「企業人の眼から見た障がい者雇用の発展性」

1月定例会勉強会より (財)ヤマト福祉財団常務理事 伊野武幸さん

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【ヤマト福祉財団とは】

 ヤマト福祉財団は、「クロネコヤマトの宅急便」を作り上げた社長の小倉昌男がヤマト運輸の役員を退いた時に、「人様のお陰で宅急便がこれだけ伸びたのだから、世の中に恩返しをすることは何かないか」と考えて、個人財産のヤマト運輸の株のほとんど、約50億円相当を寄付して財団を創りました。1993年のことです。

 財団の目的は「障害のある方々の自立と社会参加を支援する」もので、今年でちょうど14年目です。財団の初代理事長を務めた小倉は残念ながら一昨年81歳で亡くなりました。

 私自身は宅急便の開発を手がけた一人で、労働組合の委員長や社員福祉センターの理事長を経て、5年前に福祉財団の常務理事を引受けました。福祉や障がい者については全くの素人ですが、小倉の志を継いで、障害のある方々の自立と社会参加を支援するため、いささかでもお役に立てればと毎日が夢中です。

【障がい者の現実を知って】

 びっくりしたのは、障がい者が1ヵ月働いて賃金が1万円以下だったことです。これでは自立や社会参加には程遠い状態でひどすぎる。いくら働いても収入アップにつながらないのは困ったことだと、その理由・原因を探りました。

 すると、施設や作業所の運営者たちは福祉には一生懸命ですが、商売については全くの素人だということに気づいたのです。そこで、小倉は福祉のことは知らないけれど、宅急便を成功させたこともあり、経営や商売については知っているつもりだからから教えてあげようようということで、セミナーを始めたのです。

【経営を学ぶパワーアップセミナー】

 各作業所の幹部の方々に集まっていただいて、パワーアップセミナーと名づけ、『活力ある作業所作りを目指して』というテーマで始めました。今は『1万円からの脱却を目指して』というタイトルで開いています。

 作業所や授産施設では、朝9時から夕方4時頃まで障がい者が集まれる居場所を作っているという感じでした。そこでの仕事は、空き缶潰しや、牛乳パックで紙を作る、廃油から石鹸を作る、陶芸、木工等々、それは作品、製品ではありますが、“商品”にはなっていません。どこの施設も時間を費やして、似たように同じようなものを作っていました。

【スワンベーカリーチェーンの展開】

 スワンベーカリーでは、冷凍のパン生地を使って、「おいしい焼きたてパン」を売りものにしています。沢山の種類のパンを焼いて、販売や喫茶をしています。その冷凍生地を開発したのは「アンデルセン」でおなじみの高木ベーカリーです。特許をもっていたのですが開放しました。

それは、冷凍技術を独占しているよりも、パンを普及してパンの需要が増えれば、めぐりめぐって自分の所にもプラスになる。また、パン生地を作る重労働からスタッフを解放したいという考えからでした。夜中2時3時に起きて粉をこねるのは重労働です。冷凍しておいて、その生地を使って朝からパンを焼けばとてもラクです。特許を開放したことは非常に志の高い会社だと思います。

【スワンベーカリーの問題点】

 スワンベーカリーは設備にとても資金がかかります。しかもパンの業界は競争も激しく、どこもとても大変です。パンが美味しくなければならないし、売れ残りがたくさん出るようでは赤字になってしまいます。

 また、スワンベーカリーは、地方では難しいのです。なぜかというと地域格差といいますか、東京の人は美味しければ120円のアンパンを買う。でも地方ではアンパンが80円以上するのでは売れません。

【クロネコメール便のアイディア】

 さて、ヤマト福祉財団には「小倉昌男賞」があります。障がい者のために献身的に尽力された方や功績をあげた方に毎年差し上げております。3,4年ほど前に、永山盛秀さんという方にこの賞を差し上げました。この方は、沖縄県庁を退職されて「ふれあいセンター」という精神障がい者の作業所で献身的な努力をされている方です。その永山さんが、受賞の挨拶の中で『メール便の勧め』という話をされました。

 我々としては、まさかヤマト運輸のメール便が障がいのある方に仕事としてプラスになるとは思いもつきませんでした。ところが永山さんに言わせると、メール便は精神障がい者向きの仕事だというのです。

【クロネコメール便の魅力】

魅力その1 :全国どこでも取り組める事業である。

魅力その2  :役割分担ができる

魅力その3  :感謝の言葉が聞ける

魅力その4  :セールスドライバーから働く姿勢が学べる。

魅力その5  :地域の方との交流ができる。

魅力その6  :愛犬とも仲良くなって楽しさが倍増する。

魅力その7  :収入も期待できる。

魅力その8  :なんといっても楽しい。

私たちが感じる魅力は以上ですが、工夫次第ではもっと多くの魅力を引き出せるのではないかと思います。全国各地で、クロネコメール便配達事業がさらに広がることを期待しています。

【広がるメール便の仕事】

 世田谷区の精神障害者自立支援型就労育成のモデル事業として「しごとも」が2004年から始めています。作業所は本来、一般就労が目的ですから、パンやお菓子を作る作業所を卒業したあとの、新しい仕事としてメール便の事業を計画したのです。平成18年12月の障害者月間にはテレビの取材もありました。

 現在は従業員7名でシフトを組み、一日5人稼動です。土日もやりまして月曜日は休みです。一日平均で約1000冊、1946冊やった実績もあります。集計後のデータ送信まで従業員の手で行います。利用者を従業員と呼び、給料から運営に至るまで従業員と相談しながら進める信頼関係があります。「しごとも」の名前の由来は仕事を共に生きるというのを短くしたものです。2008年に会社設立を目指しています。

【ヤマト運輸にとってのメリット】

 この仕事は、ヤマト運輸にもメリットがあります。ヤマト運輸の場合は社員だけで全部の仕事をやり切れません。郵便局でも年賀状の時期にはアルバイトを雇いますよね。ヤマト運輸も契約社員やパートの方々に配達をお願いしております。

 一番大きなメリットは、今までのところクレームが“ゼロ”です。700人近くの障がい者が配達していますが誤配達がなく、お客さんとのトラブルもありません。正直に真面目に仕事をしてくださっているということです。ですから非常に安心して任せられる大事な戦力だと思っています。

【スワンネットで野菜の配達】

 障害者がメール便の仕事で自立を目指す場合、二通りになります。一つはメール便だけで効率をあげて収入を得る。配達件数が多く密度のあるところはこれで生活できます。

 けれども、そうでない地方などでは、メール便での収入は半分くらいでも、他の仕事を見つけて並行して収入を得る。例えばお弁当を作って配達するとか、野菜を売るとか工夫するわけです。

【親が安心する障がい者の自立】

 私たちが小倉理事長に言われたのは、「よく親御さんは『うちの子はかわいそうだからあまり仕事をさせないで』というがそれは違う」と。親はふつう先に死ぬのだから、親が本当に安心するには子どもが自立することなのですね。

 自立とは、たとえばグループホームに入って親から独立して暮らすこと。そのためには障害年金を含めて15万くらい必要です。何とか収入を得て自立して生活できる仕組みを作って応援することが大事です。

【ヤマト福祉財団の展望】

 将来的な構想では、これからはヤマト運輸を定年退職した中高年の人がボランティアでメール便の手伝いをしたり、また、カタログ販売などもいいのではないかと思います。ヤマト運輸のネットワークを使えば、カタログを見て注文されたお客様に翌日にはお届けできるし、その場で代金決済もできます。カタログを各家庭にポステイングするだけで、全国の名産品や季節の果物などを受注でき、手数料が利益になります。この仕事が、なぜ障がい者にいいのか。キーワードは“地域”です。障がい者は地域で生きていくわけですし、ヤマト運輸の宅急便やメール便は地域に密着したビジネスです。そこでアイディアを出せば新しいコミニテイビジネスが広がります。

(財)ヤマト福祉財団

〒104-0061  東京都中央区銀座 2-12-15
TEL.03-3248-0691
FAX.03-3542-5165

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 伊野さんの講演を聴いていて、頷くこと頻りであった。それは私自身が民間企業にどっぷりつかり、今日も生活のために如何にいい仕事をし、お金を得、家族と社会とともに生きていくかを考えているからだ。
 伊野さんの言葉の中で「民間」にこだわっている様子が伺えた。民間こそ人間的な営みであると私も思う。誰に護られる訳もなく、自分の失敗は必ず自分で処理しなければならない。それは動物が獲物を逃したら自らが死するという現実の中で生きている姿と符合する。
 しかし、それが障害者に決して通用しないことは充分認識しているつもりであるが、時として限りなく完治に近く回復した障害者が、作業所において十年一日のごとくの生活をしている様子を見ることがある。
 口癖の持論であるが、人は絶えず変化している。障害者の場合はなおさらであろう。薬も改良され、施設も改善され、医療関係者も頑張ってくれている。そうした変化の中で、障害者たちも変化している。

 メール便の仕事は完全な一般就労である。違うのはこなす仕事の量だけの問題だ。同時に「やる気」「生きがい」という障害者のこころの部分をもサポートする仕事でもある。これこそ民間パワーの魅力ではないだろうか。
 今後、日本からこうした企業がどんどん生まれて、障害者たちが夢を持って生きられるような日本にしていただきたいと思う。大所高所にすがるのでなく、障害者自らが自らの力で生きていく姿こそ、我々家族が理想とする将来像ではなかろうか。
 宣伝臭批難を覚悟で、私は宅急便は必ず「ヤマト宅急便」を使っている。今後更に多くの方々に「ヤマト宅急便」を勧めていきたい。