非定型抗精神病薬の副作用 ~肥満と糖尿病との関係~

10月家族会勉強会 講師 慶應義塾大学医学部精神神経科 水野雅文先生

はじめに

 今日は非定型抗精神病薬の作用のお話なんですけども、定型抗精神病薬についてご存知の方とあまりそうでない方と様々だと思うんですね。そして当事者の方が飲んでいらっしゃる薬もそれぞれ違いますから、今日はどんな話にしようかとテーマが広すぎて困ってしまったのですが、非定型抗精神病薬の中で話題になっている副作用で糖尿病になってしまうことがありますね。非定型薬を飲むことで高血糖になってしまい、そこから意識障害とか、そしてそのまま亡くなってしまう方もいたりということがあって心配されている方もいらっしゃるかと思います。

 最初日本でそういう問題が起こったのが、オランザピンという大変期待の高かった薬だったものですから、がっかりした方もいらっしゃいますでしょうし、我々も大変心配したのです。

 そこで今日は、糖尿病と肥満の関係ですね。糖尿病と肥満にはとても関係があるものですから、そして、肥満ということで言うと、抗精神病薬を飲むことで体重が増えてしまうということも大変大きな問題ですので、非定型抗精神病薬と肥満と糖尿病について、焦点を絞ってお話をしたいと思います。

体格指数と肥満

 ご存知のように、糖尿病とか高血圧とか生活習慣病は本人の生活態度が悪いみたいな印象になってしまって変な名前だなとわたくしは思っているのですが、確かに生活態度と密接な関係はあるのです。ただ、太りやすい体質の人は太りますし、糖尿病についても1型と2型がありまして、1型の場合は遺伝子のレベルで原因がわかってきているものですから、あまり本人のせいにされても困るような病気でもあります。ですから、そういう意味では積極的な予防が大事という側面で話したいと思います。みなさんの中にご存知の方もいらっしゃると思いますが、

体格指数(Body Mass Index)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

という計算式があります。

 ご家族の方ですとか、ご自身のBMIの数値を計算してみてください。身長170センチ、60キロの方だと、(60kg÷1.7m÷1.7m)=20.7になります。この数値で「普通」というのが18.5~25.0です。「肥満」というのは25.0をこえると肥満ということになります。そしてまた、肥満にも1、2、3の段階がございまして、25ぐらいの肥満はたいした肥満じゃないんですけれど、それより大きいとだんだん肥満の度合いが大きくなってきます。場合によると30以上を肥満という場合もあります。

 先ほど言いました1型の糖尿病はインスリンを分泌する細胞そのものがこわれてしまうご病気で、幼児の頃から発病してしまうのですが、成人してインスリンを分泌する細胞そのものは生きているんですが、インスリンの効果が悪くなるという状態を2型というふうに区別しています。

抗精神病薬と肥満

 今日ここで話題にする糖尿病は2型の糖尿病です。皆さん誰にでもにも関係のある成人病型の糖尿病と考えていただきたいと思います。2型の糖尿病になる発症頻度が、(BMIが)30を超えると2倍になると言われています。これは肥満というものがいろんな病気を引き起こすということでありまして、ほかにもたとえばBMIが25以上になると高血圧の発症頻度も2倍になるというようなことで、やっぱり肥満というのは非常に大きな問題なんですね。

 そういうわけで、肥満が起こると大変困るわけですけれど、文献によると体重が20キロ増えると脳卒中になる率が2.3倍になる、5キロ増えると冠動脈性疾患、心筋梗塞などですね、心臓の病気になる率が1.3倍になり、20キロ増えると2.6倍になるという数値もあります。糖尿病の方は5キロ増えると2倍になるし、5キロ増えると標準的な体重の方が30くらいになってしまうんですね、それから高血圧も1.4倍とか1.5倍になるということで、とにかく体重が増えることは望ましいものではないのです。

 ところが、残念なことに、抗精神病薬の中には肥満に結びつくものがたくさんあります。その要因としては、とくに統合失調症になった方がお薬を飲まれて体重が増えたという場合に、お薬のために増えたのか、ご病気になると入院されたり活動性が下がってしまうことによる場合、あるいは食欲が亢進してたくさん食べちゃって食べ過ぎのために増えてしまうという、両方の要因が必ずあると思うんですね。それから薬により食べたものが身につきやすくなるという面もあります。だから決してどれかひとつの要因ではないんです。ただ、いろんな研究の面からいうと、どうも薬そのものにもはっきりと太る原因があるということが知られています。

 脳の中の受容体というお薬がつく場所ですとか、ドーパミンなどの神経伝達物質がつく場所に抗精神病薬も当然くっついていくわけですけども、それを実験的にいろいろな動物で試してみると、たとえばヒスタミンとかセロトニンとかドーパミンといわれている受容体をお薬でブロックして、つまり抗精神病薬として働くことによって肥満が起こってくるということがわかってきているんです。ですから、お薬を飲むことでなんらかの体重増加が起こってくることはちょっと避けられそうにないんです。ですけども、それを最小限にしておいて、むしろお薬を飲むことで意欲とか活動性が上がれば、運動量が増えて体重をどうにかすることができるのではないかということで、本当はお薬を飲むことで意欲が出てくるような薬が本当は望ましいのですね。

 日本でオランザピンというお薬が出てきたときに、とくに陰性症状に対しての改善が非常に期待できると期待感が高かったのですが、あいにくこのお薬は、歴代の抗精神病薬の中では、クロザピンというもうひとつ期待のお薬があるのですが、それと並んで体重増加に関しては非常に多い薬なんですね。ちなみに、たとえばオランザピンの場合、10週間で4キロくらい増えてしまうんですね。ですが、その分運動してくだされば、そんなに太らないわけですけれど、ただじっとしていると太ってしまうんですね。

 昔のセレネースですと同じ期間で1キロ太ってしまう、それからもう1つの非定型性抗精神病薬でリスペリドンですと2キロ増えてしまう。ドーパミン系のD2という受容体の中でも抗精神病薬がくっつく場所があるのですけれど、そこを刺激するとどうも肥満化をおこす傾向があるらしいんですね。そこを抑えて精神症状を改善すると太ってしまうわけですが、体重が増える方ほど、薬はよく効くことが多いんです。

 太ってしまうと糖尿病になる率が高い。太ってしまうと、インスリンの効果が発揮されなくなってくると、どうしてもエネルギーが必要ですから、体の脂肪を代謝してエネルギーを使うんですけれど、その脂肪の代謝物の中にケトン体というものがあり、それが血液中、尿に出てくるのですが、それが体の中にどんどんたまってしまうと、ぼんやりして意識がくもってしまったりとか、体がかたくなってくるなどの症状がおこってきて、意識障害を起こして亡くなった方がいらっしゃるわけです。ただし急に起こるようなことでもないんですね。

飲食と肥満

 普段から食べる量が多いという方でも、日によって間食をしたりとか、あるいはペットボトル症候群といいますけれど、ペットボトルのジュースを一気に飲んでしまう。これは水中毒というまた別の副作用の問題もあるんですが、それはさておき、実際にペットボトルをたくさん飲んでしまう。これは健康な方でもジュース類のペットボトルというのは糖質が10パーセントくらいあるんです。ということは1.5リットルのペットボトルだとおよそ砂糖150グラムを食べることになってしまう、それはもう大変な量の糖分が入っています。そういう点では非常に気をつけないといけないことなんですが、そういうことをした後で、糖を代謝する力が落ちている中で、代謝系がパンクして、先ほど申し上げたような心配な糖尿病性の昏睡とか、そういう大きいアクシデントに進んでいくわけですね。普段から気をつけるのはもちろんなんですけれど、そういった微妙な変化についてもやはり気をつけられることが大事になると思います。

非定型性抗精神病薬と糖尿

 私たちのほうでも外来にいらっしゃった方に血液検査をしています。例えばオランザピンという一番問題になっている薬の場合には、どんな検査をするかというと、まず食事前の血糖値を測ります。それから、糖尿病のマーカーになるグリコヘモグロビンの値が6.5よりも大きいと糖尿病の傾向が強いということがわかります。これですとご飯を食べた後の血液でチェックしてもよく糖尿病がわかるということになってきます。そのほかに、たとえばご家族の方に糖尿病の方がいませんかなどの質問もいたします。それでもいらっしゃらなければ、安心してオランザピンをお出しするんですけども、実際には非定型性抗精神病薬の服用で、リスペリドンは2キロ、オランザピンは4キロと体重が増えますから、糖尿病に関してだけ言えば、どちらかというとリスペリドンのほうが安心なんですね。

 古いお薬から新しい非定型の抗精神病薬への切り替えの話のときにもお話しましたけれども、いろんなお薬がありますから、その中でどれを使ったらいいかというのは、現状ではいろんな議論があります。そういうことを前提に考えると、まかりまちがうと命の危険がある薬を最初の第一選択として選ぶということはしずらい。最初はより安全なものから使いたいということがありますので、最初はリスペリドンというお薬があるんですけれど、この2つのお薬は糖の代謝異常の問題を起こしにくいということでは、使いやすいお薬であると思います。

 ですから、最初そういうお薬を使うんですが、やっぱり効果がもうひとつという場合には、オランザピンというお薬を試してみようとということになるんですが、その際も糖尿の問題があったら絶対に使えないかというとそんなことはなくて、血糖値の濃度を見ていって、充分外来で心配ないということが確認されながらであれば、使っていってもいいわけです。使うことで具合がよくなって運動量が増えれば、体重も減るわけですから、決して使うことに臆病になる必要はないわけですけれども、きちんと見るということがなによりも大切なわけです。

血糖値の測定

 最初に測っただけではだめで、処方してから1ヶ月くらいの間にもう一回血糖値とグリコヘモグロビンを検査します。そのあとは落ち着いていれば3ヶ月くらいの間隔で採血を行って、だんだん間があいて、長く飲んでいる人の場合には年に2回くらい血糖値とグリコヘモグロビンを検査するのがいいだろうといわれています。

 もしその検査で糖尿病の疑いがあるというふうになったら、すぐにそのお薬をやめてしまうのではなくて、2週間後にもう一度測るつもりで、その間食事療法や運動療法をしていただくということで、やっぱり運動が大事なんですね。糖というのはご飯を食べた後で血液中にたくさん出てくる、吸収されるわけですね。

 そこで一番血糖値が高くなるのは食後1~2時間くらいです。ですから、運動するのも食後1、2時間の糖が出てきたときに運動していただくということで、その糖が燃焼するようにしていただくのが運動のコツと言うことになります。といってもなかなかそのタイミングで運動はできないですから、毎日でなくても週3回くらい、1回30分でもウォーキングやスイミングなどの酸素を使って燃焼効率の高い有酸素運動で、肥満と糖尿病を防ぎながら、薬をのんでいただくことが望ましいですね。

 血糖値はその場で測らないといけませんので、外来にはその場でチェックする器械を置いておいて、お薬を出す場合には全部それでチェックするというふうにしております。必要以上に神経質になる必要はありませんが、簡単な器械ですから、ご心配なかたは調べていただくのがよろしいかと思います。

 健康な方でも血糖値が高いと、糖尿病のリスクが高いということが言えます。それから家族歴のある方、家族内に糖尿病の方がいらっしゃる方は体質的に糖尿病が出やすいということが言えるので、注意していただきたいと思います。それから肥満の問題で、肥満の指数BMIで28以上ある方は糖尿病の予備軍と思って、早めに減らしていただきたいと思います。

 それから高血圧もリスクファクターといわれてます。それから善玉コレステロールの少ない方ですね。最初に申し上げましたように、生活習慣病関連のものはお互い非常に関連しています。運動不足の方、妊娠中の方も妊娠して目方が増えないようにせいぜい3~4キロまで、赤ちゃんの分しか太っちゃいけないと、そういったことを気をつけていただくことで、かなり糖尿病を防ぐことができるということになっています。ぜひそういった生活のスタイルを、糖尿病を中心として、お薬が最大限の力を発揮できるような体制を作っていただくことが大事ではないかなと思います。

最後に

 高血糖と非定型抗精神病薬の関係では、実際に日本でいままで糖尿病で亡くなった方は十数人ということで、海外のデータに比べると非常に少ないんですけれど、このお薬さえあれば、いままでの治療でうまくいっていなかった方が劇的に効果があるんじゃないかという期待感も非定型性抗精神病薬にはございますので、メリットとデメリットということをよく考えながら選択していくことはあるだろうと思いますね。

 特に今後、近いうちに市場に出てくることが期待されているクロザピンというお薬がありますが、これも今日はお話できませんけれども、血糖値が上がりますし、体重が増え、肥満の傾向に拍車をかけるお薬です。

 ですから、頻繁な血液検査が必要となりますが、このお薬は、血液の中の細胞を作る機能も人によっては落としてしまうという一方で、いままでお薬で治療の反応がなかった方5人に1人に効果があるとも言われています。そうすると、いままで全然薬の反応のなかった方でも、採血とかそういった検査をきちんと受けながらでも、良い効果を期待したいという方がたくさんいるわけで、あまり副作用のことを心配のあまり、怖い処方をしてはこまるというムードが出てきてしまうと、当然厚生労働省のほうの認可が遅れるわけですね。ですから、きちんと押えるところを押えたら必要以上の心配はしないで、むしろ心配なことには対応をとって、そして薬の効果を最大限に活用するということが大事ではないかなと思います。

 最近では薬の解説の本もたくさん出ておりますので、どれもよく書いてあると思いますが、全家連から八木先生が書かれた本(「統合失調症の薬がわかる本」八木剛平 全家連発行 1300円)が出ていますが、よく書いてある本だと思いますので、ご参考にしていただければと思います。ほかにもいろんな本が出ていますから、まずご自分の飲まれている薬をよく知っていただくことが大事かと思います。

 以上、今日は糖尿病とか肥満とか、非定型向精神薬になって起こった有害事例と、日常的な問題ということで、述べさせていただきました。

質問:娘ですが、症状は明るくなってきて薬の効果が出ていると思います反面、夜になるとよく食べる状態になって、肥満が目立つようになってしまいました。

先生:基本的には運動量を増やしてほかに興味をもつことがよいと思います。さっき申し上げましたが太る方はお薬が効くんですよ。だからきっとお薬が合っているんですね。体重が増えると血糖値が上がりやすくなりますから、定期的に血液検査を受けてください。

質問:日本ではとにかく薬を多く投与しすぎる、欧米では2種類以上は投与しない、2種類以上投与すると、副作用のほうが高くなって、薬としての効果のほうが少なくなると書かれているのですが、先生のご見解はどうですか。

先生:たしかに複数のお薬を飲んでいると、どれが効くかわからない。それから欧米で2剤と言っている理由は、保険制度上2剤までしか出せない等の事情があります。ですから、本当に多剤投与がいけないかということは、薬理学的な根拠があって、多剤投与がいけないかを純粋に議論しているものはありませんので、そういう意味でどっちがいいということは言いづらいんですね。しかし、多剤併用をするからには、根拠が大事なんですね。初めて会った患者さんに強いお薬をご自分のブレンドでぽんと出すという方は少なくて、あるお薬を使っていて効かないから、1剤プラスして、それでも駄目ならというふうに増えていくことが多いんですね。そこに症状や経過をもとにした処方上の根拠があれば、単剤や2剤以下でなければいけないというわけではないだろうと思います。

(4面の都合で抄録を終らせていただきます。)

テープ起し:中川悠紀子(ボランティア)

勉強会講演記録CDの2枚目が完成しました。
フレンズ編集室では講師の先生方の講演記録を生の声で聞いていただこうと、CD制作を行っていきます。
まず第1弾として、9月勉強会で講演していだいた曽根晴雄さんです。詳細

タイトル『ちょっと私の話を聞いてください』  
 =聞けば見えてくる・精神分裂病当事者が語る患者の本音=

 家族は患者本人の気持ちを知っているようで理解できていません。二十数年間この病気と戦って来た曽根さんが、自らの体験をもとに訴える精神病者の苦悩、怒り、病気のこと、希望、それはすべての精神の病いに侵された人たちの声を代弁しています。
 また、当事者仲間の先輩として語る内容は、回復しつつある皆さんのお子さんが聞いても大いに励まされます。
 そして誰よりも聞いてもらいたいのは、分裂病を全く知らない人たちです。”もしあなたのお子さんが病気になったら”という目的の他に、各地で取りざたされる障害者の事件の度に生まれる誤解や偏見を防ぐためにです。一般の方に呼びかけてください。

第2弾は
「心の病を克服 そして ホームヘルプ事業へ」 
大石洋一さんです。詳細

収録分数;61分 CDラジカセ、パソコン、カーステレオ等で聞けます。
価格;各¥1,200(送料共、2枚同時申込の場合2,270円)
   申し込みはフレンズ事務局へ E-mailでお申し込みください。frenz@big.or.jp
発売:平成14年1月
企画・制作 新宿フレンズ編集室
(新宿家族会創立30周年記念事業)

編集後記

 選挙が無事?終った。それにしても、今回の選挙では「マニフェスト」などという聞き慣れない言葉を与野党共々が、こぶしを振り上げて叫んでいたが、故郷のおじいちゃん、おばあちゃんにはどう伝わったであろうか。一年ほど前、文部科学省の国語審議会だったか、「正しい日本語を」と、カタカナ語見直し論を打ち出したが、この「マニフェスト」なる言葉は、もう日本語と化したということだろうか。

 そして、もう一つ感じたことは「新旧交代」、いや「世代交代」の選挙でもあったのではないだろうか。与野党とも、若手議員を前面に出し、党の若返りを打ち出していた。

 つまり、時代がそういう時代を呼んでいるのではないか。時代は20世紀から21世紀になった。世の中もようやく過去を清算し、そうした「脱皮」ともいえる時代を迎えているような気がする。

 すべてのものが脱皮する。政治、経済、産業、教育、そして医療。それはこれまで醸成していた人々の感覚、意識、志向、知識、技術によって、あらゆるものに変革をもたらし、新しい時代をつくっていく。そういう意味では「マニフェスト」という新語を評価し、変革を期待したい。