薬の正しい使い方

10月勉強会より 講師 慶應義塾大学精神神経科 水野雅文先生

 本日は、テキスト『精神科リハビリテーションワークブック』の薬についての第3章に当たる内容をお話します。

 <薬の作用について>
 最初に、「精神障害では脳内化学物質の働きが阻害されています、この機能不全はストレスによって悪化します」とあります(14ページ)。精神障害とあるように、これは統合失調症に限ったことではなく、うつ病、躁うつ病、痴呆でも脳内化学物質の障害がわかっていますし、いろいろな心の病というものは脳内化学物質の障害が原因であるということが前提になっています。人間関係、環境の影響があって、思春期や更年期のような体や心のバランスが変わりやすい時期に起こりやすいのも確かですが、心の機能を発揮させる臓器としての脳というものが背景にあるということを知っておいてほしいと思います。

 脳は多数の神経細胞からできていて、神経がつながってネットワークをつくっています。神経から神経へ情報が伝達される際には神経伝達物質が必要になりますが、その流れの調整を薬がするわけです。ドーパミンやセロトニンといったものが代表的な伝達物質で、それらが脳のどういった部分に多いかはすでにだいたいわかってきています。しかし、脳の中でも前頭葉の、特に前の方の部分が、人間的な感性などに影響するとは考えられていますが、この部分だけにしかない特異な物質というのは知られていません。お薬を飲むと、前頭葉にも行くし、ほかの部分にも行く。必要なところ以外にも効いてしまうので、好ましくない副作用的なことも出てきてしまうわけです。

 こうした化学物質の働きが悪くなって心の病気が起きたのか、環境や人間関係の影響から化学物質の働きが悪くなったのか、これはニワトリと卵のような話でよくわかっていないんですね。たぶん両方だろうと思われますが・・・ ですから、お薬だけですべて解決とはいきません。人間というのは、やはり外の世界とのコミュニケーションをはじめとして、あらゆる知覚を介していろいろな影響を受けています。そこがむずかしいところですね。

 こうしたことを前提に、お薬は脳に効いているということをわかっていただいたうえで、お話をすすめさせていただきます。

 次の治療計画についても、2つの要素が必要になります。一つはお薬で脳内の化学物質のバランスの乱れを治すこと(A)、それともう一つは生活上のストレスへの対処方法を学ぶこと(B)です。今日はAについてのお話を中心にすすめます。

 脳内の化学物質の影響がわかってきてお薬として使われ始めたのは、歴史的に古い話ではなく、1950年代です。最初に登場したのはクロルプロマジンで、これは現在も使われているロングセラーです。長く使われているお薬です。

 お薬が市場に出るまでにはいろいろな実験を重ね、長い過程があるわけですが、長い年月飲んでみて起こってくる副作用というのもあり、市場に出て多くの人が飲んだ結果でないとわからないということがあります。そういう意味でお薬を飲むというのはリスクもあるわけですが、古いお薬というのは適切な量と症状を選んで使うと、値段も安くなっていますし、副作用についても臨床医は知り尽くしているわけで、新たな危険もなく、多くの良い点があるから長く使用されているといえます。そういう古いお薬と、新しく出てきた非定型精神病薬、市場に出ているお薬は大きくこの2種類に分けられます。

 非定型というように従来のタイプとは異なる新しいお薬は、現在日本では4種類が使用されていますが、それぞれのお薬に特徴があるのですが、今までの薬に比べて副作用が少ない、長く使ってもより安全である、作用の面で意欲の改善というこれまでのお薬ではなかなか得られなかった効果がありそうだということが言われています。お薬には、一般名と商品名があります。
 
 一般名は世界中どこでも通じる薬学的な名前。商品名はメーカーがつけた名前です。例えばハロペリドール(一般名)は、ある会社ではセレネース、別の会社ではハロステン、リントン、注射液ではハロマンスという商品名になっています。一般的に病院というのは、同じお薬を2商品、置くことはあまりありません(例外は一剤のグラム数が異なる場合など)。ある病院ではセレネース、またある病院でハロステンを処方されても、基本的には同じ薬なわけです。

 お薬を飲む際には、理想的には一般名を覚えてほしいと思います。一般名で何ミリグラム飲んでいるということをきちんと知っておいてほしいですね。少なくとも商品名で何ミリ錠を何個飲んでいるということを把握しておくことはとても大事なことです。覚えなくても手帳に書いておくとかワンセット実物を持っておくというのでもいいです。

 次に、薬とアルコールのことですが(テキスト4章も参照)、抗精神病薬を飲んでいると酔いが回りやすくなります。また薬の効き方が強くなることがありますから、基本的にいっしょには飲まないということは理解しておいてください。タバコについては、抗精神病薬の効果を弱めるといわれています。ニコチンも薬の成分も脳の同じところ(受容体)にくっつくので、先にニコチンがくっつくと薬が効きにくくなるのです。

 血液中に薬の成分がふえて好ましくない副作用などが多くなる。薬が効かないと、お医者さんは薬の量をふやしますから、悪循環が起こってしまう。こういうふうに薬学的にはタバコとお薬の関係はよくないのです。私達が調べたところでは、患者さんの尿のなかのニコチンの代謝物を検査しますと、タバコの消費が多いひとでも必ずしも多くないのです。つまりただタバコをふかしている時間も相当に多いのではないかと思われます。タバコを手にしているという、同じことを繰り返していることが気持ちの安定につながっているということもあるのかもしれません。

 コーヒーのカフェインも覚醒作用があるので、眠気をとりたいと思ってたくさん飲む方がいますが、これもあまり多いと砂糖も入れて肥満にもつながりますし、よくないですね。それから、抗精神病薬とほかの薬との併用については、まず問題ありません。
心配なら、確認するとよいと思います。

<薬のメリット>
 それでは、お薬のメリットの話をしたいと思います。一つは幻覚妄想、思考障害をとる。具合が悪くなったときに症状を改善するということがあります。それともう一つは再発の予防。具合がよくなってもしばらくは飲んでいましょうというのは、再発の予防を期待しているわけですね。

 最初に、急性期の症状に対する効果ということからお話しします。お薬には効く方、効かない方がいまして、量もそれぞれ異なってきます。効果が期待しやすい、わかりやすいのは、「妄想、幻覚、思考障害、理由もなく笑ったり泣いたりすること、イライラ感、不安感」などの症状で、お薬を飲むことでかなり急激な効果が期待できるだけです。

 抗精神病薬というのは、飲んでからすぐ、不安感やイライラ感には30分とか1時間という単位で効いてきます。お薬ですから、口から飲んで胃でとけて、血液に吸収されて運ばれて、脳について効いてくるわけですから、飲んだ途端に効くということはありえないわけです。でも、飲んだ途端に効いたという患者さんがたくさんいるわけで、お薬というのは薬学的な作用以外の効果もあるというのは事実だと思います。ですが、少なくとも飲んで30分くらいは効くまでに時間がかかると知っておいてください。

 眠れないときに追加してお薬を飲む方がいますが、お薬を飲んだのに効かないと思う気持ちが強くなってしまうと、お薬が効き始める30分後くらいには目がらんらんとなって、どんなに飲んでも効かないということになってしまいますから、うまくタイミングをあわせて使うということが大事なポイントです。こういう原理もいっしょに理解しておいて、具合の悪いときに飲むお薬も効果が出るまで30分くらいはかかるので、飲んだときも30分くらいは気持ちが鎮まる方向に話をしたり、テレビをいっしょに見たり、そういう時間が必要なわけです。それがお薬の効果を一段と増すわけです。
 飲んだら安心で家族はどこかへ行ってしまうのでは、またイライラがつのってしまうということもあるので、そういう原理と使い方というコツを理解してほしいです。

 お薬をきちんとつづけて飲んでいると血液中の濃度が上がってきて、ここを超えるとある症状がとれるという線があります。また、お薬というのは飲まないでいても最初のうちはある程度濃度が維持されています。それが1回飲まない、2回飲まないでいるとだんだん濃度が下がってきます。お薬による治療の場合、治すときは10のレベルを超えないと治らないものですが、再発の時は6のレベルまで下がっても再発しないということがあります。しかも、まだ大丈夫、まだ大丈夫とお薬を止めてしまう場合があります。お薬を止めると副作用もなくなり、一見回復したように思えます。

 しかし、あるレベルまでくると、お薬の効果が落ちてしまうことになります。で、再発となり、病状を悪化させてしまうことになります。そうすると今度は先程10のレベルで治ったと言いましたが、再発のあと治すには11、あるいは12のレベルまで飲まないと治らないということになります。

 ここで、2つのケースを比較してみると、1つは再発になるまで飲まないで、再発したら大量に飲んで治し、というケースと、少量だが常に一定量を飲み続けていて再発には至らないというケース。この場合、薬の総量を計算してみると、後者の少量を常に飲み続けているほうがトータルでは少ないという結果が出ています。

 再発予防を考えることで、1度急性期症状を抑えてから、薬を止めると1年以内で7割の方が再発するというデータがあります。きちんと飲んでいれば3割くらいに収まっています。でも、お薬を止めた人が1年以内に必ず再発するわけではないということでもあります。

 そこで大切なことは、1回再発してしまうと元に戻るのに大変時間がかかるということです。それから良くなって、仕事が見つかったり、友だちができたりします。そういう方が再発してしまうと、仕事を止めなければならない、友だちを失ったりということになります。ですから、お薬を止めるか飲み続けるかについては難しい問題だと言えます。でも、これまではお薬をのみ始めると一生のみ続けなければならない、という医師や参考書も多かったと思います。しかし、最近は統合失調症を治そうという考え方で、お薬を極力0を目指すという先生が増えていることも事実です。

 このような選択肢についてはご本人が比較的調子がいいときに、相談しておくといいでしょう。逆にこうした相談なしのご本人がお薬を止めた場合には、いま申し上げたようなデメリットが発生するか、再発する前と後ではどのような苦しみや生活への影響がでたかを相談していただいて、なるべくなら飲み続けてほしい、ということを伝えてあげるほうがよいと思います。

 でも、中にはご本人からお薬を飲み続けていたほうが楽がという方もいます。また、一方ではお薬を飲む度に自分は病気なんだ、ということを思い出してしまうのが辛くて、飲むことを止めてしまう方もいます。

 精神科医でも統合失調症になる先生がいます。その先生を診察することがあって、その先生からお聞きしましたら、先生自身でも調子が悪くなると分らなくなってしまうそうです。そういう時に自分が信頼できる人に決定を任せたいとおっしゃいます。ですから、お薬に関しては病気全体の問題とは別にご本人と相談しておいた方がいいと思います。

<デメリットについて>
 次に薬のデメリットについてですが、お薬には必ずデメリットがあります。これはないことが理想ではありますが、お薬はある特定のことがらだけに効くわけではないわけです。

 例えば、眠気のデメリットということがありますが、眠気は、何か興奮やイライラするようなことがあった時、睡眠導入剤を飲んで、精神活動が抑えられると、これは効果(メリット)です。ところが、普段お仕事をしている方が同じお薬を飲んで、精神活動が収まるという同じ薬理作用が発揮されますが、眠気として発揮されますから、これはデメリットとなります。

 つまり、薬というのは使い方でどのような面にも効果が出てしまうものです。ですから、向精神薬の場合、どうしても気分とか心の動き、本人の主観的動きに効くものですから、ご本人が言っていただかないと、なかなかこちらに伝わらないのです。一見調子が良くて、良くなればなるほど患者さんの要求水準というかニーズは高まってきます。お薬の相談をするときは医学用語ではない、自分の主観的な体験を平易な言葉で言っていただいたほうが私たちは想像し易いということが言えます。

 例えば「この薬を飲むとそう状態になります」と言われても、そう状態は医学用語として私たちは解釈してしまいますので、ご本人が言ってる「そう状態」とは違う意味でとらえることもあります。ですから、「うきうきしてくる」「朝から活動的な気分になる」とか言っていただいたほうが、私たちは想像し易いわけです。どんなくだけた言い方でもいいです。なるべく苦痛を自分が感じたまま言ってほしいと思います。

 このワークブックにも書いてあるように「眠気」とか「目眩がする」「震えがでる」「口が乾く」というようなことが副作用として起こってきます。これに対して副作用止めという薬を飲むという方法が安直ですがあります。ですが、なるべくなら副作用止めの薬を使わずに、本来の向精神薬の種類、量を調節したり、新薬と古くからの薬を組み合わせるなどして副作用を出ないように工夫する必要があります。しかし、それは一度の服薬で効果がでることはないので、2ヶ月、3ヶ月と続けてみて判断する必要があります。

 副作用止めの副作用ということもあります。ですから、そういったことがだんだん重なってきて、どこまでがその方の症状で、どこから副作用なのか、さらにどこから副作用止めの副作用なのか、これが分らなくなってしまうことがあります。ですから、多少時間をかけてでもご自分に合った薬を探していくといったほうが理想的だと思います。

 向精神薬の副作用については、例えば抗癌剤の副作用というのがありますが、この副作用というのは数知れないほどあります。そして重いです。しかし、向精神薬の副作用の場合、命に関るような決定的な副作用というのは非常に出現率が低いです。「ない」とは断言できませんが、いくつかの注意点をきちんと守ればかなり安全なお薬であるといえます。

 ですからお薬を考えるとき、あまり副作用、副作用と目を向け過ぎずに、向精神薬にはメリットがたくさんあるわけですから、まず効果がどれくらいあるのかを見て、その上で副作用を始めとした困った問題を最小にとどめるようにするのが基本的な考え方だと思います。

 副作用ばかりに目を向けてお薬を考えると、どうしても本来の治療が後ろ向きになるということがあります。また、一度出会ったお薬は換えたくないということがあります。ですから、時々飲んでいるお薬を見直すということもポイントだろうと思います。

 副作用の対処法としては、このワークブックにもあるように、これまでに経験した副作用をきちんと記録をとっておくことですね。そのときどのような対処をしたかもおさらいしておけばよろしいかと思います。また、どんなお薬でも始めて飲んだときからだんだん慣れてきて副作用が消えていくものもあります。慣れるだけではなくて数日で実際消えるものもあります。ですからお薬が変わったときは何日間かは様子をみてみる必要があります。1回飲んだだけであの薬は合わないと決めつけてしまう患者さんがおりますが、特に向精神薬の場合は種類によって劇的に変化するお薬ではないので、多少の違和感があったとしても少し様子をみたほうがいいでしょう。

 次に薬が多すぎる場合です。処方に当ってはその患者さんの年令とか、体重とか病気の症状を聞いて、なるべく少ない量で合うように最初の処方を行います。しかし、その方にあった量というのはなかなか一度の処方では合わないものです。何度か量を変えていかないと合わないことが現実です。ある医師は副作用が出るということは、その患者さんにとっては量が多いのたと言い切っています。

 ですから、副作用がでるか出ないかあたりの量がその患者さんにとって合っているとも言えます。少ない量から始めていくと、最初の段階でこの薬は効かないと判断することがあります。中にはこの病院はダメだといって別な病院へと考える方もいます。いずれにしても大事なことは主治医とよく相談して望んでいる作用(症状に対する)お薬の、種類、量を調節するということに尽きると思います。

 次にお薬を変更する場合ですが、最初は量を変えてみます。量を変えてもいい結果が出ない場合には種類を変えてみる、という手順です。これでも副作用が出てくるという場合副作用止めの薬を出すということになります。それでもいい結果が出ない場合はまた種類を変えてみる、ということになります。

 しかし、ご本人のほうでも、眠気の副作用が出てしまうことを避けるために、運動をしてみるとか、あるいは眠気が出るお薬は寝る前に使って、その眠さを逆に睡眠導入として利用するという方法もあります。そのほか目眩、食欲、といった副作用が出るようであれば、身体を休めたり、栄養を考えた食事にするとかの工夫も必要です。このように、副作用が出たからすぐに副作用止めに頼るというのではなく、薬以外の方法で対処していく方が望ましいわけです。

 最後に、規則的な服薬についてですが、どうしても服薬はつい忘れてしまう、ということがあります。そこで、お薬というのは体内にある一定の濃度が保たれればいいわけです。ですから、1回忘れたからといって、すぐにその反応が出るわけではありません。問題は1回飲み忘れた分をどう補うかということです。それは、主治医とよく相談しておくといいです。

 それと、まずご本人が自ら積極的にお薬を飲むということが長く飲み続けられる最大のこつです。ハロマンスという注射薬がありますが、これは1ヶ月に1回注射すれば、口から飲むお薬は必要ありません。それが売りでいい面でもあるのですが、患者さんの治療の意識とか服薬の積極性といった面が失われる場合があります。また、一度からだに入ってしまった薬は抜き取ることができません。服薬でしたら細かい調節が可能です。ですから、できれば口から飲む服薬にして頂くことをお勧めします。その方法には様々な工夫があると思います。ピルケースの採用とかカレンダーに記入するとか、薬袋1個1個に日付けを薬局からいただいたらすぐに書き込んでおくこともいいでしょう。皆さんが独自に患者さんにあった方法を考えてください。それではきょうはお話はこの辺にしてあとは皆さんからの質問にお答えします。

質問1 娘は現在結婚していますが、高校時代にいじめにあいました。それが今でも症状が悪くなると出てきます。それが薬を飲まないと出てくるようです。幻聴というのでしょうか、みんなが私を悪く言っているというです。それはもう20何年も前のことですよ。頭の中ってそんなもんでしょうか。人間の体は6,7年で細胞が入れ替わるといいますが、頭の中は入れ替わらないのでしょうか。(笑い)でも、朝は主人のお弁当を作っていますし、一応の結婚生活はできていますが、薬を飲まないとそうした症状が出てきます。それから今の主治医が年配なので、もしその先生が急に引退されてしまうとどうしたいいか、いい先生を紹介していただけないかと思いますがいかがですか。(笑い)

先生 それは今の主治医に聞くことですね。それは先生ご自身もいつまでも治療できないことはわかっています。

質問者 私は少し不満なのは、これまで20年以上も娘を診て来ましたが、その間孤独でした。今の主治医はこうした家族会があることもぜんぜん知らせてくれませんでした。最近になって私は資料からこの新宿家族会を知って参加しましたが、それからほんとに気が楽になりました。主治医は親の悩みなんてまったく考えていない人です。

先生 それにしてもそうした精神科の情報は保健所とか精神保健センターにいけばありますから、そうところでいろいろ調べてみるといいでしょう。

質問2 私の息子は1日50錠の薬を飲んでいますが、薬同士の相関作用というどうなのでしょうか。

先生 抗精神病薬の相互作用というのは少なくて、重なっていくということが多いです。しかし、お薬によってはある薬と別な薬とが合わされるとどちらかの薬の作用が減少したり上昇してしまうということがあります。ですから抗精神病薬では1錠あたりの量を小さくして重ねていくという方法もあります。

質問者 海外の場合は単剤というのが基本だそうですが、それとはどう関係するんでしょうか。

先生 向こう(海外)は保険が通りませんから、そうしています。それが医学的にはどちらがいいという結論は出ていません。

質問者 しかし、海外では単剤でも社会的に許容される程度の回復がなされているわけですね。であれば医療費の問題もありますが、いろんな意味で単剤のほうが明らかに有利ではないですか。

先生 それは機能がどこまで回復しているか、といった比較の確たるデータを取ったわけではないですから、どちらがいいとは単純にはいえません。

質問者 再発率というのがありますが、例えば70%の再発率といった場合、個人にとってはゼロ対1ということではないですか。

先生 その通りです。

質問者 それでは再発率という数字はあまり意味ない数値ではないですか。

先生 ご本人個人が70%の状態に再発するということではないわけです。1000人の患者さんのうち700人が再発するという意味です。意味ない数値とばかり言えないのは、再発率を表現するにはそれしかないということがあります。

質問3 統合失調症の発病率は1%といわれていますが、そううつ病の場合は何%ですか。

先生 そううつの場合は幅が広いということがあって、定義の仕方で大きく変わってしまうことがあります。うつ病に限っていえば、一生のうちでは5人に1人がかかる病気ではないか、といわれています。そう病のほうは少ないですね。かつてはそううつ病もおよそ1%といわれましたが、いましっかりしたデータがありません。

質問4 専門病院がいいのか、クリニックでいいのかも悩んでいますが、どちらがいいでしょう。

先生 それはご本人が「行きやすいところがいい」ということです。それから、きょうの教材として使っている「リハビリテーションワークブック」にあるような日常生活の記録づくりも大切ですね。

質問者 それは本人に書かせるのですか?

先生 そうです。ご本人に書いていただきます。そうすれば診察時間が短くても主治医には要点が伝わりますから、治療がスムーズにいくと思います。

質問5  統合失調症は年齢が高齢になると落ち着いてくる、あるいは回復してくるということをある書物で読んだ記憶があるのですが、それは波が少なくなるということなのか、それともきょうのお話にあったニューロンの回路がつながって、正常に戻ってくるということなのか、それはいかがでしょう。

先生 それは両方と言えます。

質問者 それは誰にも通用することでしょうか。

先生 誰にもいえることだと思います。それはご本人も年齢を重ねれば周囲も年齢を重ねた人となって、付き合い方とかで環境が変わりますので、そうした回復が期待できるものでしょう。

質問6 病名告知のことですが、私の場合は発病から1年半ですが本人には告知していません。
 病識をもつことは大事だとは思いますが、親として言ったほうがいいのかという悩みと主治医自身も「まだ言わなくてもいいんじゃないですか」という考え方のようです。水野先生の告知の基準はどのような基準ですか。

先生 私はただ病名を伝えるために「あなたの病気は○○病です」というような告知はしません。告知しなければならない状況とか、知らせたほうがご本人にとって明らかにメリットがある場合には告知しますが、例外的です。大事なことは治療を続けることの必要性を理解していただくことですから。

会場1 東大の○○先生は会ったとたんに「あなたは分裂病です」って言いました。(笑い)いや、それはもちろん引継ぎのカルテを見てからですから、非常に判断が早いということだと思います。

会場2 うちは告知しても本人が認めないから大丈夫。(笑い)

会場3 でも、それは個人、個人が違うから親は悩むんです。

会場4 告知すればそれで病識がもてるようになるかといえば、それは別です。だから、私は言わないほうがよかったかなという気持ちです。それより、「これこれ、こういう症状があるから、こういう治療をしよう」といった説明のほうがよかったと思います。

質問7 抗精神病薬を飲み続けると血糖値が上がって糖尿病になる恐れがあると聞きましたが事実でしょうか。

先生 それはあります。特に非定型抗精神病薬という新しい薬に糖尿病になる傾向が見られます。最近では新しいお薬を使う際に、糖尿病の既往や家族歴について質問される先生が多いのではないでしょうか。

質問8 うち子の場合体重が30Kgも増えてしまいました。糖尿病のことを心配したほうがいいでしょうか。

先生 それは増え過ぎです。血糖値、尿糖値をきちんと測らないといけません。

(途中ですが紙面の都合で終わります)

勉強会講演記録CDの2枚目が完成しました。
フレンズ編集室では講師の先生方の講演記録を生の声で聞いていただこうと、CD制作を行っていきます。
まず第1弾として、9月勉強会で講演していだいた曽根晴雄さんです。詳細

タイトル『ちょっと私の話を聞いてください』  
 =聞けば見えてくる・精神分裂病当事者が語る患者の本音=

 家族は患者本人の気持ちを知っているようで理解できていません。二十数年間この病気と戦って来た曽根さんが、自らの体験をもとに訴える精神病者の苦悩、怒り、病気のこと、希望、それはすべての精神の病いに侵された人たちの声を代弁しています。
 また、当事者仲間の先輩として語る内容は、回復しつつある皆さんのお子さんが聞いても大いに励まされます。
 そして誰よりも聞いてもらいたいのは、分裂病を全く知らない人たちです。”もしあなたのお子さんが病気になったら”という目的の他に、各地で取りざたされる障害者の事件の度に生まれる誤解や偏見を防ぐためにです。一般の方に呼びかけてください。

第2弾は
「心の病を克服 そして ホームヘルプ事業へ」 
大石洋一さんです。詳細

収録分数;61分 CDラジカセ、パソコン、カーステレオ等で聞けます。
価格;各¥1,200(送料共、2枚同時申込の場合2,270円)
   申し込みはフレンズ事務局へ E-mailでお申し込みください。frenz@big.or.jp
発売:平成14年1月
企画・制作 新宿フレンズ編集室
(新宿家族会創立30周年記念事業)

編集後記

都合により今回はお休みします。