リスパダールのコンスタ(持効性注射剤)について

新宿フレンズ 7月定例会 講演会
講師 磯ヶ谷病院院長 根本 豊實先生

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【最近の統合失調症の捉え方】

 最近出てきた統合失調症の考え方に「臨界期(Critical Period)仮説」があります。この仮説は、発病から5年以内が大事な時期で、ここで悪化させてはいけない。ことに発症から2~5年の進行期に何回再発するかが重大です。

 そして非常に厳しい話ですが、この間に2、3、4回と再発すると、社会的活動が出来ない人が80%といわれます。つまり勝負は、この発症後2~5年の治療だというものです。

 発病前の前駆期も、何らかの兆候があります。1990年代に行われたニュージーランドでの11歳の児童への調査では、「軽い幻聴体験」などのアンケートで10%陽性の子は、その後の統合失調症発病率は、陰性だった子どもの16倍にもなります。

【未治療期間(DUP)をなくそう】

 ハッキリと発病しているのに治療につながっていない期間を未治療期間(Duration of Untreated Psychosis:DUP)と言います。最近の研究では、統合失調症のDUPは平均約6ヵ月。当たり前の話ですが、この期間が長い人ほど治りにくく、短かければ短いほど治りやすいのです。一番問題なのは、放置が長いと脳に不可逆的ダメージを受けてしまうことです。

 現在、医療ではDUPを短縮化する努力をしています。発病第1回目のエピソード(episode:繰り返す症状の出現)は、2~3ヵ月で治り易く、治療すれば4人に1人は治ってしまうとも言われています。しかし60%が服薬拒否などで治療から脱落してしまい、再発に繋がります。

 そして2回、3回と再発を繰り返すと脳にダメージを受けてしまい、治りにくくなります。残念な事に2年目では再発率が53.7%、つまり半分以上再発し、5年までには何と81.9%が再発しているという調査もあります。

【患者は薬を飲んでいるか?】

 患者の服薬状況を調べたデータでは、約45%が薬を余らせており、飲まない場合がある人が半分近くいることになります。またどのくらい薬を余らせているかは、25%以上が約半数、全く飲まない人も8.7%もいて、医師は通院していれば薬を飲んでいると思っていますが、予想以上にちゃんと飲んでいない人が多いものです。

◆さて、ここで日本における薬の歴史をさらっておきましょう。

1950年代に、第1世代抗精神病薬、クロルプロマジン、ハロペリドール等が登場します。

1970年代に、最初のデポ剤(注射薬)エナント酸フルフェナジン(商品名アナテンゾール)が出ます。

1987年にも注射薬、デカン酸ハロペリドール(商品名ハロマンス/ネオペリドール。経口薬でいえばセレネースやリントンに近い)が販売されます。

1993年には、デカン酸フルフェナジン(商品名フルデカシン。経口薬フルメジン)が出ます。この2つは油性です。

1996年、第2世代抗精神病薬リスペリドン(商品名リスパダール)の登場。これ以後、第2世代抗精神病薬が続々開発されます。 

2009年、第2世代抗精神病薬リスペリドン持効性注射剤(商品名リスパダール・コンスタ)の登場となります。

 第2世代抗精神薬(SGA)は、飲みやすいとされてきました。副作用が少ないから患者の服薬コンプライアンス(遵守)が上がるのではないか、という理由です。しかし結果は、第1世代抗精神病薬FGAとあまり変らなかったのです。

【デポ剤使用の実際】

 治療継続率については有名なデータがあります。1カ月目は経口剤もデポ剤も90%と変わりません。その後ともに下がりますが、デポ剤の場合は、ほぼ半年以降の継続率は65%から下がらなくなります。経口剤は、どんどん下がって2年目には40%を切ってしまうというものです。

◆なぜ日本ではデポが使われないか?いくつか理由があります。

1)医学教育をする医師にデポ剤の経験が少なく、したがって若い医師にも経験がない。70年代のフルフェナジン、アナテンゾールは血中濃度が3~4日と不安定で、しかも急性期に暴れる患者に対して使われることが多く、副作用が出るという不適切な使用がされてきた。

デポ剤は体内に一定の時期あるので、副作用が出ると一定の時期出てしまう。このため使う事をためらう医師が増えたと言える。しかし経験から言うと、経口薬以上に副作用があることは無い。

2)一般的に患者は注射を嫌がる。嫌がるものはしたくないと思い込まれている医師が多い。しかし、プロとして適切に効果を説明して適切に説得をすれば、予想以上に受けいれられるという経験を私は積んできた。

3)精神科の病気は、5~10年は診ていかないと分からない事があるのに、長期的に診る医師が少ないという現状。つまり短期のアドヒアランスの改善が中心になってしまうが、短期では服薬をきちんとしていても、長期的に見れば再発しないわけでないことが看過されている。

4)再発防止率の有用性は明らかだが、第2世代抗精神病薬が売り出されたときに、当時は第1世代しかなかった注射薬が置き去りにされて、有用性が忘れられた。

経口剤とデポの両方を経験した人の72%はデポが良いというアメリカのデータもあります。その理由として、飲み薬が少なくなることと、副作用が減る事が示されています。

【従来型デポ剤とコンスタの違い】

 ハロペリドールは第1日から効きますが、リスパダール・コンスタは、3~4週間たたないと効果が現れません。それまで経口服薬を続けます。

 経口剤は血液中の活性成分濃度が毎日大きな上下を繰り返すのに較べ、注射剤は血中濃度の波幅が小さく、血中濃度が安定するのが特徴です。

【コンスタの使用経験】

 さて、私の病院では、現在32名がリスパダール・コンスタを使用しています。外来16名、入院→外来11名 入院5名。少なくとも発症から5年以上の、比較的長い経過の人が多く、そのうち他のデポ剤からの変更が4名、後は経口薬からの切り替えです。

 そのうちの2例、経口から切り替えた人と、フルデカシンから切り替えた人がやや悪化しましたが、共にコンスタの使用は続けて、経口剤を増やすことで乗り切りました。

 中止は2名で、躁になったためです。また幻聴も継続していて変化が見られませんでした。他の28名は抗精神病薬の減薬ができ、そのうちコンスタのみになった人が11名います。経口でリス単剤だった9名のうち経口剤がなくなったものは5名です。

 そして6ヵ月後に、本人の使用感を聞いた結果は、ほぼ60%が満足しており、効き目を実感している人もほぼ60%強いました。この時点では、不満足が1名いましたが、いまは満足に変化しています。また、機能の全体的評価(GAF)を付けた結果は、7割くらいが改善しており、他の服薬を長く続けたあと、コンスタへの切り替えの結果は評価できるということです。

新しいデポ剤の導入に対し、再考すべき点

1)受け入れられないという思い込みから抜け出す。丁寧な説明の必要性があることを医師は再認識したい。これは、疾患教育の絶好のチャンスである。

2)過度の楽観的なアドヒアランス予測を排する。短期的にはアドヒアランスが良好でも再発することが多いので、長期的経過への視点を忘れないことが重要である。

3)デポ剤への恐怖を克服する。急性期に使用されていたという歴史を点検して、正しい使い方を話すことと、デポ剤には経口薬に較べて副作用が多いということはないことを知らせる。

4)どの段階でデポ剤を導入するのがよいか。日本では3,4回の再発からデポ剤を導入といわれるが、服薬拒否などのケースによっては、初回からデポ剤が必要なケースも少なくない。これによって、初発から2~5年の臨界期の時期を切り抜けることができる。

5)単純な処方の大切さを考える。複雑な処方ではどの薬に効果があるか、分からなくなる場合もある。デポ剤の使用で、単剤化の可能性が高まる可能性があり、多剤併用の悪影響から抜け出すことができる。

 デポ剤を上手く導入する事で、安定期を維持することや、薬の調節や服薬遵守を巡って「ちゃんと飲んでいるの?」というやり取りは必要なくなります。量が明らかなので、結果も医師に良く分かるようになります。

 また、再発した場合、経口薬は果たして処方通り服薬していたのか、勝手な減量や飲んでいなくての再発かは医師には分かりにくいことが多いものですが、デポ剤は分かります。つまり、非自発的・強制的治療の対極にあるのが本来のデポ剤治療の目指すものです。
                                     =了=
(質疑応答は省略しました)

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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編集後記

 確かに今年の暑さは異常かも知れない。梅雨の明けも早かった。そして、毎年7月の終わりの一週間が晴れの連続のはずが、今年は前の一週間にずれた感じだ。あれもこれもおかしな気象が続いている。

 そんな中で開かれた7月の講演会では根本先生からリスパダール・コンスタから1年のお話を伺った。我々これだけ学習すれば大体のことは学んでいると思っていたが、先生のお話から、多くのことを改めて学ばせていただいた。

 まず、講演の冒頭、「臨界期仮説」から最初の5年が大事であること。この間に2~4回の再発は社会活動が難しくなるという。

 私の息子の場合、明らかな再発は3回。いまハローワークへ行ったり、区のジョブコーチらと就活に明け暮れている。

 次に「未治療期間」。この期間が長い人ほど治りにくく、短かければ短いほど治りやすいという。親のしくじりとして息子の発症を知ったのが息子が事件を起こし、医療保護で入院を決めた時であった。いま思い起してみれば、あの時、あの時も、と息子は信号を発していたのだった。

 「なぜ日本ではデポが使われないか?」についても先生は説明してくれている。ここでも息子の例で吐露すれば、3回目の再発のあと息子の主治医は約3年くらいだったろうか、デポ剤を続けてくれた。先生のお話を聞きながら、私もいい主治医にめぐり合ったなと思った。以来、息子は再発による再入院は行っていない。このまま回復への道を歩んで行って欲しいが、あとは親の勉学如何か。