白羊の食卓

 

最後の1個を紅茶で流し込み、結局12個のスイートポテトを平らげたシュラは、これ以上白羊宮にいたら胃がパンクすると察して、席を立った。

アイオロス「おう、もう帰るのか?」

シュラ「磨羯宮に戻ってすこし運動しようと思いまして……」

アイオロス「ははは、あれだけ食べたからには動かないとな」

シュラはブーツを履いて白羊宮からでていくと、1分もしないうちに戻ってきた。

ムウ「おや、おかえりなさい」

アイオロス「どうした?忘れ物か?」

シュラ「……やばいくらい雪降っているんですけど」

アイオロスもスリッパを足に引っ掛け外へ出てみると、確かにシュラの言うとおり、雪で上の金牛宮を見ることが出来なかった。朝、雑兵たちががんばって雪かきした十二宮の階段にも雪が積もっている。

アイオロス「おい、ムウ。この雪だと教皇は帰って来れないんじゃないのか?」

ムウ「そんなに降っているのですか?」

アフロディーテ「世界的に異常気象なんだから仕方ないわよ……」

ムウ「でも、帰ってくるといけませんから、階段の雪を掃除しておいてください」

アイオロス「そういうわけだ、シュラ。がんばれよ」

シュラ「は?俺?」

アイオロス「今、食いすぎたから運動しないとって言ったのはお前だろう」

シュラ「えええ、だからって何で俺が雪かきなんか!」

アフロディーテ「へー、シュラは女神に最も忠誠心があついのに、教皇が雪の積もった階段で足をすべらせて転んで、頭うって死んじゃっても平気なんだぁ、ふーーん」

シュラ「あの妖怪がそんなことで死ぬか!」

ムウ「うっかりサガに殺されたくらいですから、ありえないとは言えませんよ」

シュラ「あのな、ここは白羊宮だろ、何で俺が!」

ムウ「では、私がやりますから、シュラはシオンさまの夕飯作ってください」

シュラ「……そんなことできるわけないだろう」

アフロディーテ「あらぁ〜アルデバランは『教皇様が怪我したら大変だから』って積極的にやってるわよぉん。忠誠心一番男はアルデバランに譲ったらぁ」

シュラ「怪我したら白羊宮に居座るから大変なんだろう……」

アイオロス「お前から忠誠心とったら何も残らないじゃないか」

シュラ「むかっ。雪かきしなくちゃいけないのはアイオロスですよ。だって教皇が帰ってこないということは、執務当番のサガと教皇の間に泊まることになりますよ」

アイオロス「なに!?」

シュラ「ほら、はやく雪かきしないと、サガが教皇にエロエロにされますよ」

アイオロス「あっ、それは大丈夫。30分おきに、サガに小宇宙を飛ばして確認してるから。何かあればすぐに助けに行くし」

シュラ「ちっ……。だったらなおのことアイオロスが雪かきしないと。サガに何かあったときに白羊宮の階段を上れなかったら、助けにいけないじゃないですか」

アイオロス「馬鹿野郎。私をなめるな!いざとなったら雪なんて関係ない。だからお前はいつまでたってもシュラって言われるんだ。つべこべ言ってないでさっさと雪かきしてこい」

ムウ「アイオロスは風呂場掃除しておいてください」

アイオロス「おい、シュラ。雪かき終わったら風呂掃除しておけ」

ムウ「自分で散らかしたんだから、自分で片付けてください。貴鬼だってそのくらいできますけど」

アイオロス「はいはい」

アイオロスとシュラがリビングから姿を消すと、アフロディーテはコタツの上の皿やティカップをまとめ

アフロディーテ「はい、コタツの上片付けたから、持っていってちょうだい!」

と、やっぱりコタツから出ようとはしなかった。

 

1時間ほどで雪かきを終え白羊宮へ戻ってくると、シュラはブーツを脱ぎ捨てコタツの中へかけこんだ。

アフロディーテ「外はどうなのよ?教皇は帰って来れそう?」

シュラ「知るかよ、そんなこと。本人に聞いてみればいいだろう」

アイオロス「何も言ってこない所を見ると、帰ってくるんじゃないのか? サガも今のところ無事みたいだしな」

アフロディーテ「こーんな寒いのに、バカみたい。教皇の間にいればいいのに」

アイオロス「それはサガのいないときにしてくれ。しかし教皇の間は広い分、寒いからなぁ……」

アフロディーテ「教皇の間にもコタツ入れればいいのに」

シュラ「……双魚宮にも入れればいいだろう?」

アフロディーテ「双魚宮にコタツ置いても、焼きたてのケーキや暖かいNABEはでてこないから、白羊宮のコタツじゃなきゃだめなの」

シュラ「……別にコタツから出てくるわけじゃないだろう。お前、本当に一日中コタツの中に入りっぱなしなのか?」

アフロディーテ「失礼しちゃうわね、ちゃんとお風呂にも入ってるし、トイレにも行ってるわよ」

シュラ「いや、そういう意味じゃなくて。居候してるんだから、少しはムウの手伝いをしてるのかって事だ」

アフロディーテ「してるしてる、超してる」

シュラがアフロディーテを不審の目で見ると、アイオロスは苦笑いを浮かべた。アフロディーテはシュラの指摘する通り、コタツでゴロゴロしているだけで、本当になにもしないのだ。

アイオロス「アフロディーテが何かしているの見たことないがなぁ……」

シュラ「それじゃさっきの猫と同じじゃないか」

アフロディーテ「私は臭くないわよっ!あのね、私はそもそも居候じゃないの。ご飯が余ると勿体無いから食べてあげてるの。ミロなんかと一緒にしないで頂戴」

シュラ「……いや、一緒だと思うぞ」

アフロディーテ「ぜーーんぜん、違う!私がいることにより、この殺風景な白羊宮がまるでベルサイユ宮殿みたいにゴージャスになるでしょう!私は存在自体で貢献してるの!それに、料理番組見てレシピをメモってムウに渡すという、大変な仕事もしてるのよ!」

アイオロス「自分が食べたい料理に限るけどな」

アフロディーテ「黙れ、鶏!それに老師がいるときは、晩酌の相手をしたりと八面六臂の大活躍なの!」

やはりアフロディーテはただの居候だとシュラは確信したが、口に出すとギャーギャーうるさいので、アフロディーテの勝手な主張を黙って聞いていた。

 

日が沈んでしばらくすると、黒テンの豪華な毛皮のケープを纏ったシオンが白羊宮へ帰ってきた。
その姿を見たとたん、アフロディーテは目を輝かし、コタツから走り出てシオンの元へ駆け寄ったのである。

アフロディーテ「おかえりなさい〜〜〜教皇様ぁぁ」

猫なで声を出しながら、シオンのケープをはずすと、アフロディーテは風呂場に駆け込みタオルを持ってきて、毛皮を丁寧に拭きはじめた。

突然走り出したアフロディーテに唖然としていたシュラは、アフロディーテの目的が教皇ではなく毛皮だと知って更に呆れかえった。

アフロディーテは手入れを終えると、毛皮を撫でてニヤニヤしている。

シュラ「お前って、本当に分かりやすい性格してるなー」

アフロディーテ「働き者の私はムウに代わってコートのお手入れしてあげてるの。せっかくのロシアンセーブルがダメになっちゃうでしょう!」

シュラ「で、そのコートをおねだりしようって腹だろう?」

アイオロス「おいおい、それはいずれ私が着るんだぞ」

アフロディーテ「無理無理無理、あんたの肩幅じゃはいらないから。これは私が貰うの。だってムウは毛皮なんか着ないでしょう」

アイオロス「2週間くらい前にも白い毛皮をもらっただろう?!」

アフロディーテ「あれはあれ、これはこれなの。いらなくなったら私が貰うの♪」

シュラ「コタツの中にいる猫でも着てろよ」

アフロディーテ「冗談じゃないわよ、あんな臭い猫どうやってきるのよ!」

シュラはアフロディーテが白羊宮に居座っている真の目的を知り、その図々しさにただただ呆れるしかなかった。


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