★成長期
「にいちゃん……おきて」
サガが身体を揺さぶられて目を覚ますと、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべたアイオリアと目があった。
アイオリアは隣で寝ているアイオロスとサガを間違えたらしい。
「おはよう、アイオリア」
シーツの中から出てきた顔が兄ではなくサガで、アイオリアはびっくりしてベッドから転げ落ちそうになった。
サガは手を伸ばして慌ててそれを防ぎ、サイドボードの時計に目をやると
「嘘ッ! 寝坊した!!」
叫ぶと同時にベッドから飛び起きた。
時刻は8時を過ぎていた。
サガは慌てて隣で高いびきをかくアイオロスをたたき起こして、寝ぼけ眼をこするアイオロスにアイオリアを押し付けた。
「アイオロス、寝坊だよ。ご飯の用意しなくちゃ……」
「ん〜〜?」
「アイオリアを頼むよ」
「ん〜〜」
目をショボショボと瞬かせ、分かっているのかいないのか、アイオロスが適当な返事する。
アイオリアはアイオロスの膝の上で相変わらずの涙目を上目遣いに、兄の顔色をうかがっていた。
「どうした、リア……もうちょっと寝よう」
そう言ってアイオロスはアイオリアを抱えたまま身体を傾けた。が、
「兄ちゃん……しっこ!}
「うん。しっこな……ムニャムニャ」
「しっこ……」
「え?しっこ!?」
枕に頭を預けようとしたとき、ようやくアイオリアの言葉を理解したが、ときすでに遅し。
アイオロスの膝の上はヌクヌクと暖かく湿っていたのであった。
小さな風呂場から聞こえるアイオリアの泣き声に、朝食を作るのを一時中断し汚れたシーツやベッドカバーを寝室から運んできたサガは小さなため息をついた。
「アイオリアを怒っちゃだめだからね」
と、アイオロスにきついく言ったのだが、やはりアイオロスは粗相をした弟をきつく叱ったらしい。
それでもちゃんと風呂に入れているのだから、まだいいか、とサガは湯をタライに注ぎながら小さくつぶやいた。
タライに湯を半分入れ終わったとき、アイオリアの泣き声がピタリと止まったことにサガは気が付いた。
「にいちゃん……チンチンになんかついてる!!」
聞こえてきた言葉に、サガは思わず吹き出しそうになった。
「リアにも同じもんついてるだろう!まだ小さいけど!」
「違う。チンチンじゃない!」
「え?……あーーーーーーーーーーっ!」
サガは扉越しになんだろうと首を傾げると、突然アイオロスの叫び声が響き、持っていたシーツを盥の中にぼちゃんと落としてしまった。
「すごい!! やった。やったぞ、アイオリ!!!!」
「にいちゃん、これなに?」
「うわっ、アイオリア。触るな。触っちゃダメだ!!」
一体なにがすごいのか、アイオロスの股間になにが起こったのか、サガは気になって仕方なかった。しかし、かといってサガには、興味本位で風呂場の扉を開けてアイオロスの股間を見るという恥ずかしいことはできなかった。
でもやっぱり気になって仕方がない。
どうしようかと立ち尽くしていると、扉が中から開き頭を泡だらけにした全裸のアイオロスが飛び出してきた。
扉を開けたすぐそこにサガがいて驚いたアイオロスであったが、すぐに呼吸を落ち着けるとニヤリと笑って腰を突き出した。
「サガ! 見てみろ! 俺も大人になったぞぉぉ!!!」
え?と、サガは思わずその突き出された腰に視線を落とし、ハッとなって慌てて視線を逸らした。
「バカ! タオルくらい巻いて出てこいよ!」
「タオル巻いたら見えないだろう! ほらよく見てみろよ! ていうか、見て、見て、見て!!!」
「アイオロス!いい加減に……」
といいつつ、ちらりと視線をそれに向けたとたん、サガは硬直した。
「なっ!!!すごいだろ!!」
そう言って腰を振り振りするアイオロスの腹筋の下に、数本の茶色い毛が生えていた。
大人への第一歩の毛である。
「へへぇ〜ん。俺もこれでようやく大人の仲間入りだ!! サガはまだ生えてないもんな!!」
嬉しそうに言うアイオロスに、サガはかちんと来た。
「そんなこと分からないだろう!」
「だって昨日も生えてなかっただろう?」
「アイオロスだって、生えてなかったじゃないか。なんで突然生えるんだよ!」
「いや、きっと気が付かなかっただけだ!」
「嘘だ!だったら私にだって生えてる!!」
一足先に大人になった優越感に浸るアイオロスに、サガはむきになって応えるとクルリとアイオロスに背中を向けた。
そして寝間着の裾を捲り上げ、自分の股間をまじま
じと見る。
「やっぱまだ子どもじゃないか!!」
サガはハッと振り返ると、肩越しにアイオロスが覗いていた。
「わっ! バカ! 何見てるんだ!!」
「今更恥ずかしがることないだろう……って、やっぱり生えてないじゃないか。サガもまだまだ子供だなぁ〜、へへぇん! これからは俺のこと、お兄ちゃんって呼んでもいいぞ!」
「誰が呼ぶもんか! バカッ! さっさと風呂に戻れ!」
なんだかアイオロスに負けた気がしたサガは、悔しさに涙をちょちょぎらせながら汚れたシーツを洗ったのであった。