると、シュラとアフロディーテが上から降りてくる。

「見てたわよぉ〜。珍しいこともあるもんね、カミュがミロにふられるなんてさ」

「勘違いをしないでもらおうか、アフロディーテ」

自称クールな男カミュは、ムスッと二股眉毛を寄せ平静を装う。

シュラがすかさずその肩を抱き寄せた。

「寂しいなら俺が抱いてやろうか、ん?」

「寂しくなんてありません!」

「うおっ!?」

カミュはシュラの手に自分の手を重ね、凍気を込める。

アフロディーテとシュラは、互いに顔を見合わせると肩を竦めた。

「これから巨蟹宮でサガとお茶するんだけど、あんたも来る?」

「え!? サガもくるんですか?」

「うん。シュラが朝一でザッハトルテを買って来てくれたんだぁ。デッちゃんが生クリーム泡立てて待ってるのよね。カミュもどう?」

小さな木箱に入ったケーキをアフロディーテが差し出す。

ぴくりとカミュは眉根を小さく吊り上げ、うそ臭い笑顔を向けた。

「私も行っていいのですか?」

「いいわよ。ていうか、何イジケてんの!? 私ら仲間じゃない!」

そうとも、とアフロディーテの後にシュラが軽くカミュの肩を叩いて笑う。カミュは珍しく心底嬉しそうに笑い頷いたのだった。

 

 

翌朝、自宮で朝食兼昼食の準備をしていたカミュは、自力で起きてきたミロに目を丸くした。

「どうした、ミロ?」

「ムウに小宇宙で起こされた……」

「ムウに?」

言いかけたカミュは眉を寄せた。宝瓶宮をいつも素通りするアイオロスが、私室に顔を出したからである。

「なにか御用ですか? アイオロス」

「おう。アルデバランにミロを起こして連れて来いって言われてな。やっぱりこっちにいたか!」

教皇の間でシオン相手に恋愛相談をしていたアイオロスは、アルデバランに小宇宙で呼び出されたのである。

カミュが首を捻って二人に視線を往復させると、ミロが無邪気な笑みを見せる。

「昼飯に金牛宮でバーベーキューするから誘ってくれてさ。今日はアルデバランのところで肉食い放題だ! しかもっ! 昼のデザートにムウがデカイチョコレートケーキ作ったってさ! というわけで、俺昼飯いらないから」

ミロはジーンズを急いで履いてカミュに手を振った。するとアイオロスが首を傾げて、カミュを見た。

「お前は来ないのか?」

「私は誘われていませんから」

「別に誘われてなくてもいいんじゃないか?」

「いえ、そういうわけには。……、アイオロスはあと誰を連れて金牛宮に行くんですか?」

「あぁ、ミロだけだな。シャカは誘っても動かんし、アイオリアはムウが嫌いだから、誘ってもこないだろうしな。サガもムウがいるところにはあまり連れていけないし」

アイオロスが肩を竦めると同時にミロの腹の虫がぐうぅと鳴る。

ミロはその場で駆け足をしながら、カミュの顔をうかがった。

「んで、カミュどうすんの? 行くの? 行かないの?」

「誘われてもいないのに、行くわけにはいくまい」

「なに堅いこと言ってんだよ、行きたいなら行けばいいじゃん」

「別に行きたいとは言ってはいないが」

「あっ、そう。なんだ、ちょっと行きたそうに見えたから行きたいのかと思った」

カミュはクールな瞳でミロを一瞥すると、片眉を吊り上げて否定の意を示した。

 

 

なんとなく釈然としないままカミュが二人を見送ると、アフロディーテが顔を出す。

「あれ? ミロは?」

「ミロなら、金牛宮でバーベーキューだそうです。……貴方もミロに何か用ですか? 今出て行ったばかりなので、追いかければ間に合いますよ。それともアフロディーテもバーベキューへ?」

「ううん、いつも一緒のミロがいないから聞いただけなんだけど、あんたは行かないの?」

「誘われてませんから……」

珍しく歯切れの悪い返事をするカミュを見て、アフロディーテはぴんと来た。

「もしかして、今日もミロに振られて凹んでるの?」

「そういうわけではありません」

「じゃぁ、大事なセフレのミロたんを、ムウたちに取られて怒ってるの?」

「そういうわけでもありません」

「大 丈夫よ、あのメンバーの中にはミロをどうにかしようなんて酔狂な人間いないもの。アイオロスはサガしか見えてないし、愚弟もサガラブだし、アルデバランと ムウは相思相愛、貴鬼は問題外だもんねぇ。仮になにかあっても、肉体関係にはならないから大丈夫よ。……っと、教皇は別だけどね」

「ですから、別に私はそんなことを心配しているわけではありません。それにミロが誰とどうなろうと、私には関係ありませんから」

カミュが明らかにへそを曲げているのが分り、なんだかんだ言ってもまだまだ子供なその様子にアフロディーテは苦笑した。

「ねぇ、カミュ、お昼ごはんまだでしょう? 私達と食べに行こうか!」

「え!?」

「シュラとデスマスクとお昼ご飯食べようかと思って降りてきたんだよね。んで、ついでだから宝瓶宮にも寄ってみたわけ」

「なぜついでにわが宮へ?」

「一緒にご飯食べようかと思ってに決まってるでしょう。別に私はあんたもミロも嫌いじゃないし。ていうか、同じ冥界の釜の飯を食った仲間じゃないっ!」

嬉しそうにカミュが眉を跳ね上げると、アフロディーテはあれ? と首をかしげた。

「なんかいい香するんだけど……、もしかしてご飯作ってたの?」

「ええ」

「それじゃ、誘っても無駄かぁ」

「いえ、そんなことありません。折角ですからウチで食事しませんか?」

「ミロたんの分はいいの?」

「ミロの分なんて最初からありませんから」

本人はクールを気取っているつもりだが、傍から見れば拗ねているのはバレバレだった。

「それじゃ、折角だからサガも呼ぼうか? どうせサガも一人でジメジメしながら草食うだけなんだしさぁ〜」

「いいですね。そうしましょう。私達は私達で楽しみましょう。腕によりをかけて仕上げにかかりますっ!!」

カミュはいそいそとキッチンへ駆け込むと、普段ミロと共にする食事よりも品数を増やし手間と友への愛情を料理にこめたのだった。


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