白羊家の食卓5(風邪ひき十二宮 その1)

 

今日こそベッドの中に引きずりこんでやろうと、ムウが起こしにくるのを待っていたシオンは、時間になっても一向に現れない弟子に小首をかしげた。

シオン「ふむ・・・昨日はちと頑張りすぎたかのぅ。寝坊とはかわゆいのぅ。」

昨晩遅くまでムウと淫行にふけっていた事を思い出し、シオンは布団の中で淫靡な笑いを浮かべる。しかし、今日も執務があるので、いつまでも寝ているわけにもゆかず、シオンはベッドから体を起こすと、うっとりと眠っているはずであろうムウの部屋へ足を運んだ。

そして、ムウの部屋の戸を開けると、朝っぱらから嫌なものを見てしまい、ない眉をひそめる。可愛いムウの寝顔ではなく、巨大な背中が目に飛び込んできたのである。

シオン「牛ぃーーーーーーーーっ!!!!余のムウに何をしておるかーーーーー!」

大胆不敵にもムウの寝室に侵入した不届き者・アルデバランに制裁を加えるべく、シオンは髪を逆立て怒鳴る。

だがアルデバランは驚くどころか、シオンに振り向くと、眉間に皺を沢山寄せ唇に人差し指を立てて静寂を促した。

貴鬼「シオンさま、うるさいよ!!!!」

そして、貴鬼すらもシオンに非難の眼差しをむける。シオンは実力行使でアルデバランを蹴散らすべく大股で近寄ると、真っ青な顔をして眠るムウに気付き、ベッドの傍らで膝を落としているアルデバランの巨体を跳ね飛ばした。

シオン「む!ムウ!!どうしたのじゃ!!!」

ムウのふくよかな頬は白蝋のように血の気がなく、その頬に手を触れると、小刻みに震えていることが分かる。シオンはムウの額に自分の額を押し当てると、そのままムウに覆い被さり抱きついた。明らかにムウは発熱しているのである。

シオン「ムーーーーーウっ!!!!死ぬでなーーーーいいい!」

貴鬼「シオンさまが乗ったら本当にムウさま死んじゃうよ!。」

アルデバラン「きょ、教皇さま、落ち着いてください。」

シオン「これが落ち着いていられるか!!!余のムウがぁぁ!余のムウがぁぁぁぁぁぁ!!!」

銀色の瞳から滝のような涙を流し、ムウにしがみつくシオンをアルデバランと貴鬼は小宇宙を燃やして引き剥がそうとするが、くらいついたスッポンのようになかなかはがれない。

シオンの腕の中でムウが呻き声をあげると、シオンは再びアルデバランと貴鬼を跳ね飛ばしてムウの体を抱き上げた。

シオン「ムウや、どうしたのじゃ。苦しいのか?痛いのか??よいか、余をおいて死ぬでないぞ!!。」

ムウ「・・・・シオンさま・・・苦しい・・・。」

シオン「おお、おお、かわいそうにのぅ。ムウや、死んではいかんぞ、必ず余が助けてやるからのぅ。」

貴鬼「シオンさまが締め上げてるから苦しんだよ!ムウさまが死んじゃうよ!!」

アルデバラン「教皇さま、早くムウを病院に連れて行かないと。」

貴鬼「そうだよ、シオンさま、病院だよ、病院!!」

シオン「おお、そうであったのぅ。牛!今すぐ病院へ行って医者を連れて来い。こんなに弱っているムウを外に出したら死んでしまうではないか!今すぐ医者を呼んでくるのじゃ!!」

アルデバランはシオンに怒鳴られ光速で白羊宮を飛び出す。女神の御慈悲により聖域に近代的な病院が出来たことに感謝しながらも、天下御免の『教皇命令』で強引に医者を引きずり出し、小脇に抱えて光速で白羊宮へと戻った。

シオン「ムウ・・・、ムウ・・・死ぬでない・・・。余を一人にすることは許さんぞ・・・ムウよ・・・・。」

ようやくムウから離れたものの、シオンは未だにムウの手を握って、オヨオヨと涙を流し続けている。医者が診察をはじめても離れないどころか、医者に食って掛かった。

シオン「医者よ、ムウの病気はなんじゃ?!コレラか?!ペストか?!チフスか?!天然痘か?」

医者「かかかか、風邪です。」

シオン「嘘をつくでない!!!!エヴォラ熱か?!結核か?!白血病か?!それとも細菌か!!」

医者「ででででででで、ですから、風邪です、風邪ーーー!。薬飲んで寝てれば治りますーーー!」

アルデバランはすっかり怯えきっている医者をシオンから引き剥がすと、医者をリビングに連れ出し何度も謝罪する。そして、薬を貰いに医者と一緒に病院へと戻っていった。

医者が帰った後も、ムウの頬を何度も撫でながら、ヨヨヨヨヨと泣きつづけるシオンに貴鬼は呆れて、絞ったタオルを差し出す。

シオン「ん?気が利くのぅ。」

そのタオルで鼻をかもうとしたシオンの髪を貴鬼は小さな手で引っ張る。

貴鬼「それはムウさまの!!。シオンさま、そこでワンワン泣いてるんだったら、ムウさまの体拭いてあげてよ。」

シオン「お、おお・・・そうであるか。」

貴鬼「まったく、ほんっと、シオンさまは役立たずだな!!!おいらは水瓶のオジサンから氷もらってくるから、シオンさまは何もしないんだったら、さっさとお仕事いっちゃってよ!!」

シオン「馬鹿者!ムウを一人にできる分けなかろう!余がいなければムウが悲しむではないか!。おうおう、ムウよ。今、余が汗を拭いてやるからのぅ。」

肩を上下させながら、苦しそうに息をするムウの額や寝間着の胸元には、うっすらと汗が浮かんでいる。シオンはムウの寝間着のボタンを外すと、貴鬼から渡されたタオルでそっと汗を拭った。

 

獅子宮で朝食をとり終わったアイオロスは、執務当番の弟と教皇が出勤してくるのを待っていると、氷の入った洗面器を持ったカミュと貴鬼が十二宮の階段を駆けおりてきたのを見て首をかしげた。

アイオロス「おい、どうした貴鬼?」

貴鬼「あ、射手座のおじさん。ムウさまが風邪ひいちゃったんだ。」

アイオロス「またまたまたぁ〜〜〜。ムウが風邪なんてひくはずないだろう。」

アイオリア「食べすぎじゃないのか??」

貴鬼「本当だって!お医者さんが風邪だっていってたもん!!」

カミュ「最近の風邪は聖闘士でもひくみたいだな。」

アイオロス「ふーん・・・じゃぁ、教皇は今日は仕事休みだな。」

アイオリア「何で?風邪を引いてるのはムウだろう、兄さん?。」

アイオロス「どーせ、教皇のことだ、『余が看病するのじゃ!!』とかいって、ムウにぴったりくっついてるだろうよ。」

貴鬼「あのさー、シオンさまビービー泣いてうるさいんだよ。教皇の間に連れて行ってもらえないかなー?。あれじゃあ、ムウさまゆっくり寝てられないよ。」

アイオロス「はいはい、まったく仕方ない教皇だな。」

アイオリアとアイオロスは肩をすくめて苦笑いすると、突然アイオロスの小宇宙にSOSが届いた。

アルデバラン『助けてください!アイオロス!』

アイオロス『私の小宇宙に直接語りかけるのは、牡羊座のアルデバランか?』

アルデバラン『お約束はいいですから、助けてください。ムウが教皇に殺されます!!』

アイオロス『殺される?看病してるんじゃないのか??』

アルデバラン『とにかく手を貸してください!!』

一方的にたたれた小宇宙に危機を察したアイオロスは、アイオリアとカミュをつれて、光速で階段を駆け下りた。

 

病院から薬を貰って帰ってきたアルデバランは、目の前の光景に絶句した。ベッドの上でシオンに跨っているのは、他ならぬムウである。今にも崩れ落ちそうな白い裸体をシオンに抱えられ、ムウはぐったりとしながら、シオンの腰の動きに合わせて体を震わせ、咳き込んでいた。

アルデバラン「や!やめてください!!教皇!!!ムウが死にます!!やめてください!!」

いつもはシオンに畏怖しているアルデバランであるが、今日に限っては事情が異なる。小宇宙を燃やしてムウをシオンの股間から引き抜こうと、ムウの肩を掴むが、瞬時にシオンの超能力で吹き飛ばされる。壁に巨体をぶつけることなく体勢を整え着地すると、アルデバランはシオンめがけて突進した。

しかし、シオンはびくともせず、アルデバランを跳ね返す。このままでは本当にムウが死ぬと思ったアルデバランは、シオンに臆することのない人物、アイオロスに助けを求めたのだった。

アルデバランの救援要請に駆け込んできたアイオロスとアイオリア、カミュは、あまりにもあんまりな光景に頬を引きつらせた。

アルデバランが、シオンから全裸のムウを引きはなそうとしているのである。アイオリアは吹き出しそうになる鼻血を咄嗟に押さえ、カミュは元気になってしまった股間を押さえてしゃがみこむ。

アイオロス「教皇!!何やってるんですかぁぁぁ!!」

シオン「おお、アイオロスよ。よいところにきたのぅ。牛が邪魔なのじゃ。どっかに捨てて参れ。」

アルデバラン「教皇!ムウが死んでしまいます!どうかお慈悲を!!」

シオン「はなせ!!これは余のものじゃ!!」

アイオロス「教皇、いいかげんにして下さい!!!アイオリア、カミュ!アテナエクスクラメーションだ!!」

シオン「なんじゃと?禁じ手を安易に使うでない!」

アイオロス「いくぞ、お前達!!!!!」

アイオロスがシオンの胴に飛びかかると、すかさずアイオリアとカミュがシオンの腕を掴みあげる。そしてシオンがひるんだ瞬間、アルデバランは全小宇宙を燃やして、ムウをシオンの股間から引き抜いた。

シオン「おのれ!余を騙したな!!」

アイオロス「騙すも何も、何やってるんですか教皇!!!」

鼓膜が破けんばかりの大声で怒鳴られ、シオンは不機嫌そうに眉根を寄せる。

シオン「ムウの体を拭いてやっていたらのぅ、ハァハァと息を切らして可愛ゆかったのじゃ。でのぅ、ついついついズボっと挿してしもうたのじゃ。ムウはかわゆいのぅ。」

アイオロス「ついつい挿していいものといけないものがあるでしょう!!何考えてるんですか!!!!」

まったく悪びれたふうもないシオンに、アイオロスは呆れて再び怒鳴る。そしてアイオリアに目で合図すると、二人でシオンの両腕を掴み、ベッドから引き摺り下ろした。

アイオロス「さ、教皇。もう執務の時間ですから、教皇の間に行きましょう!!」

シオン「放せ!無礼者!余はムウの看病をするのじゃ!!」

アイオロス「看病じゃなくて淫行するんでしょう!風邪なんて寝てれば治るんですよ!!!さ、仕事です!仕事!!!カミュ、教皇の脚を凍らせろ!!このまま連れてゆくぞ!!」

カミュ「あ、はい!」

カミュはシオンの両足を掴んで一気に凍らせるとそのまま両脇にかかえる。こうしてシオンは三人に持ち上げられてようやく出勤していった。


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