白羊家の食卓6(恋の肉じゃが その1)

 

その日ミロは、市場のおばちゃんから貰ったリンゴをかじりながら、十二宮の階段を登っていた。

すると数十段先に、なんとも言えない美味そうなぷりぷりの尻が二つ並んでいるのに気がついた。魔鈴とシャイナである。どうせアイオリアのところだろうと思い、ミロは彼女のいる親友を羨まし気に呪いの言葉を呟いた。

しかし、魔鈴とシャイナが白羊宮まで登りきると、そのまま宮の私室に入ったのを見て、ミロはにやりと口元に薄笑いを浮かべながら光速で獅子宮に向った。

 

獅子宮

獅子宮で筋トレをしていたアイオリアは、突然入ってきたミロの一言に露骨に嫌な表情をむけた。

ミロ「あのさ、おまえ、まだムウと仲直りできてないのか?」

アイオリア「はぁ?お前に関係ないだろう。」

ミロ「まぁいいけどさ。魔鈴を取られないように気をつけろよ。」

アイオリア「はぁぁぁぁ?どういう意味だ?」

ミロ「いやさ、さっき魔鈴がな、白羊宮にいそいそと入っていったんだよ。俺はてっきりお前の所に行くのかと思ってたんだが。」

アイオリア「べつに魔鈴が白羊宮に行ったから何なんだよ。聖衣の修復とかだろう。」

ミロ「でもさ、魔鈴も女だぜ。もしかしたら、ムウに気があったりして。」

アイオリア「ははははっ、冗談はやめろよ。魔鈴はあんな女々しいナヨナヨした男なんて、興味ないに決まってるだろう。それに大体ムウが女になんて興味あるわけないじゃないか。あいつは女みたいに、男に抱かれるほうが好きなんじゃないのか?」

すっかりムウを偏見の目で見ているアイオリアは、肩をすくめて苦笑した。

ミロ「でもさ、あのムウのことだぜ。お前に嫌がらせするためなら、魔鈴を寝取ることくらい平気でしそうだがな。それに、ムウは教皇じこみだ。ムウの手練手管に魔鈴もメロメロだったり。」

アイオリア「なっ!!何を馬鹿なこと言ってるんだ!」

顔を真っ赤にさせミロを怒鳴るが、アイオリアの心に妄想の種はばっちり埋め込まれた。

ミロ「とにかくさ、手遅れになる前にムウと早く仲直りしろよな。」

ミロはそう言って、獅子宮から出て行った。

 

白羊宮

その頃白羊宮では、シャイナと魔鈴が聖衣を定期メンテナンスするために、白羊宮を訪れていた。

ムウが聖衣のメンテをしているのを傍らで見ていたシャイナは、隣にいる魔鈴にコソコソと話し掛けた。

シャイナ「なぁ、魔鈴。アイオリアとムウが仲が悪いって本当か?」

魔鈴「なんだよいきなり。」

シャイナ「だってさ、皆が噂してるだろう。それが本当なら、あんたがここに来るのを、アイオリアはあまりよく思わないんじゃないか?」

魔鈴「アイオリアは関係ないだろう。なんでそうなるんだ。」

シャイナ「とぼけたって無駄だよ。アイオリアはあんたのこと好いてるんだ。そんなのは、アイオリアが雑兵だった頃から、皆しってるさ。」

魔鈴「だ、だからってなんで私が白羊宮に行くと、アイオリアが嫌がるんだ。」

シャイナ「だってさ、自分の恋人が嫌いな奴と仲良くしているなんて、普通は嫌だろう。」

魔鈴「そんなこと知らないよ。」

シャイナ「でさ、なんでアイオリアとムウは仲が悪いのかなぁと思って。あんた、知ってるんだろう?教えなよ。」

おばさんの如き探究心を剥き出しのシャイナは、魔鈴の腰をつつきながら囁いた。

魔鈴「さぁ〜、私にもわからないね。私が知っている限りじゃ、この二人は最初から仲が悪かったみたいだけど。」

そもそも魔鈴は、アイオリアが黄金聖闘士と知ったのは十二宮戦のときである。ちょうど時を同じくして、聖域に帰ってきたムウとアイオリアが一緒にいる姿を見かけることは殆どなく、二人になにかあったなら彼らが子供の時か、または聖戦の時だろう。

シャイナ「なぁ、気にならないか?」

魔鈴「余計な詮索するんじゃないよ。あんたも趣味が悪いね。」

シャイナ「だってさ、気になるだろう?あんた気にならないのか?」

魔鈴「・・・・・・・・・、そりゃ、気にならないこともないけどさ。」

シャイナ「だろう?」

魔鈴は腕組をしたまましばらく考え込んだ後、ふと顔をあげた。そして、突然魔鈴がムウを呼ぶので、シャイナは慌ててその腕を引っ張った。

魔鈴「あのさ、ムウ・・・・。」

シャイナ「ちょっと、あんた何するつもりだ?」

魔鈴「え?いや、考えてもしかたないしさ。ムウに聞こうと思って・・・。」

シャイナ「んなもん、本人に聞く馬鹿がどこにいるっていうんだ!」

ムウ「なんですか?」

シャイナ「いや、なんでもないんだ。ムウ。」

魔鈴「あのさ。なんであんた、アイオリアと仲悪いの?」

シャイナが慌てて魔鈴の口を塞ぐが、仮面の上からではまったく効果がない。魔鈴はしれっとした口調で、ムウに聞いてしまった。
すると、ムウはくだらないといった風にいつものすかした笑みを口元に浮かべて、薄紫色の髪の毛をかき上げた。

その様子に、シャイナはますます慌てた。

もともと本人達にそういうことを聞くものではないし、他の仲間達に比べて交流はあるものの、相手は黄金聖闘士さまだ。上司として、先輩として仲間としての一線を越えたこの質問に、シャイナは思わず恐怖を覚えた。

ムウ「別に大した理由はありませんよ。私はアイオリアが嫌いで、アイオリアは私が嫌いなだけです。」

魔鈴「ふーん、で、なんで嫌いなわけ?」

シャイナ「ちょっと魔鈴。あんたそれ以上、立ち入ったことを聞くのは失礼じゃないか?」

魔鈴「なんだよ、お前は知りたくないのか?」

シャイナ「知りたいに決まってるだろう!」

魔鈴「だそうだ。で、なんで嫌いなんだい?」

ムウ「そりゃ、誰だってあんなことを言われれば・・・・。」

魔鈴「あんなことって?」

ムウは一息つくと、きっと厳しい瞳になって、魔鈴に一気にまくし立てた。

ムウ「聞いていきなさい、魔鈴、シャイナ。アイオリアはですね、私のことを女みたいだといったのです。あの男は、ハーデスとの戦いのときに、ろくすっぽ人の話もきかずに、大勢の前で私のことを男として認めないなどとほざいたのです。それにですね・・・・・・・・・・・・・・。」

よっぽどアイオリアへのうっぷんがたまっていたのだろう、ムウの愚痴はとどまる事をしらないばかりか、ますますその勢いを増すばかりである。さすがは、十二宮戦で、青銅達に早く行けといいながらも一時間弱も喋りつづけた男である。しかし、白銀聖闘士相手に仲間の愚痴というのも、いささか情けないものだ。普段から「静」というよりも「止」という感じがする物腰のムウの豹変振りと、その勢いに、魔鈴もシャイナも呆気にとられていた。

ムウ「ん?貴方達、聞いているんですか?まったく、戦士にとってこれほどの侮辱の言葉はありませんよ。そりゃ、見た目はこんな変な眉ですし、髪の毛も長いかもしれないが、いくらなんでもそれはあまりだと思いませんか?」

魔鈴「・・・・あ、ああ。」

ムウ「それに、ふくよかっていったって、ほらっ!ちゃんと筋肉だって、こんなにあるんですよ。」

ムウが気合をいれると、右腕に筋肉が盛り上がった。

シャイナ「まぁまぁ、落ち着きなよ。あんたの気持ちも分かるからさ。」

魔鈴「ちょっと待ってな。」

シャイナが両手を広げてムウをなだめると、魔鈴はクルリと向きを変え、ヒールをカツカツとならして走って白羊宮から出て行った。

 

獅子宮

魔鈴「ちょっと邪魔するよ。」

アイオリア「ああ、魔鈴。久しぶりだな。」

内心の喜びを隠して、アイオリアは余裕の笑みを浮かべながら魔鈴をリビングに通した。

魔鈴「あのさ、あんた・・・・。」

アイオリア「ん?」

魔鈴「ムウに、酷いこと言ったんだってね。」

アイオリア「何のことだ?」

魔鈴「悪いけどね、ムウは立派な男だよ!!」

アイオリアは突然の魔鈴の言葉に耳を疑った。

魔鈴「いいかい。ムウは、そりゃ外見は女が羨むほどの美人かもしれないけどさ・・・。」

アイオリア「は?だから・・・・・・。」

魔鈴「いいから、黙ってききなよ、このすっとこどっこい!」

アイオリア「す、すっとこどっこい!?」

魔鈴「ムウは聖闘士にしちゃなんていうか、覇気がないし、なんかこう物腰も柔らかだけどさ、中身はそりゃ立派な男だ!」

アイオリア「え?」

魔鈴「聞こえなかったのかい?ムウは外見なんかよりも、立派な男だって言ったんだよ!!」

アイオリア「り・・・立派・・・・・・。」

アイオリアは、先程ミロに言われた言葉とムウの手練手管にエロエロになった魔鈴ともに、奈落の底に落ちていった。

魔鈴「あの人、私達になんか愚痴を話すくらいなんだから、きっと友達いないんだろうね。まぁ、結構偏屈な奴だから、友達いないのも無理もないかなって感じするけどさ。でもさ、友達のいない寂しさは、あんたも良くわかるだろう?だったら、少しは仲良くしてやんなよ。」

まったくと溜息をついて魔鈴は言ったが、もちろんアイオリアの耳には届いていない。
アイオリアの脳内では、すっかりムウと魔鈴がラブラブでエロエロでぐちゃぐちゃになっているのだった。


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