精神障害者の居宅生活支援とは ~訪問看護の実際~

5月家族会勉強会 講師 多摩たんぽぽ介護サービスセンター
                  大沢の家・デイサービスたんぽぽ施設長 千葉信子さん

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 はじめまして。三鷹の大沢で介護全般のサービスを、介護保険が始まる前から、訪問看護をはじめ、介護全般の仕事を運営しております。私が2歳のときに父親が医者にかかれず亡くなったと聞いて育ちました。父は戦争の犠牲で、無医村という医療の差別を受けながら死にました。その無念さが、私の中に病院ではなく外に出て看護をしたいと思いを起こさせました。

総合病院に4年勤め、盛岡の総合病院に移りました。そこの精神科に配属になりました。そして45年に三鷹の井の頭病院に就職し、30年弱勤務しました。その後、精神科のリハビリの認定看護を取ったり、ケアマネジメントを取ったり、地域に出る準備を始めました。1999年に退職して、訪問看護を始めました。

【精神障害者の居宅介護支援】

<精神障害者が入退院を繰り返すのはどうしてなの?>まず、1.環境になじみにくいこと、対人関係が持ちにくい、2.非常にストレスに弱い、感じやすいわけですよね。それから、3.生活体験の不足から生活のしづらさを感じやすい、4.食事、整理整頓、金銭管理に不安を感じやすい。5.生活のリズムが掴みにくく、昼夜逆転になってしまう。その結果、6.通院や服薬が不規則になって、中断してしまう、ということがあるわけです。これらのことで患者さんは入退院を繰り返してしまうということになります。なお、この結果は東洋大学の白石先生の本で使わせて欲しいということで、「家族のための統合失調症入門」に掲載されています。機会がありましたらお読みください。

<居宅生活をする上で現段階ではどんなサービスを受けられるの?>まず訪問看護をしておりますので、それを挙げさせていただきます。訪問看護というのは、1.本人及び家族が気を楽にして生活を送るための手伝いをするということになります。2.ホームヘルパーもH14年から使えるようになりまして、市によっては無料だったり、小額を払って利用することができます。3.デイケアや作業所も利用できます。私は今、65歳を過ぎた方に、介護保険を申請して介護保険でデイサービスを利用するよう勧めています。何人もそういう方がおります。また、4.市の配食サービスを利用するのもいいでしょう。食事ということだけでなく、食事を通して友人と話したり関係者とコミュニケーションをとるということが肥やしになります。5.地域生活支援センターを活用するのもいいでしょう。

 <訪問看護っていったい何をしてくれるの?>全国に5千数百の訪問看護ステーションがあります。そこの8割が精神の訪問看護をお断りしてきた経緯があります。現在、制度が変わろうとしている段階で、地域にどんどん患者さんが帰ってきますが、地域として受け皿を作ろうと、いろんな研究が始まっております。

 訪問看護とはどういうことなのかというと、1.居宅の継続した看護ケアを提供することです。それと、2.安定した状態で過ごせるように、生活上の問題点を共に考えることです。3.服薬指導をはじめ、病気の悪化、再発防止のためのお手伝いをします。
4.障害された部分の継続したリハビリは病院ではなかなかやり切れません。ですから地域に帰っても何ができず、何に躓いているのか、何が不得意か、一緒に考えて対策を立てていきます。5.多職種との橋渡しをして調整役もします。また、6.家族の不安や心配の相談もさせていただいています。こういうところが訪問看護の役割です。医療や保健福祉の視点で総合的に把握して生活がうまくできるような支援をします。

<居宅生活を継続するのに家族としてどう関わればいいの?>というところが皆さんの関心でしたね。例えば1.本人の自立を考えたかかわりは時間もかかって、困難なことがたくさんあります。ですが、本人の自立をいつも念頭において、手助けしたら私は楽なんだけど、本人にとってはどうなんだろうと、行動を起こす前に立ち止まって考えてもらいたいんです。

それから2.転ばぬ先の杖を出さないようにすることですね。これ以上やったら失敗してしまうと思い、周りが手を出してしまうと、本人の学習の機会を奪うことになります。大きな事故や怪我でなければ痛い思いをすることも必要です。3.本人にはっきり頼まれてから手を出すべきです。頼んだのは本人であるから、そのことでうまくいかなくてもやってくれた家族のせいではないという認識が必要になります。

【訪問看護師】

私は訪問看護をする日々に感動を感じています。ご家族の方も、できないと思ったりあきらめたりせずにご本人とかかわってもらいたいと思います。当ステーションでは現在160人の方の訪問看護をしており、そのうち約2割が精神障害者です。16人の訪問看護師のうち半数が精神科看護の経験者です。精神科を経験した看護師は自分を振り返ったり、メンタルな面でその人を理解できるので、訪問看護をするのにそういったスタッフを採用したことでバランスがとれているように思います。

【精神障害者が置かれている現状】

1)宇都宮事件で明らかにされた閉鎖的な医療・施策の遅れと法改正

実際に、精神障害者が置かれている現状についてお話します。皆さん既にお分かりかと思いますが、精神障害者へのかかわり方を変えたのは宇都宮事件です。1.リハビリの視点では患者さんとかかわってきませんでした。それが法律が変わることで、初めて精神科のリハビリという考えが出てきます。2.人権尊重ですね。本当に対等平等の関係で、押し付けではなく、どうしたいのかを聞き出して、一緒に考えていきます。そうすることによって本人はちゃんと解決の言葉を持っていることが分かります。

2)地域の状況が整えば7万2千人が退院できるという方針が出される

ここ2、3年、盛んに言われていることが、地域の状況が整えば、7万2千人が退院できるということです。そのことに非常に振り回されている所もあるんですが。例えば、私の知る病院もどんどん退院を促進しています。病院のケースワーカーが退院先と連絡を取り合ったりして色々頑張っていますが、間に合わないこともあって、ぽんと帰ってきたりすることもあります。この状態で大丈夫なのかしらというお話が地域のケアマネージャーから来たりします。厚生労働省はいくつかの方針を掲げています。特徴的なものは、1.救急医療の充実 2.診療医療費の改定 3.地域の作業所や生活支援センター等の利用 4.の訪問看護の充実です。この内の訪問看護に関してですが、訪問看護には病院(施設)から訪問するものと、地域の訪問看護ステーションとあります。

3)グランドデザイン案・障害者自立支援法案の提示

 今回、障害者自立支援法が提案されていますが、障害を持った方々が地域で自立した生活を送るために考えられていますが、介護保険と同様にサービスをプランニングしてサービスを受け、その利用料を支払うというシステムです。障害を持った方々が、介護保険同様に保険料を支払い、更に利用料を支払うのは定職を持てない方が多いだけに、その内容は深刻な問題があります。

 「地域生活支援においてサポートシステム不足」

 地域で活用できる既存のサポートシステムを活用されていない場合が多いと思われます。訪問看護のご利用はもとより、ホームヘルパーの活用もまだまだ活用されておらず、せっかく作られた制度が利用されていないことになります。訪問看護であれば今なら32条を活用でき、殆どの方が、交通費程度でサービスが受けられます。ホームヘルパーは地域により無料、もしくは小額で利用できます。また、地域によっては、子育て支援等の制度もあります。他人が家に入ることを望まないのはわかりますが、自分と病気を理解してくれる人を増やすこととも思えば気が楽に活用できるかもしれません。

 「終わりに」

 障害を持つことで暮らしにくい時代ではあります。就労の機会が少ない中での経済的負担は巌しいものがあります。時代は変わっても病気や障害に対する理解はまだ浅く、障害者本人やご家族でなければわからない心労も多いと思います。近年、障害者本人が、体験を話しだしてきたことで徐々にアーピルしておりますが、ノーマライゼーションの精神に添った処遇はまだまだです。当事者やご家族の活動と、私ども地域での啓蒙活動や支援者が、双方歩み寄りサポートシステムの強化を図る必要があると思います。今は大変でも、あせりすぎたりあきらめない限り、必ず道は開けると信じています。私も微力ながら地域での支援者として頑張りますので、皆さん是非力を合わせましょう。ありがとうございました。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 うっとうしい梅雨空が続いている。先日のテレビでは日本の木造家屋はこの梅雨の湿気を吸い、家の中を爽やかにしている、という話をしていたが、コンクリート造のマンション住まいの我々には羨ましい限りである。

 千葉さんから「訪問看護」について、専門的な話を伺った。1時間の講演時間を倍の2時間も熱弁を振るっていただいた。今回の講演抄録は文字通り抜書きになっている。

 無医村の村で父親の戦死。それが千葉さんの院外医療活動の原点であると伺った。さらにそれが、いま精神科訪問看護としても千葉さんの活動に大きな位置づけとなっている。

 日本の精神医療はACTを始めとして、あらゆる形での「訪問医療」が進められている。「施設から地域医療へ」という国の医療システムの見直しと財政問題とが相まって、急速な移行が感じられる。

 だが、受け皿となる地域はどう改善されているのか。まだまだ不十分であると千葉さんも述べている。我々の認識では正直、何も変っていない、というのが現実のような気がする。

 その大きなファクタとして「偏見」があると思う。この辺をどう改善していくのか。相変わらず、統合失調症に罹患した子の親たちは当初、茫然自失、暗中模索の中で苦しんでいる。こんな現実はいっときも早く改善してもらいたい。「教育」の現場の改革に期待する。