再発の予防と対処

新宿区後援・4月新宿フレンズ講演会
講師 大泉病院社会医療部長・精神科医 山澤涼子先生

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【病気の発症-準備因子と促進因子】
 
再発を考える前に、最初に病気になるとはどういうことかを復習しましょう。
 どんな病気でも準備因子と促進因子があり、それが足されて発症します。準備因子とは持って生まれた素質、遺伝的な要素を言います。促進因子とは後天的なもので、生活習慣、人間関係、家庭、出来事など、生まれた後に置かれた環境です。
 準備因子が100%なのは、例えばダウン症をはじめとする遺伝子による疾患などで、環境因子が100%なのは、風に飛ばされてきた看板で頭にけがをするなどです。割合はいろいろですが、いずれも2つの因子の足し算で発症します。例えば糖尿病は、糖尿病の家族がいると遺伝的・素因的に糖尿病になりやすい。しかし素因を持っている人全員が糖尿病になるわけではなく、食生活や運動習慣など規則正しい生活をしていれば発症しませんし、逆に家族は誰も糖尿病を患っていなくても、食事や運動に気を付けずにいると発症します。
 統合失調症の症状を良くするにはどうしたらよいのでしょうか。脳の中のドーパミンをコントロールするメカニズムが脆弱なので、それを助けるのが薬です。出過ぎてしまうドーパミンをコントロールする薬と、ストレスに対してストレスマネジメントを行う、この2つで症状を緩和することができます。

【再発の原因を知る】
 再発の原因は、つまり発症と同じことが起きるわけですから、薬でのコントロールかストレスマネジメントのどちらかが不足すると、再発に繋がります。
 多いのは薬の中断です。「薬は一生止められないのか」と問われますが、同じ量の薬を一生続けるわけではありません。上手に再発を防ぎながら、徐々に減らして最低限の量にすることは可能です。ただし薬の量を勝手に減らしたり、勝手に中断するのは再発の原因として非常に多いのです。
 基本的には「服薬の中断」と「過度のストレス」が、ほとんどの再発の原因です。再発を防止するには、薬はちゃんと続けることと、ストレスを上手に管理することになります。これが結論ですが、守るのは難しいのですね。

【断薬をしない工夫】
 症状がほぼ完全に良くなった人が、プラセボ(偽薬)を飲んだ群と、薬を飲んだ群を比較し、1年後の再発率は、偽薬群は70%、服薬群は30%の再発というデータがあります。
 30%は、服薬しなくても再発しない、服薬していても再発する…と思うでしょうが、断薬を続けると2年、3年と、どんどん再発率は限りなく100%に近づきます。
 また、薬はきちんと飲んでいたがストレスが重なって再発した時と、断薬で再発するのは、同じ再発でも質が異なります。薬を飲んでいた場合には、ストレスがあっても「では薬を少し増やしましょう」で乗り切れることが多いのですが、断薬による再発から立て直すには発症時の苦労からしなければなりません。
 とは言え、毎日決まった時間に薬を飲むことは結構大変です。それを頑張ってやるために色んな工夫をしなければならないと思います。
 副作用は服薬している本人にしか分からないので、遠慮なく主治医に言ってください。なるべく本人にとって苦痛の少ない薬を選んでいく作業が必要になります。副作用かどうか迷った時も「副作用ではないのか」と聞けば、時に「それは症状である」ことも、対処しなければならない病気のこともあります。我慢しないで言いましょう。

【服薬継続の工夫と、注射のデポ剤】
 飲み忘れの工夫も必要になります。薬を中断して具合が悪くなる人が多いという話をしましたが、最初から「絶対に薬を飲まない」という人はあまりいません。「本当は飲みたくないが、飲まないといけない」と思っているが、時々飲み忘れることがある。特に調子がよい時に飲み忘れやすく、そのうちに血中濃度が下がってくると調子が悪くなって、すると「何でこんな薬を飲まないといけないのだろう」と思い始めます。そして飲むのを止めてしまうパターンが多いのではないでしょうか。飲み忘れないことがとても大事です。 
 そのためには、まずは飲み忘れ易い時間には処方しないことが結構大事です。例えば朝は忘れないという人もいますが、朝は慌ただしいので忘れるという人もいます。昼は、会社やデイケアなど外出中なので、丁度疲れて来る昼頃に薬があると安心な人もいる一方、昼は持って行くのも飲むのも忘れるし、眠くなるのも困るので飲みたくないという人もいます。こういう生活習慣や好みも遠慮なく主治医に伝えて工夫してもらって下さい。服薬回数は少ないほうが飲み忘れは少なくなります。
 もう1つ、社会復帰を目指す人には特に良いと思います。社会に出ていれば、病気や服薬に振り回される時間をなるべく減らしたい。職場の人と「みんなで食事に行こう」「休日遊びに行こう」という機会がどんどん増えていきます。すると飲み忘れやすくなるでしょうし、「旅行に行こう」ともなれば、皆の前では薬を飲みづらい。「デポ剤になって旅行に行きやすくなった」と言われます。自分の健康面を生かした生活を拡げていきたい人には、毎日服薬に煩わされないので、デポ剤は非常に良いと思います。
 4週間効くということは、副作用も4週間続きます。使用前に同じ種類の経口薬を飲んで副作用が出ない、あるいは対処ができる許容範囲であることを確認します。また、この4剤以外の薬を組み合わせている人は、デポ剤の他に飲み薬も必要な人もいて、メリットは若干少なくなります。ただ下支えにはなるので、再発は圧倒的に減ります。
デポ剤のデメリットは、1つは痛いことです。ただし、昔のデポ剤に比べると痛みはかなり軽減され、注射液の量が少なく、針も細くなっています。

値段は同じ薬を4週間飲むのに比べ、デポ剤のほうがちょっと高いです。自立支援(本人負担は3割から1割になる。収入によって上限が決まる)を利用すると良いでしょう。

【ストレスサインに気づく】
 ストレスとは、変化に適応するためにかかる負担のことです。環境からの刺激、環境が変わったことによって心身にかかる負担は全てストレスです。変化のない生活をしている人はいません。日本では昨日と今日で気温も天気も違う、四季もある、それだけでもストレスは避けられません。
 ストレスというと辛いことばかり頭に浮かびますが、例えば、退院、デイケアを卒業して就職、昇進、結婚などの嬉しい変化もすべてストレスになります。
 減薬も変薬も身体的なストレスになります。いつも「変化は1つ」。従って退院を挟んで薬は変えません。調子が悪くなった場合は別ですが、生活に変化がある時は薬を変えません。反対に減薬・変薬の時は生活を変えません。
 再発を予防するために大事なことは、ストレスサインに気づくことです。ストレスが溜まっている時に出てくるサインです。ストレスサインは3か所に出ます。身体と気分と行動です。その出方は人それぞれで、身体では肩凝りや頭痛が多いです。不眠や過眠、食欲不振や旺盛になる場合もあります。気分では、イライラしやすい、悲観的になる、やる気がなくなるなど色んな気分の変化があります。身体や気分のストレスサインは、比較的本人でないと分かりづらいので、これらは自分で気づくストレスサインです。
 一方、行動は自分で気づいていなくても、周りが分かることがあります。タバコの本数が増える、自分の部屋の出入りが多い、テレビ番組を落ち着いて観られない、買い物が増える、などの振る舞いは他人が気づきやすいストレスサインです。
 ストレスサインに気づけば、デイケアの回数を減らしたり、寝る時間を早める、会社の上司に調子を伝える、受診を早めるなど、ストレスを減らす対処が取れます。気づいたらどうするかが大事です。

【統合失調症に特異的なストレスへの対処】
 
入院生活などでは毎日の変化が無いように見えますが、隣のベッドの患者や、ホールでおしゃべりする仲間、主治医が変わることもあるでしょう。こういう変化もストレスになります。
 ストレスは実は必要で、全く変化がない淡々とした生活をしていればよいのではなく、適度な負荷をかけて行くことで、強くなり伸びていきます。過度にならないように予め睡眠薬を増やしたり、受診の間隔を狭めるなどの対処をします。
 幻聴や妄想などの精神症状は非常に苦痛を伴うので、症状そのものがストレスになります。幻聴を減らすために薬は必要ですが、幻聴をゼロにするまで薬の量を増やすことは副作用が出るなど望ましくないので、バランスを取ると幻聴が残ってしまう場合があります。そうすると幻聴への対処は治療でもあるし、ストレスマネジメントでもあり、幻聴に左右されずに生活できるようにするリハビリテーションでもあるのが、統合失調症に特殊なところかと思います。
 自分の思いを上手に伝えられることは、社会復帰の大事なリハビリテーションです。SST (Social Skills Training:社会技能訓練)などを利用して、コミュニケーションの能力を上げていき、上手に物事を頼んだり断ったり、嫌な場面は嫌だと伝える練習はリハビリの一環ですが、再発予防のためのストレスマネジメントにも非常に有効です。

【認知機能障害もストレスに】
 統合失調症の症状は、昔から言われている陽性症状と陰性症状に加えて、今は3つ目の症状として認知機能障害が注目されています。物事を処理するために例えば、人の話を聞いて理解してメモにまとめたり、覚えておいて家族に伝えたり、色んな能力を使います。
 そういった基本的な機能が病気によって落ちる人がいて、認知機能の障害がストレスになります。個人差は大きいですが体調が悪い時は特に物忘れがひどくなったり、集中力が続かなくなったりします。これは病気の有無にかかわらず誰にでも起こることです。臨機応変とか試行錯誤が苦手になる人もいます。作業ペースが遅くなる、人の表情を読む、雰囲気に合わせた会話をするなどが苦手になる人もいます。すべて認知機能障害の可能性があります。
 認知機能は個人差が大きいので、全員に障害が出るわけではありませんし、どの程度が障害なのか性質なのか難しいところがあります。健常と言われている人の平均と、統合失調症と診断されている人の平均を比べると、後者のほうが少し落ちていることが多いというだけで、一般の人より記憶力のある統合失調症の人は沢山います。
 患者の予後がどのくらい良くなったかを評価するのに、2つの指標があります。1つは社会的転帰(アウトカム)と言われていて、社会的にどれくらい元気になったかです。例えば、友達が何人いるとか、経済的に困っていない、仕事を見つけている、結婚しているなど、社会的にどれくらい復帰できているかを指しています。

【認知機能リハビリテーション】
 リハビリは、認知矯正法という認知機能のトレーニングとして、NEAR(ニア)、Jcores(Jコアーズ)、SCIT(スキット)などの治療パッケージが知られています。NEARはコンピュータを用いるプログラムですが、作業療法士の方々がNEARの資格を取得し、デイケアなどで実施されています。半面、コンピュータで認知機能のトレーニングをするだけで良いのかというと、人には誰でも得手不得手があり、苦手なことの克服を日頃しているわけではありません。苦手なことはごまかしたり、不得手なことはなるべく使わず得意なことを生かせると良いでしょう

【家族自身のストレスマネジメントを】
 大事なことを最後に1つ。再発予防は、薬の継続とストレスマネジメントと言いました。しかし、服薬継続は再発を防ぎますが、その上に本人のストレスマネジメントを的確にやっても、残念ながら統計学的にはさほど減らないのです。だからやらなくて良いということではないのですが、統計学的には有意な差は出ませんでした。
 しかし、薬に加えて支援者のストレスマネジメントをすると、何と3分の1まで再発率が減るというデータがあります。家族のストレス管理、ストレスマネジメントが実は本人の再発予防に大事なのです。
 良くなって退院する時に、家族の元に退院した人と単身生活になった人で、どちらが再発する率が高いか、という研究もされました。実は、家族と同居した患者のほうが再発率は高いという結果でした。
 そこで、どういう家族と暮らすと再発率が高くなるのかを検討したところ、「患者に対して批判的なコメントが多い」「患者に感情的に巻き込まれやすい家族」でした。後者は、一見患者思いで患者のために熱心で、でも患者の具合が悪くなると一緒に不安になるタイプの家族です。感情表出(EE:Expressed Emotion)とは、感情の出し方という意味です。人に対して批判的なコメントを良くする人、感情的に巻き込まれる人、こういうパターンの人たちを高EEといいます。
 これはそういう家族を責めるために出来た言葉ではなく、どういう時に、高EEになってしまうのだろう、高EEの原因は何かと考えることが大事です。ひとつは家族自身が疲れていたり、ストレスが溜まっている時、もう1つは知識がない時。例えば、患者が家でゴロゴロ、ダラダラして外に出ないとします。統合失調症には陰性症状があること、今飲んでいる薬には眠気が出るなどの知識があれば、イライラしたり不安になったりしなくなります。また患者が不安定になった時に、「こういう時は医師に相談すれば良い」「この頓服が効く」「明日は訪問看護の人が来るから相談しよう」と思えれば、オロオロしません。何が症状なのか、薬の副作用にはどんなものがあるのか、誰に頼れば良いのか、誰に聞けば良いのか、などを知らないと、高EEになります。
 EEを下げるには、必要な対処方法や知識を獲得することです。家族会に参加したり、病院の家族心理教育や講演会に参加する、家族同士の情報交換をするなどが良いでしょう。何より家族会などに参加して、言葉に出して家のストレスを発散すると負担感は変わってきます。家族自身のストレスマネジメントをすることでEEを下げることができ、患者の再発も防ぐことができる1つの助けになります。

【それでも再発してしまったら】
 ストレスをゼロには出来ないので、ストレスサインに早めに気づこうという姿勢が大事です。
 再発したら待っていて良くなることはありません。徐々に治療が難しくなります。調子が悪くなると人の意見は聞き辛くなり、意固地になりやすく、余裕がなくなります。
  家族もどんどんストレスが高じるので家族も高EEになります。「薬の量を増やされるのでは」「再入院させられるのでは」という心配があれば、それを率直に言えば良いと思います。
 どんな病気でもそうですが、再発すればするほどまた再発しやすくなります。野球選手なども一度痛めたところは何度も痛めやすいそうです。早めに対処することで、被害を最小限に止めることはできるので、そのためには、調子の良い時に、約束事を決めて置いてください。主治医に参加して貰うと良いでしょう。
 そして再発を防ぐには、薬の継続と、家族のストレスマネジメントが最も有効であると覚えてください。                          

                                             ~了~

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法    

新宿家族会へのお誘い 
 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 

編集後記

 今年のG・Wは十連休という夏休み以上の長期の休みになった。小生もどこかに行きたいものと九州に出かけてみたが、どこも人と車の洪水状態。泣く泣くさわりを見てUターンする羽目となった。
 さて、フレンズの4月講演会。演者は山澤先生であったが、なんと75名の参加者があったと受付担当者は言う。講演の題名は「再発の予防と対処」であった。それだけ関心の高い問題であったのだろう。
 先生はいつもそうなのだが、まず問題に入る前に基本的な知識を話される。準備因子と促進因子の原理だ。つまり生まれつき持って生まれた因子と、生まれてから周囲の環境による因子だ。統合失調症の人は脳が繊細という準備因子を持って生まれた人たちで、それに促進因子としてストレスが加わると発症に至るそうな。
 再発の原因は何かと言えば、服薬の中断と過度のストレスだと言う。服薬の中断はそれなりに服薬を続けられるよう頑張って回復に向かわせれば良い訳だが、過度のストレスは少々厄介だ。先生は様々なシチュエーションでのストレスを上げて説明を続けている。
 そもそもストレスとは変化であるという。あらゆる変化が本人にはストレスと感じてしまう。かと言って変化のない生活などと言うのも良くないそうだ。その辺のサジ加減が難しい。
 そして、最後に再発を防ぐには薬の継続と家族のストレスマネージメントが最も有効であると先生は述べる。家族?!、つまりEEの問題だ。家族がイライラしたり、焦ったりしては本人にそれがプレッシャーになり、症状を悪化させる。まず、家族が平常心を養うことか。