就労支援への思い・・・ 当事者の気持ちを考える

新宿区後援・7月新宿フレンズ講演会
講師 オフィス クローバー 施設長 友利 幸湖さん

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【就労に関わる社会資源】

 精神障害者を支えるさまざまの社会資源としては、病院や保健センター等でのデイケア、地域活動支援センター、就労継続支援、生活訓練などがあります。これらは平成18年成立の障害者自立支援法で整えられました。
 また、平成17年の障害者雇用促進法によって、精神障害者が障害者雇用枠の算定の対象となり、一定以上の規模の企業は障害者を1.8%以上雇うという決まりの中に含められたのです。この障害者雇用枠を利用するには障害者手帳の取得が必須で、精神障害者にとっては障害者と位置づけられることに、気持ちの上で高いハードルとなる方もいらっしゃいます。
 また、平成17年の障害者雇用促進法によって、精神障害者が障害者雇用枠の算定の対象となり、一定以上の規模の企業は障害者を1.8%以上雇うという決まりの中に含 められたのです。この障害者雇用枠を利用するには障害者手帳の取得が必須で、精神障害者にとっては障害者と位置づけられることに、気持ちの上で高いハードルとなる方もいらっしゃいます。
 就労継続支援の内容は、毎日通える場があり、そこでいろいろな仕事をするということです。ご家族や支援者からの「居場所、やりたい仕事やれる仕事の場を作りたい」という声が発端となった施設であるといえます。それが整理されて今の形となりました。
 さて、平成18年に障害者自立支援法が施行され、平成25年には障害者総合支援法が施行されました。その下での新宿区にある利用可能なサービスにはどんなものがあるでしょうか。
 自立支援給付の訓練等給付に当たる就労継続支援を利用するには、自治体、身近で言えば保健センターや区役所等に申し込みます。A型の対象者は一般就労は困難ですが雇用契約に基づく就労が可能な方で、B型は雇用契約に基づく就労が困難な方を対象としています。
 地域生活支援事業は相談支援や居住サポート、移動支援、地域活動支援センターというふうに、各自治体が裁量的経費によって提供しているサービスになります。
 その他、就労継続支援A・B型からステップアップして、就職活動をする場が就労移行支援事業所で、この2年間では株式会社等が運営する就労移行支援事業所が増えています。
 こうしたサービスを受けるための料金は高齢者介護と同じように、原則1割負担となっていますが、法改正を重ねる中で当事者や障害者福祉の関係者が「高齢になって介護を必要とする方と、若い頃から障害を持って生きてきた方を、同じ1割負担にするのはおかしい。応能負担にしてほしい」という声を上げ、現在は非課税の方は原則免除になりました。従って多くの方が無料で利用できるようになっています。

【オフィス クローバーの方針】

 オフィス クローバーは、新宿区高田馬場にある就労継続支援B型事業所です。平成7年に「クラブハウス・ストローク」(精神障害者共同作業所)という名称で始まり、次に小規模通所授産施設となりました。当初から就労支援をメインにし、平成19年10月から就労継続支援B型「オフィス クローバー」として運営しています。
 期間に縛りのない就労移行:精神障害の方々が、制度に則してここまで出来たら就職活動のための2年限定の就労移行支援事業所へ、この方は雇用契約のあるA型へ、この方はB型へ…と線引きをするのは、三障害の中でも特に難しい。病状の揺れが激しい方もいるためオフィス クローバーは、ゆとりのある仕事場として維持していく一方で、一般就労にチャレンジ可能な方には就職支援を行う、期間にしばりのない就労移行の役割も併せ持ち、個別に対応しています。
 通所日数はその人次第:契約人数は約60人強、毎日30~35人が通っています。この人数の差は精神障害者の特徴で、毎日は通えない方が多いためです。週1日から多い方は5日、殆どの方が週2~3日、その方の状態をみて主治医とも相談して、週何日通えるかを決めていきます。

【大事にしていること】

 生活支援が基礎:オフィス クローバーでは、まず、生活支援を大事にしています。食事・睡眠・服薬管理、その薬が合っているかどうか、きちんと100%服薬した上での症状なのかなどいろいろなことがありますが、初対面の時からご自身について詳しく開示してくださることは殆どありません。

個別支援を大切に:各利用者への個別支援を重視します。全員で一斉に「はいスタート」「今日はこれでおしまい」というふうに一律な支援方法だけでは、各々のニーズや状態などをつかめません。

安心できる場:所内作業・所外作業で何を一番重視しているかというと、大事なのは、まず安心できる場であることです。すばやく作業が出来る方がいると、そのペースに合わせようとして疲労を感じてしまう人が多いので、まずは利用者1人1人のペースを大事にします。また、利用者は1日の体調や気分が刻々と変化して、同じ方でも朝と夕方では違います。この変化を常に把握していることも大切だと思います。

共に働く:利用者も職員もオフィス クローバーの一員であることを忘れない。同じ目線で仕事をすること、これはとても大事です。苦楽を共にするという感覚をなるべく実感できるようにします。

社会参加の実感を:たとえばどういう企業が、どんな仕事をくれたか、「この仕事を一緒にやることで、仕上がり具合によって再度注文が来ます。だからみんなちょっと頑張ってやってみましょう」と話します。すると次に依頼された時「また頼まれましたね」というような、社会参加をしている喜びをなるべく実感できるように、話しながら働くことを大事にしています。

利用者が自ら力をつける:自分がやりたいことは何なのかを話し合い、それを大切にします。「自分が希望してやり始めたことだ」という主体性が基本です。また、社会性を身につけること、これにはコミュニケーション能力、責任感、生活能力、また自分を知ること。自分がどういう体調で、どんな変化に弱くて、どんなところに強いか。これを知ることが何より力になります。

【実例をもとに考える】

 Aさんは架空の人物です。オフィス クローバーに通っている人が、だれしも1つぐらいは覚えがあるなという経験や思いを集約してみました。

Aさんの履歴:高校までは順調に生活。大学受験は頑張ったが志望校に入れず、他大学に入学するも周囲になじめず、不眠や幻覚が出て退学。精神科治療により復調するが薬を止めてしまう。再発して治療を再開し、陽性症状は無くなるが、バイトなどをしても長続きせず、その後、作業所に通所。体調は安定するが、就職へ繋がらないという危機感が強い。人間関係がうまくいかない。通所を中断してしまう。これらのうち一つぐらいは通所している人だれもが経験することです。

ご家族の気持ち:医師や他の色々な人の助言に従いサポートしているが、先が見えないのが辛い。今まで目標が見えたような気がして進んでも思うようにならず、親としての自分を責めてしまうこともある。本人に対しても過保護や言い過ぎてしまうこともあり、私自身も辛い。

通所開始時のようす:病状は不安と緊張が非常に強く、人の輪に入るのが苦手。手作業は真面目に行うが疲れやすい。この病気をどう受け止めているかについては、治療の必要性は自覚しており、通院中で、服薬・生活リズムは安定している。家族と同居しているため、食事や衛生面は問題ない。自身の得手・不得手は未知。心と体の疲労がどんな様相を呈するかは、まだつかみきれていない。

Aさんへの支援内容と気持ちの変化 

1.所内作業に参加:作業に参加するにあたり、Aさんの希望をまず聞き取り記録します。これは法律でも決められていて、自分の言葉で書いてもらいます。「サラリーマンになりたい」、「背広を着て通いたい」、「自立した生活を送りたい」、「前の仕事をまたやりたい」といった、いろんな希望をそのままご本人の言った言葉で書きとめていきます。

 通所を始めたときにAさんがどんなことを感じるか。「週1~2回なんてチョロい、できる」と思っていた人が大半です。
 ところが「週1~2回の通所なのに凄く疲れる」。通所開始後は、「イライラや不眠が出るのに、薬が効かない」「利用者や職員に苦手な人がいる」「ここにいてステップアップできるのか」「内職作業なんてやりたくない」「先日ハローワークで面接を申し込んだが不安で行けそうもない」「朝の気分が悪くて通所したくない日が多い」…などが出てきます。

 一方、職員と話すと気持ちが楽になったということもあります。また1ヵ月ぐらいたって、大分慣れたと思ったら疲れて起き上がれないというときは、適宜休養を入れます。「休むのはリハビリの中断ではなく、リハビリで得た休む技術です」と伝えると、だんだん疲れて出来ないことがあっても、「自分はこれでいいんだ」と肯定するようになっていきます。

2.就労支援の意義と生活リズムとの関係:通所を始めて、生活の中で仕事に集中する時間が少し出来ることで、いろいろなことを考えて不安になる時間が多少減る傾向が出てきます。煙草の本数が減る方もいます。「『会社勤務が目的だから内職は無駄』ということはないんですよ。いろいろな作業などをすることで状態が良くなることが沢山あります。そのためにここでリハビリして頂きたいんですよ」と、繰り返し丁寧にお話していきます。

3・通所日数を適量まで増やす:週半日通所だったのを、主治医の許可を得ながら週2日にする。次に週3日にする、その次は昼食を摂る、慣れてきたら終りの午後4時までいる。それでリズムが取れるようであれば、利用者各々の体調に合わせて次のステップへ行きます。
 ところが就労を目指す方は、考え方の比重が、逆三角形になることが多いのです。例えばパソコンを習って、これで準備は出来たというように、まず職業適性から入ろうとしがちです。
 健康管理が出来れば、次の日常の生活管理には、就寝、起床、食事などの基本的な生活リズム、金銭管理、余暇の過ごし方や乗り物の利用などがあります。対人技能には、人の言葉を聞き流す、すぐ反応しないなどスムーズに生きていく為の処理能力があります。精神障害を持つ方の多くは、それが1つ1つ気になって囚われてしまうことが多く、感情のコントロールが出来るようになるのが大きな目的の一つです。その上に基本的労働習慣、挨拶や返事ができて、身だしなみ、一定時間仕事に向き合えるなどというスキルを整えていきます。

4.所外作業にトライ:職員と一緒に安全な場所で、比較的取り組みやすい所外作業から始めます。ポイ捨て禁止・禁煙等の看板の清掃、道端の消火器の点検などを請け負って実施しています。
 所外作業では、作業日程が決まることで約束事が生じます。Aさんの通所に合わせて日程を立てますが「何曜日の何時に来てください」という緊張に耐えられるかが最初のハードルになります。夜眠れず、寝過ごして来られなかった方もいますが、1回や2回の失敗でダメとは言いません。この緊張を乗り越えて仕事に来る必要があるわけです。

 さて、うまく行かない場合のAさんの気持ちはどうでしょうか。「試したことが苦手と感じても支援者に言い出せない。こんなことも出来ないのかと思われてしまう」「目標に向けて通所時間を増やし所内で新聞を呼んでいたら、所内作業に入るように言われたが、仕事を振られるとやらされている感じが強くなる」「職員が自分を使って楽をしているんじゃないか。でも他の利用者に職員が声をかけていると、自分の仕事をとられるような気持ちになる」…これらは症状としてよく現れる気持ちです。

5.やりたい仕事より向いている仕事を見つける:意味は簡単ですが中々難しくて、その方がどんなパターンでどんな仕事に着くと長続きするかを検証していきます。私たちが就労現場を見学すると、仕事にピタッとはまっていることがあります。また長続きする仕事は向いているなとも感じます。
 私たちが支援する中で非常に悩むのは、自己評価と現実を一致させていくことです。自己評価と現実とに差が生じる場合、たとえばパソコンはどうも苦手だ。手で書いたほうがいいという人がいます。しかしお父さんがパソコン教室を予約しちゃった。「疲れませんか」と聞くと「ものすごく疲れます」。しかし親御さんの気持ちも無にできないので一応行くという齟齬が生じます。

6.所外作業の発展系:公的な機関でインターンシップや企業実習があり、週5日働いてみることが出来ます。
 そしてAさんの感想を聞き取り、企業・インターンシップの支援者から電話やケア会議などで報告していただき、環境の変化や就労を継続することでの疲れ具合、現れやすい症状の把握と心情の変化を見るとともに、社会人としてのマナーを検証します。

7.就職に必要なこと:所外作業やその発展系がスムーズにできるようになったら、本人が言いださなくても就活に入るという大体の目安があります。今は平成17年のころと違い、通所日数が週に4~5日で安定していれば、企業の障害者雇用が週20時間、つまり0.5人分から始めていいですという企業がたくさんあります。最終的には週30時間つまり1日6時間労働を目指します。
 さらに自分にあった就労形態がイメージできることが大切です。例えば大学で情報処理を学んだ方に対して就職支援したケースでは、パソコンの入力、給水機などの洗浄、DMや受信したファックスを席に配るというルーティン・ワークなら、自分は長く続けられるというイメージを持つことができました。

8.就職後の支援:日々の不安、特に契約更新が近づいた時や、職場のいろいろな変化や、人間関係について相談を受け続けています。また転職支援や、ご家族のことなども相談に乗ります。

この頃のAさんの気持ちは「契約更新が済むと、次の更新が不安」「仕事場の上司はいい人だが、『休んだら…』といわれると、もう自分は辞めさせられると思ってしまう」「親が入院したり亡くなったら、自分の生活はどうなるんだろう」「仕事は大変で疲れるけど充実感がある」。

9.仕事(生活を整えるための仕事、収入を得る仕事)をすることの意義:生活にハリが出てきます。そして生活リズムが整う。そうなってくると、自分を肯定し易くなりますから、人生に希望が持てるのです。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 暑いとは言うまい。夏は暑いのが当たり前なのだから。と、言っても暑い。しかし、この暑さの中で工事現場の作業員は長袖のシャツで働いている。安全のため、そして日除けすれば疲れないそうだ。

 今号の講師・友利さんはメディア出身とか。我がフレンズにもいる。そして、斯いう私もメディアの端くれであった。メディア出身の特徴は臨機応変が効く。そして、割と頑張り屋だ。しかし、弱点は部屋が汚い?いや、友利さんは違うと思うのだが・・・

 そんな友利さんから、精神障害者が生きていくための羅針盤とも取れるヒントの数々を頂いた。架空の人物Aさんを引き合いに出しての説明はわかりやすかった。1.から9まで段階を追って、誰もが何番かの心当たりのある事例を紹介した手法はさすがであった。

 安定した職業生活の継続には、まず健康管理だと述べている。ややもすると忘れがちになる健康管理は、私が息子に口が酸っぱくなるほど言って来たことである。もしかしたら健康管理がしっかり出来ていれば抗精神病薬も減らせるかもしれない。

 パワポの三角グラフも参考になった。最初の健康管理から日常生活管理、対人技能、基本的労働習慣、そして最後に職業適性が来る。多くの人たちがいきなり職業適性ばかりを頭に描き、PCを揃えるとか、スーツは何色がいいとか、そんなことをまず心配してしまう。

 友利さんは言う。所内作業に慣れるまでの時間が人によって異なると。しかし、この行程をうまく乗りこなせば本人の力が非常について来たと感じると付け加える。最後に「仕事をすることで人生に希望が持てるのです」とも。                         嵜