「精神科病院の選び方、かかり方」

11月定例会 家族会勉強会 講師 昭和大学附属烏山病院 精神保健福祉士 近藤周康さん

【はじめに】

 私は世田谷区にある昭和大学附属烏山病院で精神保健福祉士をしております。うちの病院内には「あかね会」という家族会があります。今の病院に勤務して今年で12年目ですが、慢性期の開放病棟、合併症の老人病棟などを担当させていただいて半年になります。その前はアルコール依存症治療病棟や認知症の治療病棟におりました。私は福祉系の大学を出て、今の病院に入りました。精神科病院に勤めようと思った最初のきっかけは、大学2年の時に看護助手のアルバイトの経験です。開放病棟は夕方5時には施錠して夜の時間に患者さんとかかわらせていただきました。病院はあまり好きではなかったのですが、そこで驚いたのは、大変な状況の中にいらっしゃる患者さんが非常に優しく自分の話を聞いてくださったりという交流があって、同じ病院なのに全然雰囲気が違うということでした。そこで、なぜみんなこんなに入院するのか、これが病院なのかというのを素朴に思ったのが、今の私につながっているのではないかと思います。

【病院の種類】

 一口に精神科病院といっても医療機関としての機能の違いで4つに分類できると思います。ひとつは総合病院です。いろんな科があるので、精神科は受診しづらいという方にとって総合病院は単科の精神科病院よりはいきやすいというメリットはあります。ですから、ご本人やご家族の方が精神科に抵抗がある場合にはいいと思います。総合病院で整っているのが医療的検査機器です。うちの病院はCTがあるのですが、もっと細かい画像が見られるMRIがあったり検査法も整っているということがありますので、そういう面からより詳しい検査がしやすいというメリットもあるかもしれません。

【病院情報の集め方】

 まずは近くにある診療所・クリニックを受診するという方は多いと思います。そこで上手く行かなくて他を紹介してもらうこともあるでしょう。情報を集めるのは、特に初めて医療につながるときには難しいかもしれません。いまですと、書店やインターネットを利用することもあると思いますが、基本に立ち返れば、公的な機関は是非利用していただきたいと思います。ひとつは市区町村の保健所や保健福祉センターなどの窓口です。精神保健福祉センターは都内に中部精神保健福祉センター、多摩地区には多摩精神保健福祉センター、また下谷にもあります。

【病院を選ぶ基準】

 情報を集めて何を病院の選ぶ基準にするかという話です。個人個人ニーズは違うと思いますが、まずは地域性でしょう。簡単に言えば交通の便ということで近くがよければそれを優先するということです。

2番目に治療内容・機能です。例えばデイケアにいきたいというのであればデイケアを併設している所を選びます。また、臨床心理士のカウンセリングが必要であればそういう機能を持った病院を選ぶのも大事なことです。

3番目に病院の規模です。これについては先進の医療を期待されるのであれば規模の大きい病院を選ぶメリットはあると思います。

4番目は入院の可能性です。病院の入院受け入れ体制を見ます。例えば、看護基準というのが国で決められていて、3対1というのは患者さん3人について看護が1人ついているという意味です。

5番目に病院機能評価の受診です。今、精神科病院は病院機能評価を受診をして認定を受ける方向にあります。内容つまり評価対象領域は、(1)病院組織運営の地域における役割、(2)患者権利と安全確保の体制、(3)療養環境と管理サービスの配慮、(4)医療提供の組織と運営、(5)医療の質と安全のためのプロセス、(6)病院運営管理の合理性、(7)精神科に特有な病院機能が揃っているか・・・など非常に広範囲にわたります。

6番目に、クリティカルパスの採用です。これは病院で看護中心に取り入れられているもので、歴史的にはアメリカで1950年代に採用された理論です。例えば、建築現場で何かを作るときにいっぺんにできないので、作業を分けて徐々に作られていくのですが、そのときに使う工程表が源流です。

【専門職とのかかわり】

 よいお医者さんとの出会いは皆さんのよい治療の上で重要な位置を占めると思います。かつてはよい医師は患者にとって良薬であるという言葉もありました。烏山病院あるいは同じくらいの規模の病院ではチーム医療が原則になっています。その中で医師はどういう形であればよいかということを私なりの視点で述べさせていただきます。患者さんの視点に立っているかどうかというのが一つ目、二つ目にきちんと患者さんとご家族、チームスタッフの話を聴いてくれるかということ、3番目にインフォームドコンセントの基本をはずさないこと、4番目に患者さん、ご家族、チームスタッフにとって治療の根拠が分かり易いかどうかです。

【医療機関を選べない緊急の場合】

 入院を検討しなければいけないような緊急性がある、医療機関を選べない状況についてお話いたします。救急、緊急という場合、東京都ではソフトな救急とハードな救急で分けております。ご本人が暴力を振るっている状況や、通院を中断して調子が悪くなって「死にたい」と思っているとか、自傷他害の恐れがある場合はハード救急を検討します。措置入院、緊急措置入院はハード救急になります。

【東京都医療機関案内「ひまわり」の中の精神科救急医療情報センター】

 ご本人、家族、警察、救急隊、医療機関等からの相談で精神科のかかわりが必要な場合、東京都保健医療情報センター「ひまわり」にご連絡していただきます。2002年度から「ひまわり」の中に夜間休日は精神科救急医療情報センターが設置されています。非常勤職員、主に精神科看護師、臨床心理士、精神保健福祉士が入っており、時間は平日の17時から翌朝9時、土曜休日は24時間対応するシステムです。
(概略表記)

新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第3土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 ついに平成十八年も十二月を迎えた。今年も様々なことが起こった。中でも流行語にこそならなかったが、我々に密接に関係している「いじめ」の出来事に心痛めた人も多かったに違いない。

 これまで家族会での会話として精神の当事者は往々にして「いじめ」の被害者になっていることを聞く。それは、日本が競争社会になったゆえの結果だ、と説く人もいる。

 我々親の時代にも「いじめ」はあったと記憶している。しかし、それが自殺や自傷他害に及ぶような事件にはならなかった。リストカットなどおよそ考えられなかった。「いじめ」における加害者も被害者もかつてのものとは大きく変ってきていることを感じる。

 言い換えれば、そのように時代が変り、人々の考えや行いも変化していることなのであろう。であれば、我々も変化しなければ、当事者たちの心の理解もできないはずだ。しかし、そう簡単に変化できるものではないし、他人(ひと)の心なんて理解できるものではないだろう。

 全家連大会が長野で行われた。どちらの家族会でも常に言われることであるが「変化」が叫ばれている。時代が変り、経済が変り、政治が変り、そして人々の心境が変っている。そのような変化のスピードがますます速くなりつつある21世紀において、我々家族会も変化が求められている。

 先日の夜の家族会では家族、当事者、保健師、PSW、さらにTV局スタッフなどが一堂に会し、それぞれがそれぞれの意見を述べた。一般と家族、当事者の接触、そして対話を通して新しい何かの変化が生まれてくるような気がする。来年の亥年に向けて祈変化!