精神科の診断について

新宿区後援・2月新宿フレンズ講演会
講師 大泉病院社会医療部長・精神科医 山澤涼子先生

ホームページでの表示について

【他科とは違う診断の仕方】
 
精神科は医療の中では少し特殊な世界で、他の科からも変わっていると思われているようです。
 診断の仕方も変わっています。例えば、転んで脚が痛くて整形外科に行くとレントゲンを撮って骨折があるなど診断されます。あるいは糖尿病を疑ったら内科で血液検査を行います。胃痛で受診すると胃カメラを使って胃潰瘍かどうか診断します。しかし精神科の診断はレントゲンや血液検査では分かりません。他の科のような検査による明確な診断方法はありません。
 精神科の診断の特異性は、生物学的な指標が無いことです。では検査をしないかというと、頭のCT、MRIなどを最初に撮りますし、血液検査も当然のようにやり、レントゲンやシンチカメラ(SPECT)(注1)を撮る場合もあります。これは除外診断といって「この病気ではない」「これも違う」と、他の病気を除外するために検査をしているのです。
 基本的に精神科で診断をつけるときは、最初に器質的疾患の診断つまり精神症状が出現するような体や頭の病気を除外します。まずは頭部外傷で、例えば高齢者に精神症状が出たが、その前に転んでいる場合には、頭を打っていないか積極的にCTを撮ります。脳梗塞後のうつも結構多く、脳腫瘍や脳炎でも精神症状が出る場合があります。また認知症も器質的疾患とされています。最近ではあまり見られませんが、神経性梅毒も除外診断の1つでした。こういった病歴をしっかり聞き、脳のCT、MRIを撮って確認します。

 症状精神病は体の病気によって精神症状を呈するものをいいます。色々な病気で精神科的な症状が出ます。有名なのは甲状腺疾患でチェックは必ず行います。アルコールを沢山摂取している人は、肝機能障害のせいで精神障害が出るとか、極度のビタミン不足によって精神病様症状が出る場合があります。中高年の女性には、リウマチの一種の膠原病が隠れていたというケースもあります。

【性格か病気か】
 器質的な除外診断をした後で、いよいよ精神科的な診断になります。たとえば強い不安や悲観的な考えがあるという訴えの場合、元々どういう人なのか、今までどうだったのかを調べる必要があります。精神科では今だけを見てはダメで、「縦断的に診る」ことがとても大事です。
 例えば、昨日、好きな人に告白をしたが相手から断られたとします。すると、その日は眠れない、涙が止まらない、翌朝も気持ちが晴れず、仕事を休んでしまった、食事も喉を通らない、気分が落ち込むばかり。 
 また、屈曲点と呼んでいますが、変化のポイントがあることです。それがない場合には性格的なところがあるのかもしれません。元々心配性の人がちょっとストレスが多いと増々心配性に拍車がかかります。しかし日ごろ元気でポジティブな人が急激に不安が強くなって心配ばかりしているとなると、病気を疑うことになります。この縦断的に見る、屈曲点がある、ということが非常に大事です。

【診断はどこまで重要なのか】
 ここからは私見が入ります。
 明確な指標がないなら「診断とは何ですか」と聞きたくなるでしょうが、実は現在用いられている生物学的な説明も仮説です。
 例えば統合失調症は脳の中のドーパミンが過剰になっているであろうとされており、ドーパミンをコントロールする薬を使うのが一番効果的で、治療という点では間違いありません。しかし、脳の周りの液体を注射で抜いてドーパミンがどのくらい多くあったら統合失調症というような明確な指標は無いのです。
 操作的に診断している統合失調症が本当に1つの病気なのか、ということすら実は分かっていません。統合失調症は症候群であって、同じ統合失調症でも幻聴や妄想が酷い人、幻聴が酷いがそれに影響されず生活できている人、幻聴も妄想もないが認知機能が落ちて生活しづらい人もいて、本当に千差万別です。。
 診断を決めたほうが良い場合もありますが、病名にこだわり過ぎるよりも、今何に困っているのか、今後どういう生活をしたいかに焦点を当てるほうが良いと思います。私見ですが、診断名にこだわらないほうが良いと思っています。

【病名告知はどうするか】
 統合失調症と名前が変わったことで、以前に比べ受け止めやすくなったこともあり、最近は告知しているケースが多くなりました。精神病以外でも同様ですが大前提としては、自分の病気はきちんと理解することが大事だと思います。
 統合失調症という医学的な病名を伝えたほうが良いと思うのは、病名を受け入れることで治療への覚悟が決まるタイプの人です。また、あいまいにしているとその部分を逃げ道にして治療に乗り切れないと思える時も伝えます。病名が分かると社会資源を使いやすくなって、その人の生活が便利になるという面もあります。
 告知されることで病名に圧倒されてしまい、絶望感が先に立ち投げやりになる人もいます。セルフ・スティグマ(本人が持つ偏見)という言葉がありますが、自分に対する過度なレッテル貼りになるリスクもあり、病名を受け止められず却って足かせになる人もいます。
 このあたりを天秤にかけ、あいまいさを考慮しながら病名告知を考えますが、大切なのは病名ではなく、本人の困っていることにどう対処するかです。医学的な命名は診断基準に当てはめれば統合失調症だったとして、本人の理解は治療に一番向き合いやすい理解でいいと思います

【後医は名医】
 「後医は名医」という言葉があります。これはどの科でも後から見る医師の方が、情報が多いため正確な診断に繋がりやすいということです。
 私も患者さんと5年10年付き合って、実はこの人にはこういう問題があったと分かることがあります。また、クリニックの医師がずっと診ていた人が別の病院に入院になった場合は、改めて初めから話を聞き、入院なので日常生活が全部見え、何年も診ていたクリニックの医師からの情報もあって、今まで何年も付かなかった診断が付くことがあります。それは名医だからではなく「後医は名医」なのです。
 これは医者同士の戒めの言葉であって、特に精神科では縦断的に診なければいけないので、最初の3年だけ見ていた人と、その後の3年を診る人では、縦断的にデータを診られる期間も違います。転院して、病名が変わったり薬を変えて急に良くなった場合でも、一般的には前の主治医が誤診していたのではなく、治療のデータが積み重なってきたから正しく診断できるようになったと言えます。
 診断を付けるのはデータが必要です。ですが診断は、治療に直接的に結びつくことではないのです。「今は、病名は言えない」と言われると、治療は大丈夫かと感じるかもしれませんが、病名の診断にこだわるよりも、いま困っていることに焦点を当てて、一緒に解決して行くことこそ治療だと思います。                               ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 3月の声と共に吹く風にシバレルような冷たさはなくなったような気がする。小生、今年の冬は風邪も引かず、花粉症もそれほどの被害もなく乗りきった感がある。有難い。
 山澤先生の「精神科の診断について」と題する講演。我々家族の立場からすれば基本中の基本である。その中で何度も出てくるのが「病名」についてである。先生は病名よりも本人の困っていることにどう対処するかが大事なのだということを繰り返し述べている。
 中には年金等で手続き上どうしても病名が知りたい、という方もいるだろうが、それはそうすればよいのであって、問題は病名に拘り、絶望したり、セルフスティグマに陥ったりすることだ。
 病名については色々な記憶があるが、最近考えるのはなぜスティグマに陥るのか。それは精神病である、という点ではないだろうか。その精神病を悪く見ているためと考える。であれば、良く見る方法はないのだろうか。
 かつて「ビューティフル.マインド」という映画があった。天才数学者ジョン・ナッシュの生涯を描いたストーリである。ナッシュは統合失調症でありながら天才的能力を持っている。
 おおにしてこの病気を持った人たちの中には優秀な人が多い。否、そういう人がかかる病気であると言いたい。この認識に立てばスティグマなどなくなるのではないだろうか。
 「病名」の話題からあらぬ方向に話が飛んでしまったが、統合失調症も単に病気の一つに過ぎない。病気になってしまったからと言って籠る必要もない。家族がまずその辺に気が付くべきだ。偏見をなくそう、我が子のために!