心の病と睡眠の関係

10月 勉強会より 講師   桜ヶ丘記念病院医長   岩下 覚先生

 外来に来られる方について言えば、病名に関わらず睡眠の問題を伴ってない方はほとんどいない状態です。特に睡眠障害の頻度が高いようで、内科の先生でも高血圧などの理由で睡眠薬を処方するケースもあります。このように、睡眠に関する問題は現代社会において非常に大きな問題になっています。
 
 では、どうして睡眠をとれない人が増えているのでしょうか?
 ひとつはストレスとの関係があります。ストレスがあるとスキゾフレニアでなくとも神経が過敏になって興奮してしまい、なかなか眠れない状態になってしまうことは、みなさんも経験されていると思います。それは、社会全体のしくみが昔にくらべて変わってきて、そもそも、人間というのは夜行性ではないわけです。私などは夜の方が元気ですが(笑い)、本来は昼行性であるわけです。昼行性の哺乳類なんですね。ですから、20年前は24時間営業のコンビニなどはまずなかったわけです。人間の生活のサイクル、つまり体内時計ともいうべき昼行性のホルモンの分泌とかのサイクルがあったわけです。しかし、最近はインターネットをはじめ、私たちの生活が24時間で廻っているような状態が一般的になってきました。
 24時間社会化のなかで変化してきているということは、 NHK国民生活時間調査というのがありまして、たとえば平日の12時過ぎに寝る人が1960年の調査では全人口の2.4%しかいなかったのが1990年の調査では13%、そのなかでも大都市では20%くらい、16~20歳台では30%くらいになっております。このように現代人の生活が夜型になって、昼から夜の生活へとシフトしてきていることを裏付けています。
 では、睡眠時間についていえば、これもだんだん短くなってきています。1970年で7時間57分、1990年で7時間39分と、20年間で約20分短縮されてきています。つまり1年で1分ずつ短くなってきている計算ですね。
 このように現代社会の在り方が変わってきているなかで、若い人や都会に生きる人間は生活のサイクルが狂ってしまい、生物として本来自分が持っている体内時計と実際の生活がズレて、それで夜眠れないという状況でしょう。ですから、心の病をもった人たちでなくてもこういう社会に生きている現代人は眠れないという現象が多々みられるようになっているのです。

 もうひとつの問題として、環境があります。それは、住環境に代表されるように鉄道や高速道路の隣接したところでは騒音問題があります。幹線道路や米軍基地など騒音の多いところに住んでいるなど環境の与える影響もあります。私は井の頭線の沿線で生れたので電車の音は平気でしたが、引っ越したとき道路横の家に越したためトラックの騒音に悩まされました。信号待ちから発進に変わってエンジンをふかす音に慣れるのに時間がかかりました。ですから環境によって眠れないということもありますし、順応できる方もいます。このように騒音という環境が眠りに影響するといえるでしょう。

 なんらかの睡眠の障害ある人の各国別の割合は、アメリカが3人に1人、イギリスが4人に1人、ドイツとかフランスが5人に1人。日本では内科に受診した人の33%、つまり3人に1人が睡眠障害だと非常に多いのです。不眠症とか「眠れない」とか言われますが、いろんなパターンがあります。大きく3つに分類されます。
 そのひとつは入眠障害で床についても寝付くまでに時間がかかるという状態です。普通、入床後5~15分で入眠しますが、大体30分以上たっても入眠できないことをいいます。これはいちばん多いかもしれませんが、しかし、何分以上たっても眠れないことが大事ではなくて、主観的な問題なんです。たとえば5分くらいで眠れていても、本人が寝付きが悪いって感じれば苦痛なわけです。
 つぎに熟眠障害、つまり眠りが浅い、 床にはつくのですが何度も目が覚める。とくに高齢の方で夜中 小水に何回も起きることで眠りが中断される場合もこの障害といえるでしょう。普通、質のいい睡眠がとれたとき朝起きますと爽快感のようなものがありますよね、「あーよく寝た」という言葉が思わず出るような状態です。しかし、熟眠障害では長く寝たにもかかわらず寝たような気がしない、当然疲労感も取れていない、このようなことになります。
 それからもうひとつ早朝覚醒があります。これは寝付きは悪くないのですが、とにかく早く目が覚めてしまい朝まで眠れない場合です。とくに高齢になられた方にこの早朝覚醒が多くみられます。また、うつ病の患者さんにも多くみられるといわれています。重度のうつ病の方の場合に寝付きはそんなに悪くないけど夜中に目が覚めてマンジリともしない方もいます。これは当事者にとっては非常につらいことです。
 このように「眠れない」と一言でいっても大きく3つのパターンがあるわけですね。実際には「寝付きが悪い」と「何度も目覚める」、「眠りが浅くてイヤな夢を見てしまった。」ことに「朝早く目が覚めてそこから眠れない」、…などのように組み合わさっている場合もあります。
 ですから私たち医師はこのような症状のパターンに合わせて使う薬の選び方も変わってくるわけです。

 では次に不眠の原因についてみてみましょう。 「眠れない」とひとくち に言ってもいろんな原因があり、 『の障害』と『不眠症』との2つに大別されます。

 まず 『睡眠・覚醒リズムの障害』からみてみますと、ジェット・時差症候群があります。これはいわゆる時差ボケです。海外旅行に行かれて行った先の時差と帰ってきてからの時差の影響があります。これもジェット機という現代文明から発生した人間の生活リズムの乱れを象徴しております。
 2番目が交代制勤務といわれる生活リズムの乱れです。たとえば看護婦さんの勤務というのはだいたい三交代になっていて、日勤がだいたい午前9時から午後5時、準夜勤が午後5時から深夜12時まで、深夜勤が深夜12時から翌朝8時や9時までとなっています。ですからこういう職場にいる人たちは睡眠・覚醒リズムがとりにくいわけです。

 つぎに『不眠症』についてみてみます。
 まずは精神生理学的不眠があげられます。これは精神的なショックやストレスがあったとき、失恋や仕事の失敗などのように自分の情動に影響するできごとがあると神経が興奮してある時期眠れなくなることなど一過性のものと、その一方で本人のもつ性格との関連もありますが、あるストレスや心配ごとが尾を引いているような状態もあります。失恋など普通の若い人なら2~3日で治るが人によっては1ヵ月かかったりするなどストレスが持続的にあって睡眠をとりにくくなっている状態というものがみられます。

 臨床的に非常に多くみられるのが精神障害による不眠で、いろんな精神的症状に伴って起こってくるものです。頻度は高く精神科を訪れる人で不眠の問題を抱えてない人はいないといってもよいでしす。神経症性のものと躁うつ病・スキゾフレニアなどの精神病性のものに大別されるのですがどちらの場合にも不眠は必発であると考えられます。いろんな不安とか緊張感が高く神経が昂った状態が続いているわけだからなかなか夜眠ろうと思っても眠られないわけです。
 とくに程度の重い不眠というのはスキゾフレニアとか躁うつ病の方の急性期の時期には不眠は必発であるといえます。何日間も寝ないということも希ではなく、 極期には精神的な興奮が高まっていて我々が1日徹夜するのが大変なところを彼らは 3~4日食事もとらず一睡もしないで徹夜しても大丈夫という状態ですが、逆にいえばその状態の方というのは非常に無理をしているということです。絶えず活動しているので疲労が高くなってきているのでゆっくり休んでいただくというのが非常に大事になってくるわけです。

 3番目にアルコールとか薬物による不眠も臨床的に多く、とくに覚醒剤中毒の方ですね、もともと覚醒剤というものは目を覚まさせるために作られた薬で、戦時中のヒロポンという名前で知られたものは当時の軍需工場での生産性向上や前線や特攻隊の戦意高揚のために使われたという話もあります。現代においても入院して来る方などがおられますが、理由を聞けば、気持ちいいからと使うものもいれば、徹夜の麻雀や博打のため、暴力団の事務所で電話番をするような若手の人で眠ってしまったら怒られるからと使った人もいました。とにかく覚醒剤の眠らないで済むという薬理作用で眠れないということがあります。
 さらには薬でありますからそれを連用していた方というのは妄想とか幻覚といった精神病の症状がでてきて入院されるのですが、最初はとにかく睡眠がとれなくてやってくるという状態です。入院して体から薬が抜けるまでは眠れない状態になります。
 あと耐性がついて眠れないという場合、たとえばお酒などの普通は飲むと眠くなるというのが本来の薬理作用でありますが、連続して飲んでいるうちにお酒に強くなてきて眠くなくなってくるというような場合もあります。このアルコールに対する耐性が高じてくるとアルコール依存症にもつながってくる道筋になってくるわけで、そうなるとお酒を飲んでいる、アルコールが体の中にあるのが普通だという状態になります。入院治療において少しずつ体内のアルコールを抜いていくわけですが、そのときに全然眠れないという状態がでてくることがあります。場合によってはせん盲や禁断症状がでてくるわけです。このようにアルコールが原因になって睡眠障害が引き起こされてくるということがあります。

 その他、睡眠時無呼吸というものが最近研究されてきていて、意識障害の方などに舌根沈下ということがあるのですが、睡眠中に舌が喉の奥に沈下して息が詰まって苦しくなって目が覚めるということがあります。 太った中年男性の方に多いようなのですが、 私なども夜2時間くらいごとに目覚めることがあってこれに該当するのかな?と思うことがあります。これはどちらかというと睡眠が中断されてしまうというパターンでありますが、こういう方に睡眠薬を処方してもよくならないだけでなく具合が悪くなるということもあります。

 これまで述べましたように不眠症といったときには3つのタイプがあることと、いろんな原因によっていろんな種類があるということです。とくに神経症であるにせよ躁うつ病やスキゾフレニアなど精神病であるにせよ、睡眠障害というのは必発の症状であるということです。

 最後に睡眠薬についてお話しいたします。
 精神科の医者だけでなく内科の先生なども気軽に使われており、いろんな種類があるのですが、現在いちばん使われているのはベンゾジアピン系の薬で、臨床では約90%使われております。クセになったり中毒になったりという不安もあるのですが、今の薬というのは昔の睡眠薬のイメージのものにくらべると依存になる度合というのは非常に少なく安全になってきているといえます。ちなみに睡眠薬あそびというものが昭和30年代ころに非常に流行った時期があったそうです。ハイニナールやブロバリン、メタクアロンなどの薬が薬局でも買えたそうで、当時の若者が気持ちよくなるために購入したり、必要量だけでは足りないと量を増やしたりもしたらしいということです。当時の薬というのは非常に薬物依存になりやすい度合いの高い薬が多く、中毒や依存性が非常に問題になったそうです。
 なんとか安全性の高いものをということで開発されたのがベンゾジアゼピン系といわれる現在普通に使われている薬であるわけで、医師の処方通りに飲んでいる分には特に心配はありませんと伝えるようにしています。ただ、医師から1錠と言われているのに効かないからと2錠飲むというふうに、自分で増やして飲まれるというかたが時々いらっしゃって、いくら安全性が高いといっても依存性がゼロというわけではありませんから処方された範囲を守らないでいると現在の薬でも中毒になる可能性は残されているといえます。睡眠薬というのは医師の処方された範囲を守って飲むというのが非常に大切になってまいります。
 医師として実際の処方にあたっては持続というものがポイントになってまいります。薬によって効き目の続く期間すなわち作用時間が違ってくるわけですが、たとえば寝付きが悪いという人に対しては作用時間の短いものを処方します。そうしますと寝付きのところでは薬理効果でなんとかできるので後は朝まで睡眠できます。あと睡眠薬にとって大事なのは起きたときに薬が残ってないということなのですが、残っているとお酒の二日酔いのように起きたときに気分が悪いということがあります。ハルシオンやレンドルミンやアモバンというものを処方します。逆に寝付きはそこそこで途中に目覚めるとか早朝に目覚めてしまうという方には、作用時間の長いタイプのものを処方しております。処方してみて朝の目覚め心地を効きながら量を加減していくという方法をとっております。
  スキゾフレニアやうつ病の人の不眠の場合、もちろん睡眠薬は処方するのですが補助的な役割しかないと思っていただいていいです。たとえばスキゾフレニアで眠れないという場合は不眠だけがあるのではなく、全体に神経の興奮性が高まっていたり過敏になっている状態がもとにあって睡眠がとれないわけであります。そういう方は睡眠障害だけでなく幻覚や妄想や抑うつなどの症状があるわけであり、そのなかの一つに不眠があるので睡眠薬だけをだしてもいいというものではなく、病気の治療につかう薬をきちんと処方して、その上で睡眠薬が必要なら処方するというかたちをとっております。あまり睡眠薬をとりすぎると却ってイライラしたり、浮ついて興奮したり怒りっぽくなったりするということがありますので、睡眠薬を使う場合には安定剤、本来の治療につかうものの中で比較的鎮静作用の強いもの、レボトミンやヒルナミンなどそういう薬を寝る前に飲んでいただくのが全体的なバランスとしてはよく治療できる気がします。
 それではこれで講義としての私のお話は終わります。質問のある方はどうぞ。

質問1,
 私の息子は不眠がしばらく続きました。でも、私はあまり心配しても仕方がない、といいますか、いつかは眠くなるだろうと静観していました。そうしましたら、眠りについたのですが、朝になると眠りについて、夕方まで寝ています。つまり、昼夜が全く逆転した形になってしまったわけです。先ほど先生のお話に眠りの質の問題についてお話されましたが、このような昼夜逆転の眠りでもよろしいのでしょうか。

先生:たしかに夜寝て、朝起きるというのが理想ですが、あまりそのことに神経質になる必要はないと思います。特にこの病気の方は昼間何かちょっとしたストレスを感じて、眠れなくなってしまう場合がありますが、それで一時的に眠りのタイミングがずれてしまっても、それで眠りがあるのであれば、当面、静観でいいと思います。それが不眠のまま、1週間、2週間と続いたら、それは病的な不眠とみて、何らかの治療を施した方がいいでしょう。
 睡眠とか生活のリズムというのは、薬とかで治療できない問題です。睡眠そのものが生活の全体なのではなく、まず、その人の生活の在り方として睡眠があるのです。
 例えば、昼夜逆転がいいことじゃないからといって睡眠薬をつかって戻そうとしてもそれで戻るものではありません。あまり神経質にならず、ご本人自らが必要性とか動機づけを感じたとき、動き出せば、そこで昼の生活のリズムが芽生えて来て、それが徐々に正常な形におなると思います。

質問2
 私はそれまで4年間幼児教育の現場で働いていました。しかし、2年ほどまえから摂食障害と睡眠障害に悩まされるようになり、職場を辞めました。現在も夜、目が覚めると何か食べたくなります。拒食と過食を繰り返しているような生活で、睡眠薬も飲んでみたり、催眠療法を受けたりしましたが、あまり効果はありませんでした。ルボックスも飲んでみました。それからハルシオンも飲んでみました。でも、だめでした。むしろハルシオンを飲むと食べる量が増えてしまうことがありました。でも、時々どうしようもない時ハルシオンを飲みます。
 そして日中が眠くて仕方がないことが困ります。そこで先生からリタニンをいただくようになりました。でも、体力の減退があって、辛い日が続いています。
先生
 大変ですね。色々と治療を試みられているようですし、これといったお答えはすぐには見つけにくいケースですね。最近、同じ様な症状を抱えている方々がグループを作って、自主的というか自助的というか、そんな活動している話をよく聞きます。そのような会に入ってみるのもいいのではないでしょうか。恐らく今、お聞きした主治医の先生でしたらそういうグループをよく知っていると思います。
 摂食障害も薬による治療というは難しいですね。さきほどルボックスも飲んでみたといわれましたが、これも摂食障害に効果があるといわれている薬です。でも、貴方のように効果が現れない人もいるわけです。

質問3
 いま催眠療法という言葉がありましたが、これはどんな治療法なんでしょうか。
先生
 要するに自己暗示ですね。自己暗示に入るのに催眠を使うということですね。現在この治療法を行う医師は少ないです。ただ街には催眠と称して様々なことが行われているようですが、例えば雑誌の広告で、催眠で赤面恐怖を治すとか出ていますね。でも医療として催眠を使う医師は少ないということです。

質問4
 家族が本ばかり読んでいる。眠れないなら運動をして疲れればいいと思うのですがいかがでしょうか?
先生
 適度な運動はいいと思います。ただ、体を動かすのを好きな人とそうでない人がいるので、運動好きならストレスの解消になってもそうでない人には却ってストレスを抱え込んでしまうわけです。生理的に適度な睡眠にもなるが個人差がありますから、一概に運動がいいともいえないですね。
 また、本が好きだからといって本を読むとストレス解消になるかといえば、本によってはストレスを高める本もありますから、難しいです。生活の中での睡眠ということでいうと、その人の生活スタイルは様々、例えばぬるめの風呂がいいとか、適度な運動がいいとか、これは全ての人に当てはまることではないですね。まして薬だけで解決できるものではないということです。

質問5
 息子の事なのですが、昼に寝てばかりだから夜眠れないのではと思っています。ドライブへ行こうということになると前日は一睡もしてないのに、当日になるとグーグー眠ってしまっています。息子は楽しいことあるとあると「昨日は一睡もしていない」と言うが、私(親)は精神的な苦痛で眠れない経験は多々ありますが、この楽しいことがあると眠れないというのはどういうことでしょうか?
先生
 息子さんについては遠足の前日に眠れないのと一緒だと思います。良い悪いは別にして情動が良い状態、神経の興奮が高まると、どうしても睡眠をとりにくくなります。感受性が高いのでしょう、一方「苦痛で眠れない」ということについては、ストレスが続いたことで自律神経に影響して過剰に反応している状態と考えられます。

質問6
 先ほどの催眠療法ですが、私の息子も病院の先生の了解を得て受けてみました。しかし、それ後荒れたこともあったのですが、今は落ちついています。それは催眠療法の効果が働いたのか、たまたま偶然なのか、その辺が知りたいのです。
先生
 催眠療法の基本は自我の操作です。つまり人間のデリケートな部分を操作する、働きかける治療です。ですからスキゾフレニアの人に施すのは副作用もあり得る治療で、慎重を要することです。その辺りを認識して治療を受ける必要があります。
 催眠とは違いますが、デイケアで気功や大極拳をやっているところもありますが、神経の緊張(収縮)と弛緩、スキゾフレニアの人で肩の凝っている人は多いのでリラクゼーションとして我々の感じる気持ち良さと同じ意味で効果はあるでしょうが、治療とは違います。
 あと、生活のしづらさや、そこからくる過度の緊張の緩和にはなるでしょう。特にスキゾフレニアの患者さんは触るとビックリするくらい肩が凝っている人がいますね。

質問7
 先ほどの説明で「躁うつ病・分裂病などの精神病性」について、分裂病の急性期に不眠は必発とのことですが、逆に不眠から精神病が引き起こされるということはあるのでしょうか?
先生
 それはひとくちには難しいですね。
 例えば拷問の種類に眠らせないというのがありますが、それはとても辛いものらしく、何日間も¥眠らせないと、人間は幻覚・幻聴症状が現れ、健常の人も精神病患者みたいになることもあるといわれています。でもそれは精神病になってしまったこととは違います。あくまで精神病的な症状(幻覚の前の前駆症状)が出てきたことです。猛烈眠りたいのに眠らせてもらえないのは、最高のストレスです。だから、最高のストレスが即、スキゾフレニアの原因かといえば、それはまた別です。
 患者さんには発症の際前駆症状というのがあります。喜怒哀楽がなくなったり怒りっぽくなったりすることがあります。その中で不眠は最初の変化として数多く出てきます。このことがあるので私は患者さんや家族の方に「眠れなくなったら注意してください」と申し上げています。睡眠障害はスキゾフレニアという病気では、確かに一つの指標にはなっています。だからといって「精神病→不眠」か「不眠→精神病」、どちらか決めるのは難しいです。です患者さんの経過を見るとき睡眠がとれているかどうかは参考になっています。入院している患者さんについても「眠れない」という人は状態が悪くなっているようです。
 ですから睡眠と病状の安定度とは深い関係があることは間違いないことだといえます。

質問8
 患者本人は起こしても起きないくらい寝ているのに親には「眠ってない」といいます。これはどういうことでしょう。
先生
 それは患者さんにはそのように感じられたことで、ご本人にとっては大変に辛いことです。つまり「眠った感じがしない」という苦痛です。それは、治療として楽にしてあげた方がいい場合があります。眠りはあくまで主観的な問題ですから。
質問者
 それでいて、主治医の前では「眠れる」いうのはどういうことでしょう。
先生
 恐らく薬を飲みたくないときもあるし、信頼関係もあるし、安定していると思われたい心理もあるということではないでしょうか。

質問9
 睡眠は安定してとらせるほうが確実なのでしょうか?
先生
 判で押したように何時間眠ればいいというものはなく、ナポレオンの3時間睡眠ではないが5時間で充分という人もいれば、10時間でも足りないという人もいます。体内時計や環境は一人ひとり違うので、あまり画一的に「~あるべきだ」とするとストレスになってしまいますからね。
 睡眠を「実感できるかどうか?」が重要で、その実感に近づけば近づくほどいい。

質問10
 睡眠のコントロールが難しい、遅く寝ても早く起きてしまいます。薬は頓服的に使ったほうがいいのでしょうか?
先生
 眠りたいのに眠れなくて起きていなくてはならない、辛いことだと思います。
 ただ、睡眠について脅迫的なものを持っている人もいますが、自分の持っているあるべき睡眠にこだわるよりは、「目覚めたときの目覚めごこち」など自分のもってる感覚を信じたほうがいいでしょう。
(途中ですが紙面の都合により以下省略します。なお、文中「スキゾフレニア」は精神分裂病の英語名です。)
   =記述 菊池(ボランティア)=

編集後記

 秋も深まり、テレビは紅葉の話題からいつしか雪の便りを伝えるようになった。そんな折、去る十一月十二日、中部地域家族会連絡会に参加させていただいた。
 港区高輪区民センターに8つの単会が集合した。この連絡会に参加するたびに、他単会の活動の充実振りに驚きと羨望の念を抱く。そして、活動している単会には、明らかにその活動ゆえに勝ち得た結果が示されている。そうした活動報告を聞くにつけ、帰ったら当会もガンバロウとその場は奮起するのだが、一晩明けると、朝から仕事の電話に追いまくられ、気がついてみると、一ヶ月が瞬く間に過ぎていた、という自らの覆轍を繰り返し踏んでいる。
 そうした中で、唯一救われることは、当会にボランティアが協力してくれるようになったことだ。フレンズ今月号は菊池君がまとめてくれた。「渡る世間は鬼ばかり」といわれるきょう、この頃、ボランティアとして活動することはどれだけの度量だろうと考えさせられる。自らの貴重な時間を、赤の他人のために使う。その心の内を聞いてみた。「いやぁ、自分のためになることでもありますから」と軽くいなされた。
 「渡る世間に鬼は消え」。束の間ではあるが肉体ばかりではなく、久しぶりに気持ちまでもが楽になった。                       嵜