★兄貴といっしょ(男の悩み相談室 その1)
朝食を終え、部屋の掃除をしていたサガは、シーツと枕カバーを外そうとしたが、思わず目を潜めてしまった。
眉間に何本も皺を寄せ、自分の枕を凝視する。
シーツや枕カバーを両手で撫でまわし、指に絡んだ大量のそれを見て、サガは顔を青くした。
抜け毛である。
あまりの抜け毛の多さに驚いたサガは光速で洗面所に駆け込むと、朝使ったブラシを引出しから取り出し、これまた凝視する。
ブラシにも大量の青い毛がついていた。
鏡の前で長い前髪をかき上げてみると、額が後退しているように見えるのは気のせいではなさそうだ。顎を引いて、脳天の髪を掻き分けてみると、以前に比べて頭皮がはっきり見えるのも気のせいではない。
このままいけば、若ハゲになるのも時間の問題である。
サガはカノンに気付かれる前に、光速で双児宮を飛び出した。
双魚宮
突然の愛しのサガの訪問に、アフロディーテは慌てて化粧を直し、サガを朝食の席に誘った。
アフロディーテ「サガぁぁぁぁん、どうしたのぉ?アフロが恋しくなったのぉぉ?アフロ嬉しいぃぃ。」
腰をくねくねさせながら紅茶をいれるアフロディーテの顔を、サガはいつになく真剣な眼差しでみつめる。
アフロディーテ「いやぁぁん、そんなに見つめられたら、アフロ照れちゃうぅ。アフロってそんなに綺麗?」
サガ「ああ、とても綺麗だ。」
アフロディーテ「本当のことでも、サガに言われると超うれしぃぃ〜〜〜〜〜!。」
紅茶のポットをテーブルにおき、アフロディーテはサガの首に腕を巻きつけて抱きつくと、サガはアフロディーテの頭を撫でまわす。
今日はいける!と、心の中でガッツポーズをとり、アフロディーテはサガにキスを強請って、唇を突き出すと、サガはアフロディーテの前髪をかきあげた。
サガ「お前の髪はとても綺麗だな。額も後退していないし・・・・。頭皮を見せてくれ。」
突然サガにヘッドロックをかけられ、アフロディーテは短い悲鳴を漏らす。
アフロディーテの頭皮には、水色の髪が密集していた。
サガ「・・・・・お前は禿げる心配がなさそうだな。」
アフロディーテから手を離し、サガは大きな溜息をついて紅茶をすする。アフロディーテはサガにボサボサにされた髪を手櫛でなおすと、サガの長い巻毛をつかんだ。
アフロディーテ「どうしたのぉ、サガぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
サガ「やめろ!!髪をひっぱるなぁぁあ!!!」
アフロディーテ「やっぱり。」
邪悪な笑いを浮かべたアフロディーテにサガは冷や汗を流す。
アフロディーテ「サガぁぁ、髪の毛心配なんだぁ〜〜〜〜。」
サガ「う゛!!!」
アフロディーテ「アフロが毛髪チェックしてあげようかぁ?」
サガ「毛髪チェック?何だそれは?」
アフロディーテ「頭髪の健康診断よ。」
サガ「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
アフロディーテ「アフロの尻の穴まで知ってる仲なんだから、今更気にすることないでしょう〜〜。」
サガ「う゛!!!」
かつての肉体関係を指摘され、黙りこくってしまったサガの頭をつかみ、アフロディーテはサガの髪の毛や頭皮を入念にチェックしはじめた。
アフロディーテ「サガぁぁ、最近抜け毛多いでしょう。」
サガ「・・・・どうして分かる!!!!!?もうそんなに禿げているのか?!」
アフロディーテ「毛根が細くなってるもん。」
サガ「それはどういうことだ!!!!」
アフロディーテ「これよ、これ。はい、サガの抜け毛。」
アフロディーテはサガのローブについたサガの髪の毛をつまみ、それをサガに渡す。
サガ「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!また抜けてる・・・・。」
アフロディーテ「毛根の方が細くなってるの分かる?。」
サガ「・・・・本当だ・・・・。」
アフロディーテ「それからぁ・・・・あんまり言いたくないんだけどぉ、サガの髪の毛、超汚い。」
サガ「き、汚いぃぃ?!私は毎日風呂に入っているぞ!!!」
アフロディーテ「そんなこと聖域中の誰でも知ってるわよ!。そうじゃなくって、毛質が汚いの!!。枝毛に切れ毛に縮れ毛多すぎ!!!!。黒いサガの髪の毛はこんなに汚くなかったもん!!!!。」
サガは慌てて自分の髪を掴むと、毛先をじーっと見つめた。その横からアフロディーテが手をのばし、サガの髪を一本つまむ。そして髪の中ほどを押さえて両手で引っ張ると、髪は何の抵抗もなく切れてしまった。
サガ「・・・・仕方あるいまい、私の髪は癖毛だから絡みやすいのだ。」
アフロディーテ「もう、言い訳してる時点でダメすぎ。アフロは、毎週美容院行って、髪の手入れしてるもん。そんな汚い髪の毛、ゴミよゴミ!」
サガ「ゴミぃぃぃぃ!?たとえゴミでも私にとっては貴重な髪だ!!!」
アフロディーテ「そんなゴミ髪なら、ない方がマシよ!ツルツルあたまに、ヅラかぶんなさいよ、ヅラ!今すぐ美容院に行ってこーーーいってーの!」
サガ「つつつつつ、ツルツルぅぅぅぅぅ?!私はまだ禿げではなーーーーい!!!!!!」
サガはテーブルを叩いて立ち上がると、額に青筋を立てて双魚宮から出て行った。
宝瓶宮
突然のサガの来訪に、カミュは慌てて寝室のドアを閉めると、ミロが中から出てこられないようにドアノブを凍らせた。
カミュ「お、おはようございます、サガ・・・。一体どうしたのですか?」
いつになく真剣な眼差しで自分をみつめるサガに、カミュは顔を赤らめる。
カミュ「そんな見つめないで下さい・・・まだ、股間も尻も準備できていませんし・・・。」
俯く頭をサガにつかまれ、カミュは今日はいける!と、心の中でガッツポーズをとり、自分のズボンに手をかける。しかし、サガはカミュの前髪を勢いよくかきあげると、そのまま首に腕をまきつけてヘッドロックをかけた。
カミュ「な!何をするんですか、サガ!。やはり乱暴なのがお好きなのですか?!」
サガ「・・・・・はぁ?頭髪のチェックだ、頭皮を見せろ。」
カミュ「ぅお!やめてください!!」
無理矢理頭皮を掻き分けられ、カミュはサガの腕の中でバタバタと暴れる。
サガ「・・・・。お前、髪が薄いな。」
カミュ「は?何言ってるんですか。」
サガ「そうか、だからこんな変な髪形をしているのだな。天辺をふかして、後ろ髪をサラサラにしておけば、髪が多く見えるというわけか。」
カミュから手を離し、サガは感心したように呟いた。
カミュ「サガ、私は髪が薄いのではなく細くて多いのです。その証拠に、額は後退していません。」
得意げに髪をかきあげ、カミュはニヤリと笑う。
サガ「ふむ、お前は天辺から禿げるタイプだな。それだけ胸毛が生えているのだ、気をつけたほうがいいぞ。」
カミュ「胸毛と禿げとどういう関係があるのですか?」
サガ「男性ホルモンだ。そんなことも分からんのか。」
カミュ「でしたら、サガ。そんな立派な肩幅の貴方も十分危険ですよ。」
サガ「何?!。」
カミュ「貴方は癖毛だから多そうに見えますが、実は髪の毛少ないのではないのですか?」
サガ「・・・・・・・・・・・・。」
図星をつかれて黙りこくってしまったサガに、カミュはもう一度ニヤリと笑った。
サガ「・・・・。直毛のお前に、私の悩みなど分かるまい。そうだ、どうせミロはここにいるのだろう。」
カミュ「え゛?!ミ、ミロならさっき帰りました!ここにはいません。」
サガ「嘘をつくな。ここにいるのは分かっている。」
自分を私室から追い出そうとするカミュを跳ね飛ばし、サガは光速で乱入すると、ノブの凍った扉をタックルでブチあけた。部屋の中ではミロがだらしなく口をあけていびきをかいている。
サガはベッドに腰掛けミロの頭を掴んだ。
ミロ「むにゃむにゃ・・・・もうちょっと寝かせてくれよぉぉ、カミュぅぅぅ。」
サガはミロの金髪のくせげを掻き分け頭皮をチェックする。そして、額の後退具合を確かめるべく、前髪をかきあげると、さすがのミロも目を覚ました。
ミロ「ぅお!!!サガ何やってんだよ!!!!!!。」
サガ「ミロ、お前、頭が爆発しているぞ。」
寝起きのミロは金髪が絡まりまくり、普段の2倍ほどに膨れ上がっていた。
ミロ「しかたねーじゃん。くせげなんだからさ。つーか、サガなにやってんの?ま、まさかカミュとH?!これから3P?」
サガ「お前達と一緒にするな!!!」
ミロ「んじゃ、何やってんの?」
サガ「頭髪の調査だ。お前、その汚い髪は何だ?!」
ミロ「だーかーらーーー、くせげだから絡むんだよ!」
ミロは髪に指を通すと、ギシギシとひっかかる。そして絡みに絡んで毛玉になった部分を引っ張ると、そのまま引きちぎってしまった。
サガ「な!なんて勿体無いことをするのだ!」
ミロ「あー、平気平気。俺、髪の毛多いもん!その辺の女よりよっぽど髪の毛多いからさ!」
サガ「しかし、そんな事をしていたら、いずれ禿げるぞ。」
ミロ「ウチの家系はハゲいねーから大丈夫だもん。俺のオヤジも、じーちゃんも、ひーじちゃんも、バッチリドッサリ髪はえてっから。」
サガ「しかし、隔世遺伝の可能性があるだろう!。」
ミロ「かくせいいでん?」
サガ「お前の遠い祖先が禿げていた場合、それが突然遺伝で出てくるということだ。」
ミロ「俺は生まれたときから眉毛のとこまでビッチリ髪が生えてたから、絶対ハゲねぇの!!あ、頭髪の調査って、ハゲ調査か。サガハゲてるの??」
サガ「う゛!?」
ミロ「サガはストレス多そうだもんな。円脱?ジャリハゲ?頂点ハゲ?」
サガ「お前が私に余計なストレスを与えているのだろうが!!!!!この大馬鹿者!!!!」
サガは小宇宙を込めてミロの頭を鉄拳でなぐると、額に青筋を立てて宝瓶宮から出て行った。