家族も当事者もSSTで元気に

新宿区後援・5月新宿フレンズ講演会
講師 SSTリーダー 高森 信子先生

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【ボタンの掛け違え―子を思う母と、子の心のズレ】

 私は世田谷のさくら会で平成3年から毎月家族SSTをしています。そこに参加する家族から「私は息子から見捨てられている、嫌われている」という相談を受けました。「お母さんのせいで病気になったのだ」と言って、傍にいるだけで怒り出す。お父さんが仲立ちしている状態で、お母さんは子を思う切ない気持ちがあるのですが、お子さんからは「嫌なことばかりする」と思われているのですね。

 また、40歳を過ぎた男性が「家にいる母は、産みの継母です。私に嫌なことばかりする」と言う。お母さんは「なんとか病気を治したい」と思っているのです。でも、このお母さんは自分の気持ちを息子に言うだけで、息子の気持ちを分かろうとしない。それでも少しずつは努力をしていたのですね。

 そのお母さんがあるパーティーに出ている時に、息子さんが会場に現れて「お母さーん」とやった。お母さんはメンツ丸つぶれです。「これ、うちの息子です」と言える勇気があれば良かったのですが「なによ、あんた」と言っちゃった。すると息子さんは「やっぱり」と言って会場を出て行った。いままで努力して少しの信頼関係ができかけていたのに、また元の状態に戻ってしまったのです。

 そのお母さんが亡くなった時、他の家族の手出し口出しを拒んで、調子の悪い病気の息子さんが葬式一切をやり通したのです。彼は「産みの継母」と言ったけど、本当はお母さんが大好きだったのですね。大好きな母親なら、こうあるべきという、彼の理想と期待が高かったのでしょう。

 家族が本当に当事者を嫌っていたらSSTの勉強会には来ません。家族の中で、親は子の病気を治してあげたい気持ちはいっぱいある。子供も治したい気持ちはいっぱいある。そこは一致しているのです。ただやり方が違う。親は先生と組んで「私のいう通りやれば治るよ」という。それが最初のボタンの掛け違えです。親は自分のやり方で治したい。それを子供は「親は自分の気持ちなんか分かってくれない」と思うのです。健常者である親が、最初に子供に合わせると、初めのボタンがかかってうまく行きます。

【健康な部分を増やすために】

回復するエネルギーを高めるために、家族のできること、3つを挙げてみます。

1)今を認める:服薬拒否、ひきこもり、昼夜逆転…困ることはいろいろあるでしょう。けれど、それが相手の今=現在位置だとしたら、それを知って、そこからスタートです。相手の言い分を否定せず、気持ちを聴いてあげましょう。

 手足に障害のある乙武洋匡さんと国分太一さんの対談をテレビで見ましたが、国分さんが「そんな体で親を恨んだことはありませんか」と、かなり突っ込んだ質問をしたのですが、乙武さんは淡々と「親を恨んだことは、一度もありません。父は私と出会うたび、大好きだよ、愛しているよ、と言い続けていたので、私は、親から愛されているという肯定感の中で成長しました。私が20歳になった時に、『いつ君から、こんな体に産んでくれて…と責められるか、ずっとビクビクしていたよ』と父から聞いて、自分は全然そうではなかったけれど、父にとっては苦しい年月だったんだ、と初めて分かりました」と答えられたのです。

 乙武さんが、親から愛されていると感じた肯定感は、人間が成長する中で、とても大事なことです。前向きに考えられる原動力でもありますね。子供は安心の中で育つ。病気の方も安心の中で、心が強くなっていくのです。

2)ほめる:少しでも回復力が増えるためにほめること。「食っちゃ寝」からほめてみれば、ほめる種はいっぱい見つかる筈です。

 この病気の方は精いっぱい生きているのです。端から見てなまけ病に見えるかもしれませんが、なまけ病には年金は出ないのです。動かないのではなく、動けないのです。そこを分かってあげましょう。

 人はほめられて嬉しくなり、ほっとするのです。ほっとする感じ、これは精神のお薬を飲む人には、薬の効果を上げるためにも、生活の意欲を高めるためにも必要なものです。

3)お願いする:指図でなく、命令でなく、今できそうなことをお願いしてみする。効果的なお願いのポイントは、私メッセージで「そうしてくれると私が助かる」「私が嬉しい」「私が安心する」と言うことです。「あなたのために言っているのよ」と押し付けないことです。

上記の1),2),3)を、当事者の回復力を高めたいと思われたら、ぜひ実行してみて下さい。

【自分の健康のために】

 当事者本人が回復力を高めたいと思われるなら、次の3つの流れを体験して下さい。

1.本人にとって嬉しいこと、楽しいこと、心地よいこと、一時でも病気を忘れられることをやること:まじめで「年金を貰って遊んでいていいのか」と考えがちですが、楽しんでください。「私は24時間いっときも病気のことを忘れられず苦しんでいます」という人がいました。あとで「パンにジャム塗っている時、病気のことを忘れていました」と言いに来ました。それでいいんです。花や夕焼けを見て「きれいだな」と思うこころの積み重ねが大切です。

2.元気になる:楽しいことをやると、元気になってくるのです。

3.やる気が出る:元気になると、体の中からやる気が出て来るのです。アルバイトしようかな、もう一度勉強しようかな、人の集まりに参加しようか、外出…などと考えて、踏み出してみて下さい。やる気を出すには楽しいことから始めるといいでしょう。

 緊張していた10年間をやり直す:この病気は病気と分かる10年前からスタートしていると言われています。20歳で病気なら10歳から。それまでは親の価値観の中で育つ。10歳からは社会から情報を貰って横の関係の中で成長してゆく。そういう時期に緊張が始まって、徐々に高まって、そしてプツンと切れたのが発病した時期です。

 この緊張していた10年間を、もう1度やり直してください。例えば、デイケアや作業所でも、すぐ異性のカップルを作るのではなく、まず、中学や高校生が友情を育むように、横のつながりを作って、いろんな人と出会って友人を作るという時期をつくってほしい。恋人を作る前に、同性の友達でコミュニケーションの練習をしてください。

【相手の気持ちを分かる―会場でロールプレイ】

I.関心の表明:「あなたの行動に関心を持っているのだよ」という気持ちを行動で表します。

II.反復確認:「働かざるもの食うべからず」。「お前は働いていないから、食うべからずと思うんだね」。そう言うと、自分の言うことを理解してもらえたと思う。これが「今を認めること」です。自分はその考えに賛成できないけれど、とりあえず「相手の気持ちを否定せずに分かってあげること」をやってあげましょう。

III.具体的にするための質問:「どうして」「なぜ」と聞きましょう

VI.共感:「そうか、つらかったんだね」と、つらさに共感して下さい。

V.自分の考え:これは最後に言いましょう。お父さんは息子に「働かざるもの食うべからずは、健常者に言う言葉だ。病人は病気を治そうという努力をしてほしい。それにはご飯を食べてほしいな」と、命令ではなく、お願いをしたのです。そうしたら彼は食べ始めた。そして家業の電気屋の手伝いをするようになった。どんどん良くなっていったのです。

 カタツムリが殻を背負っているように、誰もが重荷を負って生きています。病人は病気という、他の人よりも大きなつらい荷物を背負っている。だから「生きているだけで立派」なのです。生きていることがお仕事なのです。そして「生きているだけで、立派な仕事」のお給料は、障害年金です。

 しかし、病人には義務が1つあります。それは「病気を治そうとする努力」です。病気が重いうちは就労免除、休養を勧めますが、カタツムリの病気という荷物が小さくなってきたら、もう1つ 重荷を乗せても大丈夫でしょう。本人にやる気が出てきたら、デイケアに行くのでも、アルバイトでも、やったほうがいいのです。しかし、就労能力がダウンしているのでストレスに弱く、なかなか仕事が続かないのですが。家族は焦らずに見守って下さい。

 家族はVの自分の考えを、子どもの小さいときから言い続けてきたことでしょう。しかし、「あなたの病気は親が治してあげるから、こうしなさい」と言い続けると、病気は治りません。当事者のストレスのトップが「家族関係」。親が言うことを聞かそうとすることがストレスです。

 しかし、他人には優しくできるでしょう。自分の子を自分のモノとは思わない。他者だと思うと、話も聞けるし、優しくもできます。まず練習して、IIの反復ができるようになり、III、VIの質問と共感ができるようになると、信頼関係が生まれてくる。Vの自分の意見、解決の言葉は言っても言わなくてもいいんです。親子関係には何より「分かってあげる」ことが一番大事です。                                 ~了~
(質疑応答は割愛させていただきました)

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 驚いた。高森さんのバイタリティのある講演はある程度予測できたが、懇親会の時間まで延長し、さらに会場貸切の時間をオーバーしてまで質疑応答が続くとは。4時間以上に及んだ講演でもケロっとして帰っていく姿には呆気にとられた。

 それにしても、家族でもないのに家族の気持ちがわかっている。我々家族からは「そうなんだよな」「そうそう」なんて言葉が次々に飛び出す。一方、当事者でもないのに当事者の気持ちもわかっている。「なるほど」「そうか」と頷くことしきりである。

 この家族や当事者の気持ちを理解できるというのはどういうことだろう。一つには高森さんが医師や看護師といった専門家でないところに徹しているからではないか。そして、母親的雰囲気を持ち合わせていることも大きな理由の一つであろう。多くの専門家といわれる先生方は、患者さんとは診察室での対面の場でしか顔を合わせない。高森さんのように理由はなんであれ家庭の中まで入れない立場である。

 高森さんの肩書にもその辺を伺わせる。「SSTリーダー」だという。これってどんな職業?と聞いても答えられる人は少ない。つまり、肩書など何でもいいのだ。要するところ本人の力量が問題であることを如実に示している。

 さらにそれは、高森さんの講演の中身にも及ぶ。会話の中にカタカナが少ないことだ。つまり自分の言葉でしゃべっているのである。書物やネットからの情報でなく、体験を基にした会話であるからだ。それだけに説得力がある。

 4時間の講演中、いっときの倦む時間もなかったことも最後に付け加えておきたい。