多職種チームによる地域ケア
新宿区後援事業 新宿フレンズ 4月定例会 講演会
講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 辻野尚久先生
【家族もチームの一員に】
多(他)職種チームとは、多くの職種の人々と、一緒に治療をしていくことです。精神疾患で悩まれている当事者と医師だけの治療関係だけでは、当事者のさまざまなニーズに応えていくには限界があるため、このように多職種が関わっていくことがより望ましいと考えられます。
【家族のニーズ】
「当事者・家族が医療に何を求めているのか」というアンケート(西田淳志ら.臨床精神医学 40:47-54,2011より)があります。
・診察時間が5分程度で十分に話を聞いてもらえず、説明もしてもらえない。
・病気の症状や薬剤調整だけでなく、認知行動療法、就労支援など心理・社会的な治療や支援、生活の中の困りごと、仕事や将来のことを相談したい。
・家族の心配を受けとめてもらえず、不安を訴えると、高EE(感情表出の激しい)家族、ダメな家族とレッテルを貼られ、相談すればするほどマイナスに捉えられてしまう。
・自分の困っていることを相談しても、医師から「それは医療の範疇ではない」、福祉士には「それは福祉の範疇ではない」と、たらい回しにされる。
・保健・医療・福祉などの機関の連携が必要になったとき、結局は家族がそれぞれのところに出向いて、家族が調整しなくてはならない。
ざっと意見をまとめると、医療・福祉のサービスがバラバラと感じている。チーム医療は当事者を中心に、治療者側と家族が一緒になって協力することで、家族・当事者が感じている不自由さを解決していけるのではないかと思います。
訪問医療の必要性もアンケート回答の中から読み取れます。
・「本人が来なければ」と言われて、医療につなげるまでに何年もかかってしまった。
・ひきこもりでどうしてよいか分からないまま、家族だけで様子を見ていた。専門家に本人の様子を知ってもらえる機会がない。
・急激に症状が悪化したとき、どうやって医療機関に連れて行けばよいのか分からない。
・調子が悪いと外に出られず病院に行けないので、必要なときに治療や支援が受けられない。
・救急で当直の医療機関に連絡すると一から病状を説明せねばならない。サービスに直接つながるホットラインが必要だ。
・家まで来てもらえると、普段の暮らしぶりや部屋の様子、整理整頓されているのか散らかっているのかまで直接見てもらえるメリットがあり、落ち着いて相談できる。病院で白衣の医者の前では安心して話が出来ない。
・兄弟でも遠方に住んでいると、当事者の様子を見に行けない。訪問して日常生活を見守ってくれる専門家がほしい。
・アウトリーチ(訪問型医療)で、地域で孤立する当事者や家族に必要な支援を、迅速に届けてほしい。
・地域の社会資源に詳しく、当事者や家族の気持ちが分かる高度な能力を持つ専門家に来てほしい。家族の話も聞かずに、指導という立場で「ああしろ、こうしろ」と指示だけされても困る。
これらの要求に応えようと、現在の精神科サービスの流れは、「サービスセンタード(サービス中心)」ではなく、「パーソンセンタード(人間中心)」、本人・当事者中心に考えようという方向になっています。
【OTP-地域で精神科治療をする】
この当事者中心の考えをもとに開発された統合型地域精神科治療プログラム:OTP(Optimal Treatment Project)を紹介します。
1.当事者・介護者・家族、双方についての生物医学的・心理社会両面からの持続的・包括的なアセスメント評価
2.服薬管理や早期警告サインについての教育や訓練を伴った理想的用量の向精神薬の処方
3.当事者や援助者(家族)に、精神障害の病態・生理や治療についての心理教育(psych education)
4.あらゆるストレスへの対処の助けとなる問題解決能力の強化
5.対人交流、就業、地域社会での生活などに役立つ生活技能訓練(SST)
6.解決されていない個別の問題、たとえば陽性・陰性症状、不安、抑うつ気分、怒りの管理、睡眠障害などに対する、特異的な生物医学的・心理社会的治療戦略を立てる
7.多職種からなるチームに家族を加え、各ケースに至適なプログラムを展開する
【OTP導入の流れ】
1.現在の問題点をあげ、共有する
往々にして主治医が考えている問題点と、家族や本人が考えている問題点に差があることが少なくありません。主治医は「陽性症状が活発なこと」が問題と感じているかもしれませんが、本人や家族にとっては「どうやったら電話がかけられるのか」を問題と感じているかもしれない。主治医と家族と本人が考えている問題点が合わないと、治療の方針も変わってきてしまいます。
2.当事者、家族がOTPに期待することを確認
問題点を確認した上で、「当事者と家族がどのような援助を期待しているか」を確認します。OTPでは、
1) 利用者とその家族(援助者)の定期的面接による相談、支援、教育的介入をしていく。
2) 利用者のニーズに合った地域の社会資源の情報を伝える。
3) 利用者に必要な地域の社会資源との連携(コーディネーション)を図る。この人は今デイケアが必要なのか、それとも作業所か、アルバイトを探すのがいいのか、見当をつけて実際に見つけてつなげる。
4) 24時間の危機介入サービス。いつ具合が悪くなるかは予想できず、病院が開いている日中の時間だけではない。休日や夜中に具合が悪くなったときに、気軽に相談できるサービスを提供する。
5) 多職種チームにより利用者の生物学的・心理社会的アセスメントといったサービスが提供される。いろいろな側面から本人・家族のニーズを探していく。
3.主治医がOTPに期待すること
日常の外来の診察で各当事者に毎回1時間以上の時間が取れるならいいですが、なかなか上手くいきません。栄養面は栄養士に指導を、デイケアやサービスの利用など福祉はケースワーカーに介入してほしいなどと、多職種の介入を医師も期待しています。
4.チームと主治医の連携、情報の共有
OTP開始後、チームと主治医がどのような形で情報を共有していくかについて、その連携要領を話し合います。
OTPの特徴は、チーム全員の精神医療に対する知識に偏りを少なくすることが大切です。「私は栄養士だから薬は知りません」「私は薬剤師だから栄養管理は知りません」ではなくて、栄養士でも薬について質問されたらある程度答えられるように、薬剤師も栄養管理の必要性と指導内容を知っておくなど、専門家になる必要はないが知識は共有しておきます。
5.緊急時の24時間対応
OTPでは、緊急時には24時間いつでも連絡がとれるような体制がとられています。もしチームが緊急事態と判断した場合、どのような対応をとるべきかについて、あらかじめ主治医の意見を伝え、対処方法を話し合って対応できるようにしておきます。
【OTPの特徴的な工夫】
1.家族単位の実施
何より大きなOTPの構造上の工夫は、家族単位で実施することです。同じ病気の人を集めて全体的に対応するのではなくて、当事者とその家族を一単位として、多職種チームでサービスを提供していくことです。
2.家族全員参加の原則
家族みんなに参加してもらい、一人一人が当事者の悩みに対応し、最も身近な治療のスペシャリストになってもらいます。
3.自宅訪問の原則
日常生活での問題は、実際の場面を見た方が良く分かるので、自宅に行って、本人の具合を見てアドバイスしたほうが有効なことが少なくありません。
4.緊急介入できる
具合が悪くなった時に、24時間対応できることは、大きなメリットです。
【積極的な傾聴(アクティブ・リスニング)が重要】
OTPに取り入れられている治療方法、対処(アプローチ)のなかで、最も重要な方法として、積極的な傾聴(アクティブ・リスニング)があります。本人の訴えていることをより詳しく親身になって聞くことです。
1.相手をよく見ること、相手の傍で聴くこと
2.相手が話すことに注意を向ける
3. 話の内容をさらにはっきりさせるために質問をする
4.聴きたいことを理解できたか、十分にチェックする
【問題解決技法の実際】
1.問題点や目標を明らかにする
2.あらゆる可能な解決方法をリストアップする
3.リストアップした全ての意見の利点と欠点について検討する
4.最も実際的な解決方法を選ぶ
5.きめ細かい計画を立てる
6.計画の進行状況を振り返り、評価する
以上、簡単な例としてあげましたが、いろいろな問題点をこのように解決に導いていきます。
【再発の早期警告サインを知る】
残念ながら、病気をぶり返す人は少なくありません。いきなり具合が悪くなる人もいますが、ほとんどの人は何らかの前兆があります。発症や以前の再発した時を振り返り、その人なりのサインを見つけておくと、再発を予防できます。
家族を含む多職種チームで、こうしたサインを検討して、「早期警告サイン」を書いたカードを作ります。病院名、医師名などの連絡先や電話番号もあらかじめ書いておけば、何かあったらそのカードを見て、家族や当人がすぐに対処できます。こういう工夫をすることで再発を予防します。
【地域で展開する精神医療・保健福祉サービス】
地域サービスで重要なものとして4つのAがあります。
1.Accessibility:利便性
2.Acceptability:受容性
3.Accountability:説明責任性
4.Adaptability:適応性
各障害のさまざまな時期やニーズに応じることができ、本人の変化や地域のニーズの変化に対応して、治療内容もサービスも適応していけることが重要です。
(参考資料『精神科地域ケアの新展開―OTPの理論と実際』水野雅文・佐久間啓・村上雅昭)
-了-
平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について
新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。
新宿家族会へのお誘い
新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法
あれから約2カ月。しかし、魚の漁も、畑も、そして原発も、何にも解決していない。日本の姿、形も変えてしまったような気がする今回の大震災である。我々一般も今後、日本はどうなるのか、いや専門家でも分からないであろうと思う。大変なことである。
と、そんなことを考えている時、辻野先生から多職種チームによる地域ケアについてお話を伺った。その中で、本人の介護の方法があった。1番から4番まで。そしてその解決の方法として1番から6番まで述べている。
果たして、その方法とは。積極的傾聴が大事だと先生は述べたれた。本人はまさに症状から両親に訴えたえているのである。それがたとえくだらないと思えても、「なるほど」「そうなんだ」と目を見て答えると、アドバイスを加える。
我々はつい病気を持った子が訴えて来ても、「ふんふん」「あぁ、そうなんだ」と目はテレビや料理を作る方に向いている。そして本人の気持など全く理解していない。かく言う私もその手だが、それでいて本人が再発した時は「どうした」「何か欲しいものはないのか」と良心ぶるのである。
最後に、「早期警告サイン」を書いたカードを作るといいとしている。病院名、医師名などの連絡先や電話番号をあらかじめ書いておく。そして、家族などがすぐに対処する。
なかなかいいアイデアだ。こうしたカードを作りは何も多職種チームでなくても通用する。横浜のある家族会で始めたそうな。我々新宿フレンズでもすぐに始められそうな話である。我々は常に誰かやるまで手をこまねているが、それをやるにのはあなたです。 嵜