施設のあるべき姿 ~精神障害者共同作業所の歴史と今後~

9月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会 講師 共同作業所「Crazy Cats」施設長 戸島 大樹さん

ホームページでの表示について

【理想の作業所を求めて】
 「理想の作業所」というテーマをいただきましたが、本当は作業所がなくてもいい状態が理想ではないかと思います。施設のあるべき姿は私たちにとって社会のあってほしい姿とつながっており、社会が障害者や家族にとって望む姿になっていれば、施設は必要ないはずです。ただ、現実には、そのように、施設がないところで精神障害を持つ方が暮らしていけるかという話になりますが、例えばベルギーのキールという地域共同体では、かなり古い時代に、医療機関や福祉のサービスがない中で地域住人が精神障害者を里親として引き受けていくという社会の在り方もありました。ですが、日本の現状を考えると夢物語のような遠い話です。
 そして作業所だから「作業」が当たり前という感じから、徐々に「メンバーが地域に暮らせるよう支援をする場所」に変わってきました。生活上の相談や通院・入院の付き添い等の支援が作業所に求められましたが、メンバーの様々な特性や傾向を理解しながら支援ができる場所は、当時は他にありませんでした。地域の保健師さんも頑張っていますが、何万人もの担当では物理的に厳しい。作業所は当時でも30人くらいのメンバーに対して3人ほどのスタッフでしたから、当然メンバーも頼ります。そして作業を中心としない作業所は「居場所」という言葉で語られるようになりましたが、私はこの言葉があまり好きではありません。そこで起こっている様々な活動や人とのやり取りも含めると、「居場所」という一言では表現しきれないからです。

【作業所活動の事業展開】
 作業所活動が10~20年続く中で、1999年に社会福祉法が成立、精神障害者地域生活支援センターが制度化され、2000年には小規模通所授産施設が制度化されます。実は90年代当時、社会福祉基礎構造改革という、国が21世紀に向けての社会福祉制度の在り方を根本的に考え直すという流れがありました。
 その結果、2006年に障害者自立支援法が施行されました。利用者(メンバー)の「応益負担」と事業者への「出来高払い」という形に大きく変わったわけですが、この事実の裏には大きな考え方の転換がありました。まず、それまでは障害者や高齢者などの、いわゆる社会的弱者は、必要に応じてある意味有無を言わせず、何らかの「保護」をするという考え方がありました。場合によっては国が強制的にその方の行動を制限することも含め保護をする。
 今後の運営は自立支援法の給付事業に移行した場合、その一年が終わった時点で何人来ていたかによる出来高払いになります。安定した運営ができなければ十分なサービスが提供できなくなります。ある程度計算が立つような給付事業体系を国に考えてもらいたい。もし作業所のままならば、今は都の「包括補助」という形で他障害の福祉にかかわるものと全部一緒にまとめられて都から補助が出ますが、補助額が下がると言われています。どちらにしても非常に厳しいのが現状です。
 
【作業所のタイプ】
 作業所の成り立ちについて分類すると、運営主体が家族会のものは家族会として運営、またはご家族を含んだ運営委員会方式になっている所もあります。運営主体が医療や福祉従事者の場合もあり、医療福祉従事者が病院の横に作った作業所も当てはまります。本来精神保健には関わりのなかった方たちが市民活動をする中で作り上げたものもあります。
 これらの考え方が一方にふれた時期がこれまでにありました。特に多元主義は80年代後半から90年代にかけてもてはやされました。ですが実際に精神障害を持つ人たちが町に多く暮らせているかというと、そうではありません。今再び障害を持つ人がそのできる範囲で能力を生かし、障害を持たない人と暮らせるようにしていこう、障害を持たない人たちも「共生」という価値観を持つことが大切といわれています。

【地域に開かれた場を】
 Crazy Catsは1996年、ちょうど地域生活支援センターが国で制度化された時に開設しました。最初は作業所でやるのか生活支援センターでやるのか迷いましたが、結局、できたばかりの制度に乗るよりもある程度積み重ねてきた都の制度で始めてみようと、共同作業所として始まっています。
 作業所と言っても開設時に掲げたのは、就労以外の社会参加というテーマです。当時は就労を目指す作業所が増えてきていて、逆にそれをあえてしないところが減っていました。就労に至る過程やハードルの高さを考えると非常に時間がかかるし、30人の作業所の利用者の中で、就労で社会参加できるのは年に1人いるかいないかです。

【音楽を通した人間関係】
 なぜ音楽か。うちでは音楽家になってもらうために作業所をやっているわけではありません。私は「にゃんこの館」の職員時代に、墨田区のユニーククラブという作業所を拠点にしつつ、作業所の事業には含まれてなかったバンド活動に、ひょんなことから参加しました。私は他の施設の職員ではあっても、そのバンドでは、ただのべーシスト。作業所の職員のつもりはなく、ある程度の距離をとりながらお互いにやりたいことをやるために参加しているという体験をしました。
 音楽でかかわった人たちがたまたま 病気を持っていたけれど、自分が変にサポーティブ(過干渉)になりすぎることもなく、かといって無関心でもないというような関係ができて、それがその人にとってよい風に働くことを感じました。当事者が支援をされるばかりではなく、普通の対等な人間関係も入れていくことで、その人が見違えるように変わっていくことを体験しました。
 そこで初めて、作業所でありながら作業をやっていなかったCrazy Catsに仕事を取り入れました。今までやってきた活動を考えるとライブハウスをやることが手っ取り早かったため、2006年からライブハウス事業を開始しました。今までと違うのは、いろんな人が出入りするサロンという位置づけから、店員として働くメンバーさんと出演者、何度も来てくれるお客さんとの関係が新しくできることです。Crazy Catsの趣旨を理解して繰り返し出演してくれる人はメンバーさんも覚えて、ほかのライブハウスへの出演の時には、お金を払って見に行くのです。個人の中での活動性が高まっているという点で、ライブハウスの仕事を始めてよかったと思っています。
 皆さんもぜひ一度、Crazy Catsのライブにいらしてください。

【質疑応答】
Q(Crazy Cats利用の家族):息子が4年ほど前に好きな音楽をやりたいと言い出し、また、精神障害者が外に出るのにいい所がないかと探していたところ、Crazy Catsの話を聞きました。息子に伝えると一人で登録をしてきて、今日に至ります。最近は就職したのでCrazy Catsの活動そのものは減りましたが、メンバーとして籍は残っています。なかなか人前に立つことができない息子でしたが、Crazy Catsの「こんとん」のコンサートの最初に必ず朗読の時間があって、自分で選んだ文章を朗読します。そのバックに他のメンバーさんが適当な楽器演奏を入れると、そのコラボレーションは絶妙なムードを作り出します。非常に素晴らしい時間です。この経験で息子は人前に立つことにで自信が持てたと思います。開放感や、やってよかったという充実感、達成感が持てたのではないでしょうか。感謝してます。
 そこで質問ですが、まだ家に引きこもっている方がたくさんいると思いますが、作業所からそのような人たちへのアプローチにはどんなものがあるでしょうか?
A:作業所や保健所やデイケアに通っている方は一握りで、多くはご自宅での生活を余儀なくされています。それで状態が良くなるのであれば無理に出てくることもないのですが…。私たちは単に働くということだけではなく地域社会の中で生きている実感を持てる形を模索しています。一方で、ある先生が、「豊かな自閉」として、家にいる時期も必要だと言っています。
 「豊かな自閉」の時期も過ぎ、それでも道が見えない人たちに対しては、訪問活動をしていくアウトリーチ(手をさし伸べること)が広がりつつあります。制度化されたのはごく最近ですが、資金の裏付けができると、それを仕事として行う事業所が増えてくると思います。
 Crazy Catsはかなり間口を広げたほうだと思います。それは、うちは診断書も保健師の紹介もいらず、当人1人で来ても登録可能だったからです。今は施設管理の問題で少し変えましたが、当時はとにかく来たい方に来てもらって、来るもの拒まず、去る者はちょっと追う(笑い)、という形でした。その結果、当時は35人くらい登録があって、数ヵ月の間に10人ほど登録されたこともありました。インターネットの力もありました。うちのホームページ(HP)は一日で読み終わらないくらい膨大なもので、お遊びの部分あり、施設内の人にだけ伝わるものもわざわざ載せていました。それをネットで見て通いたいと言ってくれた人がたくさんいて、HPは外に出るきっかけを作りますね。

Q:自立支援法になってからの通所エリアについて、規則も含めて教えて下さい。
A:世田谷区内には通所施設が20何か所かあり、周辺区は少ないため、区外利用者の率が高いので地域性も考慮してほしいです。来年は家賃カットの話が出ると思い、私たちは区内利用者登録を増やそうとしたら、人がどんどん減りました。ですから就労継続支援B型への移行と共に、出席人数を増やして、家賃減額の埋め合わせができればと思っています。

Q:区外参加の方も人数に入れることは難しいのですか?
A:どこに住んでいても国からの基本給付は出ます。最近思うのは自立支援法になって全国どこでも地域差なくサービスが利用できるのかと思ったら、逆に地域格差がどんどん広がっています。給付額は同じでも東京と田舎ではかかる費用が違います。地方では大きな物件を安く借りられますが、都心では難しい。授産施設が地方に多くて東京に少ないことの理由です。ちなみに就労継続支援事業(B型)では、20人以上40人未満のところは基本給付が都内でなくても一日4810円です。

Q:通所してくる人数を、区が整えることはしないのですか?
A:世田谷区の場合、就労継続支援事業を管轄しているのは障害者地域支援課ですが、直接当事者と関わりがなく、関わるのは保健所などです。作業所に関する情報提供はしても、人数を補填する義務は行政にはありません。

Q:病院や作業所で何年も過ごすケースが多いですが、退院時に作業所や就労支援センターを紹介することを、国はさぼっていると思うのですが、いかがでしょう。
A:閉じこもっている人の掘り起こしは保健師の役目ですが、人数が不足しています。地域保健法により保健所組織の規模が縮小され、保健師の仕事が大変になったのです。世田谷区は頑張っていると思います。
 今はインターネットが有効な手段ですが、そこに手が届かない方も、作業所を知らない方もたくさんいるでしょうし、入院中に看護師などから聞くことがあっても選ばない人もいます。困るのはどう見ても必要な人が拒否するケースで、精神障害者の中には福祉サービスに対して拒絶的な人もいる点が一番難しいです。強制してもうまくいきませんし、根気よく付き合っても年に1~2人作業所につながればいいという感じです。
Q:うちの子が通っている病院の医者は、作業所に反対です。
A:「今の状態が作業所に向かない」という意味かもしれません。社会資源を利用するにあたって病状がどうなのかはよく聞いたほうがいいと思います。
 ただ、作業所を見にきたことのある精神科医は大変少ないです。作業所は素人だと思っている医者もいるようですが、ほとんどの場合、精神保健福祉士という専門家がいます。社会資源について誤解があるようなら、医師にどうしてそう思うかを聞き、その話に筋が通っているか考えて下さい。家族も当人も、実際にいろんな作業所を見た上で、向いている場所を探していただきたいです。
                                  --了--

★Crazy Catsについてもっとお知りになりたい方は、
http://www.crazycats.org/world/pr.html 
または「Crazy Cats」で検索

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 民主党政権になって約1か月。様々なところで改革が始まっている。選挙前、自民党総裁が言っていた。「民主党は政権取った経験がない。だから、政治が行えない!」と。確かに民主党は自民党と同じ政治は行えなかった。国民は自民党の政治に辟易して、これまでとは違う政治を望んでいたのだ。

 そんな中、我が新宿フレンズの前身・新宿家族会が設立したムツミ第1作業所が自立支援法の煽りで9月末日、24年の歴史をもって閉鎖した。皮肉なことにこの閉鎖と前後して、長妻厚労大臣より自立支援法の廃止が明言された。これも運命の成せることと認めざるを得ないことなのか。

 そして、当会では9月、世田谷区のCrazy Cats施設長・戸島大樹さんに「これからの作業所」といった講演をお願いした。

 Crazy Catsは音楽作業所として、また、戸島さん自らも認める変わった作業所として開所当時より話題を呼んでいた。今回、直接お話をお聞きして、当時より真の施設のあり方を模索する施設であったことが理解できた。

 精神障害と音楽とはどのような関係があるのだろうか。家族会活動の中で、うちの子はギターをやている、うちはピアノ、うちはドラムといった声をよく聞く。あるいは絵画を得意とする人もいる。つまり、これらアートのジャンルに関係した行為が精神障害を生むのか、逆に障害ゆえにアートの世界に入って行くのか。

 小生の浅薄な知恵から察するに、ドーパミンの異常はアート(芸)の達成の要素ではないだろうか。少なくともアートを成し遂げにドーパミンが関係しているのは事実だ。