ミロたんといっしょ(CATS)

 

双児宮

サガが風呂のタイルを磨いていると、アフロディーテが半泣きでやってきた。

アフロディーテ「きいて、サガ……最近ね、ウチにこなくなっちゃったの」

サガ「何がだ?」

アフロディーテ「いつもお昼頃になるとベランダに現れて昼寝してるから、残り物のご飯おいておくとね、全部食べてたのに……」

サガ「……?」

アフロディーテ「私が名前呼ぶと、ゴロゴロって甘えてきたのに……」

サガ「ふむ……随分お前に懐いているんだな」

アフロディーテ「そりゃそうよ!小さいころから私が面倒見てやってたんだから!それがね……最近全然姿を見せないの」

サガ「……まぁ、気まぐれだからな」

アフロディーテ「この間無理矢理ブラッシングしたのがいけなかったのかしらぁ……」

サガ「そうだなぁ、無理矢理では可哀想だな」

アフロディーテ「色んなところでご飯もらってるのは知ってるけど、本当に全然顔出さないのよ!いくらなんでも薄情すぎだわ!もしどっかで野垂れ死んでたらどうしようサガぁぁ……」

サガ「猫は死期が近づくと姿を消すというからな……」

アフロディーテ「は?ネコ?」

サガ「お前のネコが行方不明なのだろう?ネコを飼っていたなんて知らなかったぞ」

アフロディーテ「違う違う、ミロよ、ミロ。ミロたん」

サガ「は?み、ミロ。……ざ、残念だがここにはミロはきていない」

アフロディーテ「ミロ見たら、たまには家に帰るように言っておいてね」

 

白羊宮

宮の裏口を掃除していた貴鬼はアフロディーテに首根っこを掴まれた。

アフロディーテ「ねぇ、ミロたん見なかった?」

貴鬼「ミロたん?」

アフロディーテ「ミロよ、ミロ」

貴鬼「あ、蠍のオジサンならコタツの中だよ。一回入ったらなかなか出てこないんだ」

アフロディーテ「出てこないって?」

貴鬼「蠍のオジサンはコタツの中で生活してるんだよ。覗いてみれば?」

安易に覗くと言っても、ここは白羊宮、ムウの住処である。うっかり機嫌を損ねたらスターライトエクスティンクションでどこか遠くへ飛ばされかねない。

アフロディーテ「……ムウは?」

貴鬼「ムウさまは天秤宮だよ」

アフロディーテ「あっそう。だったら邪魔するわよ」

ムウがいないと聞いて、アフロディーテはいそいそと白羊宮の中へ入っていった。

 

リビングにはギリシアに似つかわしくない大きなこたつが置いてあった。寒がりのシオンが女神から賜ったありがたいこたつである。

アフロディーテ「ミロた〜ん?」

コタツの周囲にミロの姿はない。こたつ布団をめくってアフロディーテは絶句した。

ミロ「……3秒以上開けるんじゃねぇ!」

こたつの中で怒鳴ったのはミロだった。なんと、掘りごたつの中に体を丸めて寝ているのだ。中にいるとはこういうことかと、アフロディーテは頬を引きつらせる。

アフロディーテ「……信じられない。あんた何やってるの!」

ミロ「あ、アフロディーテだ。珍しいじゃん」

アフロディーテ「こんな所で何やってんの?」

ミロ「暖まってるに決まってんじゃん」

アフロディーテ「Kotatsuって脚を中に入れるものじゃないの?なんで中に入ってるの」

ミロ「だって寒いじゃん」

貴鬼「蠍のオジサン、トイレのときしかこたつから出てこないんだよね」

アフロディーテを追いかけてきた貴鬼が呆れてたように言った。

アフロディーテ「え?!ここに寝泊りしてるの?!」

こたつの中から顔を出しミロは肯いた。

ミロ「そう」

アフロディーテ「この中で?」

ミロ「そう。だって帰るのめんどくさいじゃん。この中暖かいしさ〜」

アフロディーテ「……風呂は?」

ミロ「入ってないよ」

アフロディーテ「は?」

ミロ「だって、外出ないんだから汚れてないし〜♪」

アフロディーテ「何日風呂入ってないの?」

ミロ「うーんと……」

貴鬼「6日じゃないの?」

ミロ「多分そのくらい」

アフロディーテ「汚い!!」

ミロ「別にいいじゃん」

アフロディーテ「そういう問題じゃない!今すぐ風呂に入れ!」

ミロ「嫌だよ、めんどくさい」

貴鬼「オジサン、臭いから風呂入りなよ」

貴鬼は鼻をつまんでシッシと手を振る。

ミロ「いいよ、明日で」

アフロディーテ「いいから、今すぐ風呂に入れ!」

ミロの襟首をつかむと、アフロディーテは力任せにミロをこたつの中から引き出した。

 

天秤宮から帰ってきたムウは風呂場から聞こえる大声にない眉を寄せた。

ムウ「一体何の騒ぎだ?」

貴鬼「魚のオジサンが蠍のオジサンをお風呂に入れてるんだよ」

ムウ「は?」

貴鬼「蠍のおじさん、もう6日もお風呂はいってないから、魚のおじさんが無理矢理お風呂に入れてるんだ」

ムウ「……馬鹿ですね、まったく」

風呂場の戸が勢いよく開くと、腰にタオルを巻いただけのミロが濡れ髪を振り乱し飛び出してきた。その後をズボンの裾をめくったアフロディーテがバスタオルを持って追いかける。まるで猫を風呂に入れているかのような光景にムウと貴鬼は呆然とした。

アフロディーテ「ゴラァァァ!まてバカミロぉ!!」

ミロ「もう風呂入ったんだからいいだろう!」

裸のままこたつの中に隠れたミロの髪を掴み、アフロディーテはこたつの中からミロを引きずり出す。

ミロ「イテテテテ!バカ!!いてぇんだよ!」

アフロディーテ「あんたにバカって言われる筋合いないわよ!!髪を拭きなさい!髪を!!」

ミロ「こたつのなかで乾かすからいいよ!ほっといてくれよ!」

アフロディーテ「いいからきちんと髪拭いて、梳かせ!」

ミロ「ぎゃーーーーーー!」

手にミロの長い髪を巻きつけ、アフロディーテは小宇宙を燃やしてミロを引きあげた。

貴鬼「おじさん、一人でお風呂も入れないの?」

貴鬼からバスローブを受け取り、ミロはくしゃみをした。慌ててそれに袖を通し、こたつ布団を引き寄せる。

アフロディーテ「ちょっとムウ!ミロはちゃんと二日に1回は風呂に入れなさいよね!臭くて仕方ないわよ!!」

ムウ「……しりませんよ」

アフロディーテ「ミロの臭い服も洗っておくように」

ムウ「……貴鬼」

貴鬼「はーい、ムウさま」

ムウに名を呼ばれただけで何をすべきか理解した貴鬼は、ミロが水浸しにしたリビングや散らかった風呂場の片づけをはじめた。


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