子羊といっしょ(かにさんと積尸気冥界波 その1)

 

6歳になったデスマスクは、教皇の厚意により、高名な五老峰の老師のもとで修行していた。

そんなある日、デスマスクが積尸気冥界波の練習をしていると、教皇が突然現れ、その手に抱いていた幼いムウを、老師に預けて去っていった。
老師の横にちまっと座った薄紫の髪の子供は、無表情で、不気味なほど全く動かない。デスマスクは人形のようなムウを不思議そうに凝視した。

老師「デスマスクよ、手が止まっておるぞ。」

デスマスク「あ、すみません!」

初めて見る子供に気を取られていた、デスマスクは再び積尸気冥界波の練習をはじめた。

デスマスク「せきしき!!!」

右手の人差し指を高々とあげ、そして顔を横切るようにして左へと振る。しかし、積尸気は現れなかった。

老師「よいか、デスマスクよ。積尸気が現れたら、『冥界波!』とゆうのだぞ。『積尸気冥界波!』と全部叫んで、積尸気が出なかったら、みっともないからのぅ。」

デスマスク「はい!老師!!・・・・・・せきしき!!!」

デスマスクは再び右手を振った。やはり積尸気は現れない。

老師「気合が足りんのじゃ、気合が。もっと気合を入れぬか。」

デスマスク「はい、老師!ハァァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜。」

老師から習ったとおり、デスマスクは息を吐きながら腹に気合をためる。

デスマスク「ハァァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

デスマスク「ハァァァァァ〜〜〜〜〜」

デスマスク「ハァァ・・・・・・」

吐く息がなくなるまで吐いたデスマスクは、顔を真っ青にしてその場に倒れた。

老師「うむ。なかなか面白いギャグであったぞ。」

デスマスク「あ・・・ありがとうございます!」

肩で息をしながら、デスマスクは倒れこんだまま老師にVサインを返した。
立ちあがると呼吸を整え、再び積尸気冥界波の練習に戻る。
こうして積尸気が出ないまま、デスマスクは積尸気冥界波の素振りを1万本続けた。

デスマスク「せきしき!!!!」

老師「なかなか出ぬのぅ・・・。」

デスマスク「はぁぁぁぁぁ・・・・・・・せきしき!」

老師「・・・・・出ておらぬ。」

ムウ「せきちき!」

今まで瞬き一つせずに静止していたムウが、老師の隣で座ったまま、デスマスクの真似をして、小さな指を顔の前で払った。

ムウ「ろーしさま、でた!でた!」

老師「なんじゃ、ムウ?ちっこか?」

ムウ「ちがう、ちがう、せきちき!」

ムウは紫色の大きな瞳を輝かし、自分の頭上を一所懸命に老師に指し示す。
デスマスクはムウの頭上の空間が大きく歪曲しているのを見て絶句した。

老師「ムウよ、それは積尸気ではないのぅ。」

ムウ「せきちきじゃないの?」

老師「積尸気はあの世への入り口じゃ。」

ムウ「はーーーい。」

まさかこんなチビが、自分すら習得できていないのに、見よう見真似で積尸気を開いてしまうとは!。
デスマスクは自分の人差し指をじっと眺めた。

デスマスク「せきちき!」

老師「・・・・・デスマスクよ、ムウが出したのは積尸気ではないぞ。真似をしても無駄じゃ。」

デスマスク「やっぱり駄目ですよね・・・・あはは。」

デスマスクは笑ってごまかすと、気を取り直して積尸気冥界波の素振りに戻った。

 

デスマスク「せきしき!!」

老師「・・・・・。」

デスマスク「せーーーーーきしき!」

老師「・・・・・だめじゃ。」

デスマスク「せきーーーーーーしき!!!」

老師「・・・出ておらん。」

デスマスクは日焼けした顔に汗を浮かべながら、右手と左手の人差し指を見比べると、今度は左手をあげてみた。

デスマスク「せきしき!」

左手を振ってみたが、やはり積尸気は現れなかった。

老師「うーむ・・・何がいかんのかのぅ。」

デスマスク「・・・俺は聖闘士としての才能がないのかもしれません。」

老師「何をゆうておる。お前は道さえ踏み外さなければ、立派な聖闘士になるであろう。がんばるのじゃ。」

デスマスク「はい!!!ありがとうございます!」

老師に励まされたデスマスクは、再び右手で積尸気冥界波の素振りをはじめる。
このときデスマスクは17年後、案の定道を踏み外すなど、知る由もなかった。


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