社会資源を上手に利用するには

新宿区後援・新宿フレンズ11月講演会
講師 新宿区福祉部障害者福祉課相談支援課 恵原能理子保健師
                                          古沢 ゆう子保健師

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【障害者福祉の概要】 恵原能理子

 私は病院で看護師をした後、新宿区に保健師として勤続30年です。

 30年前は地域の精神保健活動がようやく動き出した頃で、精神障害者の作業所開設にあたり、地価が高く物件探しに苦労していた時代です。埼京線が開通したころに新宿区に作業所が続々できました。

 その中でかがやき会の池田会館は、医療職が中心になり、私財を提供してできた地域支援センター的なところで福祉ホームいう形のアパートやショートステイの施設もあり、初期の施設の中では大きな施設でした。その前後、家族会や支援者による作業所ができ、現在に至っていますが、今ではグループホームや就労支援センターまでの支援の輪が広がっています。

 さて、日本の地域精神保健福祉の中の今後の課題とし、昨年国に対して提言された「早期支援と家族支援」の根幹である

1)早期介入(社会教育と早期治療)

2)当事者の支援(治療中断を防ぎ、その人に合った支援の拡充)

3)家族支援

が出され、早期発見、早期介入、家族支援に力が入ってきました。

 2025年は、団塊世代の高齢がピークで社会保障制度の危機といわれています。

 障害者自立支援を今のままで維持できるのか、完全福祉国家でない日本は、セーフティネットは生活保護ということになっていますが、福祉制度を税金で乗り切れるのか危惧されています。

 先進国では精神疾患は三大疾患の1つといわれます。早期発見、早期治療が課題です。

 又、失業で自殺をする人が増えたといわれますが、若年層(10代の自殺率は先進7か国中日本が最大で予防対策がかなり遅れているといわれています。ひきこもり人口70 万人(30 代が46 %)この経済破綻効果は相当なものになるそうです。

 ひきこもりの1割くらいは統合失調症といわれます。統合失調症の発症のピークは20歳前後、10代後半から30代前半です。精神疾患の予防のためには相談施設ことに思春期相談窓口をたくさん作って、早期発見をしていく必要があります。保健センター中心に地域でのメンタルケアの質を高めなければなりません。

・早期介入が望まれる統合失調症

 精神疾患の辛いところは、子供時代は何もなかったのに、途中で病気になることでしょう。

 中途発症のため、家族の戸惑いが大きく、主治医からの説明もどう聞いてよいのかわからず、不安と孤独の中で、やたら周囲の人に相談もしにくいなどの社会的背景もあり家族にとっては試練です。又、重症かつ継続の疾患と自立支援医療助成にもうたわれているように、長期の療養支援が必要になる人が多いにも関わらず、社会的支援が遅れてきました。

 昨年、家族支援に関する調査報告で家族の発表を聴く機会がありましが、発症から、治療。そして治療中断をしてしまった娘さんに対し、きちんとしたインフォームドコンセントあったらと、もっと本人を理解し支援ができたのではないかとの述懐されていました。10年経過し、今では、ご本人の不安などに上手に対応でき、結婚、出産を支えられるまでになっているということでした。

 治療開始が遅れて病状が進んでから、ようやく治療につながるケースも少なくありません。

 初回受診の多くがどうしようもなくなって、危機的状況での強引な治療開始と言う方が多いのは治療機関にとっても、支援をする側にも、本人にも辛いことです。「保健センターに行けば入院させてくれる」というのは無理な話です。相談はできます。どうしたら治療させてあげられるのかを話し、又治療から支援まで、どうすればよいのか考える余裕も必要です。支援の方法についての一般向けのわかりやすい本も出ています。

 医療の進歩で精神薬は良くなっており、かなり回復ができるようになりましたので希望を持っていただきたいと思います。

 職業へのリハビリ、リカバリーを重視した地域活動支援センターや仕事支援センター、休息の為のショートステイ、自立の力をつけるためのグループホームなど支援も充実してきています。

 また、早期発見・早期支援のためには精神障害の偏見をなくすことが必要という考えに基づき、心の病気についての教育が進められています。早期支援・家族支援のニーズ調査や、2010年の「こころの健康政策会議」には、家族からの「家族の経験した苦労を次世代には繰り返してほしくない」という願いを込めて「東京宣言」も発信されました。

・諸外国の状況

 イギリスではブレア首相の時代に、バーミンガムで15歳の娘さんが発症・入院し、余りにも精神医療の処遇が酷すぎるという父親の抗議で、国が支援に動き出しました。

 ブレア政権は、精神保健医療費を増額。それまでの予算の1.5倍の2800億円をかけ、人手を多くして、ケースワーカー等の支援者を家に派遣したのです。その結果、入院する必要が無くなり、母親も仕事を介護で辞めなくてすむなど、経済効果はむしろ高くなったといわれています。その組織「リシンク」は、家族の訴えから出発した先駆的活動となりました。

 デンマークは税金は40%くらいと高負担ですが、福祉はしっかりしています。精神疾患対策では、回復できる人ばかりではないので、所得補償が30万円で、家も50?のヴィレッジがあり、そこには保健師や栄養士などもいます。

 戦後すぐはデンマークも日本と同等か、日本よりひどい状態だったとか。困った人が声を上げて政治を動かし、国民参加型の福祉国家へ変貌したそうです。そして先々代の大統領のお子さんが精神疾患であったことが、一気に精神障害者への偏見を取り払い、福祉の向上につながっていったのです。

 日本は、戦後豊かになりましたが、生活の質がまだまだ貧しいという現状があります。生活保護以下で生活されている世帯はかなりいると思われます。障害のある方の不安、親亡き後の親の不安はぬぐえないと言うのが現状だと思います。安心できる最低保障の仕組みが充分できていないということです。

 先日、看護学生が福祉課の窓口に突然来て、「精神障害者の就労支援はどうなっていますか」と直球の質問がありましたが「一般就労はなかなか、難しいのです」などと説明をすることになりました。就労という言葉が出るようになっているのは進歩ではあると思いますが、日本の支援はまだまだです。

・新宿区の支援の現状

 新宿区では、平成21年度から、精神障害は病気であり、かつ障害も併せ持っている部分があることから、障害の一元化(身体・知的・精神)がはかられ、3障害が障害として一元化されました。

 新宿区では精神障害者支援を、健康部(保健予防課・4保健センター)のほかに福祉部の障害者福祉課でも、実施できることになり、精神障害者の支援強化のために保健師が3 名増員され、相談窓口も拡大しました。

 総合的な相談は保健所、保健センター、障害者福祉課を中心に地域活動支援センター、区立障害者センターなどでも相談支援窓口としても地域支援を行っています。

 H22年4月現在、現在新宿区の「精神障害者保健福祉手帳」所持者は1,694 人です。

 ちなみに「身体障害者手帳」所持者は9,904人、知的障害の「愛の手帳」所持者は1,262人です。

 知的、身体障害者と同等の支援をということで、障害の特徴、支援の方法などを国も検討をしています。自立支援法のサービスに移動支援(ガイドヘルプ)と言うサービスがあります。

 精神障害者の中には意欲が低下したり、一人で外出や買い物が誰かと一緒なら行けるという人がいると思います。条件が合えば、利用できます。一人での行動が困難という条件がありますが、条件がクリアできれば、高次脳機能障害、発達障害の方などは見守りがかなり必要なため、必要不可欠なサービスになっています。

 又、介護給付といって、自宅に介護ヘルパーを派遣して家事援助や家事訓練などのサービスも利用できます。

 新宿区の精神科医療についてですが、名だたる大病院はありますが、単科の精神科は晴和病院1 ヵ所のみです。クリニックは40 ヵ所もあります。しかしサポート機能は充分とは言えず、新宿区在住でも、入院や通院先が板橋、練馬、そして遠方では三鷹や八王子など遠方を余儀なくされています。

 昼間人口77 万人の新宿は数万人の学生のいる大学が数多くあるのが特徴ですが、精神発症年齢の好発年齢の方が多いことでもあり、学校保健のサポート強化が重要です。 受験期から在学中に発症する方も多く、地方出身者は家族と離れており、保険も遠隔地保険所持者であり、学生や学生相談室などのサポート面での教育も必要です。

 また、多くの外国人居住者の文化、コミュニケーションの問題から派生するメンタルの問題や、大勢の住所不定者については、メンタルの病気のためにホームレスになっている人もいます。

 概して脆弱な生活環境の中で発症する人の支援の問題もあります。広域な地域支援が必要です。

 今後は、就労支援では仕事支援センター、地域活動支援センターの就労継続支援、障害者雇用促進法による企業の採用増なども必要です。精神疾患の生活保護受給者は2割で、知的・身体障害者に比べて多い傾向があります。

 幼いときにわかる知的や身体障害と違って、精神疾患は成人してからの発症も多く、障害年金の資格条件が不足したり、保険金の掛け金の滞納があったりする方が多いため障害年金の受給ができないという面があります。

 新宿区では高田馬場にある区の4階建て施設跡地に精神障害に関わる施設を作る計画があります。

 企業の協力など仰げば、雇用の支援が得られるかとか、住宅の支援など総合的な支援が検討されています。その結果、精神障害者のの象徴的な支援の窓口になっていくことができ、早期介入から、継続支援の総合支援センターになり、いつでも相談でき、メンタルヘルスの相談をしやすい支援の窓口になるよう計画中です。

 さらに、強化しなければならないことは家族への支援です。疲れている家族の問題の対処に、今年6月には、保護者・介護者の「ケアラー連盟」が設立されました。家族が心配するのは、親亡き後のこと。グループホーム、ケアホーム、ショートステイ、退院時の体験宿泊施設などは、まだ不足です。

 「地域医療及び各種生活支援プログラム(ACT: Assertive Community Treatment)」や、「包括的地域ケア(OTP:Optimal Treatment Project )」つまり訪問中心の多職種チームによる24 時間365 日サポートや、 精神疾患の早期発見・早期介入、認知機能リハビリテーション、就労支援、自殺防止介入について、医師・保健師・看護師・作業療法士・精神保健福祉士・臨床心理士・養護教諭が協力して当たるチーム医療体制等々、しなくてはならないことはたくさんあります。

 すでに組織化されているのは、地域では保健所、保健センター、医療機関などですが、精神疾患を扱う中心は未だ医療機関であり、その後のフォローが不十分です。ご家族も、困ったときだけ関係機関へ相談に来るのではなく、早いうちから相談していただいて、治療・服薬等について学び、社会支援を受ける方法を会得しておくことが、回復への道につながることと思います。

【保健師の相談業務から】古沢ゆう子

 保健センターから障害者福祉課に移って4年目です。

 精神障害者の方の中には、軽度の知的障害がある方もいますが、手帳の取得はしていないことが多いです。子ども時代は普通学級で過ごせても、学校を出て仕事につけないことも多いのです。大人になってからでも「愛の手帳」が取得できる場合もありますので、ぜひご相談ください。

 事故や病気で脳を損傷され、脳の器質的変化で認知に障害が出る場合もあります。こうした高次脳機能障害の理解が深まると共に、申請数も増えてきました。精神障害者として手帳が取得できて、福祉サービスが受けられます。

 昔なら障害を持つご本人を支える家族がいましたが、最近は家族機能が崩壊していることが増え、家族にサポートしてもらうという考え方が無理になってきているように感じます。家族会等で皆さんが活動していることは素晴らしいと思います。

・新宿区はどういう支援をしているか?

 自立支援法:障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指して制定された法律です。

介護給付・訓練等給付:介護給付には自宅で介護してもらう居宅介護、行動援護、短期入所、訓練等給付には就労継続支援、共同生活援助などのサービスがあります。

ショートステイ:自立支援法で3障害が一元化され、精神障害者の方もご利用できる事業所が増えてきています。家族が病気になってご本人をサポートできないときなどに、1週間を目安に利用できます。

共同生活介護(ケアホーム)・共同生活援助(グループホーム):ケアホーム、グループホームなどがあります。グループホームは、長期入院をしていた人が退院後すぐ家に戻って生活するのは難しいような場合に利用される方が多いです。ケアホームは日常生活上、介護を要するような状況、例えば入浴などに介助が必要、服薬管理も難しいというような状況で、必要性が認められた場合にはご利用いただいています。

 自立訓練・生活訓練:自立訓練のサービス提供をしている事業所も除々に増えてきました。日常生活のリズムが付いていない、買い物や掃除などが、自分でできないような状況では、自立訓練、生活訓練に通うことをお勧めします。朝起きて、朝食をとって、お薬を飲んで、外に出て日中の自立訓練に通い、帰ってきてくつろぐというように生活のリズムを整えることが大切だと思います。「就労したいです」といっても、朝起きられない、掃除ができないなど基本的な生活が身に付いてないのでは就労できません。まずは自立訓練を受けてみてはいかがでしょうか。

就労支援事業:就労支援の事業所は、区内に5箇所あり、来年4月から新宿区勤労者・仕事支援センターも就労継続支援B型と就労移行支援を開始予定です。

 A型の就労継続支援は、企業等に就労することが困難な障害者のうち適切な支援により雇用契約等に基づき継続的に就労することが可能な65歳未満の方が利用して、就労に必要な知識や能力の向上を目指します。

 B型は企業等への就労が困難な方々が利用できます。作業内容は事業所によってかなり違います。パン作り、喫茶店、レストラン、内職のような手作業、消火器点検、清掃、パソコンを使用した入力作業等々、いろんな作業があります。新宿区に限らず他区の事業所も利用できるので、東京都の冊子『道しるべ』を見て、区内に限らず、いくつかの作業所を見てから決めてもいいと思います。

日常生活用具の給付:頭部保護帽、火災報知器、電磁調理器など、必要性が認められる方が受けられます。

地域生活支援事業:地域の状況に応じて新宿区独自に実施している事業です。生活サポート・移動支援などのサービスがあります。

生活サポート:介護給付のサービス利用では、区分(1~6)を1つの指針として分けますが、区分が1以上でないとホームヘルパーは使えません。精神障害者の方は身体的には問題がない方が多いので、区分が重くなりにくい状況があります。そこで、区分非該当でも、必要性が認められれば、サービスが利用できるように、生活サポート(家事援助・家事訓練)があります。家事訓練は自立を支援していくもので、本人が掃除や料理に意欲があって、部分的サポートがあれば出来そうなら使えます。サービスのメニューには例えば掃除や料理、買い物の付き添いがあります。

移動支援:主として1人で外出が難しい人対象です。見守り目的での付き添いで、デパート、秋葉原に家電を見に行きたいなど、社会参加や余暇目的の移動の際に使われています。
 
・サービスの利用と費用

 自立支援法のサービスは、世帯の所得で自己負担額が変わります。基本的にサービスの利用料は一割負担ですが、世帯の収入に応じて自己負担上限額が決まっています。両親と一緒に暮らしている方もいるかもしれませんが、この場合の世帯は両親ではなく、成人の方の場合は当人と配偶者で決まります。

 就労支援事業も収入状況に応じて利用料はかかります。就労移行支援は無料ですが、利用できる期間が決まっています。

 サービス申請の窓口は、地区の担当の保健センターになっています。

 サービスの利用には、ご本人がサービスを利用できる状態かの判断が大事なので、主治医の先生に相談してみてから利用することをお薦めします。就労支援を利用して具合が悪くなってしまっては何にもなりませんので、是非、主治医の先生に相談をされてから利用して頂ければと思います。

 サービスの詳細なお問い合わせやご相談は、障害者福祉課または地区の担当保健センターへお願いします。        

-了-

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 今年もあとわずか。世相を眺めてみると、中国、北朝鮮、ロシア、そしてアメリカと急に外交問題が賑わしくなってきている。そして、これらの問題がひときわ我が身との関係を強めている。その原因の一つにインターネットの影響があろう。U-Tube、ウィキリークス、これらが暴露、内部告発サイトとして時時刻刻お知らせしてくれるからであろう。

 翻って、我が新宿フレンズもインターネットには至極お世話になっている。HPはじめ、メール、そしてメーリングリスト。かつてインターネット初期の頃、このメディアについて是非論があったが、今やインターネットなしに生活できない人もいるのではないだろうか。

 良かれ、悪しかれ、インターネットはすでに現代人の必須アイテムになっている。どう利用するかはその人の人間性、得失などで決まる。

 ことに精神障害の問題においては、インターネットとの関わりは欠かせないといえるのではないだろうか。ある先生曰く、十年前の精神障害の教科書は読まない方がいい、とまで言わせている。まさに精神障害の問題も時時刻刻変化しているのである。

 知識も薬の一つと考えるなら、インターネットも薬の一つであろう。知識によって抱える当事者を救えるのなら、薬の知識に加えてインターネットの知識もお父さん、お母さんに教える時代ではないだろうか。そんなことも恵原さん、古沢さんに感謝と合わせてお願いし、この小記を終わりたい。