抗精神病薬の量とタイプを考える

6月 新宿フレンズ講演会 講師 慶應義塾大学医学部 精神神経科 山澤涼子先生

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【向精神薬と抗精神病薬】

 向精神薬は精神に作用する薬すべてを指し、抗精神病薬、抗うつ薬、抗躁薬、抗不安薬、抗けいれん薬、気分安定薬、睡眠薬、抗パーキンソン薬、抗酒薬、認知症治療薬などがあり、脳の中のさまざまな部位に作用します。脳の中の神経伝達物質という情報をやり取りするための化学物質を増やしたり減らしたりします。いずれも医師の処方が必要です。

 その中の抗精神病薬は、ドーパミンという神経伝達物質のD2受容体をブロックするものです。この化学物質は意欲を出したり元気を出したりする作用を持って脳の中で働いていて、当然必要な物質ですが、ドーパミンが脳の中で過剰になると幻覚・妄想が出るのではといわれています。放出を抑えることは今の薬ではできないので、出てしまったものの情報が伝わらないように、伝わる先(受容体)をブロックするのが抗精神病薬です。

【定型抗精神病薬】

 定型抗精神病薬にはいろいろありますが、中でもよく使用されるのは、フェノチアジン系、ブチロフェノン系です。
 フェノチアジン系には、クロルプロマジン(市販薬名コントミン、ウインタミン)や、レボメプロマジン(レボトミン、ヒルナミン)といわれるタイプの薬があります。これらは低力価といわれ、1mgあたりの力が弱く、1回に25や50mg、場合によっては100とか200mgという単位で使うことで効果が得られます。特徴として、幻覚・妄想を抑える力は比較的弱く、鎮静作用が強いため眠くなるので、ごく少量を睡眠薬代わりに使用することもあります。

ブチロフェノン系の薬は、逆に高力価と呼ばれていて、有名なのはハロペリドール(セレネース)で、昔から良く使われてきた薬です。セレネースは、5mgとか10mgという少ない量で使います。この薬の特徴は、幻覚・妄想を抑える力が強く、鎮静作用は比較的弱いことです。

【非定型抗精神病薬】

 非定型抗精神病薬は、ドーパミン以外の、特にセロトニンの受容体にもくっつくことで、副作用を少なくする工夫がなされた薬です。最初に出た非定型抗精神病薬は、SDAといわれるリスペリドン(リスパダール)で、その後ペロスピロン(ルーラン)に加え、先日ブロナンセリン(ロナセン)が発売されました。
 これらは定型薬のセレネースなどに比べると、ドーパミンを抑えすぎた結果出現する錐体外路症状という、いわゆるパーキンソン症状といわれる副作用が出にくくなっています。つまり手が震えたり、身体が硬くなって歩きづらかったりという症状が、定型抗精神病薬に比べて出にくいのです。

【CP換算とは】

 薬はそれぞれ用量が違うので単純に比較できません。それを換算して比較できるようにしたのがCP換算(クロルプロマジン換算)です。つまりその薬の強さがクロルプロマジン100mgに対して何mgでほぼ同じかを表した値です。例えばコントミン(クロルプロマジン) 100mgとリスパダール1mgはほぼ同等の力価です。
 CP換算はあくまで目安ですが、リスパダールで問題が出てジプレキサに変えようというときには、力価が同じになるようにCP換算で計算をして切り替えます。

【薬を切り替えるとき】

 ある薬を試して別の薬に切り替える理由は、ひとつには効果が不十分なときです。薬は基本的に、はじめは少量で、副作用など大きな問題がないことを確認しながら増やして、症状を抑えるのにちょうどいい量を探していきます。
 のみ始めてから、あるいは薬を増やしてから効果が出るには、週の単位の時間が必要で、飲んですぐに効くわけではありません。頭痛薬のように飲んで30分後に治るのであれば、効果判定が簡単なのですが、精神科の薬は1~2週間は見ないと効果・副作用の判断は難しいですし、本当は1~2週間でも不十分です。

【薬を併用するとき】

 薬は、基本的には単剤投与が好ましいのです。1剤のほうが副作用のリスクが減るし、薬の効果も見えやすい。ことに同じ効果の薬でいろいろの種類を使っていると、どの薬の効果でよくなったのかが分かりにくい、もしくは副作用が出たときに、どの薬のために出たのかが判断しにくくなります。また当然、のむ薬の種類が少なければ、身体への負担も少なくなります。その面で多剤多量の処方はできるだけ避けたいものです。

【薬の投与回数】

 薬の使用説明書を見ると、1日何回と書いてあります。例えばリスパダールなら1日1回という場合もあります。薬をのむと血液中の薬の濃度が上がって、その後時間をかけて下がっていくのですが、その下がる速度によって1日に飲む回数が決まります。薬をのんで血中濃度の下がる時間が短い薬の場合には1日に何回かに分けて飲むことになりますし、長い薬は1日1回でも大丈夫です。

【入院治療・通院治療と薬の量】

 薬の量は、症状が激しいときと落ち着いているときでは全く違います。一般的に向精神薬を出すときには、ごく少量からはじめて様子を見、副作用や飲み心地を確認しながら、症状が抑えられるように徐々に増やしていきます。
 しかし入院をしなければならないほどの激しい急性期には、当人と周りの人の安全確保や、なるべく早く症状を抑えてご本人をストレスフルな状況から開放することが先になります。ですから、まず量を多く投与して、しっかり症状を抑えて、落ち着いてから徐々に薬を減らしていくという方法をとらざるを得ない場合があります。

【個人差が大きい薬の効果や副作用】

 薬の効果は、各自かなり違うと思います。「試してみないと分かりません」と主治医に言われてがっかりした経験があるかもしれませんが、これは人間の身体の不思議で、まったく同じ体格、年齢、症状に対して同じ薬を同じ量で出しても、同じ効果が得られるわけではありません。一見症状がものすごく激しくても少量の薬で効いてしまう方もいれば、症状がそんなにひどくなくても薬をかなり使わないと落ち着かない人もいます。

【共に作っていく処方】

 良い処方というのは、患者・家族・医師のみんなで作っていくものです。昔は医師から出された薬はのむものだという考え方でしたが、今はインターネットで山ほど薬の情報が流れていますし、それで勉強をすることもできます。それは医師としても非常にありがたいことです。これは副作用ではないかとか、飲むことでこういう風に変わったとか医師に話して、一緒に良い処方を作っていくことができるといいと思います。そのためには疑問に思うことや困っていることは遠慮しないで聞くことが大切です。

まず第1に、気になることや疑問に思うことは何でも言ってください。薬をのむのは患者さんなので、その結果を伝えないと医師にわからない面があります。また、副作用ではないかと思っていることが症状という場合もあるので、お互いの意識がずれているとよい処方は作れません。

2つ目は、ご家族からの意見は非常に大切であるということです。医師は診察時間しか会えないので、その間に患者さんから得られる情報は限界があります。ご家族は非常に大事な情報源で、ご家族から気になる点、良くなった点、悪くなった点などの情報を、ぜひ医師に伝えてください。
 医師に内緒で薬を抜くことが起こってきます。これが最も良くないパターンで、具合が悪くなったときに、医師は薬を抜いていたとは知らないので「これだけの量を飲んでいても治らないのだから大変だ」と薬を増やします。それまでは間引いて飲んでいたので、具合が悪くなって慌てて一生懸命のみ始めるとどっと副作用が出るということも起こります。お互いに隠し事をするとつらいことが起こる。だから何でも話して、解決したら信頼して服薬を続けてください。

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 梅雨の真っただ中。重たい雲が私たちの頭に覆いかぶさる。加えてテレビ、新聞のニュースは暗い。産地偽装、居酒屋タクシー。教員採用汚職賄賂事件。ますます広がる格差社会等々。いつ梅雨は明けるのか。

 今月の講演記録は今年二回目の山澤先生だ。いつも新宿フレンズ専用のPowerPointを作成してくれて、わかりやすい説明は好評だ。

 インターネットの普及等でお母さん方の薬に対する知識は相当なものである。質疑応答では医師顔負けの意見を発言する方も少なくない。かつての医師任せの時代から考えれば素晴らしい変化である。

 が、しかし、それが災いとなる場合もあるような気がする。参考書やインターネットだけの知識で家族が減薬したり、停止するのは危険であると山澤先生は警告している。

 良い処方とは、患者・家族・医師のみんなで作っていくもの、と先生は述べている。これはわかっているようで現実は意外に忘れられている。私の個人的体験として、息子が服薬を停止したことがあった。副作用がなくなり、息子はすっきりして完治を思わせた。しかし、それから1週間後事件が発生した。

 大事なことは患者さんの服薬後の変化をしっかり医師に伝えることで、そこに三位一体の協働作業が成り立つ。薬に疑問があれば医師に相談する。医師はそれに丁寧に答える。患者は納得し、信じて服薬をする。この単純な「輪」こそ精神医療の鍵ではないだろうか。今号のテーマは「薬」の学習であったが、私の個人的な学習ではこの三位一体の治療体系を学ぶことであったと合点した。