新宿区立障害者生活支援センター・開設1年

新宿区後援・7月新宿フレンズ講演会
講師  新宿区立障害者生活支援センター施設長 和賀未青さん

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 新宿区立障害者生活支援センターは、精神障害者を対象にした施設で、高田馬場駅近くの山手線の外側、新宿区百人町にあります。2015年7月にオープンし、1年が経過したところです。
 運営は、公立の施設を民間の企業や法人などの団体に期限を決めて包括的に代行させるという指定管理者制度に則り、私たち医療法人財団厚生協会大泉病院が平成32年3月末まで任されています。
 「大泉病院」は練馬区の大泉学園町にある、入院ベッド数240床の精神科単科の病院です。駅からは遠いので、西武池袋線大泉学園駅前に「大泉メンタルクリニック」と、東武東上線朝霞台とJR武蔵野線北朝霞駅近くに「あさか台メンタルクリニック」、「ねくすと西大泉」というグループホームと、それに併設の「ショートステイねくすと」1床も運営しています。

【目に見えない疾患のつらさ】 
 22年前、私は大学の社会福祉学科の3年生で大泉病院に実習に行きました。当時、精神保健福祉士(PSW:Psychiatric Social Worker)はまだ国家資格として確立されてはいなかったのですが、PSWは病院にいて、そこを実習先として選んだのです。初めて精神科病院に行ったときは、病院がまだ古かったこともあって待合室の雰囲気が暗く、今でこそ皆さん薬も良くなって表情も豊かですが、当時はヨダレを垂らしているかたも多くて衝撃を受けたことを覚えています。
 そのあと半年間デイケアでボランティアを経験して、卒業後大泉病院に就職しました。デイケア、相談室、生活訓練施設、グループホームでの勤務を経て、いまの新宿区立障害者生活支援センターに至ります。
 「なぜ精神保健福祉士に?」とよく聞かれます。私の母親が静脈瘤血栓という病気ですが、体調の悪さや季節の変わり目のつらさがあるのに、見た目からは何も分かりません。友達や友達のお母さんから、「あなたのお母さんは怠けているの?」「また寝てるの?」とよく言われて、「目に見えない病気ってあるのに、見えないと信じてもらえないんだ」と、幼いながら家族として感じていました。ですから今の仕事でも、つい家族の立場から見て しまうことが多いのかもしれません。
 好きで病気になる人はいないし、病気になるのは特定の理由だけではないと誰でも分かっています。けれど精神疾患は、なかなかそうは見てもらえない。癌でも糖尿病でも原因をあげつらったりはしないのに、精神疾患になると、すぐに「環境が悪い」、「育て方が悪い」、「家族の誰かがそういう病気だから」と、傷つくことを平気で言う人が今も多いと思います。身体の怪我や車椅子は目に見えて分かりやすいので、道も譲ってもらえますが、精神疾患で歩みがゆっくりだったり、歩幅が大きかったりすると、変な人だなと見られてしまうこともあります。「目に見えなくてもつらいことがある」ということを信じられるかどうかは非常に大きいと思います。

【生活の力をつける事業内容】
 この施設は新宿区立で、生活訓練を主に、宿泊型の自立訓練もあり、24時間365日運営しています。イメージとしては、日中はデイケアや就労継続支援A・B型のような通所する場所、夜はグループホームに近いような自立に向けた宿泊訓練で、服薬管理や金銭管理なども一緒に考えます。
 短期入所(ショートステイ)も利用できます。24時間電話相談と、計画相談、多目的室の貸出しも行っています。
 29名の職員がいて、常勤は10名、非常勤が19名です。精神保健福祉士(PSW)は7名、作業療法士6名、看護師6名、臨床心理士1名、介護福祉士1名、事務員1名、生活支援員7名でやっています。嘱託医は、このフレンズでもよく講演される大泉病院の山澤涼子医師で、内科医は近隣の医師に来ていただいています。
 自立訓練(生活訓練):安定した地域生活ができるように、通所して課題に応じたプログラムに参加します。利用期間は概ね2年という制限があり、対象者は新宿区の方です。
 洗濯や料理などの訓練を行う社会生活プログラムの他、運動系プログラム(体操・園芸)、芸術系プログラム(映画鑑賞・創作活動)、勉強系プログラム(ストレスや病気との付き合い方・コミュニケーションの方法)などを通して、生活能力の維持及び向上のための訓練や指導をします。個々の問題に応じたプログラムを、スタッフと相談しながら選んで参加してもらいます。
 多岐に渡るニーズはグループワークだけでなく、週に1~2回の個別支援で対応します。通院をしているか、買い物の付き添いや、風呂に入らない人が多いのですが週に何回入浴してちゃんと洗っているか。着替えない人も多いので着替えを持ったかなど、人によってはその辺りまで心を配る必要があります。
 短期入所(ショートステイ):2床あり7日間を限度に宿泊できます。ショートステイだけは新宿区外の方も利用できます。家族が疲れたとき、旅行や冠婚葬祭で1人にしておくのはちょっと心配な場合などに利用できますから、準備としてエントリーしておいて是非ご利用ください。

相談支援事業:電話相談や窓口相談が主で、これも新宿区の方が対象になっています。

計画相談支援:「サービス等利用計画」を立てます。対象は新宿区民です。

 「計画相談」の言葉をご存じない方もいるようですが、2012年から始まった社会資源の利用をするためのプランを立てる制度です。介護保険の利用者にはケアマネージャーがケアプランを立ててくれますが、同様に障害福祉の分野でもいろいろな社会資源を利用するには、「サービス等利用計画」(ケアプラン)の作成が必要になりました。たとえばデイケアや就労継続A・Bなど作業所の施設利用、訪問看護や介護、就労移行等々のサービスです。
 計画相談があってはじめて「障害福祉サービス受給者証」が発行されます。ですから、「何々のサービスを利用したいから計画相談を」となります。サービスを利用しない場合は計画相談も不要です。問い合わせる場所は自治体の障害福祉課や保健所などで、相談支援事業所を紹介してもらえます。
 なお、「精神保健福祉手帳」と「障害年金」と「障害福祉サービス受給者証」の制度は全国同じです。ただ自治体によって申請先が保健所だったり区役所だったりと違うことはあります。
 多目的室の貸出し:大人が12~13人ぐらい入れる部屋を、土日祝日に団体向けに貸出しをしていて、予約が必要になります。

【家族は一番の主治医】
 私はご家族のお話を伺うたびに「家族は一番の主治医」と感じてきました。例えば誕生日や春が苦手な人、発症が友人関係からという人は友達とのトラブルが再発のサインとか、それをご家族はよく把握していて早くキャッチできるのですね。昼も夜もずっと見ている家族からの意見はとても大事だと思います。
 また医療・福祉関係者の私たちは、どうしても病気にフォーカスして聞いてしまいますが、「発症前はこういうことが好きだった」という話は、理解を助けてくれるキーワードになります。病気になると悪い面ばかりが気になってしまいますが、もともと持っている良いところは失われないと思うので、そこをご家族から支援者に教えてほしいと思います。良いときも悪いときもそばに居て応援している家族ですから、本人にとっては一番心強い存在です。
 ただ一方で原因にもされてしまう。本人から「育て方が悪かった」と責められることもあります。「私が悪かったから、私が生きている間にこの子を何とかしなくては」と思い詰めている家族も沢山います。しかし家族も自分を大切に、例えば旅行をしたり、趣味を楽しんだり、家族自身が輝いていることが大事です。そう言っても無理…という時期もあるとは思いますが、本人の具合の良いときは、あまり密接に関わらないほうが、互いに良いのではないでしょうか。
 私は病院では昼間の顔しか知らなかったのですが、グループホームや宿泊型自立訓練に来て、昼も夜もお世話をしている家族は凄いなと思いました。病院の電話相談では「病院の入り口までつれ来てください」と言っていましたが、そこに来るまでがどれだけ大変かということを知らなかったことに愕然としました。
 支援者にしてもらいたいことがあるときは、「ここまで要求していいのかな」と思われるかもしれませんが、可能かどうかは私たち支援者がハッキリお伝えすればいいことなので、要求は遠慮せずにご家族から支援者に投げかけてみてください。たとえ今はできなくても、「こういう要求が多いから、今後はそれに対応できるように考えよう」などと、家族・利用者さんから学ぶことは多いのです。
                                              ~了~


*障害年金については9月の勉強会のテーマです。

 今月の講師・和賀さんはPSWであるという。往々にして施設の長になる人は事務系の人が多いが、施設長がPSWというのは心強い。それに和賀さんご自身、母親が静脈瘤血栓という病気をもたれ、障害者を持つ家族の気持ちをよく判っているのだと思う。質疑応答にも親切丁寧な回答をいただき、ありがたかった。精神科専門の施設・新宿区障害者生活支援センターをこれから大いに利用しようではないか。            編集部雑感

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

  三か月前だったろうか、You-tubeで見たものであるが、外国の高速道路で動けなくなった子猿を集団で通りかかった一匹の猿がその子猿を見て、懸命に抱え込み、高速で走る車を避けて無事安全なところに避難させた。猿の同族に対する思いやりだろうか。見ていて感銘を受けたことがあった。

 一方、津久井やまゆり園の殺傷事件を見てみると犯人は「障害者はいなくなればいい」と言った発想で犯行に及んだという。猿でさえ、弱い立場の猿には命を賭けて救おうという発想があった。この違いはどこから来るのであろうか。恵まれた生活に浸った者に訪れる弱者排斥の発想なのだろうか。犯人は麻薬常習者でもあるというが、子どもの頃は人気者であったという。最近、他でも麻薬患者のことを聞くが、このような発想の違いは聞かない。

 ある集まりに出た。その時、こんな発言を聞いた。「我々も障害者を見るとそういう人は我々の前から消えて欲しいと思うことがあるよ」。私は愕然としたが、いや、私が障害者の親となってから変わったのであって、私も息子のことがなかったらこんな発想をしていたのではないか。つまり、それが一般人の普通の発想なのではないか。

 要するに、まだまだ障害者と一般人との交流の場が少ない。我々親たる者の責任としてどんどん一般人の中に入って行き、我々からカミングアウトする必要があろう。私はその集まりで、「私の息子は統合失調症なんだ」と自信を持って述べた。大切なことは自信を持って、堂々と、相手に親しみを持って述べる必要があろう。基本的に同一の立場であることをまず認識し、決して恥ずべき者でないことを踏まえてカミングアウトすべきあると思う。その集まりで私が居ずらくなることはなかった。

 今月は障害者の生存にとって、大きな事件であることで敢えて内容を変えて記してみた。