当事者として生きる~家族に望むこと・年金について~ 

新宿区後援・3月新宿フレンズ講演会
石山勲さん(当事者グループみつば会所属・作家・講演会講師)
倉田真奈美さん(福祉法人おあしす福祉会職員・WARPファシリテーター)

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服薬と病気の受容がポイント  石山勲さん

 私は29歳で統合失調症を発症し、保護室、閉鎖病棟、開放病棟と、3ヵ月入院しました。当時、私は社会保険庁に出向中、コンピュータのSEは締切りが近づくと徹夜は当たり前で睡眠時間が取れない。会社で倒れ、内科病院に入院し、薬を飲むと心臓が急に痛くなった。今思うと幻痛ですが、医師が強硬に服薬を勧めるので、勝手に2週間で退院してしまったのです。

 すると両親が医師と相談して、車で精神科に連れて行かれた。そこで処方された薬を飲むとやはり心臓が痛い。「この医師もおかしい」と服薬しませんでした。一週間後の通院時、「心臓が痛くなるから、この薬は飲めません」と20分くらい医師と口論していたら、看護師に抑え込まれて強制入院させられたのです。鍵をかけられ、トイレも一緒の狭い保護室で薬を飲まされ、食事も取る…。

 入院病棟では主治医が変わり、よく話を聞いてくれる人でした。それで「この医師は信頼できる、反抗すると拙い」と言うことを聞き、閉鎖病棟から出て雑居病棟に移り、薬の調整をして医師の許可を得、ようやく退院できました。まだ精神衛生法から保健法に変わる20数年前です。入院はこの3ヵ月だけで、通院・服薬を続けているので再入院はありません。

 その後、職場に復帰したのですが、新聞や本を読んでも記憶できない、会議も記憶に残らないので仕事にならない。1年半くらい頑張ったのですが、再発・再入院になるのではと自分で判断して退職しました。

 自信を失い「何かしないとこのままではダメになる」と、引きこもっても自分なりには焦っている。親はオドオドするばかり。当時、シナリオを書き映画を撮りたいという希望を持っていました。ある本に「好きなことをやったらいい」と。そこで閉鎖病棟の体験を本にしようと心に決めました。その酷さや幻聴の具合を2年半かけて書き、『幽閉』(萌文社1890円)を自費出版したのです。販売を全家連に託したら800部が売れ、再販になりました。

 それが自信になって、再発しないですんだ。自信がないと薬も通院も続かないし、回復にもつながらないと感じています。

【当事者からのアドバイス】

1)重要な服薬の継続
 大事なのは服薬の継続で、簡単なようで難しい。退院した頃は、薬を飲むと口渇や眠くて仕方がないから「薬を飲みたくない」と思う人が多いでしょう。しかし服薬を続けることで、だんだん軽くなって減薬でき、副作用も出なくなります。そして軽作業など徐々に社会生活もできるようになる。とにかく薬が重要なので、先生と相談しながら服薬の継続だけは守った方がいいです。

2)上手な診察の受け方
 適切な医師の指示が大事ですが、短い診療時間では難しいものがあります。メモを用意して要領よく質問したり手紙を書いたり、場合によっては親と行くと医師も3分では打ち切れない。どんどん質問して、しっかり話を聞いてもらうことです。

3)本人・家族の「病気の受容」 
 本人も家族も「病気じゃないんだ」と思いたいんですよ。だけど病気の受容をすると、治り方も変わります。早く受容して医療を受け、家族の悩みも一緒に回復していくべきだと思います。

4)「社会資源」で友人・仲間づくり
 作業所や生活支援センターに行ける状況の人はなるべく行った方がいい。医師や家族の話では病気に納得できなくても、仲間の「この症状、きついんだよな」などの話を聞き、その症状が自分と一致して、初めて「私は統合失調症なんだ。治療が必要なんだ」と受容できることもあるのです。これは大きいことですよね。

【家族の接し方】
 私の著書『精神保健・医療・福祉の正しい理解のために~当事者からのメッセージ』(萌文社1470円)に書いてある項目をお知らせしたいと思います。

1)肯定的な話の聞き方を心がける。否定的だと拒絶する。なるべく本人の話は聞いてあげて下さい。

2)自然体で話す。病気だからでなく、今までどおりに話して下さい。

3)本人のペースに合わせて話を聞く。

4)相手のプライバシーを守る。

5)対等な関係をこころがけ、本人の意思や選択を尊重する。

6)困っているところ、援助が必要なところを把握し、そこだけ援助する。自信を失くすとできるところもできなくなってしまうが、要は本人もすべてがダメになったわけではなく、力が残っているところもあります。

7)小さなことでもできたことは評価し、大事にする。

8)すぐに答えや解決法を出そうとせずに、息の長いかかわり合いが大切。

9)援助者も息抜きが必要です。状況によっては旅行にいって留守を任せる等してみてもよいでしょう。皆さん家族の方も無理をしないで下さい。

10)気持ちの問題と現実の問題を分けて考える。常識的には無理なこと、現状の実力以上のことを実現可能と思い込んでいることもあります。たとえば「これから勉強して弁護士や医師や外交官の国家資格を取得する」といった相談もあるかもしれません。
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親も子供も元気に幸せに  

        倉田真奈美さん

 江東区のおあしす福祉会で職員をしています。また、講演会や、WRAP(Wellness Recovery Action Plan:元気回復行動プラン)のファシリテーター(facilitator:場を盛り上げる進行役)、皆さんの元気に役立つトークを紹介する仕事をしています。

【WRAPとIPSと彼との出会い】

 私は22歳でOLの時に、親や恋人とうまく行かなかったり、いじめやいろいろなことが重なって発症しました。かれこれ20年になります。

 最初の頃は、薬は飲まない、病院には行かないで、病気のことを分かろうともせず、仕事に就いては再発して辞め、病気に振り回されていました。長い間さんざん薬を飲み、入院も10回ぐらいしています。救急車ばかり乗って、ICUに入って医療を消費していました。だけど治らなかった。

 お医者さんに丸投げして、「親のせいだ」と言ってるうちは、どんなにいいお薬も、一番いいと言われている医者にかかっても、全然治らなかったのです。ほんの少し前まで、本当に調子が悪く、幻覚・幻聴もひどかった。本当に手の付けられない精神障碍者だったんですよ。

 でも「元気になりたい」という意思を持った時に、回復に向かいました。自分で「自分の人生を何とかしてやろうじゃないか」という思いが出てきたときが大事です。ここ10年くらい、ちゃんと通院して薬も飲んでいます。

 WRAPでは元気でいるために、たとえば夏は脱水症状が怖いのでお茶を持ち歩いたり、疲れたときはお香を焚いて気分をリフレッシュしたり、CDを聞いてリラックスして自分を労わったり、美味しい食べ物、あまり食べるとデブになるのでちょいちょい楽しんだり、元気になるための自分にいいことを一杯します。

 そして少しずつ回復して仕事に就いたり、こうやって人前でお話ができるまでになりました。もちろん、具合の悪いときも、調子の波もあります。私は統合失調感情障害なのでアップダウンが激しくて、今日も講演会が終わった後はのびちゃうけど、それもアリかと思います。

 こんなに元気になったのは、WRAPと、人間関係の相互性やつながり、パワーなどを、ロールプレイを通して体感して学ぶIPS(Intentional peer support:意図的なピアサポート)を実践したのと、婚約者と出会ったおかげです。やっぱりね、最後は人の力です。

【当事者と親の老後】
 私の両親は、地方住まいの年金暮らしで、膝も腰も痛いとかで買い物に行くのも大変。私は親の老後が心配なのに、「病人に見てもらう筋合いはない。自分たちでやるから」って強がっているんです。

 ここに勉強にきている親御さん達は偉いと思うんですよ。家族のためですよね。ところで皆さん、老後は精神病の子供に見てほしいですか? そんなこと思いもしませんか。

【なりたい自分をノートに書く】
 ご家族の皆さん方は幸せですか。産んでよかったですか? 私自身は「生まれてよかった!」と思います。なぜかというと「何か少しは人のお役にたっているんじゃないかな」と、最近やっと思えるようになってきたんです。自殺未遂を何回もしたけれど「生き延びてよかった、幸せになれた」と思えます。
 「デス・ノート」ってご存知ですか? 名前を書くとその人が死んでしまうって怖い話ですけれど、私は「マミ・ノート」を作って、「なりたい自分」を書いていく。するとそれが実現するっていうイメージなんです。こうありたい自分、自分の人生を取り戻していく作業は、当事者には必要なことだと思います。

【幸せの形はいろいろ】
 私は故郷で2回目の離婚をして、親に「常識を知れ」と言われ、「3回目の彼氏と付き合う」と言ったら、「もうお前は知らん」と…故郷の親は、病気の私しか知らない。こんな幸せで元気になった私を知らないんです。いつか機会があったら、元気な姿をビデオに撮ってもらって、親に届けたいと思います。
 私は親に「障碍者でも自活しなさい」と言われていたので、こんなに自立心旺盛な障碍者になって、結婚も2回失敗したけれど、懲りずにまた結婚します。牧師さんと彼と3人だけで挙式する予定ですが、結婚式に親が来なくても喜んでくれているかな、形にとらわれない幸せもあると思っています。
 家族の皆さん、子供のために親が元気になって下さい。子供のために親が犠牲になる必要もない、親のために子供が犠牲になる必要もない。皆それぞれの幸せがあっていい。親も子供も自分を労わって自分を大事にして、元気に幸せになっていこうではありませんか。
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障害年金の高齢者問題について       

                 石山勲さん

【障害年金を受けるには】
 障害年金を受給できるのは、初診日が20歳前で障害基準が2級以上の方。20歳以降に初診日があった人は、20歳から起算して、その初診日まで3分の2以上の保険料を納付か免除を受けている方、または初診日から起算して、直近で1年以上納付しているか免除をされている方は、障害基準が国民年金なら2級以上、厚生年金・共済年金なら3級以上に合致していれば障害年金が受給できます。
 障害年金の制度は、65歳までに診断書を出すと受理されて「あなたは何級です」と通知が来て年金がもらえます。定期的に診断書の提出があり、級に変更がなければ「次回の提出日はいつです」という葉書が来て、同じ級数で認定されたということになります。ですから日本年金機構からのハガキは捨てないで、保存しておいてください。
 次回の診断書の提出日の前には、医師にちゃんと話しておくことが大事です。「年金の診断書を書いてください」と急に言うのでなく、普段の診察時から困っていることなどを話して、年金に反映するようにしておきます。
 国民年金の場合は、1級はかなり状態の悪い入院中のレベルの人、2級は自宅にいる人や作業所に通う人。厚生年金や共済年金も1級2級はほぼ同様で、3級は若干働けるけれど障害がある場合です。問題なのは「2級や3級に該当しない」となった時には、障害年金をもらえなくなることです。

【障害年金か老齢年金か】
 現在の年金制度は、65歳になると障害年金か老齢年金かを選択しなければなりません。通常は障害年金のほうが非課税で良いのですが、人によっては勤務期間が長くて老齢年金が多い人もいるかもしれませんので確認して下さい。
 問題なのは、65歳前に障害認定されなくなった場合です。最近薬が良くなって、障害の級数が落ちている傾向が多く、喜ばしいことなのですが「障害年金はもらえません」となってしまう。障害認定されないと、それまで保険料を「法定免除」されていた場合、65歳以上は、ごくわずかな老齢年金の額しかもらえなくなるのです。
 社会保険労務士のホームページでは、国民年金保険料は払っておいたほうが無難ですとありました。もしお金に余裕があれば払っておくか、65歳以上も障害年金が続くとその保険料は無駄になるので、その分を貯金しておくといいでしょう。           ~了~

  質疑応答は省略

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 一気に春になった。日に日にあたたかくなり、服を一枚、一枚脱いで出勤するようである。そんな、うつらうつらする陽気の中、久しぶりに当事者からの体験談とガイドをいただいた。石山さんと倉田さんだ。テーマは家族に望むことである。

 石山さんは以前にもお話を伺い、その話はCDとなって新宿フレンズから販売されている。テーマは「地域社会に一歩踏み出すには」だったが、当事者へのアドバイスとして人気があった。  

 今回は「家族に望むこと」。二人とも縷々、家族に対して述べているが、倉田さんも同じことを言っている。つまり、石山さんは「援助者も息抜きが必要である。家族の皆さんも無理しないでほしい」。そして、倉田さんは「子供のために親が元気になってくれ。親も子供も自分を労わって、元気に幸せになってくれ」と。

 このことは大事なことのようである。どうしても親は我が子のこととなると、一言、あるいは一つの動作が多くなってしまう。それも分かるのだが、それを止める勇気を持つ訓練が必要であろう。

 つまり、我が子は成人であることをしっかり認識すべきある。若いお母さん方からの多くの質問は「いくら言っても言うことを聞かない」と言った悩みだ。実は私も当初そうだった。そして挙句に親が爆発し、それは当事者である我が子も暴走に至る。その繰り返しだった。

 倉田さんによると、当事者は親の老後を見る役割を負わされている現実を語った。そんな時、親子がお互いに自らの弱い部分を語り合い、ハッピーになって欲しいと。我々ももう眼前にその時が来ている。家族とは難しい。