精神障害者を対象にした障害年金を学ぶ

新宿区後援・11月新宿フレンズ講演会
講師 社会保険労務士 山下律子さん

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【初診日が大切―厚生年金と国民年金の違い】

 障害年金に特化した「山下ねんきん相談室」を、5年前から私1人で運営しています。それまではある区役所の職員として国民年金課等に所属していました。

 障害年金は福祉ではなく、社会保険制度の中に位置づけられています。年金は20歳から加入することになっていて、国民年金・厚生年金・共済年金の3つの制度があります。私の例でいえば、最初に民間会社で厚生年金3年間、区役所で共済年金29年間、退職後は国民年金と、各制度の年金を体験しました。皆さんには、まず自分がどの年金制度に加入しているかを知っていただきたいと思います。

 どういう人がどの保険に入るのか大雑把にいえば、厚生年金は会社勤めの人が入ります。国民年金は自営業の人が主、よくイラストで魚屋さんや八百屋さんで表されていますね。共済年金は公務員や教員がほとんどです。
 障害年金は、その人の病気の「初診日」に加入していた制度の年金から支給されます。
 障害年金で、皆さんに一番知って戴きたい重要なことは「初診日」です。初診日がどこにあるかによって、いろんな状況が大きく変わってきます。もし会社員で厚生年金のときに心療内科や精神科にかかり、その後仕事を辞めて国民年金に移っていても、障害年金は厚生年金から出ます。反対に、現在は厚生年金に加入している人でも、勤め始めた当初はアルバイトとして国民年金加入、その期間に心療内科を受診、その後具合が良くなって正社員として就職して厚生年金になったけれど、また傷病が悪化してしまった。その方が障害年金を申請した場合は、今どんなに悪くても初診日が国民年金なら、国民年金の障害年金しか出ません。

【年金受給に必要な要件3つ】
 要件は3つありますが、ここでも重要なことは、やはり初診日です。

1)資格要件
 冒頭で、「障害年金は加入している年金制度から支給される」と申し上げました。それでは、年金に加入していない20歳前、たとえば出生と同時に知的や身体に障害を負っていた場合、障害年金は受給できないでしょうか。受給できます。これは20歳前障害年金という名前で規定されています。この例の場合、支給されるのは国民年金の障害年金、つまり障害基礎年金になります。
 統合失調症の好発年齢は17歳~25歳という説があります。1例として、17歳の子が「何かヘンな声が聞こえる」と耳鼻科へ行き異常なし、内科へも行ったが異常がないといわれた。その後、落ち着いて通院・服薬もなく経過したが、成人して会社に入り仕事を始めてから発症して病院へ行った。この場合初診日はどこでしょうか。この例のように途中で切れている場合、「社会的治癒」という論法を私たちは使います。初診日は17歳の時にあるが、その後平穏な生活を送れて、いったん社会的に治癒していたから、厚生年金に加入していた時を初診日とみなし、障害厚生年金として請求します。

2)納付要件
 ちゃんと年金を納めているかどうかです。簡単に言えば、初診日の前日に、3分の2要件あるいは直近1年要件をみたしているかどうかが重要です。
 納付要件については、これだけで数時間のセミナーが必要になるくらい複雑な問題を含んでいます。なので、今日は簡単にしかふれませんが、いくつか注意して頂きたいことがあります。それは、「納付していないとダメ」と思い込んでいる方がまだいらっしゃることです。加入期間のなかには、「納付しなくても支障がない期間」もあります。また、免除期間も問題ありません。ただし、一部免除の場合は納付すべき保険料を納付していないと滞納扱いになるので、注意が必要です。

3)程度要件
 今までお話した資格要件と納付要件については、初診日がはっきりすれば、家族でも本人でも、きちんとつかめることです。難しいのは程度要件です。
 障害年金の請求をするとき、資格要件も納付要件も問題なければ、いよいよ医師に診断書を書いてもらうことになります。精神の障害は体の障害のように誰が検査をしても同じではなく、主治医と患者の関係や主治医自身のキャリア・情報・どの分野の病気が得意かなどで、診断書の内容が違ってくるという難しさがあります。
 国は認定基準を定めるとき、障害者枠で雇用されていてジョブコーチなどの保護的就労をしている場合、そのことをもって支給を止めることはしないといっています。ですが私は、これは「オ・モ・テ・ム・キ」の発言と感じています。現に知的・発達障害の多くの例で7~8万円のお給料で不支給になっています。審査請求をしてもなかなか通らず、私の案件でも再審査請求まで行って争っている事例が数件あります。
 障害年金の受給を可能にするためには、診断書の裏面の「日常生活の状況」がポイントになるところです。診断書に書いてもらう時は、自宅でどのように生活しているかをまとめて、医師に表わしてもらわなければなりません。主治医に、情報提供をきめ細かくすることが大切です。
 障害程度は客観的に測れないので、それを理解してくれる主治医に出会わないと、適切な診断書はなかなか出来ません。さらに、知的・発達障害の場合どんなに適切な診断書が作成されたとしても通らない事例が相次いでいます。発達障害第一人者の医師の診断書が通りません。その先生は、「認定医は統合失調症専門の医師が殆どで、そういう医師は薬を使う必要がないなら大した傷病ではない、と思っている。」と憤っていらっしゃるそうです。
 統合失調症・うつ病・双極性障害などの傷病と、知的障害・発達障害の認定に温度差はありますが、少しずつ全ての認定が厳しくなってきていることを実務家として感じています。
 診断書の作成を主治医にお願いする場合、自分の症状・日常生活の状況を明確に医師に伝えることが必要です。そのためにも自分の生活を見直して、どこがどう上手く行かないのかを整理しましょう。また、請求のためには「病歴申立書」が必要になります。この文書を作成するためにも発病してからの自分の記録と、24時間のタイム・スケジュールを確認しておくと良いと思います。思い出したり、書いたりすることが負担になる人は、家族や病院のケースワーカーさんに相談してみてください。請求のために病状が悪化しては本末転倒です。遠慮なく周囲の援助を受けてください。

【請求の方法と等級】

認定日請求と事後重症請求

 認定日とは、初診から1年半後を指します。認定日とは文字通り障害状況を認定する日です。その認定日に障害状況が1級から2級、厚生年金では1~3級に該当していることが診断書から分かると、請求の日から5年遡って受給が出来ます。
 例えば20歳で発症してすぐ病院へ行き、30歳までずっと症状が重かった人が請求する場合はどういう請求方法になるか。
 この方の認定日は20歳の初診日から1年半後になります。もし、その時点での症状が重かったなら、30歳の時に請求をしても、請求時点から遡って5年分の年金が受給できます。ただし、5年より以前の分は時効で消滅することになります。これが認定日請求です。
 本来は初診日から1年半後の認定日に診断書を出して請求するのが一番いいわけです。
 ただ、中には障害年金制度を知らないまま過ぎてしまう患者さんもいます。そういう方であっても、認定日の診断書が取れれば、あとからでも遡及しての請求は可能です。
 ただし、請求時点から5年以上前の年金は時効によって支給されません。
 しかし、もし認定日に症状が軽かった場合は、認定日の診断書をとっても障害程度に該当しないわけです。たとえば、20歳から1年半後は症状が軽くて30歳の時に症状が障害等級に該当していた場合です。この場合は、請求した翌月から年金が出ます。これが事後重症請求です。認定日請求か事後重症かは選ぶというより、認定日に症状がどうだったかによって違いが出てくるということです。
 病院のカルテ保存期間は基本的には5年です。複数の病院を数回の受診で中断してしまういわゆるドクター・ショッピングの方のカルテは保管されていない場合が多いです。
 反対にかなり古い記録でも入院したり継続して通院を続けているときは残っています。それでも、原則として保管期限は5年ですから、それ以前のカルテが残っていなくても抗議はできません。初診日の確認は勿論、カルテがなければ認定日請求は非常に困難です。今は請求しなくても、将来を見越してカルテ開示などをしておいたほうが賢明です】

障害等級

 年金の等級は、障害者手帳の等級とは違い、別の審査があります。精神の診断書には日常生活能力の程度を記載する欄があり、(1)~(5)の5段階になっています。

日常生活能力の程度

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(1)精神障害を認めるが社会生活は普通にできる

(2)精神障害を認め家庭内での日常生活は普通に出来るが、社会生活には援助が必要

(3)精神障害を認め家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要

(4)精神障害を認め日常生活における身の回りのことも、多くの援助が必要である

(5)精神障害を認め身の回りのことも殆どできないため、常時の援助が必要

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 非常に乱暴な言い方をすれば(5)が1級、(4) (3)が2級、(2)が3級程度となるのですが、最近の傾向は必ずしもそうはなっていません。特に、知的・発達障害の場合、(4)にチェックがついていても不支給になる事例が続いています。

そして、ここでも初診日が重要になってきます。厚生年金には1級から3級までありますが、国民年金には3級はありません。初診日が厚生年金保険なら3級が適用される可能性がありますが、国民年金保険では3級という等級はないのです。
 年金請求の手続きにどのくらいの時間がかかるかについてお話しします。請求に一番大事なのは診断書ですが、診断書作成を医師にお願いするためには、まず初診証明を取らなければならない。ハッキリと分かっている場合はいいのですが、初診証明をどの病院から取るかを決めるに1か月くらいかかることもあります。さらに医師に診断書を頼んで1か月、書類が揃って窓口に請求してから結果がわかるまで早くて3か月、普通4~5か月、そして支給決定して金融機関に振込まれるまで2か月で、およそ7~8か月はかかります。手続きは煩雑でとても大変ですが、年金を受給することで、日常生活や闘病の下支えとなってくれるものですから、条件が揃えばぜひ請求を検討してみてください。

【障害年金の手続きの流れ】
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障害年金の手続きの流れ

(1)年金事務所での資格の確認、初診証明・認定日の診断書の書類の入手

(2)病歴・就労状況申立書の作成

(3).医師との面談・診断書の作成依頼

(4)裁定請求書の作成・添付書類の用意・書類一式の提出

(5).決定通知書の受理

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 年金事務所では、皆さんからの「年金相談」を入力して、どこの事務所でも見られるようになりました。便利でいいようですが、リスクもあります。初診日を決められずに、年金事務所へ丸投げする人も多くいますが、そこでもし中途半端な申立をすると記録として残りますから、「この前こう言ったでしょう」と、取り消しが出来なくなります。相談する前に、よく準備してから行ってください。
 国は障害年金のバリアを高くしてきていますが、私たち社労士はケースワーカーやMSW(医療ソーシャル・ワーカー)の人たちとも協力し合って、一人でも多くの皆さんが適切な障害年金を受給できるようにと願っています。 
                                     ~了~
(質疑応答は省略します)

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 年の瀬に来て特定秘密法案が国会で成立し、都議会では猪瀬知事の5千万円の借入金の問題が追及されている。どちらも我々にとってありがたくないニュースである。

 さて、そんな高額な金額の話題と違って、今月は年金の話題である。その難しい話題を山下律子さんがうまく説明してくれた。と言っても我々が即理解できたかと言えば、それは、ちょっと・・・

 「年金」これがなぜに難しいか。私的にはこれを「保険」と訳せば話がグッと簡単になる。厚生保険、国民保険、共済保険と言えば何となく理解できるのある。

 誰でも「保険」なら即理解できる。生命保険、傷害保険、火災保険、賠償保険、任意保険、あらゆる保険が我々の周りに散らばっている。そこには必ず「掛け金」というものがある。年金では掛け金と言わず「年金を収める」という。ここでまず一般は訳が分からなくなる。年金を収める?、これって必ずなの?、税金なの?、いつか戻ってくるの?と疑問が湧く。

 そこで、私もウィキペディアで「年金」を調べてみた。曰く「保険の仕組みを取る年金制度を年金保険と呼び、被保険者が掛け金や保険料を負担(拠出)し、年金財政はこの収入によって確立されることになる」とある。やはり、発想は「保険」であったのだ。

 では傷害年金とは、は山下さんが説明してくれた通りであるが、山下さんは「初診日」を強く説明している。しかし、年金という言葉すら知らない年頃の人間に「初診日」についてどれほどの知識があろうか。厚労省にはこの辺の改善を至急やってもらいたいものである。  嵜