入院治療と通院治療の違い

12月 勉強会より 講師   桜ヶ丘記念病院   岩下 覚先生

 外来の治療か、入院かということになると思います。
このことは以前から指摘されてきたことですが、日本の精神医療は入院治療に傾き過ぎているといわれていました。日本の精神病院のベッド数は30万床位あるそうです。この30万床のベッドの病床利用率は97%です。ですから、現在日本では30万人近い患者さんが入院中であるということになります。これは世界的に見て人口1万人当たりのベッド数は非常に多いといわれています。
 ですから、これは入院治療に傾き過ぎていることになります。WHO (世界保健機構)から調査団が来て「日本は入院治療を減らすよう努力すべきだ」と指摘を受けたこともあります。それで少しづつですが、減りつつあります。私の勤める桜が丘記念病院でも、私が勤務についた17年前は定床778床あったものが現在定床741床に減っています。そして、利用ベッド数が709床です。このようにどこの病院でも定床を割っていて、空ベッドがあるというのが普通になりました。
 そこで、「社会的入院」という言葉がありますが、一般に病気で入院する場合というのは、通院では治療し切れない場合に入院して、治療を行うものです。ですから、入院治療は、患者さんがある程度回復し通院治療に切り替えることができるようになれば、通院治療が行われるのが一般的です。ところが、精神科の場合は歴史的にベッド数がたくさんあって、しかも国公立の精神科の病院が少ないということがあります。つまり民間=私立の病院が多いということです。ということは、民間ですと、当然「経営」の問題が発生してきます。民間経営ですから、空ベッドが多ければ経営が成り立たないということになります。そのようなことも原因して日本の精神科の入院患者数が減らなかったということがありました。さらに、昔は入院治療である程度回復しても、退院できる仕組、それはデイケア、地域の共同作業所とか、グループホーム、援護寮とかがなかったということがありました。精神科の場合、発症したから入院して治療し、回復したから退院して通院に切り替えるというような単純な治療方法ができない病気であるともいえます。いまでも、このような理由で退院できない患者さんがいます。このような入院を社会的入院といいます。このような形で入院している人の中には20年、30年も入院したままの患者さんもいます。このような患者さんはその間、社会生活も遮断されているわけですから、急に退院といってもできないということがあります。
 ですから、私たち医師はこうした患者さんをいかに退院に結び付けるか、ということを考えると同時に、新しく入院してくる患者さんについては、できるだけ早く退院していただき、長期入院を極力避けるという方向で考えるわけです。
 また、国としても精神科に限らず、すべての医療費を削減しなければならない、という大きな問題があります。例えば老人医療費の問題もそうです。そこから介護保健ということもでてきた訳です。先ほどいいました私の病院の病床数が減ったというのも、こうした国の方針と無関係ではないのです。かつては1病棟100床なんていう時代もありましたが、いまは70床以下になっています。それから当時、畳部屋の病室でしたが、いまは畳部屋はなくなりました。
 こうして、入院の患者さんというのは減ってきました。そして外来の患者さんが倍以上に増えてきています。今回のテーマである通院か入院か、ということでいえば、基本的には通院治療の方がいいということになります。それは、通院では患者さんが社会生活を中断することなしに治療が行われることが第一にいえることです。
 もう一つ病院側から見たこの問題では、入退院数ということがあります。これは毎月何人の患者さんが入院してきて退院していくかを計る数字です。私の病院では毎月100人くらいの患者さんが入院してきて、100人位の方が退院して行きます。この数字は私がこの病院に勤務し始めたころから見ると倍以上に増えています。これは、入退院の動きが激しくなったということです。かつては、一度入院すると退院する患者さんが少なく、入院患者数が多かったわけです。ところが、最近は入院患者数、つまり病床数は減って、入退院数が増えてきているということです。この中には再発して再入院する方の数も入っていますが。ただ、平均入院日数はかつてよりははるかに短くなっています。最近入院された患者さんでは1ヵ月未満で退院するというケースが4分の1位になっています。3ヵ月前後で退院される方は7割から8割です。女性の病棟ではもっと短いというデータが出ています。精神科の治療では、なるべく通院治療が望ましく、また入院しても短期間で退院した方がいいということが言えます。
 医療費の面から見ましても、入院治療というのは費用がかかります。特に入院初期時点が最も多くかかります。入院期間が長くなればなるほど、費用は安くなっていきます。それは病院の経営面から言いますと、新規入院患者を多く扱ったほうが病院としては経営的に効率がいいとう背景もあります。このことは、精神科に限らず総合病院でもこうしたことは考えています。ですから、病院のベッドコントロール(病室利用管理)という仕事は結構大変なんです。患者さんを早く退院させ、なお空きベッドがないようにコントロールするわけですから。だから、精神科に限らず「あれ、もう退院させられちゃうの?」なんてこと皆さんも感じられたことがあるかと思います。それには、そんな事情もあるというです。
 また、街には通院専門の精神科クリニックなり診療所が増えてきているのも最近の傾向です。それは精神科の治療の傾向の変化ともいえることで、かつては精神科の治療といったらまず、入院して、そこから治療が始まったということがありました。しかし、最近は地域にこうしたクリニック、診療所が増えてきて、患者さんも気軽に精神科の治療に入っていけるようになりました。それが早期治療に結び付き、入院治療を経験せずに回復へと向かって行く方も増えてきています。これは精神医療の新しい流れであり、入院より通院でということで評価できることです。しかし、入院方式に頼っている旧態依然とした病院はつぶれていくこともあるでしょう。
 さらにクリニックでもデイケアとか、リハビリ施設をもって、アフターケアが整ったところも出てきました。とにかく、入院は絶対させないぞ、という方針を立てているクリニックもあるくらいですから、この方向はまず変わらないでしょう。
 では、入院は絶対不要か、といえば、そうとは言い切れません。やはり、患者さんが急性期には通院では対応しきれない部分が多くあることは皆さんもお判りと思います。私は入院治療を考えるとき、次のような体制がいいのではないかと思っています。
 病院にはいくつかのタイプがあります。私が勤務する桜が丘記念病院は精神科単科病院で、精神科専門病院です。このほか総合病院があります。これは内科、外科からあらゆる治療科目を備えていますし、精神科救急病院はこの総合病院が兼任しています。患者さんが治療が始まるときというのは、精神科救急病院に入って、そこで1泊ないし2泊の救急治療を受けて、当番の病院に回されるというケースが多いわけです。ですから、この時、患者さんは精神科だけでなく、内科、外科といった病気も併発している場合があります。例えば、何日間も食事をとっていないとか、怪我をしているとか、その治療も含めて総合病院が治療を行い、そこで退院できる人は退院していくことが理想だと考えます。もう少し長い期間の治療を行った方がいい患者さんは民間の病院に回すべきと考えます。ところが現実は総合病院の精神科のベッド数が20とか30とかと、非常に少ないですから、それはすぐには無理でしょう。いずれにしても、日本も入院患者さんはこれからは減っていくことは間違いないことです。
 では、単科の精神病院は悪いところばかりかといえば、そういうことはありません。単科病院は精神科の専門治療を行うところですから、リハビリのメニューとか、作業療法を行うとか、農園をもっているとか、私の病院ではかつてブタまで飼っていました。あるいはパソコンとか、デイケアなども行っています。また、訪問看護を行うということもあります。スポーツができる場所をもっている病院もあります。こういう治療メニューが持てるのはやはり単科病院です。ですから、皆さんが入院か通院かを考えるとすれば、こうした病院やクリニックの特徴をよくつかんで、その判断をすればいいでしょう。入院だとすれば、どういう病院がいいか、患者さんに合った病院を選ぶこともご本人が回復へ向かう大きな要素です。
では、私の話はこの辺で終わりますが、ご質問がある方はどうぞ。

質問1 うちの子はようやく1週間に3日、3時間づつ、ファーストフード店にアルバイトにいくようになりました。でも、疲れやすいと言っていますので、これからが心配です。いま、コンビニの仕事を探しているようです。親としてどう対処していけばいいでしょう。

先生:1週間に3回、3時間というのはとてもいいペースではないでしょうか。でも、ファーストフードのお店はめまぐるしく動かなければならない職場のようですね。ものすごくキチっとしたマニュアルがあって、その通りにやらなければならないし、多分、私にはできない仕事ですね。(笑い)
 だから、それは疲れて当り前ですね。しかし、その位の3時間ペースで始めて、だんだん慣れてくればそれほどでもない、ということにもなるでしょう。でも、コンビニの仕事が見つかれば、コンビニの方が多少は楽かも知れませんね。それから、ご本人が「疲れる、疲れる」と言うことはいいことだと言えます。よく、疲れたことも感じ取れないで、とことん頑ばっちゃって、その後再発してしまうケースが多いんです。ですから自分で疲れたと言えるのは一つのサインだと思って、いい方に解釈すべきですね。

質問2 女の子ですが、薬を飲んでいますが、結婚して出産できますか?

先生:その問題は精神科の病気に限った問題ではありませんね。他の病気で薬を飲み続けている女性は多数います。ただ女性の場合、妊娠中に薬を飲んでいると、体中の血液の中に薬の成分が廻っているわけです。それは、当然胎盤を通してお腹の赤ちゃんの体の中にも入って、循環されていく訳ですね。そこで、薬によっては生まれてくる赤ちゃんに奇形の問題とか、生後なんらかの障害を持つようなことがまれにあります。典型的な例として、キノホルムのように薬による奇形児ということがありました。ですから、妊娠中のお母さんが飲んでいる薬というは、何らかの影響がお腹の赤ちゃんに及ぶと考えたほうがいいです。ただし、その影響の度合は薬の種類によって違うこと、妊娠中の時期によって違うこと、その一番危険なのは妊娠3ヵ月前後といわれています。この時期は受精卵から人間の形ができてくる最も細胞分裂の激しいときとされています。したがって、薬を飲んでいる方が妊娠したら、飲んでいる薬がお腹の赤ちゃんに悪い影響を与えないか調べたり、止められれば止める、少なくても3ヵ月前後の重要なときだけ止めるなど、工夫することが大事ですね。
だからといって、薬服用中は出産できないと考えない方がいいです。薬を飲みながら出産されている方はずいぶんいます。
特に精神の薬の場合は、薬を止めたからすぐ再発するものでもないです。半年間、全然薬を飲まなくても再発率が50%ですから、二人に一人の割合でしか再発しないわけですね。
それから、女性の出産は妊娠中の薬の問題も重要ですが、出産時の体力の問題やそれから始まる子育ての問題、こういったことが一般の人でも大きなストレスになりますから、ましてや薬を飲んでいるいるような方は、体調や精神の安定したところで出産ということを計画的にお考えになることをお奨めします。

質問3 うちは男の子で、やはり勤めるようになって少し落ち着いたのですが、何かやたら物を投げるようになったり、蹴飛ばしたりするようになってしまいました。特に母親への当たりが強いので、母親を別居させようかと思いますが、そういうやり方はいかがでしょう?普段は薬を飲み、通院しています。主治医は薬のことを話すだけで、こういうケアについてはあまり話してくれないんです。

先生:そのようなケースはどちらのご家族にもある問題です。大事なことはご本人の病気そのものの具合が悪くて、例えば幻聴とか妄想とかがあって、そこから焦燥感が生まれ、物に当たったりするのか、あるいはもっと仕事をしたいけれどもいい仕事がないとかでストレスとなるのか、その辺だと思うんです。そんな時我々一般でも、身近な者に当たったりしますが、ご本人は何が原因で物や肉親に当たったりするのかですね。病気自体が相当悪くて、その症状が出てきて、それで狂暴な態度に出ているのか。もし、病気の症状が悪くてそうした態度が見られるということであれば、短期間でいいですから入院して治療を施す必要があるわけです。
その第一段階としては主治医の先生に相談された方がいいでしょう。ご本人と一緒に病院へ行くと話しにくかったら電話でもいいです。
また、病気ということではなく、仕事のことや友人たちがどんどん社会で活躍していることなど、そういうことから来る焦燥感、それに比べ自分は毎日、毎日家で同じような生活を送っている。そのストレスが原因なのか、この辺の見分けがポイントです。
ただ、お話しの雰囲気からすると後者の方ではないでしょうか。仕事が見つかったところで、安定が続くようであれば、やはりご本人は病気というより、ストレスや焦燥感が高まっていたということではないでしょうか。もう少し様子を見てみたらいかがでしょう。
 いずれにしても、どこかでキチっと主治医が加わったところでご本人とご家族と三者で話しあって、暴力はまずい、というのを話し合ったほうがいいですね。次に暴力を振るうようなことがあったら入院してもらうとか、この方法がいいかどうかは疑問が残りますが、ただ、約束は守りなさい、社会で生活していくということは、たとえ肉親でも暴力は許されることではないと、それはお巡りさんに捕まることであるということを知ってもらう必要がありますね。これが守れないということは社会生活を営めないことだから、それなら入院ということになる、こういうことですよね。
 精神科の入院というのは、幻覚があるからとか、妄想があるからとか、それで入院ということではないんです。問題はご本人が社会生活が営めるかどうかです。暴力を振るうとか、自殺願望が強いとか、とにかく在宅治療では本人も周囲の人も危険な状態にあると、つまり現在の日常行動がどうあるのか、これが決め手になります。きょうの勉強会のテーマはこのことなんです。
 くどいかも知れませんが、最低限の社会生活を営んでもらう契約のようなものを作って、要するに約束ですね、これを守ってもらう。そして、ここで主治医を入れて話すということがポイントなんです。ご両親とご本人だけではダメです。これが守れないということは社会生活が営めないと判断されますから、そしたら入院ということになるわけです。逆にご本人にしても、一回、暴力を振るってしまったら、即入院と決められたらたまったもんじゃない、と言いたいでしょう。 
 勿論、例外もありますが、大体私たち医師が入院治療か通院治療かを決める判断はこういうことです。

質問4 下らない質問ですが・・・
先生 そういうの好きです。(笑い)
質問 息子が最近缶ビールを飲むようになりまして、精神薬も飲んでいますので、何か聞くところによると、精神薬はアルコールが入ると効きすぎるということですが、いかがでしょう。

先生 それは影響がないとは言えません。それはアルコールは飲まないほうがいいです。
 アルコールが人に与える影響は個人差があります。しかし、いずれにしろ、アルコールは薬物ですから、脳の中枢に何らかの影響を与えるわけです。まあ、影響を与えなかったら、只の水で、面白くも何ともないですよね。
 抗精神薬、つまり安定剤も脳の中枢に影響を与えるわけです。ですから、必ずこうなるということは言えませんが、薬の効き方が不安定になることは確かです。例えば睡眠薬を飲んで、アルコールを飲むと効きすぎたり、あるいは効力が軽減されて眠れなかったりします。
 それに、アルコールはだんだん量が増えてくるという問題もあります。ただ、お酒を飲まないとストレスが高まって、却って状態を悪くする人もいます。これは個人差があります。ですから、私たち医師は、飲まない方がいいとしか言えないんです。お酒を飲んで症状が良くなることは全くないと言っていいでしょう。

質問 でも、言ってもだめなんです。

先生 それは主治医から言ってもらわないとダメですね。医師の立場から言いますと、患者さんがお酒を飲んでしまうと薬の判断ができなくなってしまうんです。
 こういうこともあります。フラッシュバックという症状がありますが、これは覚醒剤患者やアルコール中毒患者に多いのですが、アルコールを飲んだことによって納まっていた症状が再び出てくることです。ですから、アルコールはいいことはないのです。

質問5 スキゾフレニア(精神分裂病)の患者というのは誰も破壊行動を取るものですか。スキゾフレニアの定義というか、それは何ですか。

先生 スキゾフレニアという病気は一人ひとり症状が違います。ですから、中には破壊行動を取る方もいれば、一人こもっているだけの人もいるというように、様々です。最近では、スキゾフレニアという病気は果たして一つに病気として括れるか、という議論が起こっています。
 それは、我々健常者といわれる人でもそれぞれ性格も違うし、体質も違うわけです。
 こういうこともあります。例えばアメリカにおけるスキゾフレニアと日本のスキゾフレニアとは違う、ということがあってはならないわけです。ところが、つい最近まで違っていた部分があったのです。日本ではスキゾフレニアと診断されて、アメリカに行ったら躁鬱だった、という可能性があるわけです。それくらい精神医学にはアバウトなところがあるのです。それは、精神科というのは計測データで把握できない病気であること、人の精神機能という目に見えないものを相手にしていますし、あるいは、その人の文化的背景も違いますし。ですから、国際診断基準というものが作られて、DS-4とか、ICD-10といった狭い範囲での研究用の基準というものはあります。

質問6 精神科における訪問看護はどれくらい普及しているのでしょう。

先生 いま、かなり普及してきていると思います。しかし、救急的な場面でどれくらい機能しているかといえば、それは難しいですね。ですから、そのためにも普段から看護婦さんとかとは近くしておいた方がいいですね。これも、ご本人の同意書のようなものがなければ出かけて行きません。例えば、一人暮らしの患者さんの場合ですが、換気扇が汚れたのを手伝って欲しい、といった時手伝ってあげるというように、患者さんと医療側とが普段の接触を多く持つことで、患者さんが落ち込んだとき、病院の指示を受け入れてくれ易いということもあります。

質問7 スキゾフレニアは早期発見、早期治療といいますが、早期とはいつ頃をいうのでしょう。

先生 その定義というのはありません。それに全く早期というのは発症そのものが判らないですよね。教科書には前駆症状などといって、意欲低下とか、感情不安定とか書いてありますね。でも、そんなのはスキゾフレニアでなくてもあるわけですね。ですから、残念ながらスキゾフレニアの場合は明らかな異常な言動が表れないとそれと判らないのですね。しかも周囲もスキゾフレニアという病気を知らないですね。
 質問の早期発見、早期治療はどの教科書に書いてありますが、それは本当の意味で早期発見は無理ですよ。ただ、治療への導入が遅れると治ることが難しくなるということはありますね。
 ですから、ご家族と同居している方は周囲が気づくことができるから、割合に遅れるということは少ないのですが、一人住まいだと、自分で気づくということが難しい病気ですから、遅れ勝ちになりやすいですね。大切なのは一度病気と出会ったら、再発を防ぐ意味で早期に対応を取るべきと言えます。それができるはずですね。(紙面の都合でここで終わります。なお、文中岩下先生や質問者の言葉で、「スキゾフレニア」とあるのは、編集方針として「分裂病改名」から編集部で書き換えております)

編集後記

二千年はコンピュータのY2K問題だけが騒がれ、それも何か空回りで明けたような気がする。一部の事業者のみが利益を上げたとか、上げなかったとか。しかし、「備えあれば、憂い無し」と良く解釈して一応喜びたい。
 新年の明るい話題を探したが、はっきり言ってこれというものが見あたらない。むしろ、相次ぐ凶悪な殺人事件や子供いじめ、そしてカルトなど、ますます激化の一途をたどっている感がある。
 こうしたニュースを聞く度に、何か自分の息子たちと関連がありはしないかと、ついテレビ画面を凝視してしまう。 
 これら事件に共通して言えるのは一般的には理解できない行動、思考、あるいは狂信的ともいえる執念があることだ。こうした徹底した言動は、それが社会的に良い、悪いは別問題として、ある意味で特殊な能力ではないかと思えてくる。彼らが持つ犯罪への集中力や創造力は、使い方を間違えた核燃料といえないか。
 それは上手に使えば何百万ボルトの電力を生む。誤れば何百万人の命を奪う。どちらに転ぶか、その選択は我々家族の手に委ねられている。