白羊家の食卓10(たまごクラブ その1)

 

いつものように白羊宮には、朝からアイオロスとアルデバランと童虎が朝食をたかりにきていて、朝風呂からあがったシオンは無い眉をひそめた。
しかも、今日はもう一人多かった。

シオン「なぜに愚弟がおる?」

カノン「あん?クソ五月蝿い兄貴が出張でいないから朝帰りしてきた!!どうせ双児宮に帰っても飯ないしな!」

シオン「白羊宮は食堂ではない」

カノン「んなこった、分かってるっての!さっさと祈って、飯にしようぜ!」

童虎「そうじゃ。飯は人数が多い方が楽しいからのぅ。シオンよ、さっさと祈りをはじめろ!」

シオンはますます無い眉をしかめたが、貴鬼とアイオロスの今か今かと飯を待っている視線に耐え切れず、それ以上は追求しないことにした。

食事の前の祈りを終えると、貴鬼とカノンとアルデバランがいっせいに食事と格闘し始めた。

だが、シオンはテーブルに並んだ料理をみて、さらにない眉をひそめた。

シオン「ムウ。なんじゃ、これは!」

ムウ「おや、シオンさまはもうボケられましたか?朝食でございます」

シオン「馬鹿者。余がゆうてるのは、ほれ、そこにあるそれじゃ」

ムウ「それ???」

シオンがシッシッとそれを手で払うふりをし、全員が食事の手を止めてそれを見た。

ムウ「卵…ですが。シオンさま、卵を見るのは初めてですか?」

カノン「まじかよ?教皇の生きていた時代には卵とかなかったわけ?って、何食って生きてたんだ?」

アイオロス「精気にきまってるだろう!」

アルデバラン「性器から精気を吸い取っていたわけですね、はっはっはっはっ!」

ムウ「ぷっ、はははっ。アルデバラン、そのギャグ面白いです!!」

シ〜ン。

シオン「牛よ、食事中にくだらぬ下劣なことを言うなら出て行け」

アルデバラン「面白くなかったですか?、おかしいなぁ」

ムウ「いえ、アルデバラン。最高のギャグでした!!」

アルデバラン「だろうっ!やっぱりブラジル仕込みの高度なギャグが分かってくれるのはムウだけだ!」

シオン「そんなぐだらぬことで、この世を謀ろうなど250年早いぞ、ムウ!」

ムウ「は?」

童虎「シオンは朝から何をカリカリしておるのかのぅ」

アイオロス「更年期じゃないっすか」

シオン「黙れ、小僧ども!!なぜに余の前に卵がおいてあるのじゃ、ムウ!答えよ!」

ムウ「……朝ごはんだからですが、なにか?」

シオン「何かではない!なぜ、余の前にゆで卵があるのかとゆうておるのじゃ」

ムウ「すみません。今日はちょっと寝坊してしまいまして。昨晩シオンさまがあんなに激しくなさるから……」

シオン「いいわけ無用。さっさとこのゆで卵を片付けよ!」

貴鬼「……(また、シオンさまの教皇のわけのわかんない我がままが始まったよ…)」

カノン「(本当、このクソじじぃは本当にかまってちゃんだな)」

童虎「卵くらいよいではないか」

アルデバラン「あっ!分かった!」

ムウ「さすがアルデバラン!」

アルデバラン「きっと教皇さまは、周りの皆がなんでもしてくれるから、ゆで卵がむけないんじゃないでしょうか?」

アイオロス「なるほど……。確かに教皇の間の食事にはゆで卵は剥き身ででてきたな……。しかも丁寧に切ってあった…」

童虎「シオンよ。剥き身のゆで卵が食したければ、教皇の間にもどれ」

シオン「童虎。お前は余計な口を挟むな!」

ムウ「(まったく、世話の焼ける……)。分かりました、今、シオンさまのために、卵を剥きますので、少々おまちください」

ムウはシオンの目の前のゆで卵をとると、テーブルにこんこんとぶつけて剥き始めた。

シオン「やめぬか、ムウ!!」

ムウ「は?」

シオン「余はそのようなことを言うてるのではない。さっさと余の前から、ソレを片付けよと言うたのじゃ!」

ムウ「では、シオンさまはお召し上がりになられないと?」

シオン「くどい!」

いったい何が気に入らないのか分からないが、ムウはしぶしぶとシオンの前のゆで卵を片付けた。

シオン「ムウよ。他のものたちのソレも片付けよ!」

アイオロス「教皇、私はまだゆで卵食べて無いので片付けられたら困ります」

シオン「居候の分際で口答えするでない」

カノン「俺、片付けられる前に食っちまおう」

貴鬼「おいらも!」

カノンとアルデバランと貴鬼は片付けられる前にと、自分のゆで卵を手に取ると、シオンがテーブルの下に手をそえてにらみつけた。
必殺の「うろたえるな小僧(一徹返しVer)」の体制に、3人はぴたりと動きを止めた。

カノン「おい、ごらぁ、じじぃ。まさかゆで卵など卵として認めんとか、わけのわかんないこと言うつもりじゃないだろうな?」

アイオロス「そうですよ、教皇。卵は栄養豊富なんですから、われわれ戦士には欠かせない食べ物です」

シオン「別にゆで卵でなくてもよかろう」

カノン「だったら別にゆで卵でもいいじゃねぇかよ!」

シオン「黙れ、愚弟!ムウよ。わがままなこやつらに、スクランブルエッグでも作ってやれ」

カノン「(ったく、どっちがわがままだよ…)」

アイオロス「あっ、私はもういい。生卵を飲むから」

童虎「わしも生卵でよいわ」

貴鬼「おいらも醤油かけて飲もうかなぁ」

アルデバラン「生卵は危険じゃないですか?」

ムウ「大丈夫です。我が宮の卵は生でも美味しくいただける卵ですから。それにこの三人が生卵ごときで腹を下すはずがありませんよ」

アイオロス「そうそう」

こんこんッ。

アイオロス、貴鬼、童虎は同時に生卵をテーブルへとぶつける。

シオン「やめぬかっ、このばか者ぉぉぉぉ!!!!」

童虎「いったいなんじゃたいうのじゃ!」

シオン「な、な、生卵で腹をくだしたらどうするのじゃ」

童虎「ほう。わしのことを心配してくれるとは、珍しいことでもあるものじゃ。今日は雨が降るかのう?」

アイオロス「大嵐まちがないですね」

シオン「お前のことなど、心配してはおらん」

アイオロス「じゃ、私?」

貴鬼「おいらだよ」

シオン「とにかく、お前達、大人しくムウが卵料理をもってくるのを待っておれ!」

童虎「待っておれぬ。お前のわがままでゆで卵も無駄にはなるし、わしらの生卵も無駄になるのでは、毎日卵を産んでくる鶏がかわいそうではないか。お前達、シオンのたわごとなど気にせずともよい」

貴鬼「はーい」

カノン「そうこなくっちゃ」

全員がシオンを無視して再び卵をテーブルへと叩きつけると、シオンは目が粒になった。

シオン「や、やめぬか。やめい!!!」

シオンの怒声がダイニングに響き、全員が立ち上がってわななくシオンを見た。

童虎「シオンや、どうした?顔が青いぞ」

カノン「またスペクターになったんじゃん?」シオン「お、お前達。余の前で、卵を割るでない……童虎が出てくるではないか!!!!」

ムウ・貴鬼・アルデバラン・アイオロス・カノン「はぁ??」

童虎「わしならここにおるが……シオンはもうぼけたか?」

カノン「ボケって言うより、ちょっと頭いかれてるだろう?」

貴鬼「老師は卵から生まれるの!?」

アイオロス「んな、わけはない」

アルデバラン「しかるべき場所で診てもらったほうがいいかもしれませんね」

ムウ「シオンさま、お労しいや……SEXのしすぎてとうとうおかしくおなりに」

唖然としてる貴鬼、エプロンのすそで涙をぬぐうふりをするムウ、シオンの療養所入りを計画するアルデバランとカノン、驚いてピヨピヨしているアイオロスと童虎達を見下ろして、シオンははっとわれにかえった。

シオン「なんでもない……。取り乱してすまなかったのぅ」

童虎「シオンや。わしはここにおるぞ。大丈夫か?」

シオン「余は正気じゃ」

アイオロス「じゃ、卵食べてもいいっすか?」

シオン「調理済みのやつにせい」

アイオロス「でも、もう私の卵はヒビ入ってるんで」

カパッ

シオン「ぎゃーーーーーーー!」

アイオロスが生卵のヒビに手をかけると、グラスめがけて卵を二つに割ると、シオンが小さい悲鳴をあげた。思わず全員でシオンを見ると、シオンはギュッと目を瞑っていた。

これはマジでやばい。

全員がそう思った。

アイオロス「教皇。一回病院へ行きましょう。サガならきっといい精神科医を知っています」

童虎「シオンや。いくらわしが嫌いだからというて、卵からは生まれぬ。安心せい」

ムウ「シオンさま、卵は鶏が産み、ひよこが孵るのですよ」

貴鬼「シオンさま、大丈夫?麻森博士にみてもらったほうがいいんじゃないの?」

カノン「聖域は俺にまかせて、入院しろ!」

シオン「正気である、といゆておる。なんでもない」

わけがない。

カノンはニヤリと笑うと、シオンにヒビがはいったゆで卵を目の前に突き出した。

カノン「ほれ。なんでもないなら、ゆで卵を食ってみろ!」

シオンがちらりと目をそらした。すると童虎が目の前にヒビの入った生卵をつきだす。

童虎「生卵もある」

シオンは再び目をそらすと、今度はムウが嬉しそうに笑って生卵をつきだした。

ムウ「シオンさまのために、愛情をこめてゆでました」

シオン「もうよい……。余は卵は嫌いじゃ」

ムウ「好き嫌いはいけません。貴鬼の教育によろしくありませんから」

シオン「アレルギーじゃ」

アイオロス「嘘ばっかりついてちゃだめですよ」

シオン「もう、よい。卵は見たくないというておる」

童虎「ふむ。お前達、そうシオンを苛めるでない」

散々シオンを嬉しそうに苛めていた童虎が口を開くと、シオンの手をひっぱった。

童虎「シオンや。こやつらの前では話にくいこともあろう。ちょっとこい」

シオン「お前に話すことなどない」

童虎「では卵を食え」

シオン「いやじゃ!」

童虎「では来い」

シオン「それもいやじゃ」

童虎「ふむ、では女神をお呼びして、詳細を全部話すかのぅ。シオンがおかしくなったと聞いたら、女神はそれはそれは心配するじゃろうのぅ」

アイオロス「まちがいなく、24時間つきっきりで教皇のご心配をされるでしょうね」

カノン「巨乳アタック炸裂だな。『おじぃさま、おかしくなっちゃったの?サオリ心配だから、ずっといっしょにいる!』とか言って、乳押し付け攻撃だ!」

ムウ「さて、では女神が聖域に常駐されるということを、皆に連絡しておきますか」

アルデバラン「いや。必ずしもそうとは限らんぞ、ムウ。女神は人間としても御忙しいから、教皇を日本に御連れになるかもしれん」

ムウ「そうですね。そうしたら、とうとうアイオロスが教皇に……」

童虎「さてと……では、女神をお呼びするかのぅ」

全員が瞳を閉じて沙織の小宇宙に語りかけようとすると、シオンが慌てて立ち上がった。

シオン「うろたえるな、小僧!!」

童虎「では、話すか?」

シオン「お前にだけじゃぞ」

童虎「分かっておる」

童虎はニヤリと笑って立ち上がると、シオンはしぶしぶそれについていった。


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