白羊の食卓その12(愛のお雑煮大作戦)

 

白羊宮
新年早々お土産を両手に星矢と魔鈴がやってきた。
星矢「あけおめことよろ〜!」
貴鬼「???星矢何語しゃべってるの?」
星矢「日本語でHappy New Yearってことだぜ!」
貴鬼「ふ〜〜ん」
魔鈴「ムウいるかい?」
貴鬼「ムウさま〜、星矢と魔鈴さんがお土産もってきてくれたよ!」
貴鬼のお土産という言葉にムウは台所から現れ、コタツで寝ていたカノンはムクっと起き上がった。
ムウ「おや、新年早々……女神のところへ行かなくていいのですか?」
星矢「星華姉さんに会いに行くってことでバックレっすよ。正月からお嬢さんのワガママに付き合ってられないってーの。はい、これお土産!」
星矢はムウに発泡スチロールの箱を渡すと、小走りでコタツに近寄り靴を脱ぎ捨て中に入った。
魔鈴「それお土産っていうか、あんたに作ってもらいたいんだけどさぁ」
ムウ「またODENですか?」
魔鈴「違う、雑煮」
ムウ・貴鬼「Zo−Ni?」
魔鈴「そう、雑煮。日本では新年に食べるめでたい食い物さ。……、モチ・スープってとこか?」
星矢「モチは日本語じゃないっすか、魔鈴さん。あえていうならエレファント・シチューじゃないっすかね」
ムウ「象煮ですか……、また珍しいものを食べるのですね」
星矢「正月の特別料理っすからね」
カノン「日本に象っているのか?!」
星矢「動物園にいるっすよ。あ、いつも通り美穂ちゃんに書いてもらったレシピは中入ってるんで!」
ムウ「象ですか……」
魔鈴「ほら、ボケっとコタツに入ってないで、ムウを手伝うんだよ星矢」
星矢「魔鈴さんこそ、料理習ったらどうっすか。卵一つ満足に割れないんだから、このままじゃアイオリアに逃げられるっすよ」
魔鈴「グダグダ言ってないで、さっさと手伝ってきな!」
星矢「ギャーーーー!」
魔鈴にハイヒールで蹴り飛ばされた星矢は、渋々台所へ手伝いに行った。

1時間後
ムウ「出来ましたが、これでいいのですか?」
ムウがこたつにならべた中華どんぶりを覗き込み、星矢は「おお!」と声をあげた。器こそ中華であるが、中身はきちんと雑煮になっているのである。
すんだ出し汁に大根、ニンジン、たけのこ、しいたけ、三つ葉、なると、鶏肉、餅が入った関東風雑煮である。
ムウと貴鬼とカノンは星矢が食べるのをじーっと凝視した。
星矢「まいうーーーー!」
カノン「……象って美味いのか……」
貴鬼「どれが象の肉?これ?」
貴鬼はどんぶりの中の鶏肉を食べると小首をかしげた。
貴鬼「あれ?この肉、鶏肉の味がするよ」
カノン「じゃあ、この白いのが象の肉か?」
フォークで餅をつっつき、びよーんとのばしながらカノンも首をかしげた。
魔鈴「それは、餅。MOCHI。米でできてるんだよ。雑煮に象の肉なんて入っちゃいないさ」
ムウ「ほう、エレファント・シチューなのに象が入っていないと?」
星矢「さ、さぁ?俺達日本人だけど、半ギリシャ人みたいなもんっすからね。あ、餅が象の肉みたいだからそういうんじゃないのかな?」
貴鬼「すごいや、星矢!何でも知ってるんだね!」
星矢「まぁな!ははは!」
魔鈴「象なんてそう食べられるもんじゃないからねぇ、案外そうだったりな」
ムウ・カノン「へぇ〜〜〜」
こうしていいかげんな日本人二人は、ウソを吹き込みムウに作らせた雑煮を持って星華の住むロドリオ村へ向かったのであった。

クリスマスプレゼントを配り終えて十二宮に帰ってきたアイオロスは、白羊宮に報告に行くと、ムウから差し出されたどんぶりを見て首をかしげた。
アイオロス「何だ、これは?」
ムウ「日本の新年の食べ物だそうです。昼間、星矢と魔鈴がきて置いていきました。無論作ったのはこのアリエスのムウですが」
シオン「珍しい食べ物じゃ、お前も食べてゆくがよい」
アイオロス「は、はぁ……」
法衣を脱いでコタツにはいると、アイオロスは再びどんぶりの中を凝視した。
アイオロス「で、これは?」
ムウ「エレファント・シチューです」
アイオロス「ぞぞぞぞ、象煮?!」
貴鬼「すごく美味しいんだよ!!」
アイオロス「象さん食っちゃいかんだろう……教皇は食べたんですか?」
シオン「うむ、美味であったぞ」
粗食のシオンがゲテモノ料理を食べたということに、アイオロスは立派な眉毛をしかめた。
所変われば食い物も変わるというが、日本人は象まで食うのかとアイオロスはますます眉を寄せる。
しかし、今は外回りで腹が減っていたので、とりあえず一口だけでも食べてみることにした。
アイオロス「……うーーまーーいーーぞーーー!」
貴鬼「ほらね!美味しいだろ!」
アイオロス「象ってさっぱりしてるんですね。全然臭くない」
貴鬼「星矢と魔鈴さんがね『ZO-NIはうまいし、コタツはあるし、ムウさまの子供になりたい!』って言ってたんだよ」
ムウ「はぁ……あんな大きな子供いりません」
アイオロス「そうか、日本人はそんなにエレファント・シチューが好きなのか」
ムウ「新年にしか食べられないらしいですからねぇ……美味しいのに、もったいない」
貴鬼「あーあ、魔鈴さんと星矢が白羊宮の子になってくれたら、おいら毎日星矢と遊べるのになぁ!」
シオン「白羊宮に女は不要である」
アイオロス「魔鈴が白羊宮の……」
更に歪曲された日本文化の情報を仕入れたアイオロスは、雑煮を食べ終わると双児宮にも寄らず獅子宮へと駆け込んだ。


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