兄貴といっしょ(男の悩み相談室 その1)

 

朝食を終え、部屋の掃除をしていたサガは、シーツと枕カバーを外そうとしたが、思わず目を潜めてしまった。

眉間に何本も皺を寄せ、自分の枕を凝視する。

シーツや枕カバーを両手で撫でまわし、指に絡んだ大量のそれを見て、サガは顔を青くした。

抜け毛である。

あまりの抜け毛の多さに驚いたサガは光速で洗面所に駆け込むと、朝使ったブラシを引出しから取り出し、これまた凝視する。

ブラシにも大量の青い毛がついていた。

鏡の前で長い前髪をかき上げてみると、額が後退しているように見えるのは気のせいではなさそうだ。顎を引いて、脳天の髪を掻き分けてみると、以前に比べて頭皮がはっきり見えるのも気のせいではない。

このままいけば、若ハゲになるのも時間の問題である。

サガはカノンに気付かれる前に、光速で双児宮を飛び出した。

 

双魚宮

突然の愛しのサガの訪問に、アフロディーテは慌てて化粧を直し、サガを朝食の席に誘った。

アフロディーテ「サガぁぁぁぁん、どうしたのぉ?アフロが恋しくなったのぉぉ?アフロ嬉しいぃぃ。」

腰をくねくねさせながら紅茶をいれるアフロディーテの顔を、サガはいつになく真剣な眼差しでみつめる。

アフロディーテ「いやぁぁん、そんなに見つめられたら、アフロ照れちゃうぅ。アフロってそんなに綺麗?」

サガ「ああ、とても綺麗だ。」

アフロディーテ「本当のことでも、サガに言われると超うれしぃぃ〜〜〜〜〜!。」

紅茶のポットをテーブルにおき、アフロディーテはサガの首に腕を巻きつけて抱きつくと、サガはアフロディーテの頭を撫でまわす。

今日はいける!と、心の中でガッツポーズをとり、アフロディーテはサガにキスを強請って、唇を突き出すと、サガはアフロディーテの前髪をかきあげた。

サガ「お前の髪はとても綺麗だな。額も後退していないし・・・・。頭皮を見せてくれ。」

突然サガにヘッドロックをかけられ、アフロディーテは短い悲鳴を漏らす。

アフロディーテの頭皮には、水色の髪が密集していた。

サガ「・・・・・お前は禿げる心配がなさそうだな。」

アフロディーテから手を離し、サガは大きな溜息をついて紅茶をすする。アフロディーテはサガにボサボサにされた髪を手櫛でなおすと、サガの長い巻毛をつかんだ。

アフロディーテ「どうしたのぉ、サガぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

サガ「やめろ!!髪をひっぱるなぁぁあ!!!」

アフロディーテ「やっぱり。」

邪悪な笑いを浮かべたアフロディーテにサガは冷や汗を流す。

アフロディーテ「サガぁぁ、髪の毛心配なんだぁ〜〜〜〜。」

サガ「う゛!!!」

アフロディーテ「アフロが毛髪チェックしてあげようかぁ?」

サガ「毛髪チェック?何だそれは?」

アフロディーテ「頭髪の健康診断よ。」

サガ「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

アフロディーテ「アフロの尻の穴まで知ってる仲なんだから、今更気にすることないでしょう〜〜。」

サガ「う゛!!!」

かつての肉体関係を指摘され、黙りこくってしまったサガの頭をつかみ、アフロディーテはサガの髪の毛や頭皮を入念にチェックしはじめた。

アフロディーテ「サガぁぁ、最近抜け毛多いでしょう。」

サガ「・・・・どうして分かる!!!!!?もうそんなに禿げているのか?!」

アフロディーテ「毛根が細くなってるもん。」

サガ「それはどういうことだ!!!!」

アフロディーテ「これよ、これ。はい、サガの抜け毛。」

アフロディーテはサガのローブについたサガの髪の毛をつまみ、それをサガに渡す。

サガ「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!また抜けてる・・・・。」

アフロディーテ「毛根の方が細くなってるの分かる?。」

サガ「・・・・本当だ・・・・。」

アフロディーテ「それからぁ・・・・あんまり言いたくないんだけどぉ、サガの髪の毛、超汚い。」

サガ「き、汚いぃぃ?!私は毎日風呂に入っているぞ!!!」

アフロディーテ「そんなこと聖域中の誰でも知ってるわよ!。そうじゃなくって、毛質が汚いの!!。枝毛に切れ毛に縮れ毛多すぎ!!!!。黒いサガの髪の毛はこんなに汚くなかったもん!!!!。」

サガは慌てて自分の髪を掴むと、毛先をじーっと見つめた。その横からアフロディーテが手をのばし、サガの髪を一本つまむ。そして髪の中ほどを押さえて両手で引っ張ると、髪は何の抵抗もなく切れてしまった。

サガ「・・・・仕方あるいまい、私の髪は癖毛だから絡みやすいのだ。」

アフロディーテ「もう、言い訳してる時点でダメすぎ。アフロは、毎週美容院行って、髪の手入れしてるもん。そんな汚い髪の毛、ゴミよゴミ!」

サガ「ゴミぃぃぃぃ!?たとえゴミでも私にとっては貴重な髪だ!!!」

アフロディーテ「そんなゴミ髪なら、ない方がマシよ!ツルツルあたまに、ヅラかぶんなさいよ、ヅラ!今すぐ美容院に行ってこーーーいってーの!」

サガ「つつつつつ、ツルツルぅぅぅぅぅ?!私はまだ禿げではなーーーーい!!!!!!」

サガはテーブルを叩いて立ち上がると、額に青筋を立てて双魚宮から出て行った。

 

宝瓶宮

突然のサガの来訪に、カミュは慌てて寝室のドアを閉めると、ミロが中から出てこられないようにドアノブを凍らせた。

カミュ「お、おはようございます、サガ・・・。一体どうしたのですか?」

いつになく真剣な眼差しで自分をみつめるサガに、カミュは顔を赤らめる。

カミュ「そんな見つめないで下さい・・・まだ、股間も尻も準備できていませんし・・・。」

俯く頭をサガにつかまれ、カミュは今日はいける!と、心の中でガッツポーズをとり、自分のズボンに手をかける。しかし、サガはカミュの前髪を勢いよくかきあげると、そのまま首に腕をまきつけてヘッドロックをかけた。

カミュ「な!何をするんですか、サガ!。やはり乱暴なのがお好きなのですか?!」

サガ「・・・・・はぁ?頭髪のチェックだ、頭皮を見せろ。」

カミュ「ぅお!やめてください!!」

無理矢理頭皮を掻き分けられ、カミュはサガの腕の中でバタバタと暴れる。

サガ「・・・・。お前、髪が薄いな。」

カミュ「は?何言ってるんですか。」

サガ「そうか、だからこんな変な髪形をしているのだな。天辺をふかして、後ろ髪をサラサラにしておけば、髪が多く見えるというわけか。」

カミュから手を離し、サガは感心したように呟いた。

カミュ「サガ、私は髪が薄いのではなく細くて多いのです。その証拠に、額は後退していません。」

得意げに髪をかきあげ、カミュはニヤリと笑う。

サガ「ふむ、お前は天辺から禿げるタイプだな。それだけ胸毛が生えているのだ、気をつけたほうがいいぞ。」

カミュ「胸毛と禿げとどういう関係があるのですか?」

サガ「男性ホルモンだ。そんなことも分からんのか。」

カミュ「でしたら、サガ。そんな立派な肩幅の貴方も十分危険ですよ。」

サガ「何?!。」

カミュ「貴方は癖毛だから多そうに見えますが、実は髪の毛少ないのではないのですか?」

サガ「・・・・・・・・・・・・。」

図星をつかれて黙りこくってしまったサガに、カミュはもう一度ニヤリと笑った。

サガ「・・・・。直毛のお前に、私の悩みなど分かるまい。そうだ、どうせミロはここにいるのだろう。」

カミュ「え゛?!ミ、ミロならさっき帰りました!ここにはいません。」

サガ「嘘をつくな。ここにいるのは分かっている。」

自分を私室から追い出そうとするカミュを跳ね飛ばし、サガは光速で乱入すると、ノブの凍った扉をタックルでブチあけた。部屋の中ではミロがだらしなく口をあけていびきをかいている。

サガはベッドに腰掛けミロの頭を掴んだ。

ミロ「むにゃむにゃ・・・・もうちょっと寝かせてくれよぉぉ、カミュぅぅぅ。」

サガはミロの金髪のくせげを掻き分け頭皮をチェックする。そして、額の後退具合を確かめるべく、前髪をかきあげると、さすがのミロも目を覚ました。

ミロ「ぅお!!!サガ何やってんだよ!!!!!!。」

サガ「ミロ、お前、頭が爆発しているぞ。」

寝起きのミロは金髪が絡まりまくり、普段の2倍ほどに膨れ上がっていた。

ミロ「しかたねーじゃん。くせげなんだからさ。つーか、サガなにやってんの?ま、まさかカミュとH?!これから3P?」

サガ「お前達と一緒にするな!!!」

ミロ「んじゃ、何やってんの?」

サガ「頭髪の調査だ。お前、その汚い髪は何だ?!」

ミロ「だーかーらーーー、くせげだから絡むんだよ!」

ミロは髪に指を通すと、ギシギシとひっかかる。そして絡みに絡んで毛玉になった部分を引っ張ると、そのまま引きちぎってしまった。

サガ「な!なんて勿体無いことをするのだ!」

ミロ「あー、平気平気。俺、髪の毛多いもん!その辺の女よりよっぽど髪の毛多いからさ!」

サガ「しかし、そんな事をしていたら、いずれ禿げるぞ。」

ミロ「ウチの家系はハゲいねーから大丈夫だもん。俺のオヤジも、じーちゃんも、ひーじちゃんも、バッチリドッサリ髪はえてっから。」

サガ「しかし、隔世遺伝の可能性があるだろう!。」

ミロ「かくせいいでん?」

サガ「お前の遠い祖先が禿げていた場合、それが突然遺伝で出てくるということだ。」

ミロ「俺は生まれたときから眉毛のとこまでビッチリ髪が生えてたから、絶対ハゲねぇの!!あ、頭髪の調査って、ハゲ調査か。サガハゲてるの??」

サガ「う゛!?」

ミロ「サガはストレス多そうだもんな。円脱?ジャリハゲ?頂点ハゲ?」

サガ「お前が私に余計なストレスを与えているのだろうが!!!!!この大馬鹿者!!!!」

サガは小宇宙を込めてミロの頭を鉄拳でなぐると、額に青筋を立てて宝瓶宮から出て行った。


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