「統合失調症の発症と経過」

6月家族会勉強会 講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生
(水野先生は4月より勤務が変りました)

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【精神疾患の経過予測の難しさ】

 統合失調症の経過の話は、一般に病気はなんでもそうですが、ある時点でこの患者さんのこの病気がどんなふうに経過していくかが事前にわかれば非常にいいわけですよね。例えば、あと何週間学校をお休みすれば学校に戻れますよ、戻るときにこのくらいのスピードで戻ってください、そういうことが仮に分かればとてもいいわけです。けれども、特に精神疾患の場合には難しい。ほかの病気でもそうですけれども、流行っている時期の風邪でさえもどのくらいで治るかというのは個別には難しいですよね。それから例えば1年後はどうかというのは、まだ比較的短いですよね。半年後に退院できているでしょうか、入院はどれくらいかかるのでしょう、「3ヶ月くらいですね」こういう見立てはまだ立てやすいのですけれども。

【なぜ経過予測が難しいのか】

 皆さんの念頭におありの統合失調症というと、経過が長い病気だと。じゃあ、ある患者さんの10年後、20年後はどうなっているか、これは非常に予測が難しいです。なにしろこういったものを言うには根拠が必要なわけですけれども、20年後のことを、根拠を持って言うにはですね、あるとき病気になった方を20年間追跡してどうなっているかというのを調べなければならないわけです。ところが、やはり20年追いかけるのは結構大変なことでして、皆さん当然引越しもされますよね。それからお医者さんも変わりますね、病院がなくなるという場合もあります。ですから、ある病気について20年間の予後を研究するのは非常に難しいです。

【わが国での研究】

 日本での有名な研究は、1958年から1962年の4年間で群馬大学病院に入院した患者さん140人を続けて順番にずっと見ていき、その人たちが20年25年経つ間にどんな経過をたどったかという研究があります。(図2参照)これは日本が誇る世界的に有名な論文です。見づらいですが遠くから見ていき、こんなふうに。これは順番に並んでいるんじゃなくて、黒は入院なんです。20年も経つとほぼ半分の人は自立生活ができている。2割の人がグレー、つまり、時々入院したり社会生活の中でかなり援助が必要だったり。真っ黒になる人は2割くらい、ということです。

【現在の事情と昔の事情】

 統合失調症の薬、クロルプロマジンはパリで発見されて、これは1952年のことです。最初から統合失調症にいいかどうかというのは議論があったと思うんですが、日本で使われるようになったのは大学病院でも1960年頃ですよね。その頃は少ない量で慎重に慎重に使うお薬でした。今のようにクリニックの外来で出すようなお薬ではなかったんですね。もうひとついえることは今から50年前の日本では、やはり精神科にかかるということは大変なことだったと思うんですね。それから、よくこの会でもお話しますが未治療の期間、なかなか病院にかからないでかなり重くなってからかかる。重くなってからかかるというのは言い方はわかりやすいですが、要するに未治療で放置されていた期間が、この時代の患者さんというのは長いわけです。今みたいに駅前に行くと何件も精神科クリニックがあるという時代ではありません。

【治療スタイルの変化と予後】

 逆にいえば今病気になった方が、30年経ったときにこれと同じように4分の1の方がすごく悪いままなのかというとおそらくそうではなくて、未治療期間もまだまだ長いと思いますが、30年前よりは平均的に言えばずっと短いでしょう。それからお薬も無理やり鎮め静かけるような薬よりは一般的には非定型のお薬で、少量で何とか地域生活から離さないで治療をしていきましょうというスタイルになってきています。


【良好な予後のために】

 私が大学病院にいたときのことですが、30年くらい通院している人のカルテって厚いんですよね。統合失調症でずっと通っていると。でも会うとどこが統合失調症なのかわからない人は確実にいるということに気がつきまして、一体うちの病院中に何人そういう人がいるのかということを一年間調べて、そういう人たちに連絡を取ってどういう方かインタビューさせてもらったことがあるんです。そうすると、やはり一回目のときって必ずしも軽くないんですね。かなり激しいエピソードで入院している。ところがその後は、単身の人ってほとんどいないです。単身ではなくて家族と生活していて家族が非常にサポーティブで、感情表出(EE)までは調べていませんが、薬をのむことに関しても非常に肯定的な治療観というか、ポジティブなものの受け止め方といいますかね、そんなことが共通項としてあるような感じがいたしました。

【発病のお話】

 発病の話については、実際に発病しているご本人にとってはいたし方がないことでございますが、ご存知のようにごきょうだいに関してはきょうだいに統合失調症の方がいればハイリスクなわけですから、そういう意味で初期の兆候に対して早めに関心を寄せておくことは大事なことだと思います。最近の研究では完全な発病にいたるまでに大体5年の月日がかかると言われております。

【初期教育の重要性】

 こういうことをよしとするには、ある種国民的な意識を変えないとできませんね。それから幻聴が聞こえてきたら精神科の病気、心の病の始まりだということは誰も知らないんですよ。医学部の学生に脳には病気があると、心の病があるんだとか、統合失調症という病があるんだとか、そういうことを高校生のときに習ったことがある人って手を挙げさせるとどこの大学いっても誰も手を上げないですよ。せいぜい100人で1人か2人です。

 経過というのはいろんな要因で決まるので、こういう働きかけがあったからそれが効いたのだろうかということはなかなか証明はしづらいですが、やっぱり早くかかった方はよくて、遅くかかった人ほどよくないというのは別に証拠を出されなくてもそうだろうと、おそらく皆さんも思われると思うんですが、一方で証拠を積み上げていかないとそういうことを教育に盛り込みましょうとか、キャンペーンをしましょうとか、予算をとってという動きにはなかなかならないわけですし、それからこういった期間に治療をするということはお金がかかるということです。

【家族にできること】

 それにはやはりこういった家族会を通じて一番統合失調症の身近にいる方たちにそういった調査への協力をしていただけるといいと思います。今は個人情報の管理については昔と比べると非常にしっかりしてきていますから。みんなで情報を共有しあって日本の中での医療のあり方とか、あるいは、治療、日本人の統合失調症がどういうものであるか、アジアの中の統合失調症はどんなものであるとか、そういうことをデータとして積み上げていくことこそ、この黒い部分を減らす成果をもたらすのではないでしょうか。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 いよいよ障害者自立支援法のまやかしが浮き彫りになってきた。NHKが放送した「クローズアップ現代」で、ある障害者が作業所の利用料が払えなくなって、作業所を辞めざる得なくなったと伝えていた。年老いた親はこの先どのように暮らしていったらいいのか、と涙ながらに訴えていた姿が哀れであった。その数日前には小泉首相がブッシュ大統領の専用飛行機で、エルビス・プレスリーの記念館に行き、金縁のサングラスをかけて、異様な格好で踊っていた。この老女と小泉首相の二人の姿を一つの画面でどう組み合わせることができるか。日銀総裁やIT企業の経営者がキーボードを叩くだけで何億、何十億の利益を上げ、犯罪を犯している。

 本当の政治家が欲しい!今、正に求められているのが、こんな日本の国をどうすればいいのか、を考えられる政治家ではないだろうか。飽食、金満、といった言葉は聞き飽きたが、今こそそれを是正するために力を出せる政治家が欲しい。一部の人間は豊かになったかも知れない。しかし、そのウラには、「支援法」なるまやかし法律でやっと自立できていた障害者が職を失い窮地に陥っている。
 日本沈没は地震より確実に早く、政治腐敗、愚考行政によって訪れるだろう。誰もが言う「何が支援法だ!」と。