社会復帰を考える

11月勉強会より 講師 国際精神保健交流コーディネーター 山口律子さん

 私はかつて墨田区の保健所にてデイケアを担当しておりました。その後、海外でMDA(Mood Disorders Association:うつ・気分障害協会)というところで仕事をした後、ホスピス、薬物依存のセンター、横浜の保健医療センターにて精神障害者の方の就労援助とナイトホスピタル(仕事に行きながらの宿泊訓練)のデイケアを担当いたしました。

 現在はアメリカの会社の職業リハビリコーディネータとして障害者の方の職場に戻る方の手伝いをしており、この仕事が月曜から金曜までの本職です。うつ・気分障害協会というのは土日だけやっている仕事になります。

はじめに

 こころの病気になってしまうとその絶望感や不安感といったものを他人が理解するのはたいへん難しいものです。まるで光のないトンネルだと言われることもあり非常に絶望的になられる方が多いのですが、必ずこころの病気は治ります。ですから、ご家族の方が希望を失っているご本人の光になっていただきたいと思います。

 統合失調症にせようつ病にせよ、こころの病気というのは脳の病気なんです。脳の中のホルモンのバランスが崩れることで起こります。だから、薬を飲まなくてはいけません。糖尿病の人がインシュリンが不足したときに注射したり食事療法をするように、正しい投薬によって社会復帰ができるようになります。いろんなレベルの社会復帰があります。本日はそのことについて説明しますが、こころの病気はきちんとした治療をすればキチンと治ります。ここが重要なのですが、ご本人が何年も治療しているのにちっとも良くならないとお思いの方もいらっしゃるでしょうが、良くならないのにはわけがあります。正しい治療や正しい生活療法をしてないからです。薬を飲むだけではダメなのです。

 そして、こころの病気を治すにはサポーターの存在が大切なのです。車のタイヤと一緒なんです。日本の医師というのは薬さえ飲んでいればいいというようなことを言いますが、4つあるタイヤのうち1つだけをスペアタイヤに変えればいいと言っているのですが、そこだけちゃんとしても残りの3つのタイヤがしっかりしていないと車は走りません。日本の統合失調症の方が非常に社会的な不利益を負って入院したままであったりとか、地域の中でも何もできなくて沈んだままでいるのはタイヤを1個しか変えてない車で走り続けているようなものなのです。薬物治療だけでは統合失調症は良くなりません。

 これまで私は現場でたくさんの方々に会ってきました。薬の服用というのはとても大切です。家族のサポート、社会資源(保険所、ケースワーカー、作業所、生活支援センターなどなど)を利用することは初発のときは難しいです。しかし、一度病気になった状況というのを体験しておりますので再発というのはかならず予防できます。早期の診断、周囲のサポート、薬物療法によってこころの病気というのは克服できます。家族が信じなくてはいけません、今までいろいろな先生から統合失調症は治らないと言われ続けてきたかと思いますが、彼らが治せないんです。だまされてはいけません。この辺りの理論がキチンとわかっている先生は病気は治りますと言ってくれます。

 ですから、まずはあなたたちご家族がこの病気はキチンと治る病気であるということを説明できるようになることが大切です。治らなくて何だかわからない病気だということが偏見を生むのです。精神障害者の方たちは治らない、何をするかわからないという誤解が地域の中に広がっているからダメなんです。それを打開するためには家族の方々が訴えかけていくことが大切になります。ちゃんとした治療を受けていればこの人たちは地域の中で安全に暮らせるし、もしかしたら他の人よりも高い能力を持っているかもしれないということを伝えていくことは大切なのですが、そういう偏見が強いのでなかなか地域に戻るのが難しいという現状があります。

社会復帰に向けて

 回復のガイドラインですが、ご家族が学べることは全て学んでください。今はいろいろな本が出版されております。現実的な期待を持ってください。なぜ社会復帰の話をする前にこのことを言うのかといいますと、非現実的な期待をされるご家族が非常に多いからです。

 無条件の支持を与えてください。相手の気持ちを支えてあげてください。ご家族自身の日常生活のペース、ご本人が病気になる前の日常生活のペースをできるだけ守ってください。ご家族の中に一人病気の方が現れますとその人のペースで自分自身の趣味をやめてしまったり、かき回れたりします。急性期のときはそれでいいのですが、でも、長年のつきあいになることを考えたら自分自身にも趣味がないとダメだし、長期戦ですから自分自身のペースが守れないとやっていけなくなります。そうなりますと家族の中の感情が高まると再発率が高まるといわれていますから、ご家族もルーティンワークを守ってください。

 個人的な攻撃として受けとらない。時々、病気の方というのはとても攻撃的になって嫌なことを言ったりすることがありますし、親戚などから「あなたの躾が悪いからこうなったのよ」と言われたりすると自分が悪いからなのかと勘違いして自分自身を責めてしまうことがあります。違います。病気がさせているんです。あなたのことが嫌いになったのではなくて、それは病気がさせていることなのですからあなたが被害的になる必要はありません。助けを求め、チームとして動いてください。自分自身で抱え込まないこと、背負いすぎるとダメになります。重い荷物を持とうとしてても限界がありますから、必ず人に持たせる。人に手伝ってもらうことが大切になります。

「あせらず、ゆっくり、あきらめず」

 これがうつ病だったら「あせらず、あわてず、あきらめず」の3Aなのですが、統合失調症の方ですと「あわてず」が「ゆっくり」になります。

 うつ病の方だと3ヵ月のスパンで変っていくのですが、統合失調症の方だと急激な回復というのはあまり期待できませんので、長いスパンで見ていただくのが大切になります。

 具体的な目標を作っていってください。しかし、ご本人の目標とご家族の目標との間にはものすごくズレがあると思います。ですから、まずはお互いの目標を確認し合うことから始めてください。そして、御本人はどうしたいのか、いつまでにどういうふうにしたいのかという目標を立てることが大切になります。一週間後にどうしたいのか、一ヵ月後ならどうだろう、三ヵ月後、半年後、一年後、三年後…これくらいのプランで具体的な目標を一歩一歩作っていくことが大切になります。

ステップ1

 自宅にひきもこり状態の場合は家族以外の人に慣れてもらうのが大切になります。統合失調症の方の場合、対人恐怖といって家族の人と付き合うのは大丈夫だけど他の人と付き合うのが苦手ということがあります。ですから、保健師や、最近は精神科病院でも訪問看護ステーションを併設することが多いので、そこの訪問看護師、病院のケースワーカーで訪問する人もいますし、精神保健福祉ボランティアを派遣している自治体もあります。そういった人々に定期的に家庭訪問に来てもらって家族以外の人に定期的に交流してもらうことが大切になります。

 外の空気を入れるということなのですが、居心地の良すぎる家はひきこもりの温床となります。家というのは居心地がいいものですから外に出なくなるということです。外は厳しいだけに居心地がよすぎると家から出たくなくなります。

 例えば、私のようの保健婦が訪問すると相手は落ち着かないと思います。よく話しますので悪口を言われている気分になります。私がひきこもっている方の家を訪問するときも最初のうちはほとんどご本人とは会えません。ですから、わざと聞こえるようにご家族の方とお話しすることにしていますが、相手も聞き耳を立てています。三ヵ月もすると物陰からこちらをのぞき見出したり、そのうちにあいさつもするようになります。

 普通の保健婦は2ヵ月も行けばあきらめるのですが、私の場合、3年間くらい通ってやっとデイケアにつなげたという方がいますから、時間をかけてかかわっていきますし、やってる方もあきらめてはダメだと思ってます。最初の内は食事のときに「今日は誰が来てたの」と聞かれるみたいですけど、そのうちに慣れてくるとあいさつにだけは来るようになりますし、あいさつを返してもそのときはすぐ部屋に戻ってしまいますが、少しずつ通い続けていると「定期的にうるさい人が来るぞ、この家も居心地悪くなってきたな…」と感じるようになります。

 私だけでなくボランティアや病院のケースワーカーを連れて行ったり、時々精神保健福祉センターの医師も連れていったりしたのですが、医師が来ても本人は会いたがらないのですが話だけはしっかり聞いてます。「いよいよ居心地が悪くなってきた。入院させられるかもしれない」となってきますから、入院するのとデイケア行くのとどっちがいいという選択を迫られてくるのですが、まずは、居心地を良すぎないようにするというのが大切です。

 先日、あるひきこもりの親の会で講演をしてきたのですが、私にいわせればそこは統合失調症の親の会ではないかと感じてしまいました。「ひきこもり」っていい言葉ですよね。本当の病気を親が感じないで済みますから…診断を受けてない、かわいそうな親御さんがいっぱいいらっしゃいます。自分たちにすれば統合失調症という病名を受け入れたくないがためにひきこもりの親の会に入っているんですけど、そのことがどんな悲劇を生んでいるのか気付いてないんですね。

 親が面倒を見られるのは親が生きている間だけです。親亡き後にひきこもりのご本人がどんな生活を送るのか考えてみてください。   

 高齢になったときにその人がいろいろな福祉の制度を使わなくてはいけなくなったときに他人とのコミュニケーションの取れない人は無理やり老人福祉施設に入れられます。多くの精神障害の人が単身生活をできるレベルでないときには施設に入れざるを得ないんです。そうなったときに人に会うのが苦手な人が団体生活をしないといけなくなります。若いうちに団体生活をすることになっても融通がききますが、高齢になった方が家族がいなくなったということで施設に入所することになったときにそれはすごいストレスを感じて病状がとても悪くなります。

 私は何人もそういう方を見てきました。保健所というのはある意味とても残酷なところです。その人自身が生きる力をつけていないと施設に入れざるを得なくなってしまいます。家にいたときには安定していたはずなのに、施設に入ったとたんに病気が悪くなるということが必ず起きます。

 ですから、そういう不幸を起こさないためにも、ご家族の余力がある内にご本人が最低限生きていけるだけの力をつけておいていただきたい。できるだけ早い内にひきこもりの温床とならないように何かの手を打っておいてください。

ステップ2

 このステップはデイケアや生活支援センターを使えるレベルです。

 デイケアというのは朝の9時から4時までを基本に午前のみや午後のみ通うということもできます。保健所や病院などいろいろな所で実施してます。ここでは規則正しい生活リズムを作れます。大抵は休憩室を備えていますので、横になっていることもできます。スポーツ、ハイキング、料理…といろいろなメニューをこなしていくのが基本ですが、それができる人はデイケアがいちばんいいと思います。

 ただ、デイケアだと面接したりとかメンバー登録をしたりと面倒な部分もありますし、一人が一回参加すると1万円ばかし収入がある構造になっておりますので病院の経営という事情もあって、参加率が悪いとスタッフから催促されることがあります。

 一方、生活支援センターですとデイケアほど厳密なしばりがありませんので、特に統合失調症の初期の方、回復レベルにあって保健婦には会えるようになったけど決まった時間に決まった場所に行くのが苦手という方には生活支援センターで自分の体調のいいときだけ利用することができます。東京都民であれば都内の施設を利用できることになっておりますし、自分の好きな時間に自分のペースで利用できるので非常に便利です。

 こういったデイケアや生活支援センターといった社会資源は自宅以外の居場所として利用する。自宅で喧嘩をしたりして本人の行き場所がないと篭ったり暴れたりということもあるのですが、本人が辛くなったときに行き場所や逃げ場所があるという意味でとても大切です。

 また、そういう場所ですといろいろな方がいますから、複数の人と交流ができて人間関係も広がっていきます。友だちから裏技を習うこともできますし、病院などの情報も聞くことができますし、服薬の必要性等も家族がいうより仲間から聞いた方がご本人も理解してくれるみたいです。いろいろな状態の人がいますので、今の自分の状態を客観的に見られるようにもなります。健常者を見てもわからないことが、同じ当事者のレベルからみてわかることがあります。

 家族会でもここに来れば同じ体験をした仲間がいるから参加し続けられるのだと思うのですが、これは皆様のご家族にとっても一緒のことなのです。同じ体験をした仲間と語り合っていくことで傷を癒して回復していくのです。そのためには複数の人と交流できる場をもたないと難しいのです。

チェックポイント

睡眠・休養が充分取れていますか?

 時間としては寝ているけど昼夜逆転する方が多いので、夜に寝てなくて朝に寝ているということがよくあるのですが、それだと脳の中は休めていないから昼夜逆転では睡眠・休養が取れていないということになります。

朝、きちんと起床できていますか?

 自分で起きるのが一番なのですが、家族の方に起こされてでも朝きちんと決まった時間に起きていますか?

一日中眠らないで過ごせていますか?

 昼寝が必要な状態ですか?薬を飲んでいると非常に眠くだるいです。ですから、だいたい急性期には昼寝をしないとからだが保てません。昼寝をしなくてもいい程度に薬の量が減っていて体力が回復していますかということでもあります。

服装を整えて一人で外出できますか?

 統合失調症の少し重い方は正しい身なりを整えることが不得意ですから、その場その場に応じた服装とか身だしなみが少し難しくなります。外が寒いから上着を着ていかないとダメだというのに半袖シャツで外出したりとか、靴下に穴が開いていても平気だとかということがあります。とにかく、整容がきちんとできるかどうかが大切になりますが、統合失調症が悪くなるとこういったことができづらくなります。

金銭管理ができますか?

 もらったお金を一度に使ってしまうような人なら、デイケアに行ったときに周りに巻上げられることもありますから金銭管理が大切です。

ステップ3

 福祉的就労といわれる段階です。最近では作業所とか就労支援センターとよばれる社会資源が増えてきました。作業所ですと工賃が月1万円くらいになります。その次のステップが通所授産施設で、通い続ければ作業所よりは稼げるはずです。東京都ですと就労促進プログラムというのもあります。その分、仕事はきつくなります。さらに、その次のステップが障害者職業センターの中にある就労準備訓練プログラムというのがあります。

 作業所に週5日通えるようになって、きちんと仕事をできるようになったときに通所授産施設という少し仕事のハードなところに移すことになります。就労準備訓練プログラムというのは一般企業で働く練習をするところですから一人ひとりにケースワーカーがついてサポートしてくれますが、その分、仕事はきつくなります。

 今、援助付き雇用、ジョブコーチという言葉が私たちの周りをとびかっているのですが、福祉的就労をするときに当事者の方の職場に行ってサポートしてくれる職場での訓練になります。一般企業の中で郵便物の仕分けをしたり掃除をしたりします。

 なお、「就労支援と制度の仕組み」という本の中に福祉的就労について詳しく書かれておりますので、興味のある方にはご一読をおすすめいたします。

チェックポイント

毎日、規則正しい生活が持続できていますか?

通勤に見合う外出ができていますか?

通勤できる時間に起床ができていますか?

労働基礎体力が回復していますか?

働くだけの体力がありますか?

就労意欲はありますか?

 統合失調症やうつ病の方には意欲低下という症状があります。ですから、通い始めはいいのですが労働意欲を持ち続けることがけっこう難しかったりいたします。

服薬・症状の自己管理はできていますか ? 

就労プログラムが始まりますと症状の自己管理の能力は必ずチェックされます。自分自身で再発のサインに気付かないとどんどん無理して症状が悪くなってしまって職場に迷惑をかけたりとか、自分自身も辛い状況になります。服薬・症状の自己管理のできてないときにはまだまだ就労の段階ではありません。

ステップ4

 たぶん、皆さまが一番希望を持ってらっしゃる一般就労ということになります。

 これは、一般企業や官公庁での就労をいいます。福祉的就労からグループ就労という形で一般企業で働くこともあります。例えば、横浜市の共同作業所連合会の方たちが自分の作業所で働ける人たちを何人かピックアップしていくつかの作業所がグループとして一般企業の中で働いております。葬儀社の受付でお茶を出したりとか、一人で働くのは体力的に難しかったり通院もとどこおりますので、同じ仕事を一人で受けるのではなくて3人くらいで受けて交代で出勤するとかの形で一人でかかえこまないようになっているので統合失調症の方が利用しやすいやり方でなおかつ一般企業で働けるということが行なわれております。

 あとはアルバイトにするのかフルタイムにするのかという問題が出てきます。アルバイトとして会社の就業規則に縛られすぎずに働く方法と、フルタイムで長時間の拘束の中で働くのかという選択を我々のような職業カウンセラーと調整しながら考えていきます。あとはアルバイトにするのかフルタイムにするのかという問題が出てきます。アルバイトとして会社の就業規則に縛られすぎずに働く方法と、フルタイムで長時間の拘束の中で働くのかという選択を我々のような職業カウンセラーと調整しながら考えていきます。

 統合失調症の方は特にそうなのですが、病気を明かした上でそこに就職して働くのか、病気を隠して働くのかという選択が必要になってきます。病気を明かす場合は病気に理解のある人の元で働くことができます。ただし、職場の中である程度までしか仕事ができないと低く見られてしまう場合もありますが障害者として働いている分あまり負荷はかかりません。ただし、その人自身に能力があった場合に不満に感じることもありますし、その不満がもとで症状を悪化させることもあります。

 あと、病気を隠して働く場合にはいろいろなテクニックが必要になります。職場の人からいろいろなことを聞かれますし、薬を飲んでいたら何を飲んでいるのと聞かれますから、就労する前に病気を隠して働くときの会話の練習というのを必ずすることになります。上手に隠す方法を知らないで一般就労してしまうと大体はつぶれます。その結果、振り出しに戻ってしまうこともあります。日本では統合失調症であることを明かしてしまうといらぬ差別を受けることがありますから、黙っていたほうがいい所には就職できます。ただし、そのためにはうまく隠し続けていくためのコミュニケーションの技術が必要になってきますから、そのためのテクニックを勉強する必要があります。

 仕事の中でストレスがでるときというのは、仕事をし始めたときです。疲れやすそうになってるとか、休日に寝てばかりであるとか、過食気味になっているとか、甘いものを飲みはじめたりとか、いろいろな兆候が出てきますので、そのときが御家族でコントロールすることが大切になってきます。御本人の発言がネガティブになってきたら無理をさせないでストップさせるというのが大切になってきますので、再発のサインについてよく勉強しておいてください。特に作業所から次のステップに行くときに非常に揺れます。

 障害者の支援をすることに慣れている人は最初はものすごく手をかけていたのが慣れていくにしたがって肩の力を抜けるようになってきます。ところがこころの病を持った方の支援をするときは波の形になります。最後まで手が抜けません、もういいだろうと思った頃に必ず再発するときが出てきます。特に御家族の方は一生の付き合いになりますので、早目に再発のサインに気付いてあげられればと思います。

家族の燃えつきについて

 最後に家族の人へのお話をさせていただきます。

 燃えつきをしないために。これは就労支援だけではなくて皆さまのためでもあるのですが、燃えつきは人を援助する人に起きやすいので家族自身が自分の責任でないことまで引き受けて一生懸命にやらないでください。

 就職活動や支援をするときに家族が一生懸命にがんばってしまうのですが、がんばりすぎるとつぶれます。おそらく、燃えつきのサインは御家族の再発のサインとよく似ています。いろいろなストレス性の症状が自分自身にも出てきますし、御本人の支援に一生懸命でその他のことがおろそかになってくることもありますから気を付けてください。

 自分自身の限界を知ってください。皆さんは家族ではありますけれども治療者ではありません。こころの病気の場合、皆さんはお手伝いをすることはできても治療をすることはできません。治療はお薬を出す先生でないとできませんし、心理療法もカウンセリングの先生でないとできません。ときどき、家族がカウンセリングまでやってるという方もいらっしゃいますが、自分でがんばりすぎないでください。

 家族は見守るサポーターにはなれるけど、プレーヤーにはなれません。サポーターとして応援はできるし、悪くならないように見守ることはできますが、その人自身の病気を治していくことはご本人と医師にしかできません。そこがわからないと燃え尽きてしまいます。こんなにがんばってるのに何でかしら?ですから、ご自分の限界を知ってできないことは専門家に頼みましょう。

 自分の感情を表現しましょう。嫌なときには嫌とグチりましょう。

 自分の人生を楽しんでください。

 スーパーバイザーを持つことも大切です。スーパーバイザーとはあなたが今やっている行動に対して第三者的な視点からアドバイスをくれる人のことです。ダメ出しをするのが好きな人もいますが、あなたの行動を持ち上げてくれる人を選んでください。行動に対して褒めてくれる人を一人えらんでおくと、いいスーパーバイザーを持ったことになります。

 あなた自身の職場とか家族以外の人間関係がとても大切になります。こういった家族会も大切です。

 ありのままの自分でいいと思っていてください。今だって充分がんばってますから、これ以上のものを期待しないでください。

 セルフケアといわれる自分の健康管理も大切です。

 あなたのサポーターは誰ですか?家族、親戚、友人、同僚、医師、保健師、ケースワーカー、ペット、植物…あなたがあなたの問題を解決するときに使っている人は何人いますか?どんな資源がありますか?とにかくサポーターをたくさん作っておいてください、5人くらいはいた方がいいと思います。

 先程から言っているように、がんばりすぎないこと、一人で抱え込まないこと、自分で解決できると思わないこと、自分で解決できると思ってしまうことが燃えつきの原因です。若いうちとか、家族の間柄ですと言ったら恥だと思ってしまいますから「できない」ってなかなか言えないんですね。そうこうしてるうちに自分自身がつぶれてしまいますし、自分自身が癒されていないと人を癒すことはできません。

 こういう会にでることは大切ですし、自分自身への御褒美も忘れないでください。たとえば10回嫌なことがあったら1回くらいはご自分に何らかのご褒美をあげてください。

 以上で私からのお話はひとまず終わります。

 なにかありましたときには、うつ・気分障害協会の方をやっておりますのでこちらの方にご連絡をいただければと思います。

(このあとの「カナダの精神医療」は紙面の都合で省略させていただきます)

山口律子さんへの連絡先

MDA-JAPAN(うつ・気分障害協会)
〒100-8693 東京中央郵便局 私書箱 第1362号

Tel 03-3253-5773 (身に誤算・困難な(感情)の波)

編集後記

 今年も残すところあとわずかとなった。年末になると決まってテレビも人々の話題も今年一年の十大ニュースだ。日本では何といってもいま進行中の北朝鮮問題だろう。

 他国の人民を連れ去るという、およそ想像もつかない事件が今年明らかになった。しかも、その何人かは死亡していたという。

 「まさか!」「信じられない」といったの事の重大さと数においてもそうした事件が年々増してきているような気がする。しかし、恐いのは、それが1ヶ月、三ヶ月、半年と時間が経つとその最初の衝撃が薄れてくることである。そして、いつか慣れてくるばかりか、当たり前になってくる。

 それは人間が生きていくためのテクニックとして神が我々に与えた賜物なのだろうか。そうした慣れや記憶の薄らぎによって、我々はいかに過酷な世の中であっても、不遇な運命に遭ってもまた立ち上がって歩み続けることができる。

 これは我々が家族の病気を知ったときの衝撃から、徐々にそれが当り前のことに変化してくることにも通じていると思う。さらにそういう状況になるに連れて、患者本人の症状も治まってくるから不思議だ。

 当会メーリングリストで最近「笑い」が話題になった。当初、こうした場で「笑い」など考えられなかったが、状況に慣れ、穏やかな生活に戻ればいかに不幸な場にあっても笑うことさえできる。しかし、拉致された方々や患者たちの貴重な時間はこうしている間にも刻一刻、1日1日、失われていることは忘れまい。