俺の仕事(完結編その1)

 

教皇の間を出たカノンは、まだ少しズキズキとする尻の痛みを我慢し、双魚宮へと駆け込んだ。
もちろん、アフロディーテをひっ捕まえてシオンの前に引きずりだすためだ。

しかし、双魚宮は不気味なほど静かで、その主の姿はなかった。
何を思ったか、カノンは突然ギャラクシアンエクスプロージョンを放ち、アフロディーテ自慢の薔薇園を破壊した。
技を放ち力んだ瞬間、尻に激痛が走り、カノンは痛みに顔を歪めた。

「ちくしょう、あのオカマ野郎。ぶっ殺してやる!!」

男に掘られたショックは、どんどん増してくる怒りにかき消されていった。

宝瓶宮を通り抜けようとしたカノンは、珍しくカミュに声をかけられて立ち止まる。

「何かあったのですか?先ほど、アフロディーテが血相を変えて下りていったが・・・。」

カミュは、そう言いかけて眉をひそめた。カミュの言葉に、カノンの表情がみるみる怒りに満ちていったからだ。
カノンはカミュを無視して、尻の痛みを我慢しながら走った。

何か悪い予感がする。この胸騒ぎは何なのだろうか・・・・。
間の抜けた兄にくらべて、勘のいい弟はとてつもない不安に襲われた。もちろん、それと同時に尻も痛みに襲われる。

先ほどからサガの小宇宙をまったく感じなくなったのは、やはり気のせいではない。カミュの言葉に更に確信を強めたカノンは、光速で双児宮へ戻り、兄を呼んだ。

「兄貴ぃーーーーーーーー!」

そう言いながら、リビングに駆け込んだカノンは凍りついた。

タバコの煙がもうもうと充満しているリビングには、シュラとデスマスク、アフロディーテがいた。

アフロディーテが椅子代わりに腰を掛けているのは、兄によく似た男であった。
その男の目は激しく充血し、髪は灰色で、邪悪な小宇宙を放っている。
男がカノンを見て、いやらしく唇の端を吊り上げた。

カノンは背筋を凍らせた。
思い出したのだ、たった3日前にこの男に双魚宮であったことを。
以前にも数回、ベッドの中、酒場、風呂の中で見たことはあったが、意識がはっきりしている中、この男をマジマジと見るのは初めてだった。

これが、黒い兄貴・・・・・?

 

数時間前。

自慢の薔薇園で朝食を取っていたアフロディーテは、サガのように鬱に入ったカノンが自宮を通り抜けたのを目撃して、ギョっとなった。
もしかすると、あのことを教皇にチクられるのでは・・・。

焦ったアフロディーテは、血相を変えて自宮を飛び出した。途中、カミュや数人の仲間たちに声を掛けられたのにも気が付かない。

アフロディーテは勝手に双児宮へと入ると、サガの名前を呼ぶ。返事はなかった。
アフロディーテは、リビングにかけ込むと、首吊り自殺をしかけているサガを発見した。アフロディーテに気がついて顔をあげたサガの顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れている。サガは、数日前にカノンの腰にヒーリングを施した時から、自分の行動に気付き始めていた。

「しまった。感づかれたか!!」

そう感じたアフロディーテは、有無も言わせずサガをその場に押し倒し、ディープキスをする。
程なくして、アフロディーテの目論見は成功し、双児宮に馬鹿笑いが響き渡った。

サガ(黒)は、デスマスク、シュラを召集すると、リビングで現金をかけたポーカーを始める。

そして、とうとうカノンが現れたのだ。

 

「愚弟。帰ってくるのが遅い!」

サガ(黒)は乱暴にアフロディーテを膝の上からどけると、立ち上がりカノンに歩み寄った。カノンは咄嗟に身構えるが、その異様で威圧的な小宇宙に圧倒され動けない。冷や汗が背筋を通り抜ける。

サガ(黒)の光速の拳がカノンの鳩尾に放たれた。

サガ(黒)が突然繰り出した拳を見切れなかったカノンは、吹き飛ばされて壁に激突しズルズルと床に崩れ落ちる。激突のショックは、カノンから尻の痛みを忘れさせた。

「あ・・・兄貴・・・・。」

「誰に口をきいている。お兄様だろう!?」

サガ(黒)は苦痛に顔を歪めるカノンの胸倉掴んで、その唇をカノンの唇へと重ねた。カノンの口腔を乱暴に侵していたサガ(黒)が眉をひそめた途端、カノンの身体は再び宙を舞い、廊下の端まで吹き飛び、尻から落ちた。
カノンは尻に走った激痛にうめき声をあげ、唇についたサガ(黒)の血を腕で拭った。

カノンに舌をかまれたサガ(黒)は、口腔内に溜まった血を吐き出し、大した距離もない廊下を光速で走りカノンの胸倉を再び掴んだ。
苦痛に顔を歪めたカノンは、双眸に怒りを湛えてサガ(黒)を睨みつける。

「ふんっ。随分と威勢がいいな。しかし、いつまでもつかな?」

サガ(黒)はカノンの顔を引き寄せると、唇を吊り上げた笑った。その途端、カノンが悲鳴をあげる。サガ(黒)が空いている方の手で、カノンの痛む尻を押し広げている。

「ふっ、やはり痛むか。」

サガ(黒)のカノンの尻を掴む手に力がこもる。カノンは、壮絶な悲鳴を上げながら、身体をはなそうともがくが、尻に走る痛みがそれを困難にさせていた。

 

サガの小宇宙が感じられない・・・・。

自宮で筋トレをしていたアイオロスは、動きを止めた。
サガのことが気がかりで仕方ないアイオロスは、出来るだけ双児宮に顔を出すようにしていた。今日も筋トレを終えた後に、双児宮へと行こうと思っていたところである。
アイオロスは乱れた息を整えると、目を瞑り精神を統一する。

サガがいるであろう双児宮へ意識を飛ばすが、サガの小宇宙を見つけることができない。

「サガ・・・。」

双児宮から、今度は聖域一体に意識を飛ばす。

─────── アイオロス・・・カノンを・・・・───────

アイオロスの小宇宙に微弱ながらサガの小宇宙が答えたのは気のせいだろうか。
アイオロスは、カッと瞳を開くと、急いで双児宮へと向かった。嫌な予感がする。僅かに数秒しか感じられなかったサガの小宇宙に、アイオロスの不安は募る。

 

「サガァーーーーーーーーーーーーー、サガ、サガ、サガ、サガ、サガぁーーーー!」

アイオロスは、叫びながら双児宮の私室のドアを開け放った。
カノンの尻を掴んでいるサガ(黒)と目が合った。その瞬間、アナザーディメンションがアイオロスを襲い、彼は異次元へと飛ばされた。

「・・・・や・・・役立たず・・・・。」

サガ(黒)の足元で尻を抱えて、蹲っていたカノンは、速攻で異次元に飛ばされたアイオロスを見て呟いた。目の前にあったサガ(黒)の脚が動くと、カノンの鳩尾を蹴り上げ、カノンは激痛にのたうち回る。

「そういうお前はどれくらい役に立つと言うのだ?アレに悪を植え付け、私を呼び出したお前だ。さぞかし、他にももっと役に立つのだろうな。たとえば、その尻とか・・・・・。」

サガ(黒)のつま先がカノンの尻に食い込むと、カノンは声にならない悲鳴を上げて悶えた。
今現在のカノンの急所を的確に捉えたサガ(黒)の攻めに、カノンは成す術もなかった。

サガ(黒)は、カノンの長い髪を乱暴に掴むと、カノンを引きずって寝室へと向かった。
カノンは頭に走る激痛と、引きずられる衝撃から痛む尻に悲鳴を上げる。

サガ(黒)は寝室へと入ると、カノンの髪の毛を掴んだ手を持ち上げ、邪悪な笑みを浮かべる。そして、カノンの腹を一気に蹴り上げると、身体をくの字に曲げたカノンは天井へと叩きつけられ、ベッドの上に落下した。
サガ(黒)の手に、カノンの青銀の髪の束が残ったが、カノンは、自分の頭に禿げができたらどうしよう、などという心配をしている状態ではなかった。兎にも角にも、心配するのは尻のことである。

しかし、心配しても今更どうにもならなかった。
うつ伏せに倒れたカノンは、体制を立て直す暇もなく、ズボンとトランクスを中途半端に引き下ろされ、腰を抱かれた。

サガ(黒)の熱く滾るモノが一気にカノンの尻を貫く。

「ぎゃぁぁぁーーーーーーーーーーーー!」

断末魔の悲鳴が双児宮内に響き渡った。

 


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