「働きたい」を可能にするために

11月家族会勉強会 講師 株式会社ストローク 代表取締役 金子鮎子さん

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 私は昭和47年から精神障害者のための活動をやっています。当初は今と精神医療の事情が違っていました。例えば一度入院すると3年くらいは退院できない状況でした。今では3ヶ月とか長くて1年くらいですね。当事、小平にあさやけ作業所というのが1ヶ所あったくらいで、日本に作業所なども殆どない状況でした。ですから、退院しても仲間と話し合う場もなかったわけでお家のなかで閉じこもっていたり、ご家族と過ごしていました。

 私は障害者が最初から一般の人と同じように長時間働くことは難しいことが多いと考えます。私の考えとしては、精神科に通っている方というのはお薬を飲んでいないと健康維持ができないということがあります。それから朝起きられないという方が多いのですが、病院に入院している方が朝10時まで起きられないとか、そんなことはありませんね。入院中はキチッと病院の指定した時間に起きています。安定してくれば生活の時間管理も安定してきます。そういう段階に至って、当社で働きたいということであれば、面接させていただいてその方がどんな生活リズムになっているかをお伺いします。

 障害のある人の中にも、ストロークで働きながらビルクリーニング技能士という国家試験を受けて合格した人も3人いますし、来年の春の試験を目指して勉強している人もいます。ですから先ほどのお話の中でうちの子は無理だ、と決め付けないで頂きたい。働いている方の中には、時に幻聴が聞こえて来る方もいます。そういう人でも働いていると、そうした症状を乗り越えられることもあります。人間って精神的な病気でなくても少しづつ負荷をかけて、弱いところを強くしなければならないのではないでしょうか。

 では、ビデオを見てください。

=ビデオ放映=

 <ビデオの音声より>

株式会社ストロークはビル清掃を通して精神障害者の仕事の場を提供している会社です。働き続けるためには働く力が必要だと金子さんは言います。力不足で一般の企業への就職が困難な人たちのために一緒の働くことで働く力を身につけてともらおう、またその場を会社という形で提供しようと考えました。

それは14年前、取引先の社会的信用を得るために株式会社を選択。社会福祉法人のハードルが今よりもはるかに高い時代でした。企業としての責任、企業で働き続けるための個人の責任。その責任を果たすための第一歩は働きたいという強い意思だと金子さんは考えています。

 ビデオの中で教わっている人は一昨年くらいから訓練を始め、週3回、4回、5回と訓練を増しています。今ビデオに出てきた方は当初声が小さく、発言も少ない方でした。その方が最近は仕事の終了報告や問い合わせの発言が増え、話し方もはっきりして来ました。仕事に自信やゆとりができると、自然と声にも力が出てくるんです。以前は自分の名前さえ聞き取りにくくてわからないような人でしたでけどね。こうした変化をご家族の方にもわかっていただいて、チャンスを作りながらご本人が自信をつけていくことが一番大事なことだと思います。そのために色んなことを周りがやっていくことはあると思います。それには工夫が必要です。その人によって、どういうことから自信をつけるかを見つけるかが私たちの仕事であると考えます。それは施設にしてもご家族にしても、その方が挫けないでちょっとでも自信をつけるきっかけを見つける、それはいままでは判らなかったけど、この人はこういうことが好きだな、特に好きなものが見つかれば早いです。どんなことだったらその方はやってみようという気になるあかということを常々見て、何かの兆しをきっかけにはたらき掛けて行くことができるんじゃないか、という風に感じます。

 では、このあと皆さんとお互いに語り合いながら、どのように障害がある方たちが働きたい、自立したいという気持ちを支えてあげるには、あるいは見つけるにはどうすればいいか、お話を進めたいと思います。

質問:1週間くらいは通えるんですが、1度通勤が困難になって連絡すると、それ以降だめになってしまいます。つまり助走期間の間にだめになってしまうんです。それを支えるにはどうすればいいのか、知りたいです。

金子さん:連絡するときに相手の受け答えで崩れてしまうのか、その辺はどうでしょうか。

質問者:普通なら何でもないことでしょうが、当人にはきつく受けるのではないでしょうか。

金子さん:その就職はクローズ(障害者であることを隠して就職する)ですか?オープン(障害者であることを表明して就職する)ですか?

質問者:クローズです。

金子さん:クローズですと無理が発生する場合はあります。お薬をのこと、通院のこと、休暇の取り方などで無理があります。職場の人間関係の中でも、わからないことを一言聞いてしまえばいいんですが、それが聞けずに自分で判断して間違ってしまうとか、障害を隠していなければ得られる協力も得られなくなります。これからは精神障害者の雇用も障害者雇用のポイントになりますから、オープンにして、そうしたことを判ってもらって雇われたほうが働き易いということもあります。
 私のところでも働いている人が安定してくるとご家族のご本人に対する見方が変わってきます。すると家族関係がよくなってくる、更にご本人もやる気がでてくる、という好い循環が生まれてきます。家族の方は期待しているだけにご本人がうまくできないと、欠点の方が目に付いてしまいがちです。でもご本人からするといつも欠点ばかりいう親だという風に捉えてしまいます。これは日本人の感覚なのでしょうか、親は誉めることが少ないですね。ですからちょっとでもいいことが見つかったら誉めてください。そしていい循環をつくってください。

質問:私たちは、働きたい、自立したいという意欲をどう育てるか、はどうすればよいのでしょうか。

金子さん:私の印象ではご家族の皆さんはかつての親たちより最近の親御さんの方が臆病になっている感じがします。それは社会制度や年金があって、無理して働かなくて何とかやっていける状況になってきたこともその理由の一つではないでしょうか。また、作業所で働いているとは言っても所内作業には慣れていますが、一般企業の仕事にはつけない。というのは事業主の考えと当事者の働くという感覚や発揮できる力の間にズレが出てきているのではないでしょうか。事業主が何を求めているか。一般企業でも出勤していても余りバリバリ働いてない人もいます。しかし、毎日出て来ます。ですからまず出勤すること。しかし、最近の親御さんは「無理するな」となる。それは家族の価値観、働くようになってほしいとか、自分で稼げるようになってもらいたい、という感覚が薄れて福祉に頼っていく傾向が強いように思われます。それは裕福になって来ていることでハングリーな感覚が社会全体に薄れているように思われます。当事者の方も失敗した場合、かつての方々は何十回でもトライをしました。しかし最近の方はすぐに諦めて立ち直りに時間がかかってしまうという傾向が見られます。

 しかし、先ほども申し上げましたが、小さなきっかけを見逃さないことに尽きると思います。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 毎年一度は迎える師走。今年は例年より寒く感じる。そして、さらに寒い事件が続いている。耐震偽装問題を筆頭に、各地で幼児が犠牲に遭っている。後者のようなニュースには少なからず関心を持ってしまう。

 今月は金子さんの「働きたい」を形にしよう、というテーマでお話いただいた。テープを聴きながら頻々と聞こえてくる言葉、それは「自信」であった。当事者本人が自信を持つこと。それに対して行うべき我々家族の対応とは何かが金子さんのキーワードであったと思う。

 確かに時代が違うといえばそれまでだが、今の若い当事者を抱えた親たちはストロークの方針をどう受けとめられただろうか。極端に言えば、過保護的とも言える当事者に対するケアと、一人生きていくという本人の意思力を育てるケアの違いとして受け留めたろうか。

 金子さんの言葉「でも、人間って精神的な病気でなくても少しづつ負荷をかけて、弱いところを強くしなければならないのではないでしょうか」と言われた。

 私個人の年齢的な立場で言えば、終戦間際のの貧しさの中で育った世代として、人間の持つ力の不思議を感じることができる。いかなる患者といえども、周囲の状況、つまりその環境の中では、環境に合わせた生き方ができるはずだと思う。弱いところに負荷をかけて強くすること。いや、人は強くなるのではないか。