統合失調症と似た病気・パーソナリティ障害など

新宿区後援・新宿フレンズ6月講演会 講師 慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 白波瀬丈一郎先生

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【パーソナリティ障害とは】

 パーソナリティ障害については学生の時「よく分からない障害だな」と思っていました。それはパーソナリティつまり「人格とは何か」が分かってなかったのですね。
 「人格とは何か」を答えるのは難しいことですが、分かりやすく「眼鏡」に喩えてみます。この眼鏡とは「ものの見方」なので、簡単にかけたり外したりはできません。

 各自のかけている眼鏡には、その人らしい歪みやカラーが必ずある。そして外せない眼鏡なので、いつも同じ歪みのある見え方をしています。それを自分では「正しく見えている」と思うのです。
 しかし横から見れば、「あんな見方をするなんて、いかにもあの人らしいよね」といった言動をいつもしているわけで、それがパーソナリティの一端を現しているのです。そして、歪みのある眼鏡で見えたものに反応して行動するので、「あの人らしい行動」になるわけです。

 「あの人らしい行動」が、その人が存在している社会で許容される行動ならば「個性」になり、社会で許容されない行動である場合は、いろんなところで支障を来たしてしまうので「障害」になるわけです。

【色々なパーソナリティ障害】

 パーソナリティ障害は、大きく3つに分けられます。
 まずA 群は、妄想性、統合失調質、統合失調型パーソナリティ障害を含んでおり、これらの障害をもつ人は非現実的な考えに囚われやすく、奇妙で風変わりに見えることが多いです。

 B群は境界性、自己愛性、反社会性、演技性パーソナリティ障害が含まれています。情緒豊かというか感情的で、気持ちが揺れ動き易く、周囲を振り回し、巻き込むという特徴があります。

 C群パーソナリティ障害は不安を特徴として、回避性、依存性、強迫性パーソナリティ障害があります。

・妄想性パーソナリティ障害

 他者の行動や言葉を悪意のあるものと解釈するといった広範囲な不信と疑い深さが、成人期早期までに始まります。
 「他人が自分を利用する」、「危害を加える」「情報が自分に不利に利用される」などと解釈して、他人に恨みを抱き続けるというのが一つのパターンです。そして、AさんともBさんとも、誰に対しても同じパターンを繰り返してしまいます。

・統合失調質パーソナリティ障害

 対人関係で感情を表すことがないために、社会から孤立しがちです。家族も含めて親密な関係を必要とせず、冷たくよそよそしい態度を取って、人との距離を置いてしまいます。青春期早期までに始まります。

・統台失調型パーソナリティ障害

 親密な関係を形成する能力が足りないために、そういった状況になると急に気楽でいられなくなります。また社会的にも対人関係でも、物事の認知や知覚を歪曲してしまうため、行動の奇妙さが目立ってしまいます。

・境界性パーソナリティ障害

極端で柔軟性のない「歪み」を持っているため、毎回、何事もワンパターンに見えてしまいます。例えば、「人は絶対に私を見捨てる」と見てしまう。

「どうせあなたは私を見捨てるんでしょう」という態度をとれば周りはうんざりするので、結局、嫌われ見捨てられることになる。すると「やっぱり…」となる。
 結果として、ただの自分の歪んだ思いでしかなかった「人は絶対に私を見捨てる」が現実になってしまい、その体験を取り込んで、さらにどんどん歪みを強化してしまう。見捨てられ状況の再現と反復体験により、歪んだ「準拠枠」は強化されるという悪循環に陥っているのです。

【パーソナリティ障害は治らない?】

 パーソナリティ障害は、人格だから変らないのではないかと思われがちです。

 発症要因と考えられている一部の遺伝子や脳の機能など持って生まれたものは、残念ながら現代医療ではどうにも変えられません。しかし、その後の不適切な育てられ方や友人関係などにおいて、例えば不幸な体験が99で、良い体験を1しかして来なかった場合、幸せな体験が50になれば何か変わるかもしれません。

【境界性パーソナリティ障害の精神療法】

 治療に特効薬はありませんが、薬物療法の他に精神療法が試みられています。患者にこれは良いのではと思われる治療法を提供して、それらをできるだけ組み合わせ、患者が変わっていくのを手助けしていきます。『境界性パーソナリティ障害の精神療法』(R.J.ウォールディンガー/J.G.ガンダーソン)をもとに話します。 

(1)治療の安定した枠組をつくり、構造化して緊急事態に柔軟に対応できるようにする。患者さんが「困った」といったらすぐに対応するのも良くなくて、「週に一度、決まった時間に受診しましょう」と対応する方がいい。

(2)パーソナリティ障害には、治療者側が積極的に関わっていく方が良い、献身的で熱心な医者が良いとされていた時代もありました。中心になる医師が積極的に対応して患者と濃密な関係を展開していく治療法も効果はあるのですが、あまりに効率がよくないと言えます。

むしろいろんな人たちとチームを組んで、各自が少しずつ治療に関わっていくのが主流になってきました。

(3)研修医との関係で話しましたが、患者の好意は、少しのことで憎悪に変わります。治療者であっても、ふてくされた態度や攻撃には腹が立ちますから、患者がわざと嫌がらせをしているとか、振り回して喜んでいるとか思ってしまう可能性があります。

治療者は患者の憎悪を覚悟し、耐える力をつけることも必要です。

(4)患者の現在の行勧と感情を結びつけて理解させます。必ず派手な行動をしてきて、周りを呆れさせますが、本人は良く分かってないことが多いのです。

(5)自己破壊行動が、自分に満足をもたらすものではないことを自覚させます。「〇〇しないと自殺する」と脅したとき、周りが言いなりになるのは拙い対応です。

「死ぬ」といわれた時は、それを止めながら、できるだけ行動を観察します。「言うことを聞かなかったから」と自傷行動をすることもあるため、話にならなくて無条件に助けなくてはならない局面もありますが、いま止めれば次回はどうするだろうかを考えながら対応しなくてはなりません。

(6)自殺で脅すという行動に出ることに留意して、阻止しなくてはなりません。自己破壊行動が満足をもたらすものではないことを示します。

(7)患者と医師とは治療関係でしかないことを明確にします。関係は外来の「今、ここで」に限ることです。

(8)患者は好意から憎悪への逆転移感情をもつことに、治療者は常に留意しなくてはなりません。

【成功体験を通して物の見方を変える】

 私の治療目標は、ワンパターンではないものの見方ができればいい、眼鏡の歪みが少し変わって「人は絶対に裏切ると思っていたけれど、そうじゃないこともあるのかな」と、今までと違う物の見方を獲得できればいいと思っています。

 それには成功体験をしてもらうことが必要です。「どうせ裏切られる」というワンパターンに陥らない場面を作り、患者の感情と行動、つまりどんな気持ちで、その行動をしたのかを結びつけて考えさせ、なぜ違ったのかを指摘して考えさせます。

 患者家族を含めた「共同治療者」のチームを作り、健康な対人関係の提供者を増やして、患者の健康的な部分を掘り起こすようにします。

【「限界設定」をする】

 もう一つ治療者として大事なことは、必ず、意図を話すことです。例えば、自殺行為をするので閉鎖病棟に入院という状況になった時は、「あなたの状態はこうだから入院させる。その問題を自分で解決できるようになったら、また僕が通院治療で診るからね」と説明します。

 つまり、「どういうことをしたら入院しなければならないか」という限界を示して理解させるのです。また、退院時には、「治療を継続したいが、あなたの協力なしには無理だよ」と、「協力しなければならない」という限界を設定して説明します。

【入院治療の内容】

 疾患に関わらず、入院は、通院への移行的なものであるという「文化」を創るために、一回の入院期間は原則28日間以下にしています。入院治療の場合、看護師さんは、患者を良くして退院させなくてはいけないと思っていますが、一定期間の治療が終わったら退院なので、良くなる患者も、良くならない患者もいるわけです。
 1年、2年と入院させても変らないのなら、別の対応を考える方が良いでしょう。医師のできることは限界がありますから、献身的な思いでやっていると、やがて疲れてきます。一定期間を設けておかないと、良くなりそうな患者しか入院させなくなってしまって、手控えることが起きてしまうかもしれません。
 手控えるよりは、期間を決めて入院させ、看護師さんも気軽に引き受けて、できることを出し惜しみせずにいろいろやった方がいい。入院の期限を設けるのは、無理をせずにやれる仕組みと思っています。

 私は精神科医になって25年目ですが、省みれば20年ぐらい前までは、境界性の難しい患者さんを長期間入院させて無理をしていました。それでも退院した患者は「退院させられた」と思うし、スタッフは「やっと退院してくれた」と思うような悲惨な状態でした。
 それで、最近はできることを少しずつと入院目標を小さくし、入院治療をできるだけ小さい位置づけにしたのです。1ヵ月間と区切ったことで、看護師さんが「また来ていいよ」と言えるようになり、次も入院できるという関係になりました。

 「金輪際、来ないで」ではなく、「またね」と言われる体験は大きいのですね。健康的な関係ですから。治療目標は小さくして、できることはできるだけやるが、決して無理はしないという治療方針に変えて、良くなっていく患者さんが増えたと思っています。
 境界性の患者さんは白か黒かしかないですから、ホームランばかり狙って空振り三振ばかりしています。「ヒットもあるんだよ」と気付かせて、ヒットを打とうという努力を認め、少しでも成功体験を積み重ねて、良い人間関係を築いていけるようにしたいと思っています。

                    -以上-

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 外はうっとうしい梅雨の雨。しかし、選挙立候補者はそんな雨など物ともせず、口角泡を飛ばして自らの主張を叫んでいる。
 そんな6月の講演会。何んと70名という参加者であった。

 確かに「パーソナリティー障害(人格障害)」についての情報は少なかった。そんな時に白波瀬先生から貴重なお話を伺った。
 様々な言葉が出てきたが、その一つ「準拠枠」。特に医学用語ではないかも知れないが、「人は絶対自分を見捨てる」といった誤った観念を持ち、そのことで他人から見捨てられることを経験してしまう。それが彼の「準拠」・つまり、よりどころになってしまうことだ。
 人は何事においても。それぞれ「準拠」すべき標準を持っている。それが歪んでいる場合、障害となり、繰り返されて深みに入ってしまう。

 もうひとつ、「限界設定」という言葉は初めてだった。しかし、これは統合失調症の場合にも通用するような言葉である。
 限界とは言い方を変えれば「理由設定」とも取れよう。「どういうことをしたら入院しなければならないか」。ある種、協力内容の説明である。
 しかし、統合失調症の場合でも、急性期にある時はこの辺の理解が得られない。ただパーソナリティー障害とのわずかな違いは、統失の場合、症状の回復に合わせてこれらの点が理解され、「ふてくされ」にならないことではないだろうか。いずれにしても介護する立場の親たちを悩ますのは、このような時の言葉掛けの問題だと思うのは私だけか。