子羊といっしょ(ライオンさんと必殺技 その1)

 

アイオロスが4歳になる弟の手をひいて闘技場に現れたのを見て、サガは微笑んだ。

サガ「今日はアイオリアも一緒なのか?」

アイオリアはサガと目が合うと、アイオロスの脚にしがみついて後ろに隠れる。人見知りの激しいアイオリアに、サガが困って苦笑いを浮かべていると、アイオロスは弟の首根っこをつかんで、サガの前に引きずり出した。

アイオロス「おい、アイオリア。きちんと挨拶できない子は、立派な聖闘士になれねぇって、兄ちゃんいつも言ってるだろう!。サガに挨拶するんだ!」

サガは泣きそうな顔で兄を見上げているアイオリアの視線まで腰をおろすと、アイオリアの頭をなでた。

サガ「こんにちは、アイオリア。また大きくなったね。」

アイオリア「・・・・・こんにちは。」

モジモジしながら小さな声で挨拶すると、アイオリアはまたすぐアイオロスの後ろに隠れた。

アイオロスは弟の態度にため息をつくと、振り返って言い聞かせた。

アイオロス「いいか、アイオリア。兄ちゃんたちはこれから修行なんだ。だから、そこで大人しく座ってろ。」

アイオリア「にいちゃんといっしょがいい。」

アイオリアは脚にしがみついて、いやいやと首を振る。

アイオロス「お前怪我するぞ。」

アイオリア「やだやだやだ!にいちゃんといっしょがいい!」

アイオロス「わがまま言うんじゃない!」

叱咤されたアイオリアは大きな瞳に涙をため、口をへの字に曲げて兄を見上げた。

サガ「アイオリアはまだ小さいんだ。一人にさせるのはどうかと思うが・・・。お前のご両親は、アイオリアが一人になってしまうからお前に預けたんだろう?」

アイオロス「それはそうだが・・・・。」

腕を組んでしばらく悩むと、アイオロスは指をパチンと鳴らしてニヤリと笑った。

アイオロス「あ、まってろ。今、友達連れてきてやるからな。」

そういうと、アイオロスは弟をサガに預けて走り出した。

 

20分後

アイオロス「へへへ。教皇からムウ借りてきた。」

アイオロスはアイオリアと同じ歳ほどの子供を抱きかかえて、突然闘技場に姿をあらわした。

念動力で教皇に闘技場まで飛ばしてもらったのである。

抱きかかえていた、4歳になるムウを闘技場のベンチに下ろすと、アイオロスはムウの隣に座った弟の頭を撫でて言い聞かせた。

アイオロス「ほら、アイオリア。ムウと一緒なら寂しくないだろう。だから、ここで大人しくしていろよ。」

それでもアイオリアはやはり寂しいのか、泣きそうな顔でアイオロスを見上げる。

アイオロス「返事は?」

アイオリア「・・・・・はい。」

弟の渋々とした返事を聞くと、アイオロスはサガの手をひいて闘技場の中央まで行き、組手をはじめた。

 

しばらくすると、闘技場にアイオリアの泣き声が響いた。

サガとアイオロスは拳をおさめて、慌ててベンチへ駆け寄り、泣きじゃくる弟をアイオロスは抱き上げてあやした。

アイオロス「どうした、アイオリア?」

アイオリア「えーーーん、えーーーん・・・・ムウがこわれちゃった。」

アイオロス「壊れた?壊れるわけないだろう、ムウは人間だぞ。」

アイオリア「だって、だって・・・ぜんぜんうごかないんだもん。」

サガ「ムウ、どうしたんだ??」

サガはベンチの前で腰を落とし、陶器で出来た人形のように、不気味なまでにまったく動かないムウに声をかけた。

ムウ「ちゃんと、おとなしくしてたよ?」

伏せ目がちの瞼がパチリと開いて、ムウはサガに答える。

サガとアイオロスはいつもムウがピクリとも動かず、教皇の執務室の隅に置かれた椅子に座っていることを思い出し、頭を横に振った。

アイオロス「ムウ、大人しくしてなくていいからな。アイオリアと遊んでやってくれ。」

ムウ「はーい。」

アイオロス「アイオリア、これでムウは動く、大丈夫だ。」

泣き止んだ弟を下ろすと、アイオロスは再びサガと闘技場の中央へ戻った。

 

拳を構えていたアイオロスが突然笑い出したのを見て、サガは小首をかしげた。

アイオロス「ぶははは!見てみろよ、サガ!ムウがお前の真似してるぞ。」

サガはアイオロスが指し示す方を見ると、アイオリアとムウが、先ほど座っていたベンチの前で、一所懸命声をあげている。

サガ「ははは、アイオリアもお前の真似をしているじゃないか。」

アイオロス「『ぎゃらくしゃんえくすぷろーしょん!』だってよ!発音が悪いところまでそっくりだな。」

サガ「そういうアイオリアだって、さっきから『アトミック!』としか言ってないぞ。トロくて最後まで言わせてもらえないのをよく見ているんだな。」

アイオロス「・・・・・・。」

サガ「あ、ムウが何か出したぞ?!」

ムウが頭上で両手を交差させ、サガと同じようにギャラクシアンエクスプロージョンの構えをとった、その手のひらから、瞬く星明りがうまれた。そしてその星明りが、流星のようにアイオリアに向かって飛んでゆく。

一所懸命「アトミック!」と唱えて、アイオロスのアトミックプラズマを出そうとしているアイオリアは、ムウが飛ばした星明りに気づかず、流星を全身に浴びて吹っ飛ばされた。

二人はムウとアイオリアの元に駆け寄った。

サガ「何をしたんだ?!ムウ?!」

ムウ「サガごっこしてるの。」

サガ「は????」

ムウ「おほしさまがキラキラひかって、アイオロスがどーーんって、とんでくのー!」

紫色の大きな瞳を輝かせ、ジェスチャーつきで自分に一所懸命説明するムウに、サガは呆然とした。

サガはムウが赤ん坊の頃から教皇に連れられて、自分とアイオロスの修行をいつも見ていた事を知っていたが、みようみまねで技を出されるとは思いもしなかった。

サガ「ムウ・・・それは、ギャラクシアンエクスプロージョンではないぞ。」

ムウ「ちがうの?」

サガ「ああ、違うぞ。サガごっこは危ないからやめなさい。」

ムウ「はーーい。」

サガはムウの藤紫の柔らかい髪をなでると、ため息をついた。

一方アイオロスは、埃だらけで大泣きしている弟に説教していた。

アイオロス「おい、アイオリア!男なら泣くな!にいちゃんは吹っ飛ばされても泣かないだろう!」

アイオリア「エグエグ・・・・だって、だって。」

アイオロス「やられたらやりかえせ!!でなきゃ、兄ちゃんの弟として認めん!」

怒鳴られたアイオリアは手の甲で涙を拭うと、鼻を啜りながら頷いて、ムウの元に走っていった。

 


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