★空白の誕生日(その1)
この日、いつものように5時に目を覚まし、弟のアイオリアとともにトレーニングを終えて白羊宮で食事をすませたアイオロスは、いそいそと人馬宮に戻って行った。
洗面所の鏡の前で、鬚を剃り終わったアイオロスは、両手の平でにやける顔の頬を打ち付け、気合をいれた。アイオロスはリビングに掛けられた執務当番表を見て、一人悦にはいる。
この日、17日のところには、赤いマジックで書かれたハートが眩しい。
今日はサガとの執務当番の日である。
ということは、サガと1日中二人で過ごせるのである。時折、シオンのセクハラや、過去の罪に縛られているせいで、サガはあまり元気がなかったりするが、それは自分がフォローをすればいいだけの話だ。
とにかく、サガとの執務は一番の邪魔者に邪魔されないのが目下の所、アイオロスには嬉しいところだった。
コンコンと乾いた音が室内に響くと、アイオロスはサガがむかえに来たのかと思い、光速で玄関に走った。が、そこには満面の笑みを浮かべたシュラが立っていた。
アイオロス「サガ、おはよう!はやい・・・・・・・・・・・?」
シュラ「誕生日、おめでとうございます!!」
アイオロス「へ?私の誕生日って、今日だったか?」
シュラ「まぁ、いいから、いいから。さ、誕生日パーティしましょう。」
アイオロス「ちょっと待て、今日はサガとの当番日ぃ・・・・・・・・。」
と、アイオロスはシュラに手を引っ張られ、訳もわからずズルズルと磨羯宮へと引きずられていった。
磨羯宮。
磨羯宮には12人が座れるほどの巨大な大理石のテーブルと大理石の椅子が置かれ、その上には豪華な料理と巨大な誕生日ケーキがおかれていた。
シュラがアイオロスをつれて現れると、準備を終えた仲間達が一斉にクラッカーを鳴らし、アイオロスを祝った。
ミロ「アイオロス、おめでとう!!!」
アルデバラン「おめでとうございます、アイオロス。」
アイオリア「兄さん、誕生日おめでとう。」
アイオロス「ちょっと待て。私の記憶が確かならば、私の誕生日はまだまだ先だが・・・・。私が死んでいた間に、暦でも変ったのか?」
シュラ「なにをいっているんですか、今日は、アイオロスの15歳の誕生日ですよ。」
アイオロス「は?」
シュラ「ほら、アイオロスって、14歳で死んだでしょう。だから、今は実年齢14歳じゃないですか。」
ミロ「でさ、30日のアイオロスの誕生日にうまく28歳として祝えるように、13年分毎日祝ってやろうってことになったんだよ。」
デスマスク「で、今日はお前の15歳の誕生日っていうわけだ。」
アイオロスはなるほどと頷いて、仲間達の心意気に満面の笑みで答えた。
デスマスク「ってことで、改めて、誕生日おめでとうアイオロス!!」
デスマスクの乾杯の音頭にしたがって、皆は杯を高々と上げると、アイオロスの15歳の誕生日を祝った。
アイオロスは一人一人礼を述べると、その場に双子とカミュがいないことに気がつく。
アイオロス「シュラ。カミュとサガとサガのおまけはどうした?」
シュラ「サガなら、教皇補佐の仕事に行ってます。カミュはアイオロスの代理で、一緒に仕事にいってるはずですよ。」
アイオロス「な、なんだと!?」
シュラ「仕事のことは心配しなくていいですよ、アイオロス。ちゃんと教皇には、30日までアイオロスの当番日は全部サガが代ってくれるって事で許可とってますから。」
アイオロス「な、なんだと!?」
アルデバラン「カノンは、アイオロスの誕生日なんてめでたくないといって、さっき料理だけ持って双児宮に帰っていきました。」
アフロディーテ「まぁいいから、いいから、お祝いしよ、おいわい!!」
ムウ「そうですよ、アイオロス。この日の為に、私が腕によりをかけてつくったケーキ、食べてください。」
アフロディーテはシャンパンをアイオロスのグラスになみなみと注ぐと、ムウは手作りのイチゴショートケーキをアイオロスに渡した。
アイオロス「でも、サガが・・・・。」
デスマスク「ああ!!そうそう、これ。サガに頼まれたんだ、あんたに渡しておいてくれって。誕生日プレゼントだってよ。」
そう聞いて、アイオロスは目を輝かせてデスマスクから受け取った紙袋の中身を確認すると、それは赤いバンダナであった。
数時間後。
アイオロス「なぁ、シュラ。もちろん、お前達からのプレゼントは、サガだろ?」
すっかり酒が回ったアイオロスは、隣で酌をするシュラに聞いた。
アイオロス「この間、『誕生日に何が欲しいか?』って聞いてきたじゃないか。誕生日のときくらい、誰にも邪魔されないでサガとスィートでディープな一日を・・・・。」
シュラ「いやだなぁ、アイオロス。サガは今日は仕事って言ったじゃないですか。それに楽しみは一番最後がいいんじゃないですか。一番最後に、サガとたーーーーっぷりディープでスィートな誕生日を過ごしてください。明日、サガに聞いてみましょうね、アイオロス。」
アイオロス「ああ、そうしてくれ。」
もちろん、皆からの誕生日プレゼントはサガだと思っていたアイオロスは、明日こそ誕生日プレゼントでサガをもらえると思い、さらに酒を煽った。
ムウ「明日のケーキは何にしましょうかねぇ・・・。」
翌日。
早朝のトレーニングをしようと6時に起きたアイオロスは、頭を抱えた。昨晩は15歳の誕生日を祝ってもらったのだが、おひらきになったのは夜中の1時である。二日酔いという訳ではないが、昨晩の酒が未だに抜けきっていない。
酒気をとるために、シャワーを浴びようとパンツを脱いで風呂に入ったアイオロスは目が粒になった。
バスタブが真っ赤なバラで埋め尽くされている。
そして、後ろから背中を押されアイオロスはバスタブに飛び込んだ。シュラ「おはようございます、アイオロス。」
アイオロス「・・・・。」
アフロディーテ「ほら、ぼけっと風呂になんてつかっている場合じゃないでしょう。主役がいなくちゃ、パーティは始まらないんだからさ。」
アイオロス「ちょっとまて、私は今はシャワーを・・・・。」
シュラ「いいから、いいから、皆が待っていますよ。」
アイオロス「まだトレーニングも・・・・・。」
アフロディーテ「誕生日の時くらい、トレーニングなんてサボりなさいよ!!今日は、このアフロディーテ様が主催で祝ってやろうっていうんだから、大人しく祝われろってーの!」
アイオロスは迎えにきたシュラとアフロディーテに、腰にタオルを巻かれ、ずぶぬれのまま問答無用で双魚宮に連れて行かれた。
双魚宮。
双魚宮はいつもにまして華美にバラが飾られ、薔薇園の一角には巨大なテーブルと豪華な料理とケーキが並んでいた。
そしてシュラとアフロディーテがアイオロスをつれて現れると、真っ赤な顔をしたニコニコ顔のミロがアイオロスに酒を渡し、16歳の誕生日を祝う。
ミロはまだ昨日の酒が残ったまま、双魚宮に来ていた。ミロ「アイオロス、16歳の誕生日おめでとうな!!」
ムウ「アイオロスおめでとうございます。今日は、チョコレートケーキです。」
ミロ「そうそう。今日はデスマスクとシャカが執務当番だから、後でくるって。」
アルデバラン「ああ!サガから誕生日プレゼント預かってますよ。」
アルデバランは思い出したようにサガから預かった、赤いバンダナの入った袋を渡した。
アイオロス「あのさ、サガは?」
アルデバラン「サガなら、昨日の仕事が疲れたからって、宮で休んでます。」
アイオロス「なに!?」
アイオロスはサガを心配して双児宮に行こうとするが、腰のタオルをカミュに捕まれ、股間に吹き付ける寒風に身震いした。
カミュ「主役がいなくてどうするのです、アイオロス。」
が、アイオロスはそのまま走って双魚宮を出て行こうとしたので、アフロディーテはすかさずアイオロスの足元にバラを投げて、それを制する。
アイオロス「な、なにをする!!」
アフロディーテ「ちょっと、この私があんたの誕生日を祝ってやろうというのに、逃げる気?」
カミュ「いいから、大人しく皆に祝われてください。」
アイオリア「因みに、カノンは兄さんの誕生日なんて祝う気しないからって、朝早くに料理だけもらいにきたよ。」
アイオロス「なんだと!?」
カミュ「安心してください、アイオロス。カノンにサガの分も持たせてやりましたから。」
アイオロス「サ、サガが具合悪いなら、カノンに任せておけないだろうが!!!」
アフロディーテ「大丈夫よ、あとでアフロが様子みてきてあげるから。」
シュラ「そうですよ、今日は主役なんですから、大人しくしていてください。」
カミュ「それに、その格好で双児宮にいったら、カノンに露骨に嫌な顔されて追い出されるか、サガにボコられて余計具合を悪くさせてしまうとおもいますが。」
アイオロスはカミュから返してもらったタオルを腰にまき、誕生日席に座らされ、ほとんど強制的に16歳の誕生日を祝われた。
そして数時間後、すっかり酔いが回ったアイオロスは、隣で酌をしているシュラに掴みかかった。
アイオロス「私はいつサガと誕生日が過ごせるんだ!!!」
シュラ「うーーん、楽しみは後ですよ、アイオロス。まだまだ先は長いんですから。」
ムウ「明日は何のケーキにしましょうかねぇ・・・・。」