家族も当事者も上手なストレス対策を

新宿区後援・2月新宿フレンズ講演会
講師 大泉病院 精神科医 山澤涼子先生

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 私が皆さんにお願いしたいことは、統合失調症をはじめとした精神科の病気をよく知っていただくこと、それへの対処、治療とストレス対策を学んでいただければと願っています。

【素因とストレス】
 前回の「基礎知識」で詳しくお話しましたが、どんな病気でも準備因子、素因つまり遺伝や体質に、何らかのきっかけとなる出来事、環境因子が加わって発症します。
 家族に糖尿の家族歴がある方は、若干糖尿になり易いという素因を持ちます。しかし素因がなくても、食べ過ぎて運動も体調管理もせずでは発症しますし、素因があっても、生活に気をつけて食事の管理をしていれば発症しないでしょう。
 ストレスに対して胃が弱い素因・体質がある人は、耐えられる限界0を超えるストレスがかかると、胃酸が出過ぎて胃潰瘍になります。
 精神科の病気も同じで、ストレスに対して脳が敏感である体質を持ち、限界値を越えるストレスがかかると、脳内のやる気を出すホルモンのアドレナリンが出にくくなる体質なら鬱状態になる。脳内のドーパミンのメカニズムが影響を受けやすい体質の場合は、ドーパミンが出過ぎて統合失調症などを発症することになります。これを脆弱性-ストレスモデルと呼んでいます。
 誰でもストレスに耐えられる限界値、閾値があり、人よりストレスに耐えられる限界が若干低い人もいれば、高い人もいます。これもある種の素因みたいなものです。私たちはその限界を何となく知っていて、ストレスがたまると発散しているわけで、これをストレス・マネジメントと言います。
 しかし、誰にもうまくいかない場合があって、例えば仕事は忙しい、上司はうるさい、同僚は働かない、家に帰れば夫は手伝わない、いつストレスを発散するの?という日常が続くと限界を超えるかもしれません。

【断薬は再発率を高める】
 薬は再発をどの程度防いでくれるか。表は良くなってから1年後の再発率を示しています。薬を止めると1年間に約7割が再発し、薬をきちんと飲めば3割に抑えられます。表は1年後の再発率ですが、2、3、4、5年と年を追っていくと、薬を止めた場合の再発率が高くなっていくことは確かなのです。ただ100%にはならず、たった1回の発症だけで何もないという人が僅かにいますが、事前に見分ける方法はないのです。すると断薬を続けるとどんどん再発率が高くなると分かっていれば、やはり服薬を勧めることになります。
 もう1つは同じ再発といっても、服薬中の再発と、断薬の再発とは「質」が全然違う。服薬をしていてもストレスがかかると調子を崩す方はいます。例えばずっと体調が良かったから就労しようとすると、幻聴が聞こえて来たとします。すると薬を少し増薬し、仕事を始めるのをちょっと延ばしたりして乗り切れることが多い。

【薬を続ける工夫】
 今の治療では薬をきちんと飲み続けることがベストで、これだけは間違いないことです。とはいえ毎日飲むことは大変です。なるべく負担がないように、どうしたら飲み忘れを防げるかを考え、工夫したいと思います。

1)飲む回数と時間帯:それぞれ「夕食後に寝てしまうので就寝前の薬は飲みにくい」「昼間は職場なので」など飲みづらい時間帯があれば、主治医に正直に告げて相談してください。

2)剤型:錠剤に限らず散剤、液剤等々いろいろあるので、本人の服薬しやすい形を選べます。水なしで口の中ですぐ溶ける口腔内崩壊錠もあります。

3)薬の飲み心地:これは服薬している本人にしか分からないことが多く、周りが良かれと思うことと実感がずれていることもあります。良い処方は共同作業で作っていくものなので、服薬した感じや不快な副作用など、どんどん主治医に言って良くしていってください。

【ストレス・マネジメントのコツ】
 もう1つの再発予防のストレス・マネジメントを考えましょう。まずストレス・サインは、本人のほうが気づきやすいことと、周りだから気づけることがあります。

1)自分のストレス・サインは何か考えておく:例えば私はストレスがあると食べてしまいます。体調面では睡眠も変化します。不眠・肩こり・めまい・頭痛が起きる人もいます。感情面では、気分の変化で他人を責めたくなったり、逆に自信がなくなって何をやっても旨く行かないと思う人もいるでしょう。
 行動面が変化することもあります。例えば食欲が細くなったときは疲れている、煙草の本数が増えた、2時間のテレビが見られなくなると具合が悪いとか。こういった行動面の変化は、本人より周りのほうが気づくことが多いと思います。

2)調子が悪くなったときにはどうするかを、予め主治医と打ち合わせておく:本人・家族にこれをお願いしたいのです。調子を崩すときは、たいてい同じパターンのストレス・サインが出てくるものです。早めに気づくことが大事で、すぐに主治医に相談してください。気づいてすぐなら、「無理しないでね、お薬を少しだけ増やしますよ」「そうだね」で終わることが多いのです。

【家族のストレス管理が再発率を下げる】

 先ほど「薬をきちんと飲むこと」と「ストレスを管理すること」が再発予防と言いましたが、服薬しながらストレス・マネジメントをしたらどうなるか。実は統計学的な差は出ません。だからストレスを管理しなくて良いというわけではありませんが、実はもっと有効な手段があります。これが私の言いたいことなのですが、家族のストレス管理をすると、なんと再発率が1割まで下がるのです。
 そこで、どんな家族と暮らすと再発率が高いかを調べたところ、1つは患者さんに批判的になってしまう家族で、これは分かりますね。もう1つは、なんと患者さん思いの優しい家族。調子が悪いと一緒に不安になり動揺してしまい、感情的に巻き込まれやすい家族でした。つまり、High Expressed Emotion、高い感情表出、略して高EEと言いますが、それは批判的な言葉かけや敵意だけでなく、一緒になって心配してしまうことや「私が居ないとダメだ」と思い込んでしまう場合も含まれるのですね。
 しかし、高EEは家族の性格を表している言葉ではなく、同じ家族でも批判的になってしまうときと、穏やかに受け止められるときがあるのです。では、どうしたら家族は高EEにならないで済むのでしょうか。

1)病気について知ること:高EEになってしまうのは、1つは知らないからではないか。例えば統合失調症はどういう病気で、困ったときに誰に相談できるかが分かっていれば、不安は少なくなります。

2)距離を取ること:また、同じ研究に高EEの家族でも患者さんといる時間の短いほうが再発率は低いというデータもあり、適度な距離があることはきわめて大事だと分かります。「夫婦円満の秘訣は?」と聞かれたとき冗談半分に「なるべく一緒にいないことです」と答えていますが、仲の良い家族でも一緒に居ればいるほどいろいろ目について、つい言いたくなってしまうのですね。

3)社会資源について知る:距離を取るためには、できるだけ社会資源を利用してください。家族が全部を抱えるのはとても大変ですし、一緒にいる時間を減らせないことになります。当事者さんがそんなに調子が良くなくて、デイケアにいっても友達と煙草を吸っているだけで何か建設的なことをしているわけでもないと、デイケアは無駄に見えてしまいます。ですが、家から出て家族と別の時間を過しているだけでも、双方にとって意味があるのです。

4)知らないことを聞ける相手を作る:例えば本人の日中の居場所も、デイケアや地域活動支援センターや就労支援事業所などいろいろあり、分からなければ聞ける相手を持つことです。社会資源については医師よりケースワーカーのほうが知識があるので、私もまた聞ける相手を持っているわけです。家族も治療チームの一員です。チーム内でいかにいろんな人に相談できるかが大事で、相談できる人を沢山持っていただきたいと思います。

5)疲れに気づく:もっとも大切なのは、家族が高EEになってしまうのは疲れているサインなのでないかと気づくことです。体力的な疲労のほかにも、イライラしたり、怒りっぽくなったり、悲しくなる時は、ストレスがたまっているのではないかと、気づいてください。

【家族もストレス解消を】
 疲れに気づく、つまりストレスがたまっていることに気づいたら、解消することです。ストレスを解消する方法は2つあります。

1)ストレス発散法:何かしてストレスを吐き出す。この「何かを出す」ことがいいとされています。例えば、カラオケで声を出す、体を動かして汗を出す、つらいことを思いっきり話して涙を出すなどです。

2)ストレッサー解消法:ストレスとは何か変化が起こったときに、そこに気持ちや体が慣れていくためにかかる負担を言います。嬉しいことでも悲しいことでもストレスになります。ストレスになっている原因、ストレッサーそのものを解決して、入ってくるストレスを減らす方法です。

3)ストレスの言語化:ストレス発散法とストレッサー解消法を上手に組み合わせて行うのがいいとされていますが、この2つを兼ねているのがストレスの言語化で、要はストレスになっていることを口に出すことです。「今日は大変だったのよ」と気軽に話して聞いてもらうだけでもすっきりしますが、同時に解決に向けての相談相手も含めて持てると良いでしょう。

【治療チームの一員として信頼関係を】
 治療とは、医療関係者のための治療でもご家族のための治療でもありません。自分で自分の症状をコントロールし、自分の人生を作り上げていくことだと思います。自分の力でコントロールするにはどうしたらいいか、医師など医療スタッフは、そのためのお手伝いをしたいと願っています。
 それには今の状態に安定しているだけで良しとしないで、「私はこうしていきたい」、「こうなりたい」という目的が大事です。そうでないとなかなか上手く描けないので、「自分の力で人生を、病気をコントロールして行こう」と思っていただけると、医師としても「一歩進めましょう」と、治療そしてリカバリーを一緒に考えて行けます。ぜひ希望を伝えてください。また相談相手を主治医だけでなくケースワーカーや、PSWまで広げると良いと思います。
 本人も家族も医療者も治療チームの一員です。昔は「先生にお任せします」といった時代があり、その反対になったインフォームド・コンセントの時代は、医師は「治療Aと治療Bがあり、Aの良いところはこれで悪いところはこれ、Bの良いところは…。どちらにしますか」みたいな話をして、「本人が選んだのだから、本人が責任を取りなさい」というような要素もありました。
 しかし今は、「本人も家族も医療者も福祉関係者も、治療チームの一員として考えて行きましょう」といった、シェアード・デシジョン・メーキングShared Decision Makingという考え方が出てきました。疑問点は何でも聞いて、一緒にとことん話し合って考えていく。そして決めたら大事なことは、お互いに嘘を付かずに評価していく。処方も飲み心地のいい時間帯なども一緒に考えますが、決めたら約束を守ってきちんと服薬しないと正確な評価ができません。よく話し合って納得したら、互いに信用して治療に取り組むことが大事です。

質疑応答 略                               ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 今年の富士山の見える日というのがほぼ毎日である。自然の造形であるが、美しい山の形を与えてくれた神に感謝したい。そして、見る者には日頃の憂さ・ストレスを吹き飛ばしてくれる。

 今月の話題は山澤先生のストレスについてである。私の場合、窓から見える富士山を見るとストレスなんて忘れてしまう。冬は真っ白に雪をかぶり、ひときわ美しい。

 しかし、病気の息子さんや娘さんはそんな気力もない。それをお母さんが心配してストレスを生む。この病気の初期段階ではどちらでも心配が原因となって病気になってしまうことがある。病気が病気を生んでいくというスパイラルである。

 山澤先生が最後に言ったことば「治療とは医療関係者のためでもご家族のためでもない。患者さんが自分をコントロールし、自分を作り上げて行くことです」と。三位一体という言葉があるが、医師とケースワーカーと患者と家族とこれらが一体となって患者さんが人生を切り開いていこうとするモチベーションを一緒に考えて行くことだと語った。

 「先生にお任せします」と家族が言えば医師も「暴れないからOKね」という時代は終わった。本人も家族も医療者もPSWも治療チームの一員として患者の自ら人生を作り上げていく姿勢に協力していく。そしていつか皆で富士山を仰ぐ日を待つ。