白羊家の食卓7(こたつみかん その1)

 

太陽と神話の国ギリシアにも冬は来る。特に山岳地帯の聖域は雪が降るほどに寒い。

カシミアのショールを身に纏い、シオンは貴鬼に手招きするとそのまま膝の上に座らせ、抱きかかえた。

シオン「子供はあったかいのぅ〜〜〜。」

貴鬼「シオンさま、寒いの?」

シオン「冬じゃからのぅ。」

貴鬼「おいら暑いけどなぁ。ジャミールじゃ、こんなの寒いうちに入らないよ。」

シオン「余は寒いのが嫌いなのじゃ。」

台所から出てきたムウは、シオンが膝の上に貴鬼を乗せて震えているのを見て顔を青くした。そして光速でシオンに駆け寄り、貴鬼を引き剥がす。

ムウ「シオンさま!!!私がお相手しますから、どうかどうかどーーーーーーーーーーーーーーーか貴鬼だけはご勘弁を!!!」

貴鬼を胸元に隠して土下座するムウにシオンは目を点にした。ムウにはシオンが貴鬼に淫行を働いているように見えたのである。

シオン「ムウや、何をゆうておる。貴鬼を返せ!」

ムウ「出来ません!貴鬼だけは、貴鬼だけはお許しください!!!」

シオン「返せ!寒いのじゃ。」

ムウ「なりません!!!」

シオン「寒いと言っておるだろう!!は・・・・・へ・・・・ヘブシッ!」

貴鬼「おいら、シオンさまにエッチなことされてないよ、ムウさま。」

胸の下で貴鬼がそういうと、ムウは顔を上げて小首をかしげた。

シオン「寒いとゆうておるであろう。子供はあったかいのじゃ。」

ムウ「・・・・シオンさま、まだ雪も降っておりませんが。」

シオン「寒いものは寒いのじゃ。お前たち、その季節感のない服はやめい!」

ムウと貴鬼はいつもどおりの一張羅、ジャミール服とボロ着である。氷点下40度をも下るジャミールに比べれば、聖域の冬など冬のうちにはいらない。

シオン「貴鬼よ、先に余のベッドに入ってのぅ、布団を暖めておけ。」

ムウ「絶対駄目です!。そのまま貴鬼に卑猥なことをするつもりでしょう!」

シオン「あんな冷たい布団に入ったら心臓麻痺で死んでしまうわ!お前は余に死ねというのか!」

その通り!とムウは心の中で答えたが、そんな事を口に出来るはずもなく、シオンを睨みつけた。

シオン「ほうほう、貴鬼が出来ぬとゆうのなら、そなたでもよいのだぞ、ムウよ。裸でのぅ、余の布団を暖めておくのじゃ、よいな。」

満面にヤラシイ笑みを浮かべ見下ろすシオンと、屈辱に震えるムウの間でアバアバしていた貴鬼は、二人の顔色を伺いながら、シオンにおどおどと進言した。

貴鬼「シオンさまぁ、そんなに寒いなら沙織さんにお願いしてみたら?。女神の力で暖かくしてくれるかもよ。」

シオン「ふむ・・・それもよいのぅ。」

ショールを首に巻きつけ銀色のまつげを閉じると、シオンは日本に向かって何やら怪しい祈祷を始めたのだった。

 

数日後

シオンに呼び出されたシュラは、神官に混ざって白羊宮で日曜大工を手伝わされていた。脚のない椅子を作れだの、テーブルの脚を高くしろ、床に穴を掘れなどと、必殺の聖剣エクスかリバーを思いっきり私用でシオンの命じるまま振りかざしている。
シオンの意図することがわからず、ただ命令のままに大理石を切り落としていたシュラは、完成したものを見て、感嘆の声を上げた。脚の短い机には、テーブルクロスの代わりに布団がかかっている。

シオン「ほうほう、これはあったかいのぅ。」

シオンは早速居間に穴を掘って設置した掘りごたつに足を入れた。シュラお手製の豪華な大理石座椅子つきである。

シュラ「これはどうしたんですか?」

シオン「これはのぅ、『KOTATSU』とゆうのじゃ。ちと女神に祈ったらのぅ、日本から届いたのじゃ。」

寒い寒いと毎日シオンが日本に向けて小宇宙を送るので、沙織が日本から聖域に届けさせたのである。しかし日本人サイズのコタツが巨体の聖闘士にあうはずもなく、シオンは快適な掘りごたつに改造させたのであった。

6人がけの大きなコタツにふんぞり返って座ったシオンはテレビのスイッチを入れると、時代劇を見ながら満足そうに頷いた。

 

執務から帰ってきたシオンは、ご愛用のコタツで巨大な男たちが鍋をフォークでつついているのを見て、ない眉をひそめた。白羊宮の居候たちである。

アイオロス「あ、おかえりなさい、教皇。」

シオン「何をしておる。」

アイオロス「いや、寒いなぁ〜〜〜と思って。NABEです、NABE。ジャパニーズ・ブイヤベーズです。」

シオン「だったら服を着よ!馬鹿者!」

シオンの座椅子に座ったアイオロスはいつもどおり上半身に何も纏わず、見事な筋肉をさらしていた。

アイオロス「そんな細かい事気にしないでくださいよ。何でこんなに寒いんですか、白羊宮?。暖炉の火ぐらい入れてくださいよ。」

シオン「文句があるなら帰れ。」

アルデバラン「そうですよ、ムウは暑いのが嫌いなんですから。」

アイオロス「お前もさっきまで『寒い、寒い』言っていただろう!」

アルデバラン「それは空耳ですよ、はははは!。」

シオン「ほう、牛よ・・・。寒いなら帰れ。」

シオンに睨まれたアルデバランは巨体の背を丸めて目をそらす。コタツの中からもそもそ顔を出したミロは仁王立ちのシオンを見上げて唇を尖らせた。

ミロ「教皇だけずるいっすよ!俺たちだって寒いんですから入ってたっていいじゃないですか!」

シオン「蠍!お前はコタツの中で食事をしておるのか?!」

ミロ「え、そうっすけど。寒いし・・・・。」

ミロは布団を頭までかぶり、床に皿を置いてフォークで肉を突っついている。
シオンのうろたえるな小僧が炸裂することを察したアイオロスは、あわててコンロごと鍋を抱えあげた。

ムウ「シオン様、『うろたえるな小僧』にコタツが耐えられるとは思えませんが。」

ダイニングテーブルにシオンの夕飯を用意していたムウに冷たく言われて、シオンは怒りの小宇宙を何とか抑えてミロの頭に鉄拳を叩き込む。

シオン「きちんと座って食べぬか、馬鹿者!」

アイオロス「教皇、KOTATSUで一緒にNABE食いましょうよ。」

シオン「病人ではあるまいに、余は布団の中で食事など、そんなはしたない真似はせぬ。」

眉間に何本もしわを寄せ、シオンはプイと首を振ると乱暴にダイニングテーブルの席につく。
このコタツに入っている限りシオンの怒りは爆発しないらしい。そう勘違いした居候たちは、再び鍋を囲んでギャーギャー騒ぎ出した。

食事の終わったシオンにアイオロスは座椅子からけり落とされると、しぶしぶ席を譲った。そしてコタツから起き上がったアイオロスに目をむいて驚いたシオンは、布団を勢いよくめくると、軽いめまいを覚える。中から強烈な悪臭が漂ってきたのである。それもそのはず、居候たちはブーツをはいたままコタツに入っていたのだ。

シオン「ばっかもーーーん!!今すぐ風呂で足を洗って来い!!」

シオンが一括すると、居候たちは蜘蛛の子を散らしたようにコタツから飛び出て、風呂場へと走る。ムウはシオンの命令に従い、ファ○リーズをコタツの中に散布した。

風呂から出てくると、コタツの上はすべてきれいに片付けられ、シオンが大理石の座椅子に座り、横にムウをはべらせていた。鍋もビールもすべて台所に下げられている。

アイオロス「ひどい!まだ食ってたのに!」

シオン「だらだらと食っておるからいかんのじゃ。続きが食いたければ台所へ行け。ついでに台所も片付けてこい。」

アイオロス「ムウ、ほら台所片付けてこいよ。旦那と子供が台所で寂しがってるぞ。」

シオン「ムウに旦那などおらぬ!子供もしかりじゃ!!自分で食ったものくらい、自分で洗え。」

いつもなら台所でアルデバランと後片付けをしているムウが、今日に限ってシオンの横にぴったりとくっついて紅茶を入れている。シオンに睨まれてアイオロスは文句を言いながら台所で貴鬼とアルデバランを手伝うことにしたが、ミロはその隙をついて再びコタツに滑り込もうとした。が、シオンがそれを見逃すはずもなく、ミロに光速でテレビのリモコンを投げつける。

シオン「靴をぬげ!土足厳禁じゃ!!!」

ミロはリモコンが激突した頭を摩りながら、器用に手を使わずにブーツを脱ぐと、コタツの中にすっぽりともぐりこみ、髪の毛一本見せずに中に入ってしまった。

ムウは無言でミカンの皮をむき、筋から薄皮まできれいにむき取って中身だけをシオンの口に運ぶ。シオンに尻や背中、太ももを撫でられているのにもかかわらず、鉄拳の一つも繰り出さず耐えている。

台所から居候たちが戻ってきて、コタツの中に入ってもムウを抱き寄せ、ベタベタと触り、キスの嵐をあびせまくるシオンに、ムウは目を閉じと無言でじっと耐え続けた。

しかし、30分もするとシオンの動きが緩慢になりはじめた。コタツですっかり体が温まったシオンはムウの頭を抱えたまま、うつらうつら居眠りをはじめたのである。時間はまだ夜の8時を回ったばかりだ。

シオン「・・・・ムウや、先に余のベッドに入って暖めておけ。」

ムウ「女神から賜った電気毛布で暖まってます、シオンさま。」

シオンが目を覚まさぬようにムウは耳元で、いつもよりさらに小さな声で答える。

ムウ「シオンさま、こんな所でお休みになっては風邪をひかれますよ。」

シオン「・・・・・そうであるのぅ。」

夢現に返事をすると、シオンは座椅子に座ったまま超能力で姿を消した。暖かいベッドに入り夢の中でムウにセクハラの続きを施していることであろう。
ムウはコタツから出ると、アイオロスの横でいびきをかいて寝ている貴鬼を抱きかかえ、寝室へと連れて行った。


Next