双極性障害(躁うつ病)の症状と治療

新宿区後援・4月新宿フレンズ講演会
講師 大泉病院 精神科医 山澤涼子先生

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【どんな人がこの病気?】

 今は木の芽時ですが春は精神的に不調になり易く、躁状態やうつ状態を呈する人が多い季節です。双極性障害は季節的にもタイムリーなテーマですね。
 「双極性障害」は「双極性感情障害」とも、うつ病を合わせて「気分障害」とも言いますが、皆さんの馴染んでおられる「躁うつ病」という名のとおり、躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気です。
 かつては「躁うつ病」と「うつ病」は同じカテゴリーと考えられていましたが、ここ最近の知見から双極性障害はむしろ「統合失調症」に近い、と考えられるようになりました。

【うつ病との見分けが大事】
 双極性障害の難しさは、うつ状態で発症することが多く、その症状が、うつ病の人と傍目には見分けがつかないのです。ですから躁うつ病の人がうつ状態のときに病院に来て、うつ病として治療するとうまくいかないという医師泣かせの病気でもあります。
 統合失調症、双極性障害、うつ病などの内因性精神障害を見分けるバイオマーカー(生物学的指標)はまだありません。ですから、うつ状態の人をこの人はうつ病なのか双極性障害なのかを明らかに見分ける手段を持ち得ていないのが難しいところです。
 このように始めはうつだけで、躁は後から加わることが多く、また「うつは長く躁は短し」の状態が多くて、医師が出会うのもうつのときが多くなります。そのために双極性障害と診断決定するのに平均7年くらいもかかるというデータもあり、ご本人もつらい状態が続いてしまいます。

【分かりにくい軽躁状態】
 ひとの「平常」はどんな状態かは、分かっているようで難しいものです。我々も元気の出るとき出ないときがありますが、およそ普段通りのところを平常範囲とすれば、私たちの平常とは、その中で上昇下降の波を繰り返していることになります。
 うつ状態のみを呈するものを「単極性うつ」とも言います。ここに躁状態が加わったときに「双極性?型」と呼んでいます。また軽躁状態が加わったときには「双極性?型」と呼んでいます。
 現実には「うつ病」の診断を受けたときは確かにうつ状態であって、ある日突然、躁状態が加わる、これを躁転と呼びます。軽躁は気分の波はあっても、社会的トラブルにならない程度の躁状態を言います。ことに気づきづらいものですが、それでも病気としては双極性障害なのです。また、うつ状態は気分として辛いですから、そのときだけ診察を受ける人が多くて診断しにくいということがあります。
 双極性障害はまだ謎が多い病気です。統合失調症もうつ病も双極性障害も、病気そのものは遺伝しないが何らかの遺伝要因はあり、関係する遺伝子が幾つかあって、それにストレスが加わって、脳内に変化がおきる、ここまでは同じ説明になります。そして統合失調症ならドーパミン仮説、うつ病ならモノアミン仮説で一応説明できます。ところが双極性障害はまだいろいろな説があるというのが現状です。

【躁状態で起きる問題】
 双極性障害、つまり躁うつ病で問題になるのは、どちらかといえば躁状態です。何でもできると思える、疲れずに頭が回る、世界で自分がナンバーワンだと思う、エネルギーがいくらでも出てくる、アイデアが溢れる、高じると注意が集中できなくなる、話が飛ぶ、誇大妄想的、短時間睡眠でも元気一杯、怒りっぽい、浪費するといった症状が生じます。
 これらの症状によって、周りの人を振り回してしまったり、人と衝突し今までの信頼関係を失いかねない、買い物をし過ぎて借金が増大して生活を壊したりすることもあり得ます。こうしたことから躁状態では入院を勧めることも少なくないですが、入院は治療に加えて社会とのトラブルを避ける意味も大きいのです。軽躁は同じようなことが起きても、トラブルにはならずに済みます。
 躁状態は長くは続かないとされています。生物としても続くはずのない無理なエネルギーを搾り出しているわけです。エネルギーは枯渇すると、反動としてうつになります。うつ状態は落ち込む、疲れ易い、眠れない、食欲がない、などの症状が起き、躁状態のときのトラブルから自分を責めて自殺を考えるケースもありますから、躁状態は早めに治療を始めることが必要です。しかし軽躁ぐらいならば、その時に病院へ行かないうちに落ち着いてしまうこともあります。

【薬と副作用】
 双極性障害の人のうつ状態には抗うつ剤は使わないほうが良いとされています。たとえばうつ病を発症して抗うつ剤を服薬して躁転してしまう。こういう人は、もともと双極性障害だったのだろうと思われます。躁転リスクはもちろんラピッドサイクル化もさせてしまう。とくに三環系抗うつ薬はよくないとされています。双極性障害が疑わしいと思われるときは、躁転させない抗うつ薬を使います。

気分安定薬(ムードスタビライザー)

・リーマス(炭酸リチウム):躁を押さえ、うつを良くする。再発防止作用もある。
 抗うつ剤はうつを持ち上げるだけですが、リチウムはうつを持ち上げながら、持ち上げ過ぎないように、躁を抑える作用も持っています。難点は血中濃度を制御するために、数ヵ月に1度、血液検査をする必要があることです。血中濃度の適正幅は狭いので厳密な管理が必要です。

・デパケン、セレニカ(パルプロ酸ナトリウム):リチウムの次に多く使われている。躁をおさえる。うつにはやや弱い。

・テグレトール(カルバマゼピン):昔は最もよく使われたが、最近は少し減っている。

・ラミクタール(ラモトリギン):新しい薬でうつに効果が大きい。

 難点はテグレトールとラミクタールは薬疹が出易いことです。このためとくにラミクタールは処方の仕方が厳しく定められています。
 最近のみなさんは、薬のことをネットで調べて、気分安定薬に抗てんかん薬の表示があって驚いたりします。抗てんかん薬は気分安定作用があって、双極性障害や統合失調症でも不安定なときやイライラのときは使っています。どうして気分の安定に効果があるかは細胞内伝達物質が関わっていると言われていますが、まだ仮説の途上です。

抗精神病薬

気分安定作用があり、日本では双極性障害の薬として2薬が認可されています。

・ジプレキサ(オランザピン)

・エビリファイ(アリピプラゾール)

 ほかにセロクエル・リスパダール・ロドピンも使用することが少なくないです。
 抗精神病薬はドーパミンを抑えますが、それが効果があるようです。躁状態はいろいろなことが脳内で複合的に起こっているようで、抗精神病薬は、躁のドーパミン過剰との関係が言われています。
 これらのうち気分安定薬は、即効性は欠けますが、良好な状態をキープすることに優れています。しかし、興奮している人を落ち着かせるためには、抗精神病薬で興奮を抑える必要があり、その後に気分安定薬で状態をキープすることになります。薬には再発防止効果があり、続けることが大事です。

【大事なことは「決断」しない】
 躁状態では、会社に「辞めてやる」と辞表を叩きつけるようなことが起きがちです。逆にうつ状態でも落ち込んで「辞めたい」と考えたりします。こうしたことは病気がさせているので、症状が落ち着いて物事を的確に判断できるようになるまで、大事な決断は先に延ばしてください。
 不調のときは人のせいにしたり、逆に自らを責めたりします。振り返りの作業は元気なときにして、今何をするのが良いかを考えて治療に専念し、昔のことは置いておくほうが良いのです。
 診察室で非常におしゃべりな患者さんを診たとします。そういう時にもともと賑やかなタイプなのかの判断は医師には分かりません。ずっと見ている家族は、本人の今の状態と比較できるでしょうから、「いつもこんなふうにおしゃべりです」「いつもとはちがう」と、その人の今の評価や意見を医師に伝えると診察に役立ちます。
 双極性障害も、うつ病と同じく付き合っていくスタンスを要します。再発予防のためにも必要なのは無理のない体制作りです。家族はどうしても自分を犠牲にして本人のために…と頑張ってしまいます。それでは何ヵ月、何年も経つと、家族に無理が出て、それが本人に跳ね返ってしまいます。友人とも会い、趣味も楽しみ、使える社会的サービスは使うなど、無理なく支え続けられる体制を作ること、家族も自分を大切にすること、それが再発予防にも繋がることになるのです。
                                      ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 人によっては九連休だったというGWも去って、疲れが増したという方も多いのではないだろうか。その一方でフランス、韓国で大統領選が行われた。そして、我が新宿フレンズでは上部団体の東京つくし会が、今湧いている。

 「マル障」である。これは精神障害者も心身障害者医療費助成金制度の対象にしてくれ、という請願の事だ。3月30日に開催された都議会本会議において請願が採択されたのだ。しかし、採択されても実施されるかどうかはこれからの取り組み如何による。我々も大いに関心を持って、つくし会の署名等の活動に協力したいものである。

 さて、今月は山澤先生が「双極性障害の症状と治療」について語っていただいた。双極性とはそうと鬱の事である。精神医学が発達し、いいことであるとは思うのだが、最近やたら病名が増えた。そして、治療内容も変化している。先生曰く、「かつてはそう鬱病と鬱病は同じカテゴリーと考えられてきたが、最近の知見から、双極性障害はむしろ統失に近いと考えられるようになった」という。さらに治療薬としてジプレキサ、エビリファイなど抗精神病薬が使われている。

 最後に来て「双極性障害もうつ病と同じく付き合って行くスタンスを要します」と、言う。つまり双極性障害とうつ病とを完全に分けて考えている。私はそう鬱病も鬱病も同じと考えて来たが、先生の説明は違っていた。

 そして、家族は無理のない体制でご本人の対応をして欲しいと。家族はどうしてもご本人のために頑張ってしまう。それが何年もつか。もっと家族は無理なく支え続けられる体制をつくることが大切であるとしてお話を終えた。それは統失の場合も同じある。GWにはご本人には申し訳ないが、1日ゆったりと温泉でも浸かって欲しい。