民間移送会社の実際

新宿区後援事業 11月 新宿フレンズ講演会
講師 東京パトロール株式会社 取締役統括本部長 神藤 忠寛 さん
他 新宿フレンズメーリングリスト会員

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司会 本日は新宿フレンズ・メーリングリスト会員のMさん、Tさんのお話、お手紙2通の紹介と、東京パトロールの神藤部長にお話いただきます。テーマは「患者さんの移送について」ですが、きっかけは当会のメーリングリスト(以後ML)のネットワークの中で、医療を拒否していた当事者を入院させることができたことです。その4例を検証しながら、民間移送会社の利用、早期治療の実現について考えます。 

 今年3月初め、事務局にTさんから一人暮らしのお嬢さんがご病気で引きこもってしまい、親にも会わないが、どうしたら入院させられるかとの相談がありました。事務局ではMLの加入を勧め、すぐに入会したTさんは「移送会社に依頼して入院をさせること」について意見を求めました。するとMさんの体験談をはじめ、会員から患者さんの移送についてさまざまな意見が出ました。東京パトロールも情報として伝えられ、Tさんは神藤部長と会って相談した上で移送を依頼し、半月もたたずに、3月14日には娘さんは入院できたのです。

 しかも、これまで民間の移送会社の利用料は何十万、あるいは何百万という話でしたが、Tさんの移送費用は1万六千円。MLのメンバーもこれには驚きました。そして3か月で退院。現在お嬢さんはパートで就労するまでに回復しています。このように早い経過で就労というのも珍しいことで、ぜひ我々としても参考にさせていただきたいと、今日の企画になりました。

 Tさんの件が落ち着いた時点で、東京パトロールの神藤部長から新宿フレンズに電話があり、精神医療についていろいろ相談させてほしい、ということで2度、事務局を訪ねて来られました。

 精神的な症状から家にこもり、なかなか医療に結びつかないという事例は数多くあります。精神科医の多くは「来院しなければ診察できない」として、こうした患者さんが見放されています。家族は保健所や警察、役所等に相談しますが、ほとんどの場合「当事者が問題を起こさないかぎり手が下せない」と言われてしまいます。

 家族の精神疾患の発症は、当初は何も知識なく、戸惑うばかりの家族も多く、偏見も多い中で治療が遅れがちです。Tさんはお嬢さんを早く医療に結びつけるために、MLでアドバイスを得るという現代の情報手段をフルに活用し、そこから得た移送会社という媒介者を非常に上手く利用しました。その例を参考に、今後の移送の問題は? 医療につなげる理想的な形は? また精神保健福祉法の中でこの問題がどのように捉えられているのか? 患者の人権は?等を検証しながら討論を進めたいと思います。では、Mさんのお話から。

【実行してよかった】

 Mさんの移送会社利用体験談

 今から2年前、妻が急に妄想に取り付かれて、夜も寝ないで大音量で音楽を聴き、食事もとらない状況になりました。ご存知かと思いますが、病状の見極めにDSM-?(米国精神医学会の診断基準)とICD-10(WHOの診断基準)がありまして、私はこれを夜な夜なネットで見ておりました。

 もちろんこれらの診断基準だけで判断できるものではなく、医師が診ないと病気かどうかはよく分かりません。松沢病院が近くにあったので電話相談(16時までですが実質は24時間。相談員はPSW等)でいろいろ聞いてもらいました。

 妻にとってトラウマになるのではないかと心配もしましたが、憎まれても何でもいいので、病院で治療できるようにという決意を持ってやりました。車の中で妻はわめいていましたが、このときのことを妻は覚えていません。移送のスタッフも「ぜんぜん覚えていないことが多いので、心配しないで大丈夫です」とおっしゃっていました。実行してよかったと思っています。また、このときの費用は税金還付の対象になっているため、きちんと確定\告したことを付け加えておきます。

【自分で動いて早く格安にできた】

 東京パトロールの移送体験のTさん

 私は栃木に住んでいますが、東京で一人暮らしの娘が発症しました。今年の3月に新宿フレンズのメーリングリストに登録して、「病識のない娘を入院させたい」と相談しましたら、たくさんの情報をいただきました。おかげさまで「東京パトロール」にお願いして、娘も入院することができました。

 入院当初は思考障害が強くて妄想・幻覚がなかなか取れず、ドクターからも短期の回復は難しいと言われました。しかしスタッフに恵まれて順調に回復し、2ヵ月ちょっとで退院後のケアを目的に地元の病院に移り、入院生活は合計3ヵ月と短めでした。

 今は月に一度の通院となり、リスパダール9mgから6mgまで減薬できました。フルタイム8時間で働いて、最近は残業もするようになりました。病気がそれほど深みに入っていなかったためか、とても順調に回復しています。早い段階で治療に入れたのがこの結果につながったと思います。これも皆さんのご支援があってのことと感謝しております。

(中略)やっと東京パトロールと出会い、料金体系が明確で非常に安かったので早速電話したところ、神藤さんが説得の仕方、移送の仕方を説明してくれ、料金は16,000円と言います。耳を疑うような金額で、おかしいなと疑いました。315万円が1万6千円ですから。そこでメールで同じ質問をしましたら、すぐに同じ内容のお返事で安心しました。その後、神藤さんにお会いして契約し、半月たたずに実行できました。

 私の場合は、警察、病院、保健所への根回しは自分でやりました。病院を決めて、医療相談をし、入院の段取りをして、各所への依頼調整をし、マンションのオーナー、不動産屋の協力要請をお願いして、車を用意しました。
 その上で移送会社には「娘の説得の部分をお願いしたい」と依頼したことで、安価に出来たのではないかと思います。非常に短期間でやってもらったことに対して感謝しております。

 数ある移送会社の中で、東京パトロールさんの前向きな姿勢と全体的なフォロー、安心して依頼できる価格に、良心的な会社だと思いました。移送問題で躊躇している方、移送を考えている方々がいらっしゃいましたら、相談する価値は充分にあると思います。出来ることなら新宿フレンズと東京パトロールが、発注者と受注者のような縦の関係でなく、早期治療実現を目指すパートナーとしての協力関係が構築できればと期待しております。

【MTさんと奥様から(手紙の抜粋)】(略)

【ML会員のOさんの体験(手紙の一部抜粋)】(略)

司会 さて、ここで東京パトロールから生田社長とお越しいただいた神藤部長に精神科の患者さんを移送することとはどういうことか、その留意点などをお聞きします。

【移送会社とは】 神藤忠寛さん

 私ども東京パトルールは警備会社で、東京都の公安委員会の認定のもと業務を行っています。建物の前の制服を着た警備員や、道路工事で車の流れを見る警備員、現金輸送の警備員も、我々のようなボディガードもいます。個人や団体の生命にかかわる案件を専門に扱う仕事として、薬物中毒や統合失調症でお悩みの患者さんご家族の依頼も受けております。

 Tさんには、今年3月にお電話をいただいて対応いたしました。何度も細かく打ち合わせましたが、Tさんご自身も積極的に動かれました。
 例えば、お嬢さんのマンションの合鍵はありますが、ドアにバーがついていて、ドアチェーンなら切れますが、バーは簡単にはいきません。結局、Tさんが磁石やピンセットを使った装置を考え、その図面を送ってきてくれたのです。ここまで真剣に考えているご家族はこれまでになく、娘さんを治したいという気持ちが伝わってきました。

 私自身も仕事に対してのゆるぎない自信を持っているので、失敗することは想定していません。Tさんとお会いして、Tさんの手を握って、今日から安心してください、と約束したことが記憶に残っています。
 ご家族には、東京パトロールの移送の基本姿勢、どういう移送方法かを、よく聞かれます。以前はブルーシートと毛布を使って男性4人がかりでぐるぐる巻きにしてということもあったそうです。現在は原則として「説得移送」といい、ご本人を前に警護員やご家族が「これから病院に行く」とお話して、本人の足で車に乗ってもらい、病院内に入っていただきます。

 ご家族はよく「説得がきく位ならお宅に頼みませんよ」とおっしゃいますが、人は第三者には遠慮する部分を持っています。ですから感情的にならない方法で、第三者が説得に入ることに意味があると思います。
 移送の前に私どもは、ご本人のいるご自宅を見て、病院への経路を何度かシミュレーションします。どの道路を使うか、交通渋滞の可能性、病院のどこに車を付けるか。それも含めて「警護計画書」に「何時何分にどこのドアを開ける」など、細かいスケジュールを立てます。その中に料金も記載されます。

 料金が高くなる場合というのは、なんらかの理由で私どもに多くを頼らなければならないケースです。例えば、依頼者である親御さんがお子さんに何年もお会いしていない場合、現在のお子さんの顔や行動パターンが分かりません。
 
そういう場合は「調査」を行い、それこそ探偵のように交代制でご本人の住まいに張り付いてビデオ撮影をします。そうやってご本人の姿を確認しないと、病状も分からないし、間違えて別の方を連れ去ってしまう可\性すらあるわけです。この調査にはお金がかかります。

 これまで60~70の現場に対応してきましたが、今まで失敗はありません。ですが今後も気は抜けません。そしてよりよく移送するためにも、ご家族にできることがたくさんあると思います。
 Tさんの移送費一万六千円という値段は、Tさんが全てのシナリオを作り、我々の仕事は説得をして移送をするだけだったことにより実現しました。入院治療は費用がかかりますから、移送のコストを安くするために必要なのは、ご家族の協力と強い信念ではないでしょうか。
 通常ですと、仕事が終わると本当はその後の様子をうかがいたいのですが、我々もご家族に遠慮して連絡することはありません。Tさんは娘さんの経過を教えてくださり、今でも何かあったときに相談させていただくなど、良好な関係を築けています。

 ご家族が真剣に病気と向き合い、何とか入院させたいという気持ちを強く持って、分からないことに関してお尋ねくださる場合、我々もアドバイスをさせていただくことが出来ます。一緒に戦おうという気持ちが伝わってくると、こちらも何とかしたいと思い、家族の一員と思ってくださいと申し上げます。

 移送業者全体の問題としては、今までぼったくり商売だったものを通常に戻すということです。警備会社ですから極端な例では「娘が殺される、助けて」とか、「知り合いが銃で撃たれ、怖いので警護を」という依頼もあります。けれども、わが社ではどんなケースでも、スタッフ1人当たり八千円/1時間というスタンスは崩しません。ただ条件によっては多少変わりますので、まずはご相談いただければと思います。

 移送会社はご家族側に立つべきです。病院側に立ったり、営利目的だけではなく、ご家族と同じ目線でご本人と接する業種だと思います。
 今回この家族会の中でお話しをするにあたり、皆さんが移送業者をどのように考えておられるのか分からないので心配な部分もありました。でも皆さまにお会いして、新宿フレンズさんには社を上げてご相談を受けさせていただきたいと思いました。もし皆さんの中でお困りの方がいらっしゃれば、最終的に移送を利用するしないにかかわらず、お電話でのご相談も遠慮なくなさってください。

 先日、フレンズ会長から「東京パトロールを通して、いつでも患者を受け入れてくれる病院をひとつでもいいから探してほしい」との案件を出していただきました。私たちは関東のあらゆる精神科病院、クリニックに連絡を取り、その中で、東京都内で8病院ほどと提携が取れました。
 本日は、ご家族が移送に関して何を期待されているのか、生の声を聞かせていただける機会を得たことをうれしく思います。ありがとうございました。

司会 私もこれまでの経験から、「引きこもっている当人と病院にいる医者をつなぐ媒体がない」と感じていました。通院拒否で困っているご家族が、入院させようと決意したときに今までに診察を受けていなくても、「連れてきてよい」といってくれる医者がいるのが理想です。そこを神藤さんにお願いしたところ、8つもの病院と提携してくださったということです。東京パトロールさんに相談してみよう、と思えるような関係を作れそうだと希望を持っております。

<質疑応答・抜粋>(敬称略)

Q.神藤さんに、移送の距離と料金は関係しますか。

神藤:料金はかかった時間によります。距離では計算しません。

Q.Tさんの用意周到な準備はどのようにしましたか。

Tさん:若い頃から遊ぶ企画を立てることが好きだったのですね。娘のことを考えたときに、次に何が起こりそうかを考えて、次の行動に反映させる。それで今回上手くいったと思う。例えば、神藤さんから「もし娘さんがベランダから飛び降りたら」と指摘され、安全面については会社で受けてもらえるように依頼した。このように何が起こりうるかを\想し、一つ一つ解決していくことが役立ったと思います。

Q.移送会社としては人権に関してどのように考えるますか?

神藤:本人は病識がないので「不法侵入だ」と言われたり、「誘拐された」と騒ぎになる場合もあり、近所の人がパトカーを呼んでしまうので、事前に所轄の警察に報告をしておきます。すると通報があっても「あ、東京パトロールが仕事をしている」と納得してもらえます。中には「訴える」という当事者さんもいますが「あなたには治療が必要ですよ」と伝えると、多くの場合トーンダウンします。実際に訴えられても我々が罪に問われることはないでしょうが、それを恐れているといい仕事は出来ないし、我々が乗り切っていくところだと思っています。

Q.移送には大変な費用がかかりますが、行政の支援を受けるべく、助成金等を業者から提案してみてはどうでしょうか。家族会よりも業者が働きかけるほうが大きな動きになります。例えば、移送会社を使ったら、その3割は行政が持つ等になると、救われる人は増えと思います。

神藤:そうですね。考えておきます。

司会 助成金については今、行政は厳しいと思いますが、日本の行政を変えるのは、我々のように本当に困っている家族なのかもしれません。そうした時に一人ではできないことを皆さんが力を合わせて、声を一つにして要求していくことだと思います。今回、新宿フレンズだけで4人もの人が移送によって救われましたが、忘れてならないのは移送は誰がやるのか、誰が行うのが適当なのか、も今後考えるべきことであろうと思います。

 お話いただいた皆さま、ご出席の皆様、本日はありがとうございました。

                                            以上 

移送に関係した法律

精神保健福祉法 第二十九条の二 都道府県知事は、第二十九条第一項又は前条第一項の規定による入院措置を採ろうとする精神障害者を、当該入院措置に係る病院に移送しなければならない。

2 都道府県知事は、前項の規定により移送を行う場合においては、当該精神障害者に対し、当該移送を行う旨その他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 時候の挨拶はカット。今号の西田先生の「イギリスの早期支援・家族支援」の話には驚きと羨望の渦であった。イギリス政府は「これまでの家族への対応を謝罪し、政策的に家族支援を重視する」と行政が間違いを認め、今後やるべきことを打ち出している、という。

 私たち日本においてはどうだろうか。自立支援法、心神喪失者医療観察法案、次々と精神障害者を締め付ける政策がとられている。予算がないと言い、障害者の助成を応益負担とし、箱もの行政にはジャブジャブ予算をつぎ込み、居酒屋タクシーという考えもつかない金の使い方をしている。

 「家族支援」という言葉の意味が当初不明であった。これも日本では想像すらできない政策である。イギリスでは「家族ももう一人の当事者である」というとらえ方である。個人的には私自身そう解釈していたが、政府がそのように対策を考えているというのは、精神障害者を取り巻く全体としての政策であることを感じる。患者と家族は一体である。時として患者と家族は対立するが、その真の問題はひとつである。

 しかし、イギリスに後れを取っているのは政府だけではない。我々家族も遅れている。「統合失調症患者と家族の毎日の生活がオープンに掲載され、患者を抱える家族が、社会的に孤立した状況の中で日々、想像を絶する苦労・困難を抱えていることが明らかにされました。」・・・イギリスの家族もがんばっている。そしてRethinkができた。日本でも我々の実態をどんどんオープンにして、一般に訴えていく必要があるように思う。