家庭でできる精神障害のリハビリ

新宿フレンズ6月勉強会 講師  慶應義塾大学医学部 山澤涼子先生

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【ストレスを減らすことが治療になる】

  生きていると日々ストレスがかかります。人それぞれストレスに耐えられる限界(閾値・いきち)があり、ストレスに鈍感な人もいれば、繊細な方もいます。基本的に人間は、ストレスが自分の限界を超えないように日々何となく気をつけて生活をしているのです。

 脳の中でドーパミンが出すぎるという形で反応したのが統合失調症、セロトニンが出なくなるとうつ病とか、人それぞれの症状が出ます。精神疾患の様々な症状がでる原因は、ストレスが自分の閾値を越えたことで脳の中で化学物質のバランスが崩れてしまうということで、治療法としては、まずは脳の化学物質バランスを整えるお薬、例えばリスパダールというお薬でドーパミンを抑えましょう、という話になります。

【服薬しないと高い再発率】

 退院したときから一年間薬をのまずにプラセボ(偽薬、小麦粉でもビタミン剤でも)を服用した場合、一年後の再発率は約70%です。「薬物のみ」つまり退院してから一年間きちんと服薬した場合の再発率は約30~40%くらいです。
 先輩の医師は「だから薬はきちんとのまなくてはいけない」と教える。残念ながらプラセボ(疑薬)、つまり服薬しない場合は、もっと再発率が上がり、最終的には徐々に100%に近づいて増えていきます。 
 また、薬物療法に加えて適切なリハビリテーションを行った場合、服薬だけに比べて、有意に再発率が下がるとされています。

【精神科特有のリハビリとは】

 ここで注目したいのは「障害」という言葉です。障害はあるけれども、その人の持っている能力を最高のレベルまで達するように、あらゆる手段を使って訓練することがリハビリテーションだとすると、障害についてきちんと理解しなければなりません。
 ただ、精神障害はちょっと違います。障害と呼ばれるものには三種類あり、一つ目が「病気の後にくる障害」、つまり火事と焼け跡です。病気そのものは治っていて治療の必要はないけれども、障害が固定したということです。二番目は「生来性の障害」、生まれつきもっている障害のことです。三番目は「長期間にわたり疾患が共存する障害」、精神障害はこれにあたります。

【精神科リハビリテーションの原則】

1.網羅的かつ統合されたアプローチ、これは疾病管理、日常生活のリハビリ、対人関係、社会性、いろんな面からの統合されたリハビリをしなければならないということです。

2.当事者参加の原則、これは精神科ではかなり大事なことです。例えば足の麻痺のある方は、リハビリの先生がベッドサイドに来て、患者は寝たきりでも先生が足の曲げ伸ばしをやってくれればリハビリはスタートしますが、精神科のリハビリは、本人が参加をしないと始まりません。

3.主体性回復の視点、これも同じようなことで、本人の参加の意思が必要です。

4.個別性の重視、右半身に麻痺が残った方のリハビリテーションはやり方がある程度決まっていますが、精神科リハビリテーションは症状や障害の出方にも差があるので、個別に対応をしなければなりません。

5.生活環境への適応の重視、生活することそのものがリハビリなので、生活抜きには語れません。

6.疾患の管理すなわち再発予防であり、両方の視点がリハビリには大事です。

【本人の意思を大切に アクティブリスニング】

 生活リズムはできているけれども人との関係が苦手、人あたりはいいけれども自分の体の調子には無頓着など、いろいろです。まずは目標の設定が大事で、一度にたくさんやろうと思うと本人には負担になりますし、ご家族の方もいらいらしてしまうので、ひとつずつ解決していきます。

 その時に、主体性を重視することが大事です。つまり「本人がどうしたいのか」を聞いていただきたいのです。そこで大事なのが、積極的傾聴(アクティブリスニング)です。一番もったいないと思うご家族の関係は、互いに互いを思いやって一生懸命相手にとってこれがいいだろうなと考えて行動しているのに、相手の思いは別の所にあって、一生懸命考えてしたはずのことが、かえって逆効果になるというパターンです。「家族だからこうしてくれるはず」という無言の期待が裏切られることもよくあります。

【活動レベル低下に理解を】

1.薬の影響 精神科の薬は眠気やだるさが出てきます。だからといってやめればいいわけではなくて必要な薬なのですが、例えば朝のんで眠くなるのなら夜にのめないか、という工夫が可能な場合があります。もしお薬のせいでだるいのではないかと思ったら、まず主治医にご相談ください。

2.急性期のあとの消耗期 特に退院した直後は、家でゴロゴロしていることがあると思います。一見わかりにくいのですが、具合が悪くて入院したときは、非常に心や身体のエネルギーを消耗しています。例えば高熱が出て、ある日平熱に下がったからといって、すぐにいつも通りテキパキはできませんね。そういう時期が精神疾患にもあり、それが月単位で続くといわれています。退院直後にゴロゴロしているのは、具合が悪いときに消耗してしまったエネルギーを蓄えるために必要な時期ということも実際にあります。その辺がご心配であれば主治医にごろごろしているのを無理に起こしていいものか、休ませた方がいいのかというのをお聞きいただければと思います。

3.陰性症状(意欲低下)、

4.抑うつ気分は、ともに症状として元気が出ないということです。意欲が出にくくなったり、物事に対して生き生きと取り組めなくなることが、残念ながら症状として出ることがあります。その上、気分の落ち込みが症状と併せて出てしまうこともあります。

5.落ち着かない、集中ができないという症状が出る方もいらっしゃいます。やりたいけれど集中できない、やりたいけど取り組めない、そういうことがないかを医者と一緒にアセスメントできたらいいのではないかと思います。

【リハビリは小さな目標から】

 こういう症状がありながらリハビリをするのは、本人にとっては非常に大変で、意欲や元気が出ないのに頑張ろうと思うのはとても苦しいことです。大変なことを頑張るにはご褒美がないと頑張れないと思うのですね。私たちもつらい仕事をするのはお給料がもらえたり誰かから感謝されたり、その後に楽しいことが待ってたりするからで、いい事がないとなかなか頑張れません。
 ですから、目標をきちんと立てて、得られるご褒美があって、つらいことをしたあとの楽しいことがないと、リハビリしようという気持ちにはなかなかなれないと思います。

【リハビリに役立つツール】

 『精神科リハビリテーションワークブック』は私たち医者も時々見返して参考にしている本です。この中から例として「上手な頼み方」「感謝の気持ちの伝え方」を見てください。家族には何でもしてもらうのが当たり前で、「洗濯機しておいて」と頼みっぱなしのこともあるでしょう。これを、「今日は忙しいから洗濯してくれると助かるな」と言うとちょっと受け取る側の気持ちが違います。家族や本人の気持ちを言語化することでストレスをためないことは、ストレスマネージメントの側面もあり、対人関係が苦手な患者様の練習にもなるという点で有益です。家の中で心がければ立派なリハビリテーションになり、外でも上手く気持ちが伝えられるようになると思います。

【日常生活がリハビリテーションになる】

 よくSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)に参加されている方もあるかと思います。例えば薬が強くて眠くて仕方がない、でも主治医にいえないという話があったら、「じゃあ、私が主治医だと思って練習してみよう!」というのも立派なSSTです。するとスムーズにいえるようになることもあると思います。ちょっとした場面練習を苦手な方に対してすることはお家で十分にできることです。

 デイケアに参加される方もあるでしょう。「今日デイケアで何やってきたの」と聞くと、絵を描いた、ボーリングに行った、料理をした、というような答えが返ってくると、いったい何のリハビリ?と思われることもあるかもしれません。例えば絵を描くのでも集中して考えるし、ある一定の時間そこにいて、隣の人の作業に迷惑にならないように活動しています。そういうちょっとしたこともリハビリです。みんなでボーリングに行くのも、一緒にいる人たちと気持ちよく出来たということがリハビリです。家での生活そのもの、買い物に行くこともリハビリです。

 “リハビリテーション”と肩肘を張るよりは、日常の一つ一つがリハビリと思ってやっていただけるといいと思います。どうぞ当人の気持ちを良く聞いて、小さな目標の設定と達成感を大事にして乗り越えていっていただきたいと願っています。(以上)

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

編集後記

合併号のため、今月は5月号(前月号)をお読み下さい。