ミロたんといっしょ(ミロたんとないしょばなし その1)

 

貴鬼とムウが一緒に天蠍宮を通り過ぎようとしていたので、ミロは何となく声をかけた。

ミロ「おーい、ムウ。」

貴鬼「あ、サソリのおじさんだ!」

ミロ「俺はオジサンじゃねぇぞゴラ!」

ムウ「なんのご用ですか?」

ミロ「用って訳じゃねぇけど。そのボウズってさー、あんたの子供?」

からかい半分の質問らしく、ミロはニヤニヤと笑っていいた。

ムウ「ええ、そうですよ。」

ミロ「・・・・・そうなんだ。」

ムウ「では、失礼します。」

ムウはいつものスカした微笑みをミロに送って、天蠍宮を後にした。

貴鬼「ムウさま、おいらはムウさまの子供なの?」

ムウ「ミロにわざわざ説明しても時間の無駄ですからね。」

貴鬼「大人のウソってやつだね、ムウさま。」

ムウ「そういうことです。」

しかし、ミロはムウが考えている以上に単純に出来ていた。

 

宝瓶宮にミロが駆け込んできたのは、ムウが天蠍宮を去ってからすぐのことであった。

ミロ「カミュ〜〜カミュ〜〜〜。」

カミュ「何だ、おやつはさっき食べただろう。」

ミロ「あのさぁ、貴鬼ってムウの子供なのか?」

カミュ「弟子は子供みたいなものだから。私も氷河を自分の子供のように思っている。氷河がおたふく風邪で寝込んだ時も・・・。」

ミロ「あーー、もういいよ。わかった、わかった。」

カミュの弟子話が始まってしまったので、ミロは慌てて宝瓶宮から逃げ出した。

 

磨羯宮

ミロ「シュラ〜〜いるか?」

シュラ「なんだ、小僧。」

ミロ「聞きたいことがあるんだけどさぁ、ムウのところのガキって、ムウの子供なのか?」

シュラ「はぁぁぁ??あのガキが??」

ミロ「どうよ?」

シュラ「まぁ、似てねぇことはないけどな。眉毛なんかそっくりだし。超能力者だから案外それもありかもな。」

ミロ「そうなんだ。」

シュラ「あんなこぶ付きにアルデバランの奴、よく熱をあげてるよなぁ。」

ミロ「俺も何がいいんだかよくわかんねー。」

シュラ「未婚の母に父性本能がくすぐられたのかもな。」

ミロ「未婚の母・・・・・。」

シュラ「くだらねぇ噂は俺よりデスマスクの方がよく知ってるから、蟹の所に行ったほうがいいぞ。」

 

 

そんなわけで、ミロはデスマスクの元へと向かった。

ミロ「デスマスク〜、ムウについて教えて欲しいんだけどさぁ。」

デスマスク「麻呂眉野郎の事なんざ、知らん。」

ミロ「シュラがデスマスクの方が下らない噂に詳しいって言ってたぞ。」

デスマスク「何だ、そういう事が知りたいなら早く言え。ムウはなぁ、教皇シオンの隠し子なのだ!!。」

ミロ「えええええええええええ?!?!?!?!?!?!?!」

デスマスク「俺がガキのころ、そういう噂があったぞ。」

ミロ「し、知らなかった・・・・・。」

デスマスク「ムウと教皇だけが聖衣を直せるというあたりで、かなり信憑性が高いな。しかも仲良く麻呂眉ときたもんだ。」

ミロ「貴鬼も麻呂眉だぞ。」

デスマスク「以外とムウの隠し子かもな。古い話は俺よりサガの方がよく知ってるだろうから、隣に聞きに行けや。」

ミロ「隠し子・・・・。」

 

 

ミロは噂の真相を確かめに、一つ下の双児宮に足を運んだ。シオンと童虎をぬかせば、サガは黄金聖闘士最年長者である。

ミロ「サガ〜〜〜サガいるか?」

カノン「なんだバカ蠍。」

ミロ「アニキはどこいった、愚弟。」

カノン「しらねーよ。何度も言うが、俺はサガの保護者じゃねぇ。」

ミロ「お前でもいいか。あのさー、貴鬼ってムウの隠し子ってマジ?」

カノン「はぁぁ?お前そんな事もしらねぇのか?」

ミロ「しらねぇから聞いてるんだろうが、ゴラ!。さっさと言わねぇとアンタレスまで一気に打ち込むぞ。」

カノン「・・・いいか、誰にも言うなよ。」

ミロ「わかった。」

カノン「貴鬼はなぁ、教皇シオンがムウに産ませた子供なんだ!。」

ミロ「無茶言うな。」

カノン「ふっ・・・信じられないかもしれんが、これは事実なのだ。13年前、教皇シオンはまだ幼いムウを無理矢理はらませ、それを知ってしまった兄貴は、思い余って教皇を殺してしまい、そのショックで二重人格になり、ついうっかりアテナまで殺そうとしてしまったのだ!!。その後ムウはジャミールに移り住み、一人でコッソリ貴鬼を産んで育てたというわけだ。」

ミロ「貴鬼はどうみても13歳じゃないだろう。」

カノン「それはどうかな。貴鬼はあの妖怪シオンの子供だぞ。」

ミロ「随分俺の知っている事実と違うんだが・・・。」

カノン「まさかムウの口からそんなこと言えるわけないだろう。これが事実なのだ!!サガから聞いたから間違いない!!。そしてこれは絶対に内緒だぞ!!俺の存在が知られちゃいけないことくらい内緒の事なんだぞ!!いいな!。」

突然衝撃的な話を聞いてしまい、ミロはかなり動揺した。13年前の事などほとんど覚えていなかったので、多少年長者であるシュラに話をきこうと、再び磨羯宮に向かった。

 

 

磨羯宮

ミロ「俺はとんでもない話を聞いてしまった!!。」

シュラ「どうした、一体。ムウに子宮でもあったのか?」

ミロ「!!?!いや、まさか・・・・。」

シュラの冗談にミロは笑うどころか、珍しく真剣な顔で話をはじめた。

ミロ「カノンに絶対に内緒だって言われたんだが、どうもウソクサイから喋る。あのな、実は貴鬼はシオン教皇がムウに産ませた子供らしい。」

シュラの目が点どころか粒状になった。

ミロ「どうよ?」

シュラ「・・・・・どうよって。」

ミロ「もし本当だとしたら、これはとんでもないスキャンダルだぞ!!!。こんなことが聖域でまかり通っていいのか?!」

動揺まるだしのミロを見て、シュラは意地悪く口を釣り上げた。

シュラ「だから内緒なんだろう。そういえば、俺もそんな噂を聞いたことがあるぞ。」

もちろん嘘である。

ミロ「マジ?」

シュラ「お前、とんでもないことを知っちまったなぁ。俺は聞かなかったことにしておいてやるから安心しろ。お前も早々に忘れることだな。」

ミロがヨロヨロとした足取りで自宮に戻っていくのを確認すると、シュラは腹を抱えて爆笑した。

 

ビールの空缶やお菓子の空袋、雑誌などで散らかったゴミ溜めのような自宮でミロは頭を抱えていた。もちろん宮殿が汚い事に悩んでいるのではない。動揺しすぎて、シュラとデスマスクとカノンの話をまとめて理解することが出来ないのである。

こんな重大な秘密を一人で抱え込んでは、サガのように髪の色が変わってしまうと思い、ミロは正義感あふれる友人の元へ助けを求めに出かけた。

 

獅子宮ではミロから話を聞かされたアイオリアが、同じく頭を抱えていた。

アイオリア「難しくて話がよくわからん。」

ミロ「だから相談しに来たんじゃねぇか。」

アイオリア「人間関係が複雑すぎる。そうだ、俺たちでも分かるように図を作ってみよう。」

アイオリアはメモ紙にミロの話をおって、関係図を書き始めた。

アイオリア「デスマスクの話だと、ムウはシオン教皇の子供で、カノンの話によると、シオン教皇とムウの間に生まれたのが貴鬼だろう。そしてシュラの話によるとアルデバランと夫婦みたいなもんだから・・・、こんんかかんじか?」

ミロ「おいまて、シオンが二人いるぞ。」

アイオリア「あ、本当だ。すまんすまん。」

アイオリアは紙を裏返し、新たに相関図を書き始めた。

アイオリア「シオン教皇を一人にして、・・・これでどうだ。」

ミロ「・・・・・。何て鬼畜なんだ・・・・。」

アイオリア「こういうのって、ありなのか?」

ミロ「あの妖怪のことだしなぁ、ありかも知れない。すっげぇ悲惨な関係だな。まるでドラマみたいだ。」

アイオリア「アルデバランは知っててムウに惚れ込んでいるのか?」

ミロ「しらねぇってことはないだろうよ。」

アイオリア「だとしたら、滅茶苦茶いい奴だな・・・アルデバラン。男の中の漢だ!」

アイオリアは感動のあまり目に涙を浮かべていたが、ミロはなおも暗い顔で相関図を見ていた。

ミロ「・・・・・でも、教皇が生き返っちまって、もしかして、ムウってサガより可哀想な奴なのかもな。」

アイオリア「だからあんなに性根が曲がっているのか?」

ミロ「そりゃ、実親に孕まされたら性格の一つや二つくらい歪んでもおかしくないだろう。しかも一人で子供育てて・・・・すっげぇ苦労したんだな。」

ミロはスカして偉そうなムウがあまり好きではなかったので、今までムウに冷たく当たってきたのだが、ムウの性格が歪んでいる原因を知った今、そんな自分の態度が恥ずかしくなってきた。

ミロ「・・・俺は今までムウになんて酷い事ばかりしてきたんだ!!いま、俺は猛烈に反省しているぞ。というか、いくらなんでもムウが可哀想すぎる!!。」

青い瞳から滝のように涙を流し、ミロは突然走りだして獅子宮を去っていった。

 

 

ミロは号泣しながら巨蟹宮、双児宮、金牛宮を光速で突っ切り、白羊宮へとなだれ込む。沈着冷静なムウもこれには流石に驚いたようで、クロスを修理していた手が止まった。

ムウ「カミュと喧嘩でもしたのですか?」

ミロの両目からとめどなく流れ落ちる涙に、ムウはかなり引いていた。

ミロ「ムウ・・・・お前、随分苦労したんだな。俺、何にも知らなかったよ・・・。」

ムウ「まぁ、それなりの苦労はしてきましたが・・・。」

ミロがムウの両手を握り締め、更に涙をこぼしながら熱く語る。

ミロ「色々辛いだろうが、これからも頑張って生きるんだぞ!!。俺でよければいつでも力になるからな!!。」

いつもならば「それだけは遠慮しておきましょう。」と答えるムウであるが、ミロのあまりにもすごい涙に、思わず頷いてしまった。

 


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