慢性期の家族の対応について ~家族の感情表出~

4月家族会勉強会 講師 慶應義塾大学医学部精神神経科 水野雅文先生

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【はじめに】
今日は「慢性期における家族のかかわり方」というテーマです。これは皆さんにとって非常に身近な課題で大事なテーマであると思っております。

前にお話したことの繰り返しになるのですが、実は、家族と患者さんご本人のかかわりが、いわゆる再発と言うのでしょうか、予後というのでしょうか、長い経過に、大きな影響があるというのが、だいぶ前から色々なところで指摘されてきました。最初にその証拠というか、医学的な意味で、確かに家族のかかわり方ひとつで再発の回数が減ったり、あるいは再発しやすくなったりするということが言われるようになったのは、かなり以前のことです。

【再発と家族】
家族と一緒に住んでいるというだけでなくて、再発してしまった人というのが、どんなふうに家族と生活していたのかというのを検討しないと、家族と一緒にいることの一体何が原因であるのかということまでは分かりません。家にいるだけでもいけないのか、それともアパートなどで一人で生活しているということが、再発予防にいいのか、これを研究する必要があります。

家族と一緒に住んでいる方々を家族と一緒にいる時間帯で区別して比較しました。まずひとつは、家族の中で一番面倒を見ている方と患者さんとの接触時間が長い家で、誰かが患者さんを常に見ていてくれたり、あるいは朝まで一緒にいる時間が長い、そういうご家族と一緒に住んでる方です。もうひとつは、一緒には住んでるけれども、朝から家族は仕事に出て行ってしまって、夜は遅く帰ってくる、なかなか実際には一緒に生活しているというほどの時間があるとも言えなそうなグループです。

【家族の感情表出】
そこで今度は、実際に再発が多い家の家族が、その患者さんに対してどう接しているかというところから何か学ぶものはないか、こういうことが研究課題になってくるわけです。そこで、どんなふうに接しているかというのを定義しなければなりません。
「感情表出」です。感情の表し方ですね。英語でExpressed Emotionというので、このEを略して、EEとよばれています。家族が患者さんに向けて表すいろいろな情緒的なメッセージをひとくくりにして、EEといっています。

【家族心理教育】
そこから生まれてきたのが家族心理教育というアプローチです。ご家族は患者さんに対して、すぐ興奮するとか、お金遣いが荒いとか、一日中ごろごろしているとか、批判的な内容を言ってしまいます。そういう批判というのは得てして、統合失調症という病気の特徴、つまり症状として止むを得ないものを十分ご理解いただいていないために、実は症状でご本人こそが非常に困っている部分に対して、「あんたのそこが悪いのよ」と、ついつい言ってしまっているということがあります。そこで心理教育や家族教室の場面では症状についてよく勉強していただいて、知識をもっていただくことで悪い意味での突っ込みを回避していただくということが主たる目的になっています。

【社会的機能】
長い間、家族の批判的内容の矛先はおそらくは陰性症状ではないか、といわれてきました。これは慢性期の話ですから、派手な目につくような幻覚・妄想に対して「またそんなことを言って」という言い方をするご家族は慢性期には少ないんですね。むしろ、意欲がない、一日中何もしないでごろごろしている、お風呂にも入らないで不潔感が出てきた、昼夜逆転の生活で困る、そういった陰性症状に対して家族の批判の矛先が向いているということがずっと言われていました。

慢性期になると症状もさることながら、どうも家族の方が患者さんに対してついつい目がいってしまう先というのがこのような社会的機能が回復してこないという部分であって、ついそこに目くじらを立ててしまうことがあるようです。

実際に就労していらっしゃるかどうか、あるいは外出とか余暇の時間の過し方が充実しているかどうか、そういった部分に対してはあまりご家族は厳しく見てはいないと。ある程度受容できる、むしろ腹が立つのはその方の対人関係の問題とか、あるいは引きこもり度であるとか、行動の部分に目が行ってしまうということがうかがわれます。

【おわりに】
多くのご家族は、決して回復に対してよくないことをしようというつもりはもちろん全然ないでしょう。ですが、長く経過を見る中で、気がかりなこととか、反面としての期待感のある部分、それがつい注意のいってしまうところなんですね。ですからそう言った部分に対して自分のご家庭の中でどんなふうにご本人の社会的能力について自分達が感じ取っているかとか、そういったところを注意していただいて、できるだけこのEEを低く、できるだけご本人に向けての批判的な言動を抑えていく方向に向けていただくことは、予後という意味では大きな成果があることですから、ぜひ今日はその点をお持ち帰りいただけたらと思っております。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 四月から五月にかけて、交通事故を始め、大きなニュースが報道された。その中で、やはり福知山線脱線事故の凄ましさは想像を超えていた。その裏で、社員のボーリング大会、懇親会等の催し。JR西日本という会社の体質が見えてくる。事故の凄まじさに加え、あるいはそれ以上に、会社の体質の凄まじさに呆れ返る。

 しかし、社員一人ひとりは懸命に、自らに与えられた仕事や付き合いに忠実に当っていたのであろう。それが、会社という組織になり、団体活動となると人間はその判断基準が狂ってきてしまうのではないだろうか。

 個人対団体。一つの活動が進められる中で、この対比が常に付きまとうのは私だけだろうか?責任、評価、結果、成功、失敗、こうしたことが、団体活動として行う場合と個人的な活動として行う場合とを比較してみると、明らかに違いが出てくる。

 家族会活動においてもそれが言える。四月から当新宿家族会も団体戦のフォーメイションで取り組んでいる。役員同士がメールを使い、検討事項を考える。連絡文書をやり取りする。テープ起こしが行き交う。まだまだスタートして一ヶ月だ。そう簡単にいい結果を求めることはできない。しかし、これがいつかいい結果に結びつくことは間違いないだろう。ただし、その結果がJR西日本と同じレールの轍だけは踏みたくない。