子羊といっしょ3(カニさんの初恋 その1)

 

五老峰から修行を終えて帰ってきた6歳になるデスマスクは、教皇の執務室へと向かった。

デスマスク「失礼します。デスマスク、ただいま五老峰から帰ってまいりました!!」

大瀧の爆音+老人の相手の生活がしばらく続いたため、デスマスクは普通に喋っても巨大な声を発するようになっていた。

シオン「蟹よ。久しいのう。して、積尸気はでるようになったのか?」

デスマスク「・・・・・・・・。」

デスマスクはシオンの膝の上に座ってピクリとも動かないムウに気が付いた。

デスマスク「(あ!五老峰であったあの子だ!!)」

シオン「蟹よ。聞いておるのか?」

デスマスク「あっ、はい!バッチリなんとなくちょびっと出るようになりました。」

シオン「そうか、そうか。では、これからも精進いたすのだぞ。」

デスマスク「はい。」

シオン「どうした、蟹よ?もう下がってよいぞ。」

シオンは、自分の言葉に動く気配のないデスマスクの視線が、膝元を凝視するのに気が付いた。

シオン「これは、余の弟子のムウである。よしなに頼むぞ。」

シオンがムウの小さな薄紫色の頭を優しくなでると、先ほどから無表情でまったく微動だにしなかったムウが、デスマスクを見て微笑んだ。

ムウ「かにさん、よろしくね。」

デスマスク「(・・・・・・・かっ、かわいい・・・。)」

デスマスクの瞳が輝き、頬が紅潮する。

シオン「もうよいぞ、蟹。」

デスマスクは後ろ髪を引かれながら執務室を後にした。

 

ある日、闘技場でデスマスクとシュラが組み手をしていると、小さいムウを抱えたアイオロスが現れた。

シュラ「その子どうしたの?」

アイオロス「ああ、教皇に預かってくれって言われてな。ムウっていうんだ。」

アイオロスはそういうと、闘技場のベンチにムウを座らせて2人の指導にあたった。

デスマスクは闘技場の真ん中でムウを凝視したまま動かない。

アイオロス「おい、デスマスク。ぼけっとしてないで身体を動かせ!!」

デスマスク「う、うん。」

シュラ「どうしたんだ、デスマスク?」

デスマスク「あの子、すげー可愛いと思わない。」

シュラ「なに、あの子がすきなのか?」

デスマスクは首がもぎ取れそうなくらい頷いた。

シュラ「アイオロスーー。こいつ、ムウのことが好きなんだってぇ!」

アイオロス「なんだ、そうなのか?だったらムウにいい所を見せてやれ!!」

アイオロスはそういってデスマスクの頭を乱暴に撫でた。

しかし、その行動にアイオロスはすぐに後悔した。なぜならば、闘技場にやたらめったらデカイ、デスマスクの声が響き渡ったからだ。
声だけは張り切っているが、中身は全く伴っていなかった。

 

デスマスクは、ムウに会う為に、用も無いのに教皇の執務室へ向かった。

シオン「蟹、何か用か?」

デスマスク「いえ、特に・・・・。」

シオン「では、下がれ。仕事の邪魔じゃ。」

デスマスク「それはちょっと・・・・。」

シオン「用があるならはっきり申せ!」

デスマスク「今日はいい天気だなぁ、と思いまして。」

シオン「おぬしは、天気がいいと申しにここに参ったのか?」

デスマスク「はははっ、そういう訳ではないのですが・・・・失礼します。」

取りあえずムウの顔を見たデスマスクは、渋々と退散した。

デスマスクは、今日は天気が悪いだとか、珍しい花が咲いていただとか適当な理由をつけては執務室に通っていた。

 

とうとうデスマスクは、教皇が不在の隙を見計らい執務室へと忍び込んだ。

執務室の大きな窓のそばにある椅子に、いつも腰を掛けているムウであったが、今日に限ってそこにはいなかったのである。

デスマスクは、執務室をでると近くにいた神官にムウの居場所を尋ねた。
ムウは、教皇の寝室でお昼寝中ということだった。

恐れ多くも、デスマスクは教皇の寝室へと忍び込んでしまった。

そして、巨大なベッドの上にムウはいた。デスマスクはベッドによじ登ると、まったく寝息もたてないで寝るムウの頬にキスをする。

ムウはパチリと目を開くと、上体を起こした。

デスマスク「ムウ。君はとっても可愛い!!」

デスマスクがパチンと指を鳴らすと、その手に、手品のごとく一厘の薔薇が現れた。

デスマスクは薔薇を渡すと、ムウの白い小さな手を取り、手の甲にキスをして言った。

デスマスク「大きくなったら僕のお嫁さんになってください!」

小麦色の肌に、つりあがった眉毛の下の大きな瞳は真剣そのものだ。

しかし、ムウはキョトンとした顔でデスマスクを見つめていた。

寝室のドアが開くと、デスマスクは慌ててカーテンの後ろに隠れた。シオンが戻ってきたのだ。

シオン「蟹よ、そこで何をしておる?」

カーテンをめくられ、あっけなく見つかったデスマスクは愛想笑いを浮かべた。もちろん、カーテンと床の数センチあいた隙間から、デスマスクの足が見えていた為に、すぐに見つかったのだ。

シオン「ムウ、蟹となにをしておったのだ?」

ムウ「あのね、ポンってお花がでたの。ムウはかにさんのおよめさんになるの?」

シオン「ほうほう。蟹よ、ムウにプロポーズでもしおったのか?ムウは男であるぞ?」

デスマスク「え?」

デスマスクは己の耳を疑った。こんなに可愛い子が男であるはずがない。

シオン「まぁ、よい。蟹よ、余が不在の時に寝室に忍び込んだ罪は重いぞ。」

首根っこをつかまれ、ベッドに投げ飛ばされたデスマスクは、本能的に身の危険を感じ、悲鳴をあげた。


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