入院の必要性と、通院の上手な利用の仕方

新宿区後援・6月新宿フレンズ講演会
講師 大泉病院社会医療部長・精神科医 山澤涼子先生

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 まず入院についてです。何回か入院している方はご存知でしょうが、精神科とは他の科にない「精神保健福祉法」という法律があります。これは精神科の負の歴史を反映しており、入院患者の人権をないがしろにしてきた過去の歴史の反省から、患者の人権を守るために極めて厳しい法律となっています。時に、患者や地域の支援者から見ると、病院は融通が利かないと感じることもあるでしょうが、法律に則っているからです。
 精神保健福祉法では、入院の形態は「措置入院(緊急措置入院)」「医療保護入院」「応急入院」「任意入院」の4つがあります。

【措置入院-自傷他害のおそれ】
 
「措置入院」は、自分や他人を傷つけるようなリスクがある場合、「自傷他害のおそれ」がキーワードです。精神保健指定医は、5年以上の医師経験と3年以上の精神科医経験、一定数のレポート提出により与えられる資格です。治療技術を問われる資格の専門医とは異なり、精神保健福祉法を正しく理解して法律に則った医療ができるということに対する特殊な資格です。
 この精神保健指定医2名が診て、2人とも「自傷他害のおそれがある」と判断した時に、本人や家族の同意が無くても、その自治体の長、県知事や東京なら都知事の命令による入院という形で定められています。目の前で自殺を試みたり、興奮して暴れて他の人に怪我をさせてしまいそうだという場合に、現場の警察官が「精神的な治療が必要だ」と判断して通報(24条通報)すると、東京都に連絡が行き、鑑定に回って精神保健指定医2人が診察して「措置入院が必要」と2人ともが判断した場合に、措置入院の命令が都知事から出るという形で、当番の病院に搬送されて入院します。
 措置入院になるということは、やむを得ないケースも多々ありますが、大雑把に言えば、その手前で地域や家族などが何とかしなければならなかったのが、警官が出て来ざるを得ないような段階まで行ってしまったわけで、できれば避けたい入院です。退院時は、「もうこんな思いをしないためには、どうしたらよいか」の教育が何より大事な入院となります。

【医療保護入院-同意者が必要】
 措置入院とは違って、病院と家族などの同意者との間で決める入院です。精神保健指定医が「入院が必要である」と判断して、それに同意者(昔は保護者)の同意をもらうことで入院が成立します。同意者になれる人は、配偶者、親権者、扶養義務者(直系家族、兄弟姉妹)、後見人・保佐人です。離れて暮らしていてもなれます。最近問題になるのは、内縁の場合は法律では不可なので、兄弟や親に連絡を取ることになります。未成年の場合は両親の同意が必要なので、母親が未成年の子を病院に連れてきても入院させることはできず、父親の同意を取らなければなりません。
 同意者になると、すべての責任を取る身元引受人になるのではないかという不安があって同意者になりたがらない人がいますが、治療の経過は同意者に報告しても、同意者に全責任を負わせるわけではありません。「同意できない」と言われ、保護入院ができないとなると、むしろ問題がこじれたりしますので、「同意者になるとどういうことになるのか」を聞いて下さい。

【応急入院は同意がすぐに取れない時】
 自傷他害のおそれはない(あれば措置入院)ものの入院が必要とされた場合に、上記の転院の例のように、本人が同意の取れる状態になく、同意者が見つからない、家族と連絡が取れない、病院へすぐ来られないなどの理由で、医療保護入院の同意書にサインがもらえないことがあります。応急指定病院の病院管理者は、精神保健指定医1名の診察によって同意者なしで72時間に限って入院させることができます。この応急入院は、72時間以内に別の入院形態(任意、医療保護入院)に切り替えるか、解除しなければなりません。

【任意入院-行動制限はかけられない】
 自分の意志で入院すると決め、入院の同意書にサインして入院する任意入院が一番望ましいでしょう。この入院についても、法律は患者の人権を守っており、任意で入院する患者には制限を加えてはいけないものが沢山あります。
 まず、開放処遇といって「夜間以外は病院の出入りは自由」を入院患者に保証しなければなりません。「ちょっと具合が悪いから、病院の中にいなさい」というのは法律違反になります。退院も、患者が「退院したい」と言ったら退院させなければいけないとなっています。開放処分の制限や退院の制限は、法律的な手続きが必要な上に、「72時間以内」「1週間以内」などの制限条件が加わっています。
 このあたりの兼ね合いは難しく、もちろんできるだけ制限しないほうが良く、いつまでも病棟に閉じ込めておくことは良くない反面、任意入院でなんでも自由となれば、一旦病棟の外に出てしまえば、仮に病院の敷地内でも目は行き届かないので、安全管理は疎かになります。病院と家族のアセスメントを突き合わせて判断をしていくしかなく、非常に難しいところです。任意入院は、法律では本人の行動に制限をかけられないことを知っておいて下さい

【医療保護入院が望ましい場合】
 では、本来は任意入院であるべきものを、医者の判断と家族が同意することで成立する強制入院である医療保護入院が、どういう場合に許され、しなければいけないか。
 1つは病状が出ている病気であることが必要で、病的な体験、統合失調症であれば幻聴や妄想、うつ病であれば気分の落ち込みや意欲の低下などで日常生活に大きな影響を受けていて、その結果として体が衰弱したり、社会的なトラブルが懸念される時に初めて医療保護入院が考慮されます。
 今は原則としては、「治療は外来で」という考え方で、入院しないのが一番良いのです。しかし例えば、うつがひどくて食事ができず、どんどん体重が減っているのに、家では家族がどんなに勧めても食べられず衰弱していく場合など、本人が入院を嫌がっても入院治療となります。

【安全を優先する時も】
 行動制限も、「病棟の外には家族かスタッフが一緒の時だけ。病棟の中は自由で良い」という緩いレベルから、「身体拘束」という最も厳しいレベルまで、何段階かの制限があります。隔離や拘束は、受けるほうからすればこれほどストレスフルな出来事はないので、できる限り避けなければなりません。病院ではそういう制限は日常的ですが、本人にとってはとんでもない非日常ですから、医療者は常に検討しなければならない立場です。情に流されて「拘束など可哀想だから、もう少し様子を見よう」とした結果、自殺や他者を害するなどとなってはいけません。
 常に天秤にかけること、リスクと本人の気持ちを考えた時に、今どちらを優先すべきかであり、これは100%正しい答えはありません。家族や本人、スタッフが常に相談して決めて行くことになります。本人の気持ちよりも安全を優先しなければならない段階があることを覚えておいて下さい。

【薬が多くなる時期もある】
 薬の使い方は基本的に、少量使って安全性を見ながら少しずつ増やすのが一般的な治療です。しかし措置入院や医療保護入院では、そんな悠長なことを言っていられない場合が多いのです。
 この時も、安全の確保と事故の防止、本人の苦痛の軽減を優先し、人権上は大事な本人への説明が後になることがあります。つまり家族に説明をして同意を得て治療を始めるわけです。拘束せざるを得ないとなった時には、真夜中でも家族に電話をします。本人や家族の意向をすべて無視して進めることはありませんので、安心してください。

【家族に知って頂きたいこと】
 第1に「治療は早く!」。待っていて好転することは滅多にありません。「いつもと違う」「具合が悪そう」と思ったら早く治療に結び付けて下さい。
 第2に、「嘘をつかない」。これはとても大事なことです。先ほど言っていることと違うと言われそうですが、本人への説明が後になる場合があっても嘘はダメです。例えば「検査入院だから3日で退院できるよ」と無理に入院させてしまうなど、その場をごまかす嘘を言うのは、本当にやめて欲しいと思っています。 冠者は不安です。自分の同意もなしにカギのかかる病棟に入り、家族に置いて行かれる体験は想像を絶する体験でしょう。そのような時に、家族の不安感が伝わると益々不安になります。家族もいろいろ分からなくて不安なのは当然ですが、医師や看護師、ケースワーカーなどに納得できるまでとことん聞いて下さい。納得出来たら医療者を信じて、医療者と同じニュアンスで本人に伝えてほしいのです。

 最後に、「入院中に家族が無理をしない」。これは重要です。大事な家族が入院していると、自分がリラックスしたり息抜きするのは罪悪のように感じてしまう家族が多いのです。
 入院中は病院に患者を預けられる時期になります。医療保護入院になる前は、とても大変な状態で家族も疲れ切っています。無理して毎日見舞いに来るよりは、ゆっくり体を休め、ストレス解消にランチや温泉も良いでしょう。本人が退院する時は、家族は元気になって待っていて欲しいのです。一ばん困るのは、退院時に家族が疲れ果てている状況です。

【退院前には約束を】
 まず、約束事を決めましょう。退院の時には本人は、悪かった時のことは覚えていないと思います。せっかく良くなって退院するのに、お説教を聞きたい人はいないと思いますが、再入院をしないための注意事項や約束事は、調子のよい時に決めておくことです。
 調子が悪くなってから「薬を飲まないから」とか「無理するから」などと言っても、調子が悪いので、いつも以上に話し辛くなり、受け入れられなくなります。調子のよい時に振り返りをして、約束事を決めておくことは大事で、退院直前の「こういうことがしたい」と思っている時期がベストです。

【再発を防ぐために】
 
家族も知っておいてほしいのは「早期警告サイン」です。幻覚とか妄想がひどくなる一歩手前で気づきたい再発の兆候です。悪化する前を振り返って、本人、家族、主治医、デイケアのスタッフ等で、早めに共有しておくことが大事です。圧倒的に多いのは不眠、イライラや口調がいつもと違う、塞ぎ込みがちになる、家族と話さなくなる、家族にくって掛かる、家の中をウロウロする、部屋から出る回数が減る、集中できない、2時間もののドラマなどが観られなくなる、食事が夜になる、買い物が増える、たばこが増えるなど、色々あります。「こうなったら、すぐ主治医に連絡するから、病院に行こうね」など約束をしておいてください。
 「早期警告サイン」が出てちょっとまずいな、と思ったらパッと入院して治療・休息して、良くなったらサッと退院する方法を上手に使うのは良いことだと思います。入院するとなかなか退院させて貰えないと思うと入院は嫌ですが、そうは言っても入院が必要な時はおそらくあるので、入院してもちゃんと退院できるという体験が大事です。疲れたら家族から離れて入院して、落ち着いたらさっと帰るというように入院の敷居を低くして、上手に病院を使えると良いでしょう。

【外来治療は正直な情報が大事】
 
退院するとどうしても服薬が不規則になる人がいます。その場合には、1か月や2週間に1度の注射をするデポ剤の利用もあります。デポ剤を使うようになって入院しなくなったという人は非常に多いです。
 デポ剤は「病識がないから強制的に注射を打つ」場合もありますが、これは上手く行くとは限りません。むしろ、どうしても飲み忘れが多く最後は「薬は飲まない」となってしまう場合や、服薬に煩わされない生活をしたい場合です。昼は働いて夜も友人と出かける日もあって人前での服薬をしたくないなど、日常の生活が充実しているからこそ、という場合も多いのです。 
 デポ剤は副作用が長く残るので、上記とは異なる薬を服薬している場合は、2週間くらい飲み薬を飲み、副作用や効果を確認してからデポ剤を注射してください。
 薬の処方は、本人と主治医の間で作っていくものです。入院している場合は24時間看護師が診ていますから患者の様子がよく分かるのですが、退院すると週1回の通院では、その間に副作用が出ているのか、どんな困ったことがあるのか、眠れているのかなどは自己報告によるわけです。診察室での質問や観察では限られますし、大事な社会性ではあるものの診察室ではしっかりした姿を見せる人がほとんどです。

【カウンセリングについて】 
 
統合失調症の治療は、薬とストレスマネジメントです。通常の診察での会話は、日常のストレスの部分をどのように少なくするのかというストレスマネジメントでもあり、「どんなことがありましたか」という話から、ちょっとしたアドバイスをしています。これもカウンセリングの1つなのです。
 「診察時間は短いのでカウンセリングを受けたい」と言われる場合もよくあります。カウンセリングとはゆったりとソファに座って、過去のことを思い出すままに溜まった思いや不安を吐き出して、何か晴れるようにスッキリする場所と思うかもしれませんが、そういう楽なものではありません。臨床心理士と40分とか話をしてカウンリングを受ける時の大原則の1つは、「心に余裕のできた時期にやる」ということです。
 むしろ日常生活のストレスをコントロールしていくために困っていることを相談して、「こうしたらよい」と話しあって、次までに実践してくる。漠然としたストレスをカウンセラーと一緒に整理するとか、会社でうまく相談できない場合はそれを練習しようなど、目的を持ってやると意味があります。考え方や振舞い方、ストレスへの対処法を実践して初めて有効なので、むしろ薬物療法よりも何倍も労力が要ります。ですから余裕がある時で、目的がはっきりしていないとカウンセリングは意味がありません。

【診察時の工夫を】
 私の外来の診察時間はふつう5、6分です。カウンセラーが40分なのは患者を絞っているからです。イギリスで体験したのは、診察に30分も40分も取りますが、3ヵ月に1回の診療システムでした。イギリスは、それ以外にコメディカルが沢山いるので単純に比較はできませんが、今の日本は、どこの病院にもいつでも行けますし、回数の制限もなく、病院や主治医を自由に選べる、また医療費がある程度安く抑えられているというメリットがある分、1人当たりの診察時間が短くなってしまいます。
 ではどうしたら良いのか。診察と診察の間を短くするなど医師も様々な工夫をしています。患者側は、元気な時と具合が悪くて話を聴いて欲しい時のメリハリをつける。「どうしても話を聞いて欲しいので、何日がいいですか」と事前に電話を入れ、空いた日を狙って予約をする。連休の翌々週などは比較的空いています。「今日は話をしたいので、順番は最後にしてください」と頼むのも良いでしょう。
 診察室だけですべて解決しようとしないのも大事です。相談する相手が主治医しかいないと診察を受けた時に、「あれもこれも聞こう」となってしまいますが、相談できるところを沢山持つのがコツです。
 病院の中にも、看護師、薬剤師、訪問看護師、デイケアスタッフ、相談室のPSW、地域には保健センター、福祉事務所、グループホーム、地域活動支援センター、家族会などもあります。また相談も医療と福祉分野など分けて、相談場所を活用して下さい。最後に、三大原則を。「気になることはなんでも言おう」「納得したら信じよう」「嘘は絶対にダメ」。
 どうしても主治医を信じられない場合は、セカンド・オピニオンという制度があるので遠慮なく使ってください。一般的なことはきちんと答えてくれると思います。
                                            ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 西日本を中心とする集中豪雨による死者が200人を超えたという。亡くなられた方々にご冥福を祈るが、考えてみると大変な数字である。雨による死者。日本の国の自然災害に改めで脅威を感じたニュースであった。

 山澤先生の講演は入院と通院の知識を徹底してまとめていただいた。冒頭、精神保健福祉法について説明があった。かつて、精神の患者さんの人権は無視されたような扱いを受けていた。それを救おうと制定されたものである。その法律で4つの入院形態があるという。小生は3つの形態であると思っていたが、「応急入院」という形態を説明してくれた。

 これは、本人が同意を取れる状態ではなく、同意者が見つからない場合、72時間に限って入院させることができるもので、72時間以内に他の入院形態に切り替える必要がある。

 要するに精神の病とは他の科目と違うのである。精神保健福祉法なる法律に則って治療、リハビリ、その他あらゆる治療が行われているということだ。

 しかし、患者の方はそんな知識など関係なしとして医療を見ている。そこがトラブルの原因なのだが、斯くいう小生もその知識には疎い。せめて家族である者だけでも学びたいのだが、時間がないというのが逃げ口上である。

 新宿フレンズでいまキャンペーンを張っている。「精神科特例を撤廃せよ」署名運動である。精神科医療で精神科医は他の科の医師の3分1、看護師は3分2で運営してよい。これで満足な精神の治療ができるというのか。精神科病院の保護室から患者の悲鳴が聞こえるようだ。気長にというわけではない。しかし確実なものとして結果を見たいものである。