不登校・引きこもりと精神疾患 -見分け方と対処-

新宿区後援・4月新宿フレンズ講演会
講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

ホームページでの表示について

【引きこもりの定義と状況】

「引きこもり」については、厚生労働省のガイドラインがあり、ホームページにも掲載しています。今日お話しする「引きこもり」とは、このガイドラインにあるような人を指しており、基本的には若者の話です。

定義としては、以下の3つが重要です。

1)6か月以上、引きこもっている:学生であれば学生生活に参加していない、会社員であれば会社に行っていないで、家にいるという状態です。

2)精神疾患によるものではない:これは微妙で、引きこもっている人は診察室には来ない。私が診察しているうちで「この人は引きこもりの定義に当てはまるかな」と思う人は、1人か2人しかいません。

3)社会参加をしない:日中は引きこもり、夜になったらコンビニに出入りしたりする人は多いです。しかしお店の人と話すわけではなく、近所の人とも、友達と話すわけでもない。外出はしても社会とは関わらないのでは、家を出ないことと同じです。

 引きこもりの人は圧倒的に男性が多く8~9割です。しかも日本や 韓国などアジアには昔から多い。最近ではヨーロッパにも少しずつ増えてきて 、「ヒキコモリ」はいないと言われていたイタリアも、最近「いた!」となりました。スペインにもいるそうです。

【引きこもりと精神疾患の見分け】

不登校だけなのか、精神疾患なのかを見分けるのは重要なことです。しかし家族が、自分のお子さん1人か2人を見るだけでは判断がつかないでしょう。私の患者で「病気ではない、引きこもりかな」と思う人は、病院に月1回、上手に最後の順番を取って、「いろんなところに自分が出て行っても、全部自分のせいで上手く行かなくて…」と長時間、話していきます。他にはどこにも行かないそうで、こちらも薬は出さずに様子を見ています。
重要なのは、初めのうちは不登校や出社拒否が目立つだけですが、引きこもっているうちに生じる症状が、引きこもりなのか病気の始まりなのかの判断です。精神科の病気の前駆症状は、不登校、部屋に引きこもる、口数が減る、不機嫌そう、寝られない、昼夜逆転などですが、思春期の年齢にはありがちな行動の変化です。

【引きこもりと関係する精神疾患】

病気の場合、引きこもりやすいのは、統合失調症、発達障害、パーソナリティ障害があげられます。

統合失調症:妄想や幻聴・幻覚など、特徴的な急性症状が出現したときは分かりやすいのですが、全員にこれらの症状が出るわけではありません。元気や意欲がない、考えがまとまらない等の陰性症状だけの場合もあり、最初の段階で区別するのは難しいのです。

発達障害:対人コミュニケーションが悪いといっても幅が広く、診る人によって解釈に幅があります。ある人は発達障害であるといい、ある人は個性だといい、さらにその上に引きこもりとの区別となると大変難しくなります。

パーソナリティ障害:人にはもともと個性の強い方がいますが、それは病気ではありません。その個性のままで上手くいかなくなったときに、行動の変化が起きて本人や周りが困ると、パーソナリティ障害の治療の対象になります。これも幅が広いもので、引きこもっている以上、外交的でなく、おとなしい人が多いのですが、そんな人は世の中にいくらでもいますから、それだけでパーソナリティ障害とはいえず、また、家族が困ると言っても困り具合に幅があり、やはり区別は難しくなります。

引きこもっている場合、じっと同じ部屋にいるだけでなく、人によっては家庭内暴力を振います。しかし家庭内なので、外での暴力沙汰にはなりません。そして家族が我慢してしまえば問題になりにくく、治療にもつながらないのです。

【病気ではない「引きこもり」の場合】

では病気っぽくない場合、精神疾患が無く、本当の引きこもりの人は、そのまま家で見ていていいものか。多くの本には「見ているだけではいけない」と書かれています。

長年、社会との接点を持てずにいる場合、本人の世界が狭くなって家族しか見える場所がなくなっている。そうなると家族のかかわりは重要になってでは、家族はどういうところに気をつけたら良いか。もともと引きこもりの正体・原因がわかっているわけではないですね。どこかにきちんと書かれているわけでもないが、病気で病院に来る人と、病気で無かった人を診ていて思うのは、引きこもるには、何らかの原因・理由があるだろうということです。

本人にとっては小さくないが、周囲から見れば比較的些細なことが積み重なって、その挫折的体験の積み重ねや、自尊心の傷つき 、自己愛の問題です。

家族から本人への関わりで、もう一つ見落としてはいけないのは家族同士の問題です。ただ本人にとってこれが決定的な挫折になったというのは余り聞きませんが、例えば父親と母親の関係などを見直すことも必要でしょう。親と子ということではなくて、大人同士の付き合い、親と親の関係が「こういう大人になりたくない」となっていないか、そういうベーシックな問題です。

また何でも本人のやりたい放題もよくありません。無体なことをいってくれば毅然として断るなどすべきです。

引きこもる人は普通、病院には行こうとしないので、例え病気を発症していても、なかなか治療に結びつきません。最近は家庭訪問やアウトリーチを精神保健福祉センターや保健所等で積極的に始めています。アウトリーチ専門の施設も出来ていますので、ことに心配な場合は利用を考えて下さい。

医師として関わる場合、この薬で治るとか、この言葉かけで良くなるとか、急激な展開を期待して接すること自体が、彼らの負担になることが多いのです。長く関わる中で、調子が良いときは動けるようになって行く、そこを応援する形で診ていくべきかと思います。

引きこもりについての対処をお話してまいりましたが、精神病の場合は、早く治療に繋げることが何より大事なことです。また「病院に行くと薬漬け」と心配する方も多いのですが、若い年齢や引きこもりの場合は、すぐに薬とは限らず、むしろよく観察して、環境を整えるといった慎重な対処をすることが多いのです。それでも発症してしまったら、通院していればすぐに治療に結びついて、早く良くなることも多いので、引きこもりが長引いている場合は精神科や保健所に相談することをお勧めします。 ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 最近の気象の変化は何かの前触れなのだろうか。あらゆる現象が十年ぶり、二十年ぶりの記録となっている。地震、豪雪、豪雨、温暖差、かつては経験したことがない竜巻まで起こっている。北海道で雪、九州では海水浴と日本も狭い国と思っていたが、こんな温暖差のある国も珍しいのではないだろうか。
 さて、今月は水野先生に引きこもりについて伺った。なんと難しいテーマではないだろうか。しかし、よくある話である。病気か引きこもりか。この判断が重要だと言われながら、その決断には先生としても決め手を欠く。
 私自身の体験として親戚の若夫婦の子供が引きこもっていた。若夫婦は病気ではないとして、祈祷師のところや、柔術師のところなどに通った。しかし、一向に改善は見られない。祖父からの助言に耳も貸さず、揚句に祖父とも断絶。連絡先も明かさず、家を飛び出した。困った祖父は追跡調査をして住所を知ったという。物陰から若夫婦を見ている祖父の痛々しい姿がそこにあった。
 なんとも悲しい話である。しかし、それもこれも精神の病が原因していることは確かなことである。他の病なら薬と休養でほとんど解決する。精神科は薬、休養、それに環境が必要である。その環境とは人間としての基本条件とも言える人との交流であろう。この交流なくして人は生きられないとまで言わしめよう。引きこもりはその交流を拒否するものである。
 水野先生は言う。よくよく本人の心性を考えるしかない。どうしたいのか、何になりたいのか、周りが包括的に用意する、準備をしているよ、と伝えることも重要なことだと。本人は病気になりたくないのと同様に、引きこもりたくないのに引きこもっているのだから。