「年代による対応の注意点」~精神障害者家族へのアドバイス~ 

12月定例会 家族会勉強会 講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

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【はじめに】

 本日のテーマについて考える中で、これは非常に重要な点を含んでいると思いました。今までの講座では症状や薬についてなどの各論が多かったのですが、時間の流れの中で症状とどう付き合うか、周囲がどう関わるかは、この障害が、風邪のような感染症や、骨がつながれば治る骨折のような病気とは違うという意味で、重要な視点です。

疾病という病気の部分で治療するという付き合いと、障害という部分で次第に適応していくという時間のかかる付き合い、この二つの軸を同時に考えていかなければならないのです。精神障害の問題を考えるときには時間のスパンを考慮することはとても大事なことだしヒントになることと感じます。

ところが年代というのは、特定の方に関しては10代の時、20代の時と考えることができるのですが、大勢の方を前に共通の話題を提供するには、いろいろな発病の仕方や経過の仕方があるので、年代という区切りはなかなか難しいものがあるのです。

そこで今回は、考え直すという意味で、精神疾患、特に統合失調症の時間の流れに沿った付き合い方について考えてみたいと思います。その中で年代別に整理ができるご質問なりご提案があれば、そのつど一緒に考えてみたいと思います。

【統合失調症の経過】

 統合失調症のモデルは、皆さんもよくご存知でしょうが、経過を表すこの(図1)です。どの年齢から始まるのかはさまざまですが、精神症状が悪くなって、ひとつの経過をたどります。前駆期から、病状が悪化する急性期、慢性期というのはあまりよい言葉ではありませんから休養期としましょう、それから安定期。これが大まかな流れだと思います。

図1

 陽性症状の出る急性期を上手に乗り切って、休養期に入る。休養期には、元気なときには集中力や意欲があるのに、そういった精神活動が低下して見られなくなる陰性症状が出ます。その時期を経て、安定期に入っていくのが一般的な経過です。

【年齢による様々な違い】

◆ 就労時に起きる発症年代の問題

 年代別で考えてみましょう。どんな年代でも共通して社会生活で大切なものは仕事ですね。病気になったあとでも「仕事をしたい」という患者さんは非常に多くいます。仕事をしたいという希望があったときに、病気になる前の時点で仕事の経験がある方は、いわば前にできていたことを、もう一度しようということです。多少不具合はあったとしても、仕事というのはああいうものだな、こんなつらさも、こんな楽しみもあるな、という気持ちを持ちながら仕事を探すことができるし、実際に仕事に就いても前の就労経験がありますから、仕事を継続しやすいと思います。

ところが発病が15歳とか大学生とか若い時期ですと、発症によって登校できなくなるなどの問題が先に出てきて、就学中に病気のピークを迎えて休養期に入ることになってしまいます。20代、30代で安定期に入って仕事を見つけるといっても、就職つまり社会人体験が一度もないのですから、前に就労体験のある方とは違い、かなり困難な課題になってきます。

◆ 学校に通う年代

 中学・高校生であるかどうかは、もちろん年齢的な問題もありますが、治療の仕方にも微妙な影響を与えています。同じ統合失調症でも15歳でなった方と45歳でなった方とでは30年も違うわけですから、主な薬は同じ抗精神病薬ですけれども、使い方や目指すゴールが微妙に違ってきます。

 さらに、もともとの病気の性質が15歳でなる方と45歳でなる方とで果たして同じような原因で起こっているのか、実は違うのではないか、少なくとも全く同じとはいえないのでは、といわれています。生物学的にもですが、15歳の人が受けるストレスの種類と45歳の人が受けるストレスの種類は当然違うわけです。

◆ 家庭を持っている年代

 30代40代では社会の中での役割が、20代とは違ってきます。ことに家族があると、病気になった当事者が夫なのか妻なのか、子どもを持つ父親なのか母親なのか、あるいは子どもが病気で親御さんがみる立場なのか、それによっていろんなことが違ってきます。

先程は学校や仕事という軸で考えていましたが、もし乳幼児や小学生のいるお母さんが病気になると、いろいろな障害の種類に育児、あるいは家事という問題が入ってきます。家事や育児を誰かが援助しなければなりませんし、この2つは援助の仕方がずいぶん違います。回復に向かっているときに、小さい子どもを育てながら休養期を迎えるのは非常に難しいですし、大変なことだと思います。

◆ 性差や加齢

 45歳くらいになってくると、女性はエストロゲンというホルモンが減って更年期を迎えます。この時期以降の統合失調症は、加齢に伴う脳の変化も加味して考える必要が出てくるので、若い方の統合失調症と同じに考えるわけにはいかなくなってきます。さらに、60代以降の老年期精神病になると、認知症との区別をよくよく考慮しなくてはなりません。

【再発に注意する】

 各年代にとって共通した課題のうち、もっとも気にしなければいけないのは再発の問題です。再発とは症状の悪化です。再発予防のポイントは2つ。1つは【充分に休養をとりストレスを減らす】ことです。もう1つは【服薬をきちんと続ける】ことです。この2つを大事にして再発を防ぐ、あるいは早く発見することが大切です。

 統合失調症には、症状と障害という2つの顔があります。急性期には激しい症状が出ているので、障害の部分はなかなか見えづらいのですけれども、症状が取れてくると障害の部分が見えてきます。なるべく早いうちからその障害がどういったものかを意識し、症状という部分に目配りをしながら障害を取り除いていくことが休養期の治療の目標となってきます。

 この年代でこういう症状や障害が現れたらどうするか、というのはかなり個別的なお話になりますので、質問等をしていただいてお話ししていきます。

【質疑応答】

Q:本人が少し前に何年ぶりかで再発しました。私は見ていてわかったので、アルバイトを休めとアドバイスし、1週間ほど休んで本人はすっきりしたと言いましたが、体力の消耗が精神症状に影響するものでしょうか?

A:体力の消耗は大きな影響を与えます。よくあるのが、再発の直前に根をつめて仕事をしているとか、普段しないことを無理にやってしまうということです。緊張していますから、そのすぐ翌日に具合が悪くなるわけではないのですが、一山超えたところで調子が悪くなることはよくあります。

Q:安定期の再発予防は、うつ病や神経症などでも同じですか?

A:うつや神経症は進行性の変化は本来あまりないので同じといえるかは分かりませんが、長く患っているとその間に時間が経っていくことは同じです。神経症の場合、その方が感じるストレスのポイントや葛藤の中身が、本来ならば時間とともに変わっていくであろうところが、なかなか変われない。つまり思春期の葛藤を上手に乗り越えるという成長が伴わないと、神経症がこじれて続いてしまうことが起こってきます。

Q:安定期に入ったあとに退行して幼くなっている感じがします。症状なのか、社会的に訓練されていないからどんどん落ちていくのか、性格なのか、どれでしょう?

A:本人の性格というのは、その3つの中では最後に考えるべきものだと思います。安定期に入って非常に子どもっぽくなってしまうというのは、非常によく見られる現象です。昔から病的児戯性などと呼ばれよく知られている症状です。

Q:家族として、どこを目標に設定すればいいのかは難しい。

A:基本的には、折々の本人の意思を積極的に傾聴(アクティブリスニング)して充分引き出すことが、その瞬間瞬間の対応として大切です。

 児戯的な症状が前面に出ているときには、ご本人に5年先の目標を描けといってもなかなかそこまでは夢が膨らまないというでしょう。未来を考えるための状況の把握も上手くいっていないだろうし、その中でどうしたいのかというのをよく聞き出してあげるのが、無理のない目標設定につながると思います。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 新しい年を迎え、心機一転、さあ、元気を出して進もう!というべきだろう。しかし、我々の世界はそれほど単純に盛り上がることができないのが残念だ。

 今号のテーマ「年代による対応の注意点」では、水野先生から新しい考え方を伺った。その基本は「個別」ということであろう。これまで数多くの精神障害についての教本が出版されている。しかし、その中でこの「個別」によって対応の方法が異なる、ということを明言されている教本は少ない。「押しなべて」というスタンスである。やむを得ないことではあるが。

 逆にいえば、それだけ精神障害というものが難しいということでもあろう。発症年代による違い。家族の中での発症か独身での発症か。性差もある。就労経験があるか、ないか。人によって様々な環境の中で発症し、治療が行なわれている。

 私たち家族はそうしたご本人を取り巻く環境や生い立ちの違いを充分に把握して介護に当たらなければならない。

 そして、もう一つのヒントをいただいた。「目標を細分化し、段階的に設定していくこと」。小さなこと、身近なことを目標に据えて、それを着実にクリアしていくこと。判っているようであるが、なかなか出来ないことだ。いきなり親が亡くなったらどうするか。結婚できるだろうか。早く仕事につきたい。

 それらを一気に解決することは困難なこと。それより日常生活の改善を図り、身支度を整え、部屋を整理する、等々を確実にこなして、ご本人が自信を得て、一歩一歩回復へ向かうことから大きな結果が生まれよう。